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私の英雄は吸血鬼  作者: 希乃
第六章 堕鬼編
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第171話 皆で一緒に、協力するのよ!

「【剣光(ソード・フラッシュ)】!」


 キルは技を発動し、純白の光を放つ短刀と共にスレイへと突っ込んでいく。


 しかしスレイは大きくのけ反ると、キルの技を避けた。


「なっ……!」


 ____避けられた!


 キルがそう思った直後、吐きそうになるほどの激痛がお腹に走り、またも壁へと激突してしまう。


「うっ!」


 のけ反ったスレイが足を上げ、キルのお腹に鋭い蹴りを入れたのだ。


「……俺に負けるわけないんじゃなかったのか」


 壁に背中を打ち付け、地面へと落ちるキルを見下ろして、スレイが腰に手を当てて息を吐く。


「うるさいわよ……!」


 スレイの言葉は的を射ているため、キルもそんな言葉でしか言い返せない。


「ぐっ……!」


 突如、キルはスレイに首根っこを掴まれて、スレイの顔の前まで引き寄せられる。


「何よ……」


「……俺にも勝てないくせに、威勢良く立ち向かってくるな」


「どういうこと……」


 目と鼻の先にあるスレイの瞳は、怒りで燃えていた。


「……刃を向けてくるなら最後まで戦え。……すぐに負けるな、時間の無駄だ」


 スレイは小声でそう言うと、キルの首を掴んだ腕を大きく振り、廊下の先へと投げ飛ばした。


「ぐっ……!」


 床に強く身体を打ち付けたキルは、しばらく床の上を転がってから仰向けになった。


 立て続けに襲ってくる痛みに荒い息をしながら、キルがスレイを見上げていると、スレイが足を上げてキルのお腹を踏みつけてきた。


「ああっ!」


 キルが痛みに声をあげるが、スレイは追い討ちをかけるように踏みつけた足をグリグリとねじ込んでくる。


「ううっ、ぐうっ……!」


 キルはあまりの痛みに目を瞑るが、それでもしっかりと昔の仲間の顔を見上げた。


「す、すれ……い……」


 キルが名前を呼んでも、スレイの表情に変化はない。


「……消えろ」


「ぐあっ!!」


 スレイはキルのお腹を思い切り蹴り上げると、廊下の奥まで飛ばした。


 キルは、蹴飛ばされるがまま廊下をゴロゴロと転がっていく。


「キル!」


 上から聞こえてきた驚いている声に、キルは上を見上げた。


 すると、イアンが彼女を見下ろして目を丸くしていた。


「イアン……」


「大丈夫か?」


 言いながら、イアンの隣に居たレオがキルを支えて抱き起こしてくれる。


「ありがとう、ごめん。私だけじゃ無理だったわ……」


「大丈夫さ。四人で倒せば。四対二だし、僕達の方が有利だよ」


 そう言って、歯を見せて笑うイアン。


 しかし、その傍らで吸血鬼と戦っている(まこと)も、そしてキルを抱き起こしてくれたレオも、イアンも身体中に傷を負っていた。


「ま、確かに数だけで言えば、私達の方が有利ね」


 イアンのポジティブシンキングに、キルは思わず笑みをこぼしてしまう。


 それでも、そう思うだけで不思議と戦闘意欲が湧いてくるのを感じた。


 キルはレオに支えられながら立ち上がると、床に落ちていた短刀を拾い上げた。


「……ふん、結局仲間に頼るのか」


 廊下の方から歩いてきたスレイが、イアンと誠、レオの隣に並ぶキルを見てニヤリと口角を上げる。


「頼るんじゃないわ」


 キルはそんなスレイに厳しい視線を送り、拾い上げた短刀を構えた。


「皆で一緒に、協力するのよ!」


「……言っていろ。……おい、俺達も行くぞ」


「るっせぇな。わあってるよ!」


 スレイに言われ、吸血鬼も文句を垂れつつ剣を構える。


 二人対四人による戦いの火蓋が切って落とされた____。


 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「【暗黒剣ダークネス・スパーダ】!」


「【剣光(ソード・フラッシュ)】!!」


 イアンとキルの技が、スレイへと迫っていく。


