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私の英雄は吸血鬼  作者: 希乃
第五章 氷結鬼編
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番外編④ 秋色に色付く気持ち

 氷結鬼達の村には、依然として雪が降っていた。


 ブリス陛下の計らいにより、氷術を解放してもらった氷結鬼達の力で、季節や時期に関係なく冬景色となるその村で。


 何故か氷結鬼ルミの姿となった私、村瀬(むらせ)(ゆき)は幼なじみのグレースや、母兼氷結鬼の女王であるルミレーヌと一緒に楽しげに遊んでいた。


 降り積もった雪を手でかき集め、掌で丸めて雪玉を作る。


 それをお互いに投げつけ合えば、雪合戦の開幕だ。


 グレースは思った以上にすばしっこく、私がいくら狙いを定めて雪玉を投げても、反射的に避けてきた。


 悔しい! グレースってば無駄に反射神経良いんだから!


 グレースは私の雪玉を避け切れたのが嬉しかったのか、顔を輝かせて喜びながら私に向かってピースをしてきた。


 く、くぅぅ! 今度こそ!


 私は悔しさを腕に込めて雪を丸め、もう一度グレースに投げつけようと大きく振りかぶった。


 ボスッ!


 いたっ! 突然頬に衝撃が走り、後から氷のような冷たさがやって来る。


 おかげで持っていた雪玉は地面に落ち、砕けてしまった。


 衝撃が走ってきた方に顔を向ければ、ルミレーヌ___お母様が歯を見せてニヤニヤしていた。


 雪景色と同色の長い白髪、そして頭のてっぺんからは黒い角がニョキッと生えている。


 そして、まるで(というか絶対、確実に)私を小馬鹿にしているようなニヤケ顔。


 その様子を見る限り、私に雪玉を投げてきたのはお母様だ。


 そしてお母様の投げた雪玉は、彼女にとっては運良く、私にとっては運悪く、私の頬に命中してしまったというわけだ。


 私は頬を押さえてにんまり笑顔のお母様を小睨みすると、素早くしゃがんで積雪を沢山かき集めて雪玉を作った。


 それも一個ではなく沢山。


 お母様にお返し、いや、倍返しをするべく雪玉は多めに完備しておかないといけないのだ。


 食らえ!


 私はさっきの仕返しとばかりに、お母様に向かって一気に雪玉を放り投げた。


 両手に持てるだけ持って投げたその数、ざっと数えて十個。


 これだけ一斉に投げつければ、どれか一個は当たるはず!


 私はニヤリとほくそ笑んだ。


 これならいけると確信があったからだ。


 スパッ!


 ……え?


 その瞬間、私は驚きのあまり目を見張って口をポカンと開け、その場に立ち尽くしてしまった。


 十個もの雪玉が迫ってくるのを見たお母様は、腰に挿していた黒い剣を両側から抜いて雪玉を片っ端に切っていったのだ。


 これには私だけではなく、グレースも呆気に取られた顔をしていた。


 お母様、いくら勝ち目がないって思ったからって剣で切っちゃうのは反則だよ……。


 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 心地良い小鳥のさえずりが、耳に入ってくる。


 私が目を開けると、視界に飛び込んできたのは天井だった。


 それも吸血鬼界の王宮のものではなく、人間界の家のもの。


 二日ぶりの我が家の天井だ。


 首をもたげて時間を確認すると、時計には6:00の文字が表示されていた。


 今日もいつも通り、学校が始まる日だ。


 なのに、私は少し重だるい感覚に陥っていた。


 その原因はおそらく、あの事だろう____。



「雪、本当にすまなかったのう。雪が鬼の仲間だったとは知らなかったんじゃ……祖父失格じゃな……」


 おじいちゃんは泣きながらそう言って、私を抱きしめてくれた。


 風馬(ふうま)くんや亜子(あこ)ちゃん、そしてVEO(吸血鬼抹消組織)の(まこと)さんと共に人間界に戻ってきたのが、二日前のこと。


 風馬くんは一人暮らしだし、亜子ちゃんのご両親も亜人であの世界のことも把握済みということで、家族にこの二日間について説明しなければいけないのは、私一人だった。


 そのため、どんな風に、どこから話すべきかを四人で考えることにしたのだ。


 三人との会話で、二日間も家に居なかった私のことをいよいよおじいちゃんも怪しむし、何より二日間も全く家に帰らなかったのだから只事ではないと分かるだろうとの見解に至った。


