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私の英雄は吸血鬼  作者: 希乃
第五章 氷結鬼編
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エピローグ① お兄ちゃん

「よし、これでひとまず安心だな」


 ゆき達人間が魔方陣に乗って消えた後、ブリス陛下がそう言って息を吐いた。


「そうですね、お父様」


 黒いボブショートヘアーの吸血鬼、ヴァンが父に同意する。


「とにかく無事に帰還できて良かったです」


 黒髪のポニーテールを背中の辺りまで伸ばした吸血鬼、パイアも安心したように頬を緩めた。


「しかし、最近はマコトくんも優しくなってきたじゃないか。全くこの世界を襲ってこない」


 嬉しそうに微笑み、ブリス陛下は薄髭を撫でる。


「ユキが来るようになってから、ですね」


 イアンが言葉を次ぐと、ミリアも頷いた。


「ええ。人間界の方では『ゲンジツトウヒ』という言われ方をしておられるそうですが、(わたくし)共にとっては本当に嬉しいことです」


「さてと、一段落したところだし、そろそろ()()()に入ろうか」


 ブリス陛下の言葉に、そこに居た全員が表情を引き締めた。


「あの話って何リ?」


 その中で一人不思議そうな顔をしながら、スピリアがテインを見上げて小首を傾げる。


「あなたは知らなくて良いのよ」


 微笑を浮かべ、テインはスピリアの背中を優しく押すと、


「さあ、王宮に戻りましょう」


「ん……」


 スピリアは少し納得のいかないような顔でテインを見上げたが、諦めるかのように前を向き、


「んんー! 外の空気、すごく美味しかったリ!」


 そして他の吸血鬼と比べると小さく細い腕を伸ばし、ぐぐっと伸びをした。


 テインも笑みを浮かべ、背後から声をかける。


「そうね。今まではずっと王宮の中だったから、これからは散歩がてらに外出しなくちゃね」


 テインの言葉に頷き、スピリアは王宮内に入ろうと足を踏み出した。


 その時だった。彼女達を引き留める声がしたのは。


「あ、あの!」


 小走りにやって来たのは、鎧に身を包んだ門番の吸血鬼だった。


「……どうしたのですか?」


 テインがスピリアの肩に手を置いた。


「スピリア……ですよね、その子」


 門番の吸血鬼はスピリアを指差し、テインの顔を見つめる。


「リ?」


 一方、指を差されたスピリアは、不思議そうに小首を傾げた。


 ウェーブがかった水色の髪が、その反動でふわりと揺れる。


「その喋り方……やっぱり……」


 門番の吸血鬼は緑色の瞳を揺らして、青い短髪をかきむしった。


 スピリアは、一族を失った精神的ショックが原因で言葉遣いがまるで幼児のように拙かったが、王宮での治療によって今はしっかりと喋ることが出来るようになっている。


 しかし語尾に『リ』を付けて話す特徴的な喋り方は、治療が終わってもスピリアの中から消えることはなかった。


 昔からずっと聴いてきた特徴的な語尾。


 それを聞いたからこそ、門番の吸血鬼は確信を持つことが出来たのだ。


 門番の吸血鬼はズカズカと歩み寄ると、スピリアの両肩を掴んだ。


 あまりの気迫に、テインは思わずスピリアの肩から手を離してしまう。


 スピリアを万一の危険から守るために置いていた手を。


 それだけ門番の吸血鬼が必死そうな表情をしていたのだ。


「お止めなさい。いくらこの王宮に仕える者でも……」


 彼が宿している切迫した表情。


 しかしだからと言って、この門番がスピリアに何かするかもしれないという不安が拭えたわけではない。


 テインはついに見かねて、門番の吸血鬼からスピリアを守るようにして立ちはだかった。


「お兄ちゃん……リ?」


 しかし、次いで発せられたスピリアの声に、驚きを隠せなくなってしまう。


「お兄ちゃん……?」


 テインはぎょっとして、スピリアと門番の吸血鬼を見比べた。


 スピリアは、水色のウェーブがかった髪に黄色い瞳を持ったホーリー・ヴァンパイアという種族の吸血鬼だ。


 そしてこの門番の吸血鬼は、青い短髪に緑色の瞳を持っている吸血鬼。


「たしか、あなたの種族は……!」


 思い出したように、テインは目を見張った。


「はい、スピリアと同じホーリー・ヴァンパイアです。ずっとスピリアを……妹を探していました」


 門番の吸血鬼がテインに向かって頷くと、ブリス陛下が前に進み出て言った。


「そうだったな、サレム。最初に王宮(ここ)に来た時に、探している者がいると言っていた」


「まさか、こんなところで再会するなんて思ってませんでした。神が俺達を導いてくれたのですね……!」


 門番の吸血鬼____サレムは、涙ながらに天を仰いだ。


「お兄ちゃん……生きてたリ? わたし、てっきり……」


「ああ、俺もだよ、スピリア。もう俺以外みんな殺されたって思ってた」


「お兄ちゃん……!!」


 二匹のホーリー・ヴァンパイアは再会の喜びを表すかのように抱擁し合った。


 どちらの瞳も潤み、止めどなく涙が零れている。


 その様子を、ブリス陛下だけが嬉しそうに見つめていた。


 しかし、他の吸血鬼は____事情を知っていたテインでさえ、突然の出来事に呆気に取られていた。


 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 今から数年前のこと。


 特に目立った争いも起きることなく、ホーリー・ヴァンパイア達は平和に暮らしていた。


 天空____それも、天界よりも上空に『神』が存在しており、その『神』によってこの世界は守られているのだという先祖代々の言い伝えの通り、ホーリー・ヴァンパイア達は『神』への信仰を大切にしてきた。


 しかしそんな平穏は、突如破られてしまった。


 突然、普段は同種族以外の来訪者なども一切訪れることのない集落に、訪れてきた種族がいた。


 荒々しい咆哮と共に現れたのは、鋭く光る剣を振り回す吸血鬼集団、キラー・ヴァンパイアだった。


 当然のことながら、村は大混乱の渦に巻き込まれ、そしてたくさんの命が散っていった。


 武器もない癒しや回復以外の魔法もないホーリー・ヴァンパイア達に成す術など無い。


 ただ無惨に殺されていくだけだった。


 サレムは妹のスピリアと離ればなれになってしまい、スピリアを探しつつ何とか襲撃者達から逃れていた。


 しかし体力も限界に達したサレムは、ついに地面に伏してしまった。


 逃げ続けたせいで意識が朦朧としており、ほぼ意識が無いのと同じくらいだった。


 そんな中、ある声が頭上から降ってきたのだ。


『ほら、最後の一人だ。こいつを刺せば俺達の勝ちだぞ』


『お前の手でこいつを終わらせてくれ』


『そうすれば俺達の明日のご飯が助かるんだ』


 サレムが薄れゆく意識の中でゆっくりと目を開けると、視界の先に居たのはまだ小さな少女だった。


 サレムの目に、うっすらと桃色が写る。


 キラー・ヴァンパイア達の会話を聞いて、サレムは直感した。


 自分は、妹と同じ年齢くらいの女の子に殺されるのだ、と。


 おとな達に唆され、そして少女は____。

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