 イアンの【暗黒剣ダークネス・スパーダ】は避けきったスレイだったが、遅れて迫ってきたキルの【剣光(ソード・フラッシュ)】には間に合わなかった。


「ぐっ……!」


 光輝く無数の鋭い剣撃を受け、スレイは痛みに顔を歪ませた。


 ____よし、今度は当たった!


 キルは心の中で思わずガッツポーズを決める。先程は避けられてしまったが、イアンとの二重攻撃で攻めることで、キルの技は確実に効果を発揮したのだ。


「……調子に乗るな。俺だって能力(ちから)さえあれば、お前達に負けるはずがなかったのに……!」


 離れた所でレオと共に戦っている誠を睨み付け、スレイは悔しさを滲ませる。


「三人がスピリアのこと狙ったからでしょ。自業自得よ」


 キルがそう言ってのけると、スレイは眼球が飛び出るほど目を見張り、


「……たった一回、攻撃が当たったくらいで……調子に乗るな!」


 ほぼ体当たりのような勢いで、キルめがけて突っ込んできた。


 たまらずキルは吹っ飛び、またも壁に背中を打ち付けてしまう。


「うぅっ!」


「キル!」


 痛みに声をあげたキルの耳に、イアンの鋭い声が聞こえてくる。


 しかし、今はイアンの方に意識を向けている場合ではなかった。


「……力で言えば、俺の方が圧倒的に上だ!」


「がぁっ……! あっ……!」


 スレイに力強く首を絞められ、キルは声にならない声をあげた。


 スレイの指が、手全体がキルの首に食い込んできて息が出来ない。


 言葉通りに、スレイは圧倒的な力の差を見せつけてきた。


 今この状態でキルがスレイに負けているのだから、スレイの力量を認める他にない。


「【暗黒剣ダークネス・スパーダ】!!」


「ぐっ!」


 背中に技を決められたスレイは、キルの首から手を離して床に転がり込んだ。


「キル、大丈夫かい!?」


 その隙に、イアンがキルを助け出す。


「い、イアン……ごめん、ありがとう」


 キルは今まで絞められていた首を押さえながら、時折咳き込みつつもイアンにお礼を言った。


「【炎嵐ファイヤー・トルネード】!」


「ぐああああっ!!」


 今度はレオの技を受けて吹っ飛ばされた吸血鬼が、床に転がっていたスレイに直撃してしまう。


「……うっ! ……何をする!」


 スレイは巻き添えにされたことに怒りの炎を燃やした。


「わ、悪ぃ、吹き飛ばされたんだよ……」


 しかし吸血鬼の方は『仕方ないだろ』と言わんばかりだ。


「……役立たずが」


 ボソッと呟いたスレイに、吸血鬼が猛抗議する。


「はぁ? お前だってさっき技受けてたじゃねぇか! 自分のこと棚に上げんじゃねぇよ!」


「……うるさい」


 そんな二人のやり取りを眺めていた誠が、もう待ってられないとばかりに剣を構え直した。


「いい加減、終わりにするぞ」


「そうだね、マコトくん」


 頷き、イアンも戦闘準備に入った誠の隣に立つ。


「キル、大丈夫か」


 吸血鬼と戦っていたレオが、咳き込むキルに手を差し伸べてきた。


「うん、大丈夫。ありがとう」


 キルは素直にお礼を言うと、レオの手を取って立ち上がる。


 四人の鋭い眼差しを受けて、今度こそピンチを確信したのか、スレイは悔しげに唇を噛んだ。


「……くっ、仕方ない。……一旦戻るぞ」


「え? あ、お、おう」


 亜人界へと一旦戻ることが予想外だったのか、吸血鬼はすっとんきょうな声をあげつつも、スレイの魔方陣に乗って消えていった。


「待て!」


 誠が俊敏に反応するが、二人は消えた後だった。


「くそ……逃がしたか」


「なに諦めようとしてるのよ。追いかけるわよ」


 悔しげな誠を見上げてキルが言うと、


「分かってる! 言われなくてもそのつもりだ!」


「まぁまぁ、二人とも。仲良く仲良く。とりあえず先に亜人界に向かうって、ミリアに連絡しとくよ」


 イアンは言い争うキルと誠をなだめつつ、そう報告する。


 そして電話口のミリアの言葉により、イアンは一旦保健室に戻り、誠、キル、レオの三人は、スレイ達を追って先に亜人界へと向かったのだった。

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