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私の英雄は吸血鬼  作者: 希乃
第六章 堕鬼編
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第151話 頑張ってる姿を見たかった

「ちょ、ちょっと、どうしたんですか? VEOに通報されちゃうから来ちゃ駄目って言ったじゃないですか!」


 ニコニコ笑顔のイアンさんを見て、私は思わず声をあげてしまう。


 幸いにもお昼休みの時間帯だったので、周りには誰も居なかったけど。


「えぇ〜? でも、どうしてもユキが頑張ってる姿見たくてさ〜」


 イアンさんは唇を少し尖らせて、嬉しいことを言ってくれた。


「そ、それはありがたいですけど……。でも本当に危ないですよ! もし通報されちゃったら____」


 通報されてしまったら。イアンさん達は吸血鬼抹消組織・VEOに排除されてしまうのだ。


 それなのに。


「大丈夫大丈夫! その時はすぐ向こうに戻るから」


 平然とそう口にするイアンさん。


 それって逃亡になるけど良いのかな。嫌な予感しかしない……。余計に悪い方に行っちゃう気がする……。


「アキマツリお疲れ様。これ、差し入れ」


 桃髪の吸血鬼、キルちゃんがそう言って、白い紙袋をにゅっと差し出した。


「これって……」


 受け取りつつ中身を確認すると、紙コップに入れられた赤い液体が。


「トマトジュースだよ」


 と、イアンさんが教えてくれる。


「ありがとうございます!」


 初めて吸血鬼界にお邪魔した時に、イアンさんとキルちゃんと三人で飲んだのを思い出す。


 そう言えば、トマトジュース飲むのはそれ以来だっけ。


 とても美味しいから、大好きになったんだよね。


「へぇ、吸血鬼って本当にトマトジュース好きなんだな」


 風馬(ふうま)くん、分かるよ、その気持ち。


 私も初めて二人がトマトジュース飲むの見た時、同じこと思ったから。


「あ、すいません。ちょっとびっくりしてしまって……」


 イアンさん達に見つめられた風馬くんは、恥ずかしげに後頭部に手をやった。


 ちょっと顔が引きつってた気がしたんだけど、気のせいかな。


「ううん、ユキと同じ感想だなって懐かしくなっちゃったの」


 キルちゃんが桃髪を揺らして首を振る。


 私が前に言ったこと、覚えててくれたんだ。嬉しい。


「それにしても、バザーというものは本当に便利ですね」


「確かにそうだな。良さそうな品物がいっぱいある」


 いつの間にか教室に入っていたミリアさんとレオくんが、昼休みの時点で売れ残った品物を見ながら話していた。


 レオくん、目利き良いのかな。バザーの品物が『良さそう』だって分かってる。


「バザーは他の方々が要らなくなった商品を集めて、それを安く売っているんですよ」


「売って得たお金はどうなるんだ?」


「えっと、一応募金とかに使われるみたいです」


 レオくんに尋ねられて、私は先生が言っていたことを思い出しながら答えた。


 すると、ミリアさんが両手をパチンと合わせて、


「なるほど。それはまた素晴らしいことですね」


「ありがとうございます」


 私が褒められた訳じゃないけど、一応お礼を。


「あ、そうだ。ユキ」


「は、はい」


 イアンさんも教室に入ってきた。そして、


「スピリア、見なかったかい?」


「え? スピリアちゃん⁉︎」


 驚きのあまり、また大声を出してしまう。


「いやぁ、どうしても来たいって言うから連れて来てたんだけど、途中ではぐれちゃって。もしかしたらユキの所かなって思ったんだけど」


 それでバザーの所に来たんだ。この高校意外と広いのに、よく私のこと早く見つけられたなって思ってたんだよね。


 私に聞きたいことがあったから……って! 今はそれよりも!


「そ、そんな、急いで探さなきゃ!」


 特に藤本(ふじもと)くんに見つかったりなんかしたら、大変なことになっちゃう!


 夏合宿の時みたいな、嫌な思いは絶対させたくない!


「私、スピリアちゃんのこと探してきます!」


 私は急いで教室を飛び出し、廊下を走ろうと足に力を込めた。


 その瞬間。


「ユ〜キ〜‼︎」


 背中に強い衝撃が走り、思わず前のめりになって倒れそうになってしまう。


「うわぁっ! ……スピリアちゃん⁉︎」


 声が漏れつつも背後を振り返ると、そこには肩につくほど伸びた水色のウェーブがかった髪を持つ小吸血鬼が居た。


 居た……と言うより、私に激突していた。


 と、とにかく無事で良かったけど……。


「ユキに会いに来たリ! アコに聞いたらユキはここに居るって言ってたからリ」


「そ、そうなんだ」


 良かった、亜子(あこ)ちゃんが教えてくれてたんだ。


「スピリアちゃん、他の子達に変なことされてない?」


「リ? イアン達と離れて、最初に会ったのがアコだったから、他のヒトには会ってないリ」


 よ、良かったぁ。運がついてて。


「ていうか……」


 私の言葉に、イアンさんがギョッとして頬に小さな汗を滲ませる。


 それでも私は躊躇しない。たまには私だって怒るんだから!


