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私の英雄は吸血鬼  作者: 希乃
第六章 堕鬼編
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第164話 持ちこたえてくれ

 私達は保健室で(まこと)さんの話を聞いていた。


 一通り話し終わったのか、誠さんは目を瞑り、ふぅと息を吐いた。


「そんなことがあったんですね……」


 誠さんがどうしてVEOに入っているのか、その理由だけでなく、誠さんの壮絶な過去を聞いて、私は上手く言葉が出てこなかった。


 まだ小学生なのにお母様を亡くして、きっとすごく辛かったに違いない。


 それに、襲われて火の海となったと言う誠さんの故郷。


 自分が生まれ育った町が無くなってしまったのだと思うと、胸が強く締め付けられる。


 誠さんは私の呟きに頷くと、再び顔を曇らせた。


「ああ。俺の知らないところで、(ごう)は吸血鬼のことをおじさんとおばさんから聞いていたんだろうな」


 だから藤本(ふじもと)くん、あんなに吸血鬼のことを敵視してたんだ。


「あいつにはたくさん寂しい思いをさせてる。俺にはかろうじて母さんの記憶があるが、剛には無いからな。それに、吸血鬼のことも。おじさんとおばさんから悪い風に聞いて、なおかつ俺が『吸血鬼抹消組織』なんかの隊長やってたら、嫌でも『吸血鬼は皆悪い奴なんだ』って思うよな」


 誠さんの言葉に、風馬(ふうま)くんが納得したように言う。


「藤本が『色眼鏡外せ』って言ってたの、そういうことだったんだ」


 誠さんは口元を緩めると、顔を上げて私達を見回した。


「すまんな、剛のせいで、関係のないお前達まで傷付けてしまって」


「大丈夫ですよ。むしろ俺の方こそ、藤本の気持ちなんて考えないで無責任なこと言っちゃいましたから」


 誠さんの謝罪に、風馬くんが頭を掻きながら恥ずかしそうに答える。


「それにしても懐かしいね。あの時はまだマコトくんも小さかったよね。子供の頃のマコトくん、可愛かったなぁ」


 イアンさんが腕を組み、ニヤニヤとした表情で言うと、


「はい、とてもお可愛らしかったです」


 ミリアさんも優しく微笑む。


 誠さんは、二人の言葉に少しだけ顔を赤らめると、


「う、うるさい! お前達だって小さかっただろ!」


「でも、マコトくんよりは大きかったよ? ね、ミリア」


「はい、イアン様」


「くっ……!」


 再び二人に言いくるめられ、言い返せない誠さんは悔しげに喉を詰まらせていた。


「へぇ~、子供の時のマコト、見たかったなぁ」


「俺も。興味が無いって言ったら嘘になる」


 すると追い討ちをかけるように、キルちゃんとレオくんがにやけながら誠さんを見上げた。


 さらににやけた表情を向けられた誠さんは、さっき以上に赤くなりながら、


「み、見なくて良い! 全く……」


 腕を組んで赤くなった顔を背け、何とか平静を装っていた。


 と、突然保健室に着信音が響き渡った。


 誠さんが自分のスマホからだと気付き、ポケットからスマホを取り出して電話に出る。


「もしもし俺だ。どうした」


 少し間を置いた後、平静を装っていた誠さんの表情が一変した。


 目を見開き、頬に汗を浮かべて目を泳がせると、


「なっ……! 分かった! 俺もすぐに行く! それまで持ちこたえてくれ!」


 そう、電話口の相手に叫び、電話を切った誠さん。


「どうしたんですか?」


 私が尋ねると、誠さんはただならぬ表情のまま口を開いた。


「VEOの基地が吸血鬼どもに襲撃されたそうだ」


 誠さんの言葉に、その場に居た全員が驚きを表情に宿す。


「イアン!」


 キルちゃんとレオくんに見上げられ、イアンさんは力強く頷いた。


「ああ、僕達も行こう! 多分、襲撃してるのはハイト達だ!」


 『襲撃してるのはハイト達』。


 その言葉を聞いた途端、キルちゃんの表情が曇った。


 イアンさんは振り返り、今も亜子(あこ)ちゃんの負傷した右手を回復魔法で治癒しているミリアさんに、


「ミリアはアコの治癒続けてて!」


「か、畏まりました!」


 ミリアさんの返事を聞いて、保健室を飛び出そうとしたイアンさん達。


「わたしも行きたいリ!」


 でも、スピリアちゃんが叫んで自分の意思を主張する。


 キルちゃんはスピリアちゃんの方まで戻ると、彼女の肩に手を置いて、


「スピリアは駄目よ。あなたが狙われてるんだから」


「リ……分かったリ」


 スピリアちゃんは少し不満そうに唇を尖らせていたけど、同い年の吸血鬼から感じる必死さに根負けしたのだろう。


 最終的には大人しく頷いて、保健室に残ることを了承していた。


「イアンさん……!」


 心配になって、私はイアンさんの背中に声をかけてしまう。


 イアンさんは振り返ると、私に向かっていつもの優しい微笑みを向けてくれた。


「大丈夫だよ、ユキ。すぐに戻ってくるからここで待ってて」


 そう言うが早いか、イアンさん、キルちゃん、レオくんは黒いマントを翻して、真っ先に駆け出した誠さんの後を追いかけ、保健室を飛び出していった。


 保健室には、私、風馬くん、ミリアさん、スピリアちゃん、後藤家の七人が残された。


「ごめんなさい、ミリアさん。あたしのせいで戦いに行けなくて」


 ベッドに横たわった亜子ちゃんが、申し訳なさそうにミリアさんに謝罪する。


 でも、ミリアさんは首を横に振って、


「いえ、大丈夫ですよ、アコ様。(わたくし)の今の責務は、アコ様の治癒ですから」


「でも……戦いにはミリアさんの回復魔法が必須なんじゃないんですか?」


 亜子ちゃんは、鬼衛隊のメンバーから普段の攻撃体制を察したのだろう。


 核心を突かれたミリアさんは頷き、少しだけ俯いた後に再び顔を上げた。


 その顔には、ミリアさんが普段見せるのと同じ優しい笑みが浮かんでいた。


「ええ。ですが……(わたくし)はイアン様に任された責務を果たすだけですから、ご心配なく」


 亜子ちゃんにそう伝えたミリアさんは、ふと気付いたように私達の方を見ると、


「それより、ユキ様方はアキマツリ、参加しなくてよろしいのですか?」


 私達の行事を心配してくれたようだ。


 亜子ちゃんとスピリアちゃんが襲われたり、誠さんの話を聞いたりしててすっかり頭から抜けてたけど、そう言えば今は秋祭りの真っ最中。


「あ、はい。シフトも終わってるし、今は自由時間なんです」


 午後に皆で回る約束してて良かった。午後のシフトで組んでたら、バザーの方に行かなきゃいけなくてバタバタしてただろうな。


「ごめん、あたしのせいで。三人で回るって約束してたのに」


 私と風馬くんを見上げて、亜子ちゃんが申し訳なさそうに謝ってくれた。


「気にすんなよ後藤(ごとう)。また来年もあるじゃないか」


「そうだよ亜子ちゃん。来年、三人で回ろう」


 風馬くんに続き、私も亜子ちゃんに伝える。


 気にしなくて良いんだよ、と。


「……ありがとう」


 私と風馬くんの言葉を聞いた亜子ちゃんとご両親が、安心したように口角を上げた。


 でも、亜子ちゃんの笑顔だけが本当の笑顔じゃないように見えたのは、私の勘違いなのだろうか……。

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