表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私の英雄は吸血鬼  作者: 希乃
第六章 堕鬼編
194/302

第185話 無事で良かったよ

「す、すごい……テインさん……!」


 あっという間にスレイもマーダも倒し、無事にスピリアちゃんを奪還してしまったテインさんに、私はただただ驚きを隠せなかった。


「申し訳ございません、少々手間取ってしまいました。陛下、ユキ様、フウマ様、お怪我はございませんでしたか?」


 飛躍し、椅子の後ろに見事着地したテインさんは、スピリアちゃんの縄を外しながら尋ねてくれる。


「ああ、わたしは全然大丈夫だ。テインが一人倒した時点で、何故か誰もわたし達に近づかなくなったからな」


 ブリス陛下が、若干引きつりながら言う。『何故か』と言いつつも、その理由を分かっているような顔だ。


 確かに、テインさんの剣幕はすごかったと思う。


 表面上は冷静なんだけど、溢れるオーラから感じる怒りが半端なかったというか……。


 『絶対に陛下には手出しさせない!』っていう決意がみなぎってて頼もしかったんだけど、やっぱり後ろ姿だけでも怖かった。


 ぶっちゃけ、鞭クルクル回してたし、熱血過ぎる教師みたいだったな……。


 その時の剣幕とは打って変わり、テインさんは心からの笑顔を浮かべた。


「それは良かったです。……はい、スピリア」


「テイン、ありがとリ!」


 ようやく縄の拘束から解かれたスピリアちゃんが、テインさんにお礼を言う。


「スピリアちゃん!」

「スピリア!」


 私と風馬(ふうま)くんは同時にスピリアちゃんを呼ぶ。


「ユキ! フウマ!」


 スピリアちゃんは目尻に涙を浮かべながら、私達に抱きついてきた。


「ごめんね、怖い思いさせちゃって……私にもっと力があったら良かったんだけど。本当に無事で良かったよ」


 スピリアちゃんの小さな体を抱きしめながら、私の視界も涙で霞む。


「わたしは大丈夫リ。テインが助けてくれたリ」


 スピリアちゃんは私と風馬くんを見上げてにっこりと笑い、テインさんの方を振り返る。


 そして私達から離れ、テインさんの服のフリルをつまむと、


「テイン、ちょっと服が汚れてるリ」


「ん? ああ、これくらい大したことないわよ」


 テインさんは自分の服を見下ろして平然と言いながら、手でパッパッと煤や埃を払う。


 でもスピリアちゃんは首を横に振って、


「駄目リ。せっかくのキレイな服が台無しリ。ちょっと待ってリ。わたしが綺麗にするリ」


「え?」


 スピリアちゃんは目を瞑り、不思議そうな表情をするテインさんの服に両の掌を向けた。


 すると、そこから金色の光が生まれ、煤などで汚れていたテインさんの服がみるみる綺麗になっていく。


「す、すごい」


 テインさんは、金色の光によってどんどん消えていく服の汚れを見て、感嘆の声をあげた。


「よし、これで完璧リ!」


 スピリアちゃんが光を消した時には、テインさんの服はまるで新品のようにピカピカになっていた。


「ありがとう、スピリア。あなた、こんな魔法も使えたのね」


 ほつれてたところも直してくれちゃって、と少し恥ずかしそうなテインさん。


「聖属性の魔法だな」


 ブリス陛下の言葉に、スピリアちゃんは頷いて、


「うゆ! わたし達ホーリー・ヴァンパイアに代々伝わる神聖な魔法リ。神様にお願いして力をお借りして、色々綺麗に出来るリ」


「ミリアさんの回復魔法とは、また違うの?」


 私が尋ねると、スピリアちゃんは顎に手をやって首をかしげる。


「うーん、多分違うと思うリ。この光じゃ、体力を元に戻したり傷を治したりするのは無理リ。多分、物全般にだけはたらく魔法リ」


 なるほど、じゃあ簡単に言うと、物に作用する回復魔法、みたいな感じかな。


 私が勝手に納得していると、ブリス陛下が口を開いた。


「ま、わたし達の家系は代々闇属性の魔法だがな。ハッハッハ!」


「陛下、今それを仰る必要はございませんよ」


 呆れたようなテインさんにも声をあげて笑いつつ、ブリス陛下は私達に向き直った。


「スピリアも無事に取り戻せたことだし、ユキ、フウマ。そろそろ人間界に帰ってもらえるかな?」


「はい! 勿論です!」


 返事をした私の横で、風馬くんも頷いてくれる。


「ありがとう」


「問題は、ここをどう突っ切るかでございますね」


 私達に微笑みかけてくれていたブリス陛下は、深刻そうなテインさんの言葉を聞くと、こう提案した。


「テイン、わたし達の技で通路を作れないか?」


 テインさんは少し驚いたような顔をしていたけど、可能性を見出だしたのか笑みを浮かべて、


「確かに。やってみましょう! 陛下!」


「『わたし達の技』ですか?」


 一体何のことなんだろう。陛下とテインさんの合体技、とか?


