第155話 吸血鬼三人組の来襲
「誰リ?」
唐突に目の前に現れた吸血鬼三人組に、スピリアは眉を寄せて首を傾げている。
その反応を見て、亜子はスピリアに声をひそめて確認した。
「……知り合い、ってわけじゃないわよね」
「違うリ。全然知らない人リ」
スピリアは首を横に振り、明らかに自分を狙っている彼らに恐怖を抱いているようだった。彼女の身体が小さく震えているのが見て取れる。
スピリア自身が『全然知らない人』だと口にした以上、この三人組はスピリアを狙ってやって来た敵と考えるのが妥当だ。
それに、亜子には一つ分からないことがあった。
____なら、どうしてスピリアの名前を知ってるの?
そう、何故『全然知らない人』であるこの吸血鬼三人組が、スピリアの名前を知っているのか、ということだ。
その他にも疑問はたくさんあるが____。
「あんた達、一体何者なの!!」
亜子は恐怖で震えるスピリアを庇うように前に立ち、吸血鬼達に向かって声をあげた。
色々な疑問は後回し。今はスピリアを守ることが先決だ。
「おぉおぉ、そんな怖い顔しねぇでくれよ」
亜子に睨み付けられ、一人の吸血鬼が両手を振って引きつったような笑みを浮かべる。
それに続く形で、別の若い吸血鬼が口を開いた。
「俺達は、別にこの子に会いに来ただけなんだよ」
三人のうち、最も年を重ねているように見える吸血鬼が、下手に出たような態度を見せた。
「ちょっとだけで良いから、話をさせてくれんか?」
「無理に決まってるでしょ。本人が知り合いでも何でもないって言ってるんだから」
ぴしゃりと亜子は言い放つが、男達は簡単には引き下がらない。
「でも、俺らはそいつを知ってるぜぇ?」
ニヤリとほくそ笑んだ男に、もう一人の若吸血鬼が首を傾げた。
「ん〜、知ってるって言えるのか? 俺達、あいつらに頼まれただけだろ?」
____あいつら?
男が口にした言葉に、亜子は眉を寄せた。
その言葉を聞く限りでは、この三人組がスピリアを狙いに来たのは自分達の意志ではない。
確実に、彼が言った『あいつら』に頼まれたのだろう。スピリアを狙え、と。
亜子がそう推測していると、
「しっ! こら馬鹿! なに本人達の前で言ってんだ!」
「そぅだよ! 馬鹿野郎ぅが!」
おじさん吸血鬼と若吸血鬼が、残りの一人を一斉に責め立てている。
____本当に、何なのこのヒト達。
もはや呆れるしかない。段階も踏まずにスピリアを奪いに来たのだと思って身構えていた亜子は、思わず面食らってしまった。
しかし、本来の目的を思い出したように、おじさん吸血鬼が亜子とスピリアの方に向き直り、
「仕方ないな。ここでごちゃごちゃ言っててもらちがあかんし、とっとと貰いに行くぞ!」
おじさん吸血鬼のかけ声と共に、二人の若吸血鬼もスピリアめがけて走ってきた。
面食らっていた亜子は、ハッと我に返ったように目を見開くと、スピリアを後方にやった。
「スピリア逃げて!!」
「リ____うゆっ!」
スピリアは一瞬迷ったようだったが、自分に危機が迫っているのを感じたのか、中庭から走って逃げていく。
「行かせないよ!」
スピリアを追って駆け出した若吸血鬼の行く手を塞ぐべく、亜子は男の前に立ち、
「こっちの台詞! 【鉄壁】!」
スピリアが逃げていった方と中庭との境目に、亜子は大きな鉄壁を作った。
「あっ! ちょっと! 何だよこの壁! 向こうに行けないじゃないか!」
亜子が作った鉄壁を指差し、文句を垂れる若吸血鬼。
亜子は小さくため息をつくと、右手に力を込めて攻撃を放った。
「誰が易々と行かせるのよ、全く。【鋼拳】!」
「うごぇっ!?」
お腹を殴られた若吸血鬼が目を見張って唾を吐き、あえなく吹っ飛ばされた。
「なぁにを簡単にやられてるんだぁ!!」
「あいつには任せておれん」
情けなく地面に伏した仲間に呆れ、他の二人も亜子に勝負を挑んできた。
「かかってきなさい!」
亜子は【鋼拳】を左手にも適用させ、二刀流ならぬ二拳流で迎え撃つ。
「お、俺だってちゃんとやるよ!」
すると先程亜子に吹っ飛ばされた吸血鬼が、地に尻を付けたまま拳を突き上げた。
「ちゃんとやるよってぇ? どの口が言ってるんだぁ? さっき思いっきりぶん殴られてたじゃねぇかぁ!!」
それに青筋を立てたのか、もう一人の若吸血鬼が方向転換し、亜子ではなくその吸血鬼の方へと歩いていった。
勿論、おじさん吸血鬼は『信じられない』と言いたげに目を丸くしていたが。
「やるよっつってんだろ!!」
お互いに指を突き立て、ギャーギャーと言い合う若吸血鬼二人。
____何なの、こいつら。子供以上に子供ね。
亜子は呆れたが、敵は少ないに越したことはない。
ひとまず二人から先に始末しようと、向かってきたおじさん吸血鬼をひらりとかわし、二人の若吸血鬼に攻撃を放った。
「【鋼拳】!」
「「どへぇぇっ!!」」
亜子の攻撃をもろに受けた二人は、これまた情けなく吹っ飛ぶ。
当然、声をあげたのはおじさん吸血鬼だ。
「はぁ!? 何をやっとんのだ! お前ら!!」
しかし二人とも亜子の【鋼拳】を受けて目を回してしまったようだ。
返答が無いことに苛立った様子で、おじさん吸血鬼は悔しげに唇を噛み締めた。
「あんた達、何でスピリアを狙ってるの!? 学校で暴れてほしくないのよ。お願いだから答えて」
今は秋祭りの真っ最中だ。
グレースの時のように、これ以上人間以外の生物が生徒や教師の目に触れてはいけない。
亜子はダメ元でおじさん吸血鬼にそう願い出るが、
「ふん! 無理に決まってんだろ! お前こそ、さっさとスピリア出せ! クソガキ!」
返ってきたのは、当然ながら『無理』だった。
____やっぱり、交渉は絶対に無理ね。ひとまず、中庭から絶対に出さないようにしないと。
少しでも戦闘を避けたいと思っての行動だったが、それは何の効力も示さずに失敗に終わった。
甘い選択をしてしまったことを反省しながら、亜子は再び戦闘でこの三人を退けることにした。
おじさん吸血鬼に向かって、硬い拳をぶつける。
「【鋼拳】!」
「残念だったな」
「____っ!?」
しかし、おじさん吸血鬼のみぞおちに入っていたはずの拳は彼の大きな手の中にあった。
「同じ手が何回も通用すると思ってんなら、とんだ勘違いだぞ。あの馬鹿どもには通じても、この俺には通じん!」
目を見開き、これまでのお返しだとばかりに吸血鬼は亜子の小さな拳を握り潰した。




