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私の英雄は吸血鬼  作者: 希乃
第六章 堕鬼編
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第184話 返してもらいますね

 テインの鞭攻撃を受け、目を回して伸びてしまった反乱軍の吸血鬼。


 彼を見て、一瞬たじろぐ他の吸血鬼達だったが、


「く、くそっ! 一人伸ばしたくらいで良い気になるなよ!」


「囲め囲め! 一斉攻撃すりゃ余裕で勝てるぞ!」


 テインは自分に向かって走ってくる吸血鬼達を見回すと、彼らが自分を取り囲もうとしたタイミングで鞭を振るった。


 ビシビシビシッ‼︎ と鞭が身体に当たる音が響き、鞭で殴られた吸血鬼達は一斉に倒れていく。


「な、何だあいつ……!」


「あんなもんで殴るとか、鬼畜すぎんだろ……」


「あ、あんな奴は相手にするだけ無駄だ。自殺行為だ。それよりまずは目の前の奴らに集中だ!」


 テインの攻撃を目にした他の吸血鬼達は、彼女に呆気なく敗れる仲間を、そして仲間を呆気なく倒したテインを見て青ざめた。


 鞭攻撃を受けて地面に倒れ伏したり、明らかな戦力差に戦意を削がれたりしている吸血鬼達の様子に、テインは鞭を回しつつ、


「あら、もう終わりでございますか? 国王陛下に手を出そうとすることがどれほど愚かなことか、少しは分かっていただけると嬉しいのです……っ‼︎」


 そこでテインの言葉が止まった。


 何故か。


 彼女の首の側で、何か鋭いものが光ったからだ。


 風のような速さでテインに迫ったスレイが、テインの首に鋭く光るもの______ナイフを突きつけていた。


「……調子に乗るな。お前こそ、過信しすぎた自分を愚かしく思うんだな」


 鋭い視線をテインに送ったまま、スレイは体を一ミリも動かさない。


 ナイフの柄の先端に親指を添え、柄全体を残りの四本指で握るという持ち方。


 腰を落として重心を低くし、完璧な攻撃体制に入っている。


「どういう意味でございますか? わたくし、決して己を過信したわけではございませんが」


 ナイフを恐れるわけでもなく、スレイの素早さに驚く素振りを見せるわけでもなく、ただ本心からテインはそう言った。


「……なら、その忌々しい喉を今すぐにかっ切ってやる」


「臨むところでございます」


 言うが早いか、スレイは腕を素早く右に振るった。


 そうすることで、テインの首をナイフで斬りつけることが出来るからだ。


 そのはずだったのだが______。


「無駄でございます。わたくしとて、相手の次の手が分かっていながらその通りに殺されるような愚か者ではございませんので」


 テインの首は無事だった。


 スレイがナイフを振るよりも早く、膝を曲げて首をすくめ、ナイフを避けたのだ。


 そして間髪を入れずに、テインはスレイのお腹に向かって鞭を振るう。


 しかし、その鞭は受け止められた。


 スレイが持つ、もう一つのナイフによって。


「やはり、ナイフは一つではございませんでしたね」


 想定内だったのか、受け止められた鞭を素早く戻し、テインは身を低くして自身から見て右方向に走る。


 彼女を追ってスレイは左に動き、ナイフでテインに傷をつけようと迫っていく。


 テインはスレイから視線を外すことなく走っていき、王宮内で戦っている吸血鬼達の大群の中へと身を投じた。


「……ふん、大群の中に溶け込む気か。だが忘れるな。この中のほとんどは、お前の敵だ」


「勿論、忘れているわけではございませんわ」


 この状況だけを言うならば、『火中に飛び込む』や『危ない橋を渡る』といったところだろうか。


 しかし、テインが浮かべているのは戦闘開始時と何一つ変わらない余裕そうな笑み。


 そのことについては、彼女を追うスレイも分かっていた。


 一つ疑問点があるとすれば、この秘書は自分に生まれた余裕を駆使して何を考え、どう行動するつもりなのか、ということだ。


 大群の中に身を投じることで、防御に徹して相手が攻撃しにくい状態を作り、スレイとの戦闘を有利に持っていく運びなのか。


 だとしたら、当然ながら攻撃するテイン自身にとっても攻撃しにくくなる。


 それは単純明白。ここまで余裕そうなテインがそんな単純なことを見落としているはずもない。


 だとしたら、大群に溶け込むことがテインの目的だという可能性は低い。


 ならば、この大群を利用して他に達成したい目的があるという結論に至る。


 では、その目的は______?


