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私の英雄は吸血鬼  作者: 希乃
第六章 堕鬼編
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第168話 待っててね

 私達は保健室で、ミリアさんの回復魔法で治癒してもらっていた。


 スピリアちゃんがマーダに連れ去られてから、実に数十分が経とうとしていた。


 あの後、すぐにスピリアちゃんの元に向かおうと、ミリアさんに魔方陣を出してほしいと頼んだけど、ミリアさんの怪我のせいで魔力が弱まっていて、魔方陣が出せなかった。


 それにスピリアちゃんを助けに行くとしても、まずは私達の容体が良くないと意味がないという結論に至った。


 ミリアさんは、最初に自分自身に回復魔法で治癒を施してから、亜子(あこ)ちゃん、風馬(ふうま)くん、私の順番に回復魔法をかけてくれた。


 亜子ちゃんは、マーダの爪で斬られて出血が多かったお腹を止血してもらい、風馬くんは、蹴られてダメージを受けたお腹の回復と、引っ掻かれた頬の手当てをしてもらっていた。


 私は、風馬くんと同じように蹴られたお腹のダメージの回復と、引っ掻かれた腕の手当てをしてもらった。


「ありがとうございます、ミリアさん」


「いいえ、ユキ様。皆様のお怪我を治すのが(わたくし)の仕事ですから。お礼は不要ですよ」


「じゃあ、吸血鬼界に連れていってもらえませんか? 早くスピリアちゃんを助けに行かないと」


 でも、長い黄髪の吸血鬼は首を縦に振ってくれなかった。


「ユキ様、落ち着いてください」


「え? 私、ちゃんと落ち着いてますよ?」


 今度は首を横に振るミリアさん。


「いいえ、焦っておられます。確かにスピリア様の命が危険なのは尤もです。ユキ様が焦られる気持ちも充分に理解できます」


「じゃあ____」


「ですが、今向こうに行っても、(わたくし)どもがスピリア様を奪還できる可能性は極めて低いです」


「どうしてですか? ミリアさんに回復魔法で治療してもらいましたし、もう大丈夫ですよ?」


「武器もお持ちでないのに、どうやってマーダさんと対決するおつもりですか? 先程のように身を挺するのですか?」


「それしかないじゃないですか」


 私は人間だ。武器なんて持ってないに決まってる。


 戦うには素手で、自分の身体を使うしかない。


 なのに、ミリアさんは私を見つめて、


「ユキ様、もう一度申し上げます。落ち着いて、じっくりと考えてみてくださ____」


「そんな悠長なこと言ってられないです!」


「ゆ、ユキ様……」


 私の大声に、ミリアさんは驚いたように肩をピクッとさせた。


「私は、夏合宿の時もスピリアちゃんに辛い思いをさせちゃったんです! だから、これで二回目なんです! 本当はあの子に合わせる顔なんて無いです! 私は……また彼女を傷つけてしまったんです!」


 早くしないと取り返しのつかないことになる。こうやってる間にも、スピリアちゃんの命の危険はどんどん高まってるんだ。


「だから、早……く____」


 立ち上がろうと足に力を込めた途端に力が抜け、私の身体は前方に倒れる。


「ユキ様!」


 私の前に居たミリアさんが、倒れた私を受け止めてくれた。


「ご、ごめんなさい。ありがとうございます……」


 な、何で……もう回復魔法で治療してもらったのに……。


 完全に回復したはずなのに……。


 私がもう一度起き上がろうとすると、ミリアさんが私の肩を抱いて真っ直ぐ見つめてきた。


「ユキ様、正直に申し上げます」


「ミリアさん……?」


(わたくし)の回復魔法は今、本来の力を出し切れておりません。それも全て、(わたくし)の自信の欠如が原因です。申し訳ありません」


 ミリアさんは、そう言って頭を下げた。


 そ、そんな……じゃあ、まだ私も皆も完全に回復出来てないってこと……?


「今の(わたくし)の魔力だと、完治までに今までよりも多くの時間を要してしまいます。完治出来ないということではありませんが……」


 自信の欠如、か。そう言えば、王宮でテインさんに教えてもらったな。ミリアさんの過去のこと。


 その前に、私が色々言っちゃったせいなのかな……。


「あ、あの、ミリアさん。ごめんなさい」


「え? どうしてユキ様が謝罪なさるのですか?」


 目をパチクリして不思議そうなミリアさんを直視出来ず、私は俯いたまま言った。


「王宮で私が、ミリアさんを変に心配するようなこと言っちゃったからですよね。その……ミリアさんの自信が無くなっちゃってるのは」


「いえいえ、違いますよ。ただ、(わたくし)自身がお役に立てないことが悔しくて。それが自信の欠如に繋がっているのだと思います。だからユキ様は、何も悪くないのですよ」


 そう言って、ミリアさんは優しく微笑んでくれた。


「ミリアさん……」


 それからミリアさんは柔らかかった表情を曇らせ、自分の掌を見つめた。


「それにしても、こんな時に魔力に支障を来してしまうなんて最悪ですね。一刻も早くスピリア様を助けに行かなければならないのに」


 そして広げた掌を包み込み、拳を握る。


 すると、突然ミリアさんの携帯のような器械が鳴り出した。


「はい、もしもし。……イアン様!」


 電話の相手はイアンさんだったようで、ミリアさんの曇っていた表情が一瞬にして明るくなる。


 一体どんな連絡をしているのだろう、と思っていると、


「はい……はい。承知致しました。ですが、(わたくし)の魔力が弱まっていて、魔方陣を出せない状況なのですが……」


 イアンさんが何か言ったのか、少し間を置いた後でミリアさんは一人頭を下げた。


「そうですか。ありがとうございます、イアン様。ご不便をおかけして申し訳ありません。よろしくお願い致します」


 そして電話を切ると、私達の方に向き直って、


「イアン様が、もう一度こちらに戻ってきてくださるようです。VEOの基地を襲撃した吸血鬼達が亜人界の方に逃げたということで、キル様とレオ様とマコト様は先に亜人界へ転移されたそうです」


「そうなんですね。良かった……」


 イアンさんが戻ってきてくれるなら、スピリアちゃんのこと助けに行ける!


 待っててね、スピリアちゃん。すぐに助けに行くから!

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