 そして誠さんの提案によって、おじいちゃんに全てを打ち明けることにしたのだ。


 それには私も異論を唱えるはずがなかった。


 ここまで来てしまった以上隠し通すのは不可能に近いし、何よりこれ以上おじいちゃんに嘘をつきたくないからだ。


 私は一人家に帰った後、心配そうに駆け寄ってきたおじいちゃんに『ただいま』と挨拶をしてから全てを打ち明けた。


 私が実は吸血鬼界、正式名称・亜人界に住んでいた氷結鬼ルミで、幼なじみの氷結鬼グレースを庇ったことによってブリス陛下に氷結鬼の記憶を消されて、人間の姿に変えられて人間界に降ろされたこと。


 そんな私を拾って育ててくれたのが、私のお母さんである村瀬(むらせ)小春(こはる)だったこと。


 そしてお母さん自身も、私の過去については無知だったこと____。


 ブリス陛下の言っていた通り、おじいちゃんはこれらのことを何も知らなかった。


 そして、お母さんが拾ってきたどこかの捨て子だと思っていた、と話してくれた。


 そう話すおじいちゃんの涙は止まることなく、どんどん零れていく。


 自らを祖父失格だと嘆くおじいちゃんに、私は首を横に振って言った。


「そんなことないよ、おじいちゃん。私だって全然分からなかったんだし、おじいちゃんが悲しむことないよ。おじいちゃんは私のこと一人で育ててくれてるんだもん。今までも、勿論今も感謝してるよ、ありがとう、おじいちゃん」


「雪……!」


 おじいちゃんは私の言葉を聞くと、余計に嗚咽を混じらせながら私の名前を口にした。


「おじいちゃん……大好きだよ」


 おじいちゃんは驚いたように目を見張った。


 その拍子に目尻に浮かんでいた涙の雫が弾ける。


 目を細め、私の髪をいとおしそうに撫でながら、おじいちゃんは『ありがとうな』と何度も小さく声を漏らしていた。



 時は戻って現在。


 私はおじいちゃんとの会話を思い出していた。


 あの時泣きながら抱きしめてくれたおじいちゃん。


 自分に責任を感じて『祖父失格』だと嘆いたおじいちゃん。


 色々なおじいちゃんの姿が浮かんできた。


 私は立ち上がり、パジャマを脱いで制服____夏期間が終わったことで九月から合服を着ることになった____に着替えると、ふと鏡を見つめた。


 鏡に写ったのは、何百回と見てきた自分の姿。


 肩につくほど伸びた茶髪に、桃色の瞳。


 これが『村瀬雪』の姿なのだと、今更ながらに思う。


 この姿が第三者によって作られた姿だということは、十六年間生きてきた中で初めて知らされた。


 勿論驚いたし、吸血鬼以外にも氷結鬼という種族が居たことも初めて。


 これからも改めて、村瀬雪として生きていくんだ。


 私は鏡から目線を外して一階に降りると、おじいちゃん特製の卵焼きを食べて学校に向かった。


 通学路はすっかり秋色へと姿を変えていて、緑色だった木々の葉が茶色くなっていた。

これにて第五章 氷結鬼編完結です!

ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございました!

次話からは第六章 堕鬼編をお楽しみください!

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― 新着の感想 ―
[良い点] いいエピローグでした。 じんわり。
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