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私の英雄は吸血鬼  作者: 希乃
第六章 堕鬼編
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第191話 信じようぜ、俺達自身を

 ハイトが涙を流して叫んだその時だった。


「……全く同感だ」


「ホント、嫌になっちゃうわよねぇ」


 彼の背後から、ゆらりと二つの影が現れた。


 王宮の階段を降りてくる二人を見て、ハイトは震えた声を漏らす。


「スレイ……マーダ……」


 階段から降りてその地に足をつけたのは、青紫色の短髪を持つ吸血鬼と濃いピンク色の長髪を持つ吸血鬼。


 でも、とてもみすぼらしい姿になっていた。


 テインさんに倒されて、砕かれた壁の下敷きになってしまった二人の身体には、無数の擦り傷や土がついていたのだ。


「お前ら、やられたんじゃなかったのか!?」


 驚くハイトの言葉に、スレイはフンと鼻を鳴らして、


「……あんな攻撃で二度と目を覚まさなくなるほど、俺達は落ちぶれていない」


「見くびってもらっちゃ困るわよぉ? ハイト」


 濃いピンク色の長髪をふさっとかき上げて片目を瞑るマーダ。


 二人の言葉を聞いたハイトは、人差し指で鼻を擦った。


「ヒヒッ。何だよ。俺の絶望を返しやがれ」


「……絶望?」


「まぁ、嬉しい。私達のために泣いてくれてたのねぇ」


 スレイが不思議そうに眉を寄せ、マーダが両手をパチンと合わせる。


「ハ? 泣いてねぇよ!」


 拳を握り、ヤケになりながら叫ぶハイトを指差して、マーダはクスクスと笑った。


「泣いてるじゃないのぉ」


「こ、これは、その……色々悔しかったんだよ!」


 ハイトが急いで目を擦って涙を拭い、恥ずかしげに声を張り上げる。


 すると、その肩にポンと手が置かれた。


 スレイが微笑をたたえながら、ハイトの肩に手を置いたのだ。


「……安心しろ。俺達も同じ気持ちだ」


「そぉそぉ。ホント、色々悔しいわよねぇ」


「て、テメェら」


 二人の言葉に、ハイトは面食らったように目を丸くする。


「……それで、あいつはどうした」


 フェルミナさんの方へと視線を移すスレイに、ハイトは片目を瞑って、


「ああ、天使だよ天使。俺があいつをボコってたら怒って銃打っ放してきたんだ」


「へぇ、天使のくせに物騒ねぇ。しかもうちのハイトをこんなにしてくれちゃってぇ」


 ハイトの肩に手を置き、彼の傷口を見下ろすマーダ。


「んなのタダのかすり傷だっつーの。てか、『うちの』って何だよ。いつから俺はテメェの所有物になったんだ?」


「……『仲間』ってことじゃないのか?」


 ハイトはスレイの言葉に舌打ちをして、


「あのな、ヒトがせっかくふざけた返ししてんのに、真面目な返答してくんじゃねぇよ、スレイ。俺だってんなこと、とっくの昔に分かってんだよ!」


「……要は、あの天使どもをぶっ潰せば良いというわけだな」


 再びフェルミナさん達に視線を移すスレイに、ハイトは口を尖らせて呟く。


「無視かよ」


「なぁるほど。上等じゃない。さっきボコられた分のお返し、たっぷりしてあげるわぁ」


 マーダにまで無視されたことに、ハイトは呆れたようにため息をついてから、目線を下に落とした。


 彼の肩からは小さく丸い傷痕があり、そこからは今も赤黒い血が流れていた。


 牙を立ててチュルっとその血を吸い舌なめずりをすると、ハイトは好戦的な目付きでフェルミナさんを見る。


「俺達のストレスの発散場所にさせてもらうか! 行くぞ!」


 ハイトの声を合図に、キラー・ヴァンパイア達は天使へと飛びかかっていった。


「ふぇ、フェルミナさ……」


「大丈夫よ! ……大丈夫、だから」


 迫ってくる吸血鬼を見た不安そうな声のウォルが、フェルミナさんに戦いを止めさせようとした。


 それでもフェルミナさんは声を張り上げ、押し切る。


 まるで自分自身に言い聞かせているかのように。


「三人まとめて……かかってきなさい!」


 四人、正確には三人vs一人の激突が始まった。


 そこからは鋭い爪と速い銃弾による戦いだった。


 今まで一人だった標的が一気に三人に増えてしまったために、フェルミナさんの威勢が弱まってしまっているように私には見える。


 それでも彼女だって負けているわけではない。的確に敵の急所を狙って全力の攻撃が出来ないように仕組んでいる。


 爪が自分の方へと迫ってくれば、その奥の肩を撃って動きを鈍らせたり、蹴りが迫ってくれば太ももを撃ったり。


 なかなかの頭脳戦だ。天兵長の第一部下になれるくらいだから、やっぱり相当頭は良いみたい。


 フェルミナさん自身があまり戦闘を好んでいないのか、ハイト達吸血鬼の身体を直接撃つことは極めて少ない。


 どちらかと言えば、威嚇射撃の回数の方が圧倒的に上だ。


 彼らが進む先の地面を撃ったり、わざと焦点を外して空中に向けて撃ったり……。


 そんな戦い方じゃいつか追い込まれてしまうんじゃないか。私はとてもヒヤヒヤしていた。


 実際、その通りになってしまった。