 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「私が頑張ってる姿を見たいって言ってくださったのはものすっごく嬉しいです! おじいちゃんが来れるか来れないか微妙だったから! だから本当にすっごく嬉しいし、イアンさん達には感謝してます! でも……」


 そこまで一息で言ってから、私はもう一度深く息を吸って、


「だからってこんな危険な真似するのはダメだと思います! ていうより、絶対ダメです!」


 私は、正座している五人の吸血鬼を前にして、まるで熱血スパルタ体育教師のようにガミガミと怒っていた。


「ご、ごめんね、ユキ。どうしても我慢出来なくてウズウズしちゃって」


 えへへ、と少し反省の色がない様子で笑うイアンさん。


「本っ当にごめん、ユキ。本当なら私が意地でも止めなきゃいけなかったのに」


 その横で、ものすっごく真剣に頭を擦り付けてくれるキルちゃん。


「俺も。ごめん、隊長が行きたがってる姿見たら、止めるに止められなくて」


 そのさらに横で、後悔の念に苛まれている様子のレオくん。


「申し訳ございません、ユキ様。せっかくなら、と思いまして」


 その横で、自分の甘さを悔いているミリアさん。


「ごめんなさいリ。わたしも行きたくて駄々こねたリ」


 まだ少し納得のいっていない様子で、小さく謝罪の言葉を述べるスピリアちゃん。


 五人五色の謝罪を聞きつつも、私は素直に許せなかった。


村瀬(むらせ)、皆謝ってるんだし、許してあげよう」


 腕を組み、口をへの字に曲げた私をなだめるように、風馬くんがそう言ってくれる。


 私だって出来ることなら『もう良いですよ。誰にでも間違いはありますから』って天女様みたいな優しさで終わらせたいよ。


 でもそんなこと出来る状況じゃないじゃん!


 もし、もしも仮に万が一にも! スピリアちゃんが事情を知らない他の子達に捕まって、ましてや藤本くんとかに見つかって色々変なことされちゃってたら⁉︎


 この高校に氷結鬼が紛れ込んでたってことで、VEOの警備が強化されてて、VEOの隊員が学校中をパトロールしてたら⁉︎


 その時点で吸血鬼は終わりだよ⁉︎


 皆お縄にかかって仲良く排除されることになってたんだよ⁉︎


 そんなことをブツブツブツブツ小声で言い続けていると、おそるおそる挙げられた手が。


「どうしたんですか、イアンさん」


 連帯責任ってことで生徒を叱る教師の気持ちが、今ようやく分かった気がするよ、少しだけ。


 先生にガミガミとお叱りを受けた後で、おそるおそる発言する勇者ってたまに居るよね。


 ことごとく潰されて終わりだけど。私は潰したりなんてしないけど。


「あのね、僕達も危険だってことは十分分かってたんだよ」


 イアンさんは挙げていた手を下ろし、話し始めようとした。


「じゃあ、何でスピリアちゃんまで連れてきてたんですか⁉︎」


 でも、私はさらに糾弾する。


「わ、わたしが行きたいって駄々こねて、もうどうしようもなかったからリ。イアン達は悪くないリ」


 スピリアちゃんはあくまでも、自分が悪いと主張を続けている。


「皆、連帯責任ですよ!」


 そう、連帯責任だ。危険だと分かっていて、それでもこの高校に足を踏み入れたんだから。


 確かに、そりゃあ、ものすごく嬉しいけど。


「何で来ちゃったんですか? イアンさん」


 私が尋ねると、イアンさんは途端に大人しくなった。言い訳をしても無駄だと思ったのだろうか。


 それにしては、何だか表情が暗いような……。


「ごめんね、ユキ」


 乾いたような笑顔。しかし下を向いているので、私には少ししか見えない。


「もっとユキを見ておきたいって思ったんだ」


「……私を? 見ておきたい、ですか?」


 自然と、イアンさんの口角が持ち上がる。


「ああ。この間のことで、ユキが元々は氷結鬼だったって事が分かったでしょ? でも今も変わらずユキは僕達の所に来てくれる。でも、そこで僕達が見てるユキはごく一部でしかない」


 そこでイアンさんは俯き、下唇を噛んだ。


「本当なら、出会ってすぐに勘付かなくちゃいけなかったんだ。ユキが元々は人間じゃなかったって。僕達と同じ亜人族だったんだって。でも……僕達は気付いてあげられなかった。守ってあげられなかった」


 顔を上げて私を見つめるイアンさんは、赤い瞳を揺らしながら、その目に沢山の涙を溜めていた。


「そのせいで、ユキを一度失ったんだ」

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