第147話 それでも不安は拭いきれず
翌日のLHRの時間。
今日は、昨日先生から告げられたバザーと模擬店の担当を決める一時間だった。
私も何にしようか考えていたけど、一向に考えが纏まらないまま。
気付けば、昨日の王宮での出来事を思い出していた。
つい不安になってあんなこと言っちゃった私に、イアンさんがかけてくれた言葉。
「『周りの目なんて気にしないで思いっきり』……か」
それが出来たら、この秋祭りも心の底から楽しめるはずだ。
でも私に実践出来るかは分からない。
頑張るしかない、というのは自分でも分かっているんだけど、やっぱり気になってしまうのだ。
仮に風馬くんや亜子ちゃんと一緒に回ることになるとして、それを学年の皆が見たときの反応。
絶対に『何であいつらが一緒に回ってるんだ?』とか『後藤、村瀬のこと苛めてたんじゃなかったのかよ』とか噂になるはずだ。
そうなると、悪く言われるのは風馬くんと亜子ちゃん。
特に亜子ちゃんの今までの私に対する態度が全て演技だったのを、クラスや学年の皆は知らない。
急に掌返しして、とか思われないかがものすごく心配なのだ。
まぁ、まだ三人で回ることが決定した訳じゃないし、亜子ちゃんが取り巻きの女の子達と回るなら、そんな心配は不要になるけど。
「ん? どうした? 村瀬」
いつの間にか、仲の良い友達同士で担当する部門を話し合う時間になっていたらしく、隣の席の風馬くんが不思議そうな顔で私を見つめていた。
周りを見ると、既に皆は仲の良い子達で集まってワイワイ話し合っていた。
予想以上の騒ぎっぷりだったのか、先生が両手を広げて『もう少し声のトーン落としてー』と訴えている。
「あ、ううん。何でもない」
私が首を振ると、風馬くんは乾いたような笑顔を見せた。
「そっか。村瀬はどっちやるんだ? バザーか模擬店か」
風馬くんに尋ねられ、私は迷ってしまう。
「うーん、どうしようかな……」
正直、シンキングタイムだったであろう先程は、ずっと秋祭りが始まってからの心配ばかりしていたから、肝心の担当決めが出来ていないのだ。
迷っていると、風馬くんが口を開いた。
「イアンさん達も誘うつもりなら、バザーの方が何かと楽チンだぞ。午前に店番やってれば、午後はゆっくり出来るからな」
バザーは午前と午後でシフトが別れている。午前に予定がある人は午後に、午後に予定がある人は午前に、という感じで無理なく楽しめるように先生方が配慮してくださったのだろう。
「確かにね。でもイアンさん達に来てもらうのは危ないよ。万が一吸血鬼が居るって他の人にバレちゃったら申し訳ないし」
黒マントは特に目立ちやすそう……。
「それでVEOの人達に通報されちゃったら一発で排除されちゃう」
誠さんによると、学校に氷結鬼グレース____あの時は氷結の女王・ルミレーヌの擬態だったけど____やイアンさん達吸血鬼が学校に現れてしまったことを受けて、新たな措置が成されたと言う。
今まで、教師や市町村のトップなど子供や市町村民を守る立場にある大人達のみに伝えられており、一般家庭にそれらが伝えられることはなく隠されてきた、吸血鬼抹消組織・VEOの存在と連絡先。
それらを各一般家庭にも伝えて、万が一の身の安全を確保するために役立ててもらおうという方針が纏まったそうだ。
それにより、イアンさん達に危険が降りかかる可能性が高くなったわけだ。
でも一般人を巻き込むような事態に発展してはいけない、という『転ばぬ先の杖』だと誠さんは言う。
それならまぁ、仕方ないけどちょっと怖いな、と私は思ったんだけど。
「そうか。あの時は一時的な共闘で、本当はVEOとイアンさん達も敵同士だもんな」
不意に思い出したかのように声をあげ、納得ぎみに頷く風馬くん。
「うん。誠さんも任務の時は手加減しないから」
あの時とか関係なく、本当は無期限で仲良くなってほしいんだけどなぁ。
『早く、この世界が……亜人界も人間界も天界も、互いに争うことのない平和な世界になると良いわね』
ルミレーヌお母様も言ってたけど、本当にそう思う。
「だったら、こっちから誘うのは止めた方が良いかもな」
「そうだね。イアンさん、すごく行きたそうにしてたけど」
楽しそうに目を輝かせた直後に、レオくんとミリアさんから全力で『駄目』って言われて肩をすくめたイアンさんを思い出し、思わず笑いそうになってしまう。
「あはは、あの人って見かけによらず可愛いんだな」
それは風馬くんも同じだったようで、必死に笑いを堪えながらも最終的には声となって零れていた。
「うん」
確かにイアンさんのそういうとこ、可愛いかも。
「あ、そうだ。空き時間は一緒に回ろうよ」
風馬くんからの突然のお誘いに、本気で驚いてしまう。
「えっ? 良いの?」
「う、うん。俺はそのつもりだったんだけど……もしかして他の人と約束してた?」
頷いてから、決まり悪そうに私の顔を窺う風馬くん。
私はブンブンと首を横に振って、
「そんなことない! 私も風馬くんと回りたいなって思ってたの。だから、ありがとう」
「ああ!」
私の言葉を聞いて、風馬くんの表情に安心感が宿った。
「出来れば亜子ちゃんとも一緒に回りたいけど……」
亜子ちゃんの席を確認すると、案の定彼女を取り囲むように取り巻きの女の子達が集まっていた。
「あの様子じゃ、難しそうだね」
「そうだな」
私と風馬くんは二人で苦笑。やっぱり取り巻きの子達は取り巻きって感じだな、と思ったからだ。
そこでチャイムが鳴り、LHRは終わった。
「ていうか、後藤のこと『亜子ちゃん』って呼ぶようになったんだな、村瀬」
ふと気付いたように、風馬くんが言う。
「あ、うん。亜子ちゃんの方から『雪』って呼び捨てで呼んでくれたから、そのお返しで」
あの時は本当にびっくりしたけど。
「へぇ。氷下が氷結鬼で、村瀬のこと連れ去ろうとしてて……って状況の時は、どうなるかことかと思ってヒヤヒヤしてたけど、丸く収まったみたいで良かったよ」
安心したように風馬くんは笑った。
「うん。風馬くんのことも巻き込んじゃって、本当にごめんね」
私が商店街の路地裏でグレースに襲われた時に、亜子ちゃんと一緒に助けに来てくれたし、王宮にも来てくれた。
本当に感謝してもし切れないくらい。
「別に村瀬が悪い訳じゃないだろ? 謝らなくて良いって」
「ありがとう」
本当に優しいな、風馬くん。
「なぁ、柊木」
と、突然風馬くんを呼ぶ声がした。
低くもなく高くもない、中間の声。でも男の子の声であることはすぐに分かった。
私が振り向き、風馬くんが仰ぎ見ると、そこにはつり目の男の子が立っていた。
「あ、藤本。どうした?」
風馬くんが不思議そうに尋ねる。
風馬くんに話しかけたのは不良のような男の子____夏合宿で私を『ボッチ』呼ばわりし、スピリアちゃんを嫌と言うほど敵視して酷いことを言ってきた____藤本剛くんだった。




