表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私の英雄は吸血鬼  作者: 希乃
第六章 堕鬼編
163/302

第154話 約束の『ヤキソバ』

 その頃、スピリアと亜子(あこ)人気(ひとけ)のない中庭のベンチに腰かけていた。


「さ、昼ごはん食べましょ」


 亜子が持っているビニール袋の中には、模擬店で販売されている焼きそばや菓子パンが入っていた。


 スピリアと一緒に教室を出てから両親と出会った彼女が、『お昼ごはんの時間だから』と彼らから貰ったものだ。


「……リ」


 亜子の言葉に、スピリアは重く頷いた。


「どうしたの?」


 亜子が尋ねると、スピリアは少し俯きながらボソボソと声を漏らした。


「わたし、ユキに悪いことしちゃったリ。本当はユキに会えてすごく嬉しかったのに、そのせいでユキを怒らせちゃったリ」


「仕方ないわよ。(ゆき)に『来たらダメ』って言われてること、スピリアは知らなかったんでしょ?」


「それは、そうリけど……」


 スピリアが頷くと、亜子は晴れた空を仰いで、


「なら、ちゃんと正直に『知らなかった』って言えば、雪だって許してくれるわよ」


「でもユキ、すごく怒ってたリ」


 しかし、スピリアの瞳は依然として暗いまま、緑色の芝生を捉えている。


 ____今まで怒らなかったのに、何で急にあんなに怒ったリ。


 スピリアとしては不服だった。


 自分は何も知らされていない中で、急に怒られたのだから。


「あぁ、あれはね。あの子もあの子で、すごく不安だったからだと思うわ」


 亜子は少し苦笑しながら言う。


「……不安リ?」


 スピリアの問いかけに、亜子は顎を引くと、


「そう。雪、元々誰かとコミュニケーション取るのが苦手なタイプで、この秋祭りも上手く乗り越えられるかどうかってビクビクしてたのよ」


「何で分かるリ?」


「顔に書いてあった。不安でたまらない、どうしようって」


 またも苦笑する亜子を見上げ、スピリアは驚きのあまり目を丸くした。


「え!? ユキ、顔に文字書いたりするリ!?」


 スピリアの脳裏に浮かんだのは、マジックペンのような太い黒文字で『不安』『どうしよう』と顔に書かれてある雪の姿だ。


 それを察したように、亜子は手を振って慌てて否定。


「ち、違う違う。あたしから見て、分かりやすいくらい不安そうだったってことよ。『顔に書いてあった』っていうのは物の例えね」


「ふーん。人間は時々変な言葉使うリね」


 スピリアには、その抽象的な表現がイマイチ理解し難かった。もちろん亜子の説明で言葉の意味は理解できた。


 でも、その表現をわざわざ使う人間の心理が、あまり理解出来ないのだ。


 首を捻るスピリアを見て、


「あたし、亜人だけどね」


「あ、そうだったリ。ごめんリ」


 スピリアは今更ながら亜子の本当の正体を思い出し、水色の髪に手をやって謝った。


「別に謝らなくても。人間のフリして暮らしてるのも事実だし」


 突然に亜子の声音が低くなったように感じて、スピリアは亜子を見上げた。


 しかし、目に入った亜子の顔には、変わらない笑顔があった。


「……それより昼ごはん、二人で食べましょ」


「リ!」


 差し出された焼きそばの紙皿を両手で受け取り、スピリアは元気よく頷いた。


「スピリア」


「リ?」


 不意に亜子に名前を呼ばれ、スピリアは焼きそばをすすったまま顔を上げた。


「あんた、光の粒になれるのね」


 亜子の言葉に、スピリアは一瞬思考を巡らせた。


 そして、亜子の両親と出会い別れた直後に他の生徒と遭遇しそうになったため、身を隠すために咄嗟に光の粒になって亜子の制服の胸ポケットに入り込んだことを思い出した。


「リ! わたし達ホーリー・ヴァンパイアは、皆だいたい使える聖属性の魔法リ」


 と言っても、ホーリー・ヴァンパイア自体が魔法の取得に不向きな種族であるため、厳密には光の粒に姿を変える魔法を使えるホーリー・ヴァンパイアが少ないのだが。


 そんな中で、何故かサレムとスピリア兄妹を含めた数名が聖属性の魔法の取得に成功したのだ。


「へぇ」


 亜子が興味深そうに眉を上げた頃には、スピリアは再び焼きそばをすすっていた。


「うゆ! 美味しいリ! これ、何て言う名前リ?」


「焼きそばよ」


「『ヤキソバ』リ! ……アコが作ったリ?」


「まぁ、一応ね。クラスの皆と一緒に作ったのよ」


 亜子の言葉に、スピリアは深く感動した。


 『ヤキソバ』というものを食べたのは当然ながら初めてだが、癖になるような濃厚なソバの味がたまらなく美味しい。


 濃厚と言ってもこってり過ぎるわけではなく、細い麺を容易に口の中へ入れることも出来る。


 そして口の中に入った直後、噛み砕く度にヤキソバのもっちりとした食感と、濃厚なソースの味が充満していくのだ。


 ____お兄ちゃんにも食べさせてあげたいリ!


 スピリアは、すっかり焼きそばを気に入っていた。


 出来ることなら、兄であるサレムも連れて来て一緒にこの『ヤキソバ』を食べたかったのだが、あいにくサレムは王宮の門番。簡単に王宮を離れることは許されないのだ。


 スピリアは、今も王宮の警護をしているであろうサレムを想いながら、焼きそばをすすり終わると、


「美味しいリ!」


 亜子を見上げて、満面の笑みを見せた。


「ありがとう」


 スピリアの笑顔に、亜子も自然と口角を上げていた。


「これ、作り方教えてほしいリ! 向こうに帰ったら、お兄ちゃんと一緒に食べたいリ!」


 焼きそばがまだ少し残った紙皿を持ち上げながら、スピリアはやや興奮気味に言った。


「そんなに気に入ってくれたの? なら、食べ終わったらレシピ渡してあげるわよ」


 亜子の言葉に、スピリアは一瞬首をかしげ、


「その『レシピ』って言うのを使えば、『ヤキソバ』が作れるようになるリ?」


「そうね。厳密に言えば、色々具材が必要だけど……」


 そこまで言って、亜子は口ごもった。


 レシピは簡単にあげられるが、必要な具材は人間界にしかない。


 吸血鬼界でも王都の市場に行けば、多少の野菜は売っているのだが、やはり亜子としては本場の人間界での焼きそばを食べてもらいたいという思いがあった。


 だから具材の調達の仕方を懸命に考えていたのだが、ふと思い出したかのように声をあげた。


「あ、そういえば、具材が結構余ってたのよ! それをあげるわ!」


「本当リ? ありがとリ!」


 スピリアは黄色い瞳を輝かせ、嬉しそうにお礼を言った。


 その時だった。


「ここに居たのか、スピリア」


 黒いマントを羽織った三人組の吸血鬼が、歯を見せてほくそ笑みながらスピリアの元へと歩みを進めてきたのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=39470362&si
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