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私の英雄は吸血鬼  作者: 希乃
第六章 堕鬼編
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第149話 禁止事項でも皆を守るため

 翌日、学校が終わった私は、いつも通りにイアンさんに迎えに来てもらって、吸血鬼界に転移していた。


「そう言えば、キルちゃんの容体はどうなんですか?」


 前に会った時はまだ王宮で治療中だったキルちゃん。


 ここのところ、秋祭りの準備が忙しくて吸血鬼界には長いこと行けなかったわけだし、その間にある程度回復してると思うけど、一応気になったのだ。


 イアンさんは目を細めて笑顔を見せてくれた。


「ああ、もう元気だよ。今は家に戻ってる」


「そうなんですか。良かった」


 グレースとの戦闘で大怪我してたから意識が戻るまでに時間がかかったし、完治も遅いだろうなって思ってたけど、割とすぐに元気になれたんだ。


「こうやって歩くのも、久しぶりだね」


「確かに。やっぱり嬉しいです」


「そっか、良かったよ。アキマツリの準備で疲れてるだろうから、ここに来た時だけでもゆっくりしていってね」


「はい! ありがとうございます!」


 そんな話をしながら、私はイアンさんと共にログハウスに向かった。


 ____だから、私達とすれ違った吸血鬼が、


「……アキマツリ、か」


 と、呟いたことには気付くはずもなかった。


 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「お疲れ様です、ユキ様」


「え? あ……ありがとうございます」


 お疲れ様、ってどういうことだろう。私、何かしたかな?


 私がお礼を言いながらも不思議に思っていると、レオくんが口を開いた。


「アキマツリの準備、大変だったんだろ? 二週間くらい来てなかったから」


 ああ、そのことか。確かに二週間も吸血鬼界に来なかったのは初めてかも。


「うん。ごめんなさい。皆にはお世話になってるし、ちゃんと顔見せた方が良いって思ってたんですけど」


「いや、それは大丈夫だ」


 レオくんは首を横に振った後に顔を背けて、


「心配だったんだよ。……ほんのちょっとだけな」


 レオくん、何で紅潮してるんだろう。


「ちょっと疲れてるんじゃない? ちゃんと休んでる?」


 気になってレオくんをまじまじと見つめていると、キルちゃんがそう尋ねてくれた。


「うん、大丈夫だよ、キルちゃん。ありがとう」


 キルちゃんは腰に両手をやり、片目を瞑ると、


「皆ユキに任せすぎじゃない。ユキもたまには皆に頼らなきゃ」


「あはは、大丈夫だよ。私が好きでやってることだし、それに風馬(ふうま)くんも手伝ってくれるよ」


「……そう? なら良いけど」


 私、そんなに疲れて見えるかなぁ。


「アキマツリっていつからなんだ?」


 今度質問を投げかけてきたのはレオくん。もう紅潮は引いていた。


「あと二日だよ」


「へぇ、そうなんだね!」


 私が答えると、質問主のレオくん……ではなく、イアンさんが顔を輝かせた。


「は、はい……」


 イアンさん、目がキラキラしてる……。


「駄目ですよ、隊長」


 そんなイアンさんの背後で、レオくんが目を瞑ったまま静かに言った。


「え? 何がだい?」


 目を輝かせていたイアンさんは、不思議そうにレオくんの方を振り返る。


 レオくんは瞑っていた目を開き、お見通しだと言わんばかりに息をついた。


 そしてレオくんの心の内を代弁するかのように、ミリアさんが言葉を紡いだ。


「お顔に『行きたい』と書いております」


 イアンさんは眉をピクリと上げ、小さく『ゲッ……』と声を漏らすと、やがて観念したように肩をすくめた。


「うぅ……はーい、分かってるよ」


 しゅんと残念そうなイアンさん。ミリアさんとレオくんは、顔を見合わせて呆れていて、キルちゃんもわざとらしく大きなため息をつく。


「あの、その事なんですけど」


 話を切り出した私の方を素早く振り向き、イアンさんの赤い瞳がまた輝きを取り戻す。


「え? まさか行っても良いのかい?」


「あ、そうじゃなくて……」


 イアンさん、すごい食いつき様だなぁ。


「どうしたの? 何かあった?」


 キルちゃんが不思議そうに小首を傾げる。


 私はコクリと顎を引いてから、例の件について話した。


「実はグレースの事があってから、吸血鬼の皆さんに対する防御、というか備えが強化されたんです」


「あれ? でもアコが学校と運動場を技で仕切ってくれてたんじゃないのかい?」


 私を取り込み、ルミレーヌの姿となったグレースとの対決について、イアンさんが疑問を投げかける。


 イアンさん曰く、窓から飛び降りたグレースを追って同じように窓から飛び降りた亜子(あこ)ちゃんが、外と校舎を仕切るように鉄壁を建てから、生徒達に氷結鬼グレースの姿は見られていないのではないか、ということのようだ。


 確かにそれは事実だけど____。


「そうなんですけど、その前にグレースが私を取り込んでルミレーヌの擬態になった場所が教室だったみたいで」


「じゃあ、少なくともユキのクラスメイトには氷結鬼……吸血鬼以外の危険な生物っていうの見られてるってことか」


 レオくんが顎に手をやり、ミリアさんも表情を曇らせる。


「それは厄介ですね。(わたくし)達も迂闊に人間界に降りられないということになります」


 皆の言葉から厳しい現実を感じ取った私は、重い気持ちになりながらも続きを口にした。


「それと、今まではVEOの存在はごく一部の大人にしか知られてなかったんです。でも万が一の事があったら大変だからってことで、VEOの存在と連絡先が各家庭に配布されたらしいんです」


 察したような口調で、イアンさんが尋ねる。


「……マコトくんが言ってたのかい?」


「はい、VEOの方針として決定した事みたいで」


「まぁ、仕方ないか。人間界を守るためには当然の措置だと思うよ」


 イアンさんの言葉に、他の三人もうなだれる。


 イアンさん達がちゃんと理解してくれて良かった。


 以上のことを踏まえて、私は吸血鬼達に一つの結論を提示した。


「だから、秋祭りにも来られない方が良いかと……」


 万が一通報されちゃったら、イアンさん達はVEOに排除されちゃうわけだし。


「そうだね……分かったよ、ユキ。教えてくれてありがとう」


 イアンさんは重く頷いた後、私に向かって微笑んでくれた。


「いえいえ、そんな」


 イアンさん達が排除されちゃうのは、私が一番嫌だ。


 本来、VEOという組織の機密情報を口外するのは禁止事項だろうけど、イアンさん達を守るためだ。


 少々のことは多めに見てもらいたい。


「僕達は行けないけど、お土産話を楽しみにしてるよ。ユキ、頑張ってね」


 親指を立て、イアンさんが片目を瞑ってエールを送ってくれた。


 キルちゃん、レオくん、ミリアさんも笑顔で頷き、賛同の意を示してくれた。


「はい!」


 ____こうして、秋祭り本番までに私がやらなければいけなかった使命は終わった。


 私にとっての密かな試練、秋祭り本番はあと二日というところまで迫ってきていた。

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