「テメェ、真面目に戦いやがれ‼︎」


 フェルミナさんが本気を出していないことに気付いたハイトが、怒りをむき出しにしながら鋭く長い爪を振るう。


 懐に潜り込むようにして迫ってこられてしまったため、銃を持ったフェルミナさんには咄嗟の防御が出来なかった。


「うわぁっ!」


 そのため、ハイトの爪に薙ぎ払われてしまう。


 呆気なく地面を転がるフェルミナさん。


「フェルミナさん!」


「フンッ! 勝負あったな」


「……お前の負けだ」


「残念だったわねぇ、天使ちゃん」


 キラー・ヴァンパイア達に圧倒されるフェルミナさんを見て、フォレスとウォルが立ち上がる。


「やっぱり大丈夫じゃねー! オレ達も戦うぜ!」


「う、うん! ボクも……!」


「だ、駄目よ……」


 でも、それを止めたのは他ならないフェルミナさん本人だった。


「何でだよ! フェルミナさん一人だったら負けてるじゃねーか!」


 フォレスの言葉にフェルミナさんは首を振り、


「そ、それでも……これ以上あなた達には傷付いてほしくないの……!」


「ぼ、ボク達だって、ボロボロのフェルミナさんを見るのは辛いです!」


「ウォル……」


 ウォルの必死な瞳を見て、フェルミナさんは唇を噛み締める。


 すると、フォレスがこう提案した。


「ならさ、一緒に戦おーぜ。これなら文句ないだろ? フェルミナさんには戦うなって言わねーし、オレ達が加勢すりゃ平等だぜ」


 確かにフォレスの言う通りだ。


 今のままだったらハイト、スレイ、マーダvsフェルミナさんだけど、二人が加わればハイト、スレイ、マーダvsフェルミナさん、フォレス、ウォルになる。


 三人vs一人が三人vs三人になるから、人数的には平等だ。


「フォレス……」


 フェルミナさんはフォレスを見上げて少し悩んでいる様子だったけど、


「分かったわ。お願いできる?」


 フォレスとウォルの加勢を承諾した。


「おう! あったりめーよ!」


「ぼ、ボクも頑張ります!」


 双子の天使は顔を輝かせると、それぞれ武器を構えた。フォレスは茶色い蔓で出来た双剣、ウォルは水の泡のようなもので出来た弓矢。


 フェルミナさんも銃弾を篭め直し、再び銃を構える。


「行くわよ!」


「おう!」

「はい!」


「はぁ? いきなり強力武器登場とか、そんなのアリなのぉ?」


 フォレスの双剣とウォルの弓矢を目にしたマーダが、目を見開いて抗議の声をあげる。


 でも三人の天使は彼女達へと迫っている。驚いている暇はない。


「……仕方ない。俺達には武器なんてないんだ」


 悔しそうに歯を噛みしめつつ、スレイが妥協の姿勢を見せると、


「大丈夫だって。あいつら、変わったのは外ヅラだけで本質は全く変わってねぇ。あの武器()()()も大したことねぇぜ」


 さっき、フォレスやウォルとも戦ったハイトが自信たっぷりに言った。


 確かにさっきの戦いでもハイトは、武器を持った二人相手に余裕な戦いぶりを見せていた。


「俺達は何年も何年も、この爪だけで耐えてきたんだ。信じようぜ、俺達自身を」


「……そうだな」


「引き腰なんてキャラじゃないものねぇ、私達」


 ハイトの言葉に頷くスレイとマーダ。


 だったんだけど______。


「な、何よこれぇ‼︎」


「……おい、ハイト! 聞いてた話と違うぞ!」


 二人の言葉に頷きつつ、ハイトはあまりの天使達の変わり様に驚きを隠せていないようだ。


「おぉ、俺も驚いてるところだ! 何なんだよコイツら、急に強くなりやがって……!」


 そこに畳み掛けるように、フォレスとウォルが技を繰り出す。


「【蔓双剣(バイン・ソーズ)】!」


「【水矢(ウォーター・アロー)】!」


「チッ! んなもの、俺の爪で……っ!」


 長い爪を構えて押し切ろうとしたハイトだったけど、


「「はあああぁぁぁぁぁっっっ‼︎」」


 今までに見たこともないような技の威力に、敢えなく負けてしまう。


「なっ⁉︎」


「ちょ、ちょっ……! きゃあぁっ!」


「ぐっ……!」


 一気に押されて、キラー・ヴァンパイアの三人は地に膝をついてしまう。


「フェルミナさん、とどめお願いします!」


「頼んだぜ、フェルミナさん!」


「ええ!」


 双子の天使にとどめを託され、フェルミナさんは力強く頷いて銃を構える。


「【月光銃撃ムーンライト・バースト】‼︎」


 辺りに轟音が響き渡った。


 今さっきまでハイト達が居た場所からは、黄土色の煙が立ち込めている。


 そのため、三人の安否まで確認できないほどだけど、あれだけの技を受けてしまったら傷だらけどころじゃ済まないはずだ。


 やがて、煙がどんどん引いていく。


 そこにはやはり、傷だらけ、血だらけの三人が倒れていた。


 _____はずだった。


 戦いの一部始終を見ていた私も、頑張って戦っていたフェルミナさん達も思わず息を呑んでしまう。


 そこには、ハイト達キラー・ヴァンパイアとタッグを組んでいた吸血鬼三人組が立っていたのだ。

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