「まぁ、見てなさい」


 疑問だらけの私にもう一度微笑みかけたブリス陛下とテインさんは立ち上がり、お互いに向き合って手を握った。


 そして二人は握った手の片方______ブリス陛下は右の掌を、テインさんは左の掌______を突き出し、玉座の間の開かれたドアの方へ顔を向ける。


 もう片方の手は強く握られたままの状態だ。


「皆、避けなさい!」


「分かりました、お父様」


 ブリス陛下の言葉にいち早くイアンさんが反応し、それに気付いた他の皆も真ん中を避けるように壁際へ移動した。


 今から何が始まるのか、と私が陛下と秘書を見上げていると、二人が声を合わせて力強く詠唱した。


「「【漆黒弾丸(ブラック・バレット)】!」」


 詠唱とともに、二人の掌から真っ黒のビームのようなものが放出される。


 それは真っ直ぐな線を描くように飛び、反乱軍の吸血鬼達に直撃する。


「「「ぐわあああっ!!」」」


 声をあげて倒れていく吸血鬼達。


 すると、彼らが倒れていったことで床が見え、一筋の道が形成された。


 でも、何人かは懲りずに立ち上がろうとしている。


 そんな吸血鬼達を見てか、王宮の門番でありスピリアちゃんのお兄さんでもあるホーリー・ヴァンパイアのサレムさんが、玉座の間の踊り場までやって来て、


「陛下、俺にも手伝わせてください!」


 サレムさんは左手を高々と掲げると、大きな声で詠唱した。


「【雷撃(サンダー・アタック)】!」


 すると、天井に沿うように黒い雲が出現し、そこから雷が落ちた。


「「「あああああっ!!」」」


 陛下とテインさんの技を受けても簡単にはやられなかった吸血鬼達も、サレムさんの技で今度こそ完全にノックアウト。


 黒焦げになりながら、バタバタと倒れていく。


「おおー! すごいです!」


「一瞬であいつらを倒せるなんて!」


 私が思わず拍手をし、風馬くんが顔を輝かせていると、


「何でその技、最初から使わなかったリ?」


 素朴で純粋な疑問が、スピリアちゃんの口から飛び出した。


「ハハハ。確かにそうだよな」


 スピリアちゃんの言葉に、またも笑い出す陛下。


 秘書のテインさんがたしなめるように人差し指を立て、


「でもね、スピリア。陛下が狙われてたのに、のこのこと姿を見せたら駄目でしょ? わたくし達、この技を発動している時は無防備になってしまうの。そんな状態じゃ、陛下が危険でしょ?」


「う、うゆ。ごめんなさいリ、失礼なこと言っちゃったリ」


 テインさんの言葉を聞いたスピリアちゃんは、申し訳なさそうに肩を落とした。


「いやいや、気にするな。……さ、早く行きたまえ」


 ブリス陛下は首を振ってスピリアちゃんの頭を撫でると、私と風馬くんに向かって言った。


「スピリアのことも、後のことも、わたくし共にお任せください」


 テインさんも、私達の人間界への帰還を後押ししてくれる。


「「はい! ありがとうございます!」」


 私達は同時に頭を下げ、


「行こう、風馬くん」


「ああ」


 手を繋いで一本道を走り出す。


 そして王宮の外に出たところで、二人の人物が私達を待ち構えていた。


ゆき!」


柊木ひいらぎ!」


 何と、王宮の出口のところには、後藤(ごとう)亜子(あこ)ちゃんと藤本(ふじもと)(ごう)くん、そして亜子ちゃんのご両親が居たのだ。


「亜子ちゃん!」


 私達は二人に駆け寄っていった。


「藤本も! 良かった、無事……じゃないか」


 風馬くんは、藤本くんが怪我をしているのに気付いて、前言撤回をする。


「るせぇ。ただのかすり傷だよ」


 吐き捨てるように藤本くんは言ってから、


「スピリア!」


 王宮の中に向かって声を張り上げ、持っていた金色の槍を真っ直ぐに投げた。


 それは保健室でマーダが投げ捨てた、スピリアちゃんの愛用武器だった。


「自分の武器ぐらい、ちゃんと管理しやがれ!」


「ありがとリ! フジモト!」


 無事に受け取ったようで、中からスピリアちゃんの声が聞こえる。


「何で俺だけ苗字なんだよ! 剛って呼べ! 剛って!」


 藤本くんは拳を突き上げ、不満そうな声をあげる。


「う、うゆ! ゴウ、ありがとリ!」


 スピリアちゃんのお礼を背中で受け、少ーしだけ顔を赤らめる藤本くん。


「パパ、ママ、お願い!」


 階段を降りたところに待機していたご両親に向かって、亜子ちゃんが手を振る。


 亜子パパは手を挙げて応え、魔方陣を出現させた。


「おう、任せろ! 【魔方陣マジカイア・サークル】」


「さ、どうぞ、皆」


 亜子ママが魔方陣の中央へと案内してくれる。


「ありがとうございます」


 お礼を言い、私達が魔方陣の上に立とうとしたその時。


「待て、何か来るぞ」


 突然、空を仰いだ亜子パパが危機感を募らせた。


「え? 何が……っ!」


 亜子ママも倣って空を仰ぎ、ハッと目を見開く。


 何かあるんですか? そう尋ねる暇もなく、


「避けろ!!」


 魔方陣を解除させた亜子パパが、私達の背中を押しながら王宮の方へと駆ける。


 元居たところを振り返った瞬間、空から何かが落ちてきて地が揺れるほどの轟音が響き、その反動で見上げるほどの土煙が上がった。


 やがて煙が空気に消え、その場が鮮明になっていく。


 まず見えたのは、黒マントをした赤紫髪の少年。


 そして彼の足元______正確に言うと、彼に踏まれていた人物がいた。


 白い短髪に白色と金色の鎧。頭上には輪っかが浮かんでいて、背中から生えている白い羽も、落下の衝撃のせいか大きくへしゃげてしまっている。


「ルーン……さん……?」


 地面にめり込むほど沈んだその人物を、私は知っていた。


 彼女は、天界の天兵軍隊長を務める女天使______ルーン・エンジェラだったのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=39470362&si
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