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私の英雄は吸血鬼  作者: 希乃
第六章 堕鬼編
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第152話 お父様とお母様

 イアンさんの涙に、その言葉に圧倒されて、私は怒る気力を無くしてしまった。


「イアン、さん……」


「今更こんなこと言っても、言い訳にしかならないのは分かってるんだ。だけど、また目を離した隙にユキが居なくなるって思うと……」


 イアンさんは私から目線を外し、また俯いた。


「____怖くてたまらなくなる。もう嫌なんだ。ユキを失うのは」


 気が付くと、他の吸血鬼達もイアンさんと同じように悲しそうな顔をしていた。


 そこで、私は初めて分かった。


 皆はただ単に、秋祭りに来たかったというだけじゃない。


 私がまた皆の前から居なくならないかが不安で、秋祭りの場所が学校だと聞いたから。


 あの時のように、私を失いたくなかったから。


 同じことが起こった学校で、私の身に何も無いように、心配して来てくれたんだ。


「皆……私のために……」


 そうだと分かると、もう何も言えなくなった。


「ご、ごめんなさい。私、皆の気持ちも知らないで勝手なことばっかり……」


 今度は私が謝る番だ。


「ううん。ユキが事前に忠告してくれてたのに、それを無視して来ちゃったんだから、僕達が悪いよ。ごめん」


 イアンさんを筆頭に、他の四人が正座をしたまま頭を下げてくれる。


「わ、私の方こそ、ごめんなさい」


 私も急いで正座をし、皆と同じ体勢で頭を下げた。


「……何してんの? あんた達」


 互いに頭を下げ合う私達を、教室の入り口から亜子ちゃんが見つめていた。


「あ、亜子ちゃん……。えっと、これは……ちょっと、色々あって」


 頭を掻き、私は情けなく笑うことしか出来なかった。


「アコ!」


 亜子ちゃんが来たことに一際喜びを示したのは、スピリアちゃんだった。


 スピリアちゃんは、弾けるように亜子ちゃんの方に駆け寄って、亜子ちゃんに抱き付いた。


「スピリア……」


 亜子ちゃんは、スピリアちゃんの水色の髪を撫でながら頬を緩める。


「この子のことはあたしに任せて。あんたはまず、イアン達と仲直りしときなさい」


 次に顔を上げた時には、亜子ちゃんは真剣な表情に戻っていた。


「亜子ちゃん……」


「秋祭り一緒に回るのは、その後だから」


「う、うん! ありがとう! スピリアちゃんのこと、お願いしても良いかな?」


「分かった」


 亜子ちゃんは快く承諾してくれ、スピリアちゃんに向かって言った。


「スピリア、あたしと一緒に昼ごはん食べましょ」


「リ! わたし、お腹ペコペコだったリ~」


 そんな話をしながら、亜子ちゃんとスピリアちゃんは教室から出ていった。


「と、とりあえず、俺達も昼飯にしません? 仲直りとかはその後で……」


 私達の仲裁を試みてくれた風馬くん。


 でも、その直後に空腹を知らせる音がお腹から鳴り響き、風馬くんは少し顔を赤らめて立ち尽くしてしまった。


「そ、そうだね。とりあえず……」


 私は、イアンさん達から差し入れとして貰っていたトマトジュースが入った紙袋を引き上げ、頷いたのだった。


 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「うん! ものすごく美味しいです! ありがとうございます、イアンさ……」


 私はトマトジュースをひと啜りしてから、あまりの美味しさに大興奮してしまった。


 場所は変わらず、バザー用に使っている教室だ。


 模擬店の近くに机と椅子を用意して、ちょっとしたカフェテラスのようにしているんだけど、そんな所に行ってしまうとイアンさん達のことがバレるから。


「あ、うん。……良かったよ」


 イアンさんにお礼を言おうと横を向き、笑顔を向けたところで私は思い出してしまった。


 少し前まで、私が偉そうにガミガミと説教してしまったせいで、場の空気がものすごく重たくなっていたことを。


 イアンさんも笑顔で言ってくれたけど、何だか無理したような笑顔だった。


 私は気まずくなってしまい、慌てて左横の風馬くんに話しかけた。


「ね、風馬くん、美味しいよね!」


 風馬くんも美味しいと言ってくれれば、イアンさん達も喜んでくれるはず。


「あー、えっと……」


 あれ? 風馬くん?


 何で嫌そうな顔してるんだろう。トマトジュースに口すらつけてない。


「もしかして、トマト嫌い?」


 そっと尋ねると、風馬くんは目を泳がせてから頷いた。


「う、うん。ちょっと、味があまり好きじゃなくて……」


 あ、あちゃー。風馬くん、トマト嫌いだったんだ!


 言ってくれれば良かったのに……!


 まぁ、言えるわけないよね。こんな状況で。


 風馬くんにも悪いことしちゃったなぁ、私。


「風馬くん」


 ふと、そんな風馬くんを呼ぶ声が。


 風馬くんのことが好きな女の子達かと思って、声のした方を見ると、男女が二人立っていた。


 それも大人のひとで、男性の方はがっしりとした体格の、少しいかつめで怖そうな印象。女性の方は赤い長髪が魅力的で、男性とは違った優しげな印象だった。


 て、ていうか! 早速イアンさん達のこと見られちゃった!


 私が一人アワアワしていると、


「あ、後藤ごとうの……」


 風馬くんがそう言って立ち上がり、礼儀正しく会釈をした。


 ということは、亜子ちゃんのご両親!?


「どうも、初めまして」


 先に口を開いたのは、お父様の方だった。


「亜子がいつもお世話になってます。亜子の父親です」


 あれ、見た目と違って結構優しそうな人だ。


「亜子の母です。よろしくね」


 お母様は、もう見た目も中身も全く変わらずといった感じ。


「は、初めまして! 亜子ちゃんにいつも色々とお世話になってます! 村瀬雪です!」


 私も急いで立ち上がって、亜子ちゃんのご両親に向かって頭を下げた。


「知ってるわよ、雪ちゃん。娘がいつも話してるもの」


 ニコニコ笑顔で、そう言ってくれるお母様。


「そうだな。そう言えば、()()よく見かけてたよ」


 赤い短髪のお父様は、そう言って微笑ましそうに笑った。


「えっ、昔って……」


「ほら、()()()に居たでしょ? 亜人界に」


 お母様も、優しく笑って尋ねてきた。

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