 テインの動きについてスレイが色々と考えていると、テインが不意に走るのをやめた。


「……何だ、追いかけっこはもう終わりか?」


「そうでございますね。終わりにいたしましょ……ッ!」


 今まで常に余裕そうな笑みを崩さなかったテイン。


 しかし、次の瞬間、その体がグラリと揺れた。


 ヘナヘナと床に座り込むテイン。


 ______何だ? 何を考えて……。


 一瞬、その動きに策があるのかと思考を巡らせたスレイだったが、あることに気がついて口角を上げた。


「……そういうことか。今まで余裕そうにしていたのは、単なる強がりだったというわけだな」


 スレイは『獲物』に狙いを定めると、ナイフを構えて床を蹴る。


「……強がったことをあの世で後悔しろ」


 目にも止まらぬ速さで走り、床に尻をつけたテインへとナイフを振りかぶった。


「……死ねっ!」


 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 一方、マーダはスピリアを捕まえたまま王宮の壁に背をつけ、戦いの様子を見物していた。


「スレイもやるわねぇ。その調子よ、キラー・ヴァンパイアの意地を見せつけてやりなさい」


 彼女の視界に写っているのは、ブリスの秘書・テインを追いかけながら吸血鬼達の間を縫って走るスレイだ。


「何でわたしのことすぐ殺さないリ? わたしが嫌いじゃないリ?」


 と、淡い青緑色の髪の吸血鬼・スピリアがマーダを見上げてきた。


 スピリアは縄で手足もろとも縛られており、その縄を引いているのはマーダであるため、少しも身動きが取れずにいた。


 絶体絶命な状態の小吸血鬼を見下ろし、マーダは薄く笑うと、


「言ったでしょぉ? あのお嬢ちゃん達の目の前で殺すって。この戦いが終わったらね」


 さらに水色の瞳を意地悪そうに細め、


「まぁ、勝つのは私達だけどぉ」


 スピリアが悔しげに唇を噛む姿に目もくれず、マーダはただ繰り広げられる戦闘を見つめていた。


 その時だった。彼女達の目の前で、テインが崩れ落ちるように床に座り込んだのだ。


「テイン……?」


 スピリアが不安そうな声を漏らすが、マーダは反対にほくそ笑む。


「ほら、私の言う通りになりそうよぉ?」


 スレイがナイフを片手に走り、テインを突き刺そうとしている。


「テイン! 立ってリ! 死んじゃうリ!」


「あらぁ、あんたの死に際を仲間に見せつけるつもりだったけど、あんたが先に仲間の死に際を見届けることになりそうねぇ」


 スレイのナイフがテインに突き刺さる______と思われた瞬間だった。


 テインがスレイの手首を掴んだのだ。


「かかりましたわね」


 はっきりと、テインの声がマーダの耳にも届く。


「かかった? 何言って……えっ? ちょ、ちょっと!」


 テインの言葉の真意を確かめる暇もなく、マーダは慌てふためいた。


 スレイの手首を掴んだテインが、その腕を大きく後ろに振りかぶったのだ。


 不意打ちを食らったスレイはいとも簡単に飛ばされた。


 マーダの方向へと。


 彼女が慌てふためいたのはそのためだ。仲間がものすごいスピードで自分の方へと飛ばされてきたのだ。


 咄嗟に避けようと思考を働かせた瞬間、


「スピリア! 頭を下げて!」


「うゆ!」


 スピリアが動かない上半身をなんとか捻り、首を曲げて頭を下げる。


 何故そんなことを……と思いつつも、マーダが避けようと右足を踏み出したその時。


「むぐっ⁉︎」


 スレイの身体が、マーダの顔面を直撃したのだ。


 その衝撃で、マーダの手からスピリアを縛っていた縄が離れてしまう。


「あ、しまっ……」


 必死に縄を取ろうと手を伸ばしたマーダ。その視界に、丸眼鏡越しの鋭い瞳が映る。


「スピリアは返してもらいますね」


 その直後、マーダはお腹に鋭い激痛を感じた。


「うぐっ‼︎ ……かはっ!」


 その衝撃でマーダの体は背後の壁へとめり込み、ぶつかってきたスレイとともに倒れ込んでしまう。


 テインにお腹を蹴られたのだと分かった頃には、目の前にテインの姿も、そして今まで捕まえていたスピリアの姿も消えていた。


「なに……よ……あのメガネ……」


 壁の破片に囲まれたマーダはそう吐き捨てると、機械の電源が切れるように脱力したのだった。

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