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私の英雄は吸血鬼  作者: 希乃
第五章 氷結鬼編
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第141話 幸せを選びなさい

「ルミ、体調は大丈夫?」


 ダイニングの長机に並べられたテインさんの手作り料理。


 それを囲みながら皆で昼食にありついていると、私の隣に座っていたグレースが、こっそりと耳打ちしてきた。


「うん! ていうか、もうだいぶ前から元気だよ」


 目が覚めて少しの間は正直少しボーッとしていたけど、二日も経った今は全然元気!


 早く回復できたのも、王宮の皆のおかげだ。


「そっか、良かった」


 グレースは心の底から安心したように笑うと、こう提案してきた。


「ねぇ、一緒に村に行ってみない?」


 今まで何度も拒絶してきたこの言葉。


 でも今は素直に頷くことが出来る。


 ブリス陛下が、私の体調が良くなり次第、村に戻ってみると良いと言ってくれたあの日から二日。


 きっと今日は『ルミ』が一番楽しみにしていた日だ。


「うん、良いよ。一緒に行こう」


 私が言うと、グレースはパアッと顔を輝かせて頷いた。


「ありがとう!」


 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 昼食を終えた後、私とグレースは門から王宮の外に出た。


 そして氷結鬼の村へと向かおうとしていた時。


「どこ行くの?」


 背後から聞こえた声に振り返ると、そこには腕を組んだ一人の少女が立っていた。


 赤みがかった髪を高い位置でツインテールに結び、笑うこともなく無表情でじっと私達を見つめている。


「あ、後藤ごとうさん」


「アコ」


 私もグレースも後藤さんに笑顔を見せて、私が答えた。


「グレースと一緒に村に行くんです。ブリス陛下のお話では、もう皆の封印は解かれてるはずなので」


「そう」


 私が言うと、後藤さんは小さく頷く。そして、


村瀬(むらせ)さん、あたしも、ついていって良いかしら」


「勿論です!」


 私がそう答えると、グレースも口角を上げて頷いていた。


 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「本当に大丈夫かな……」


 王都を抜け、氷結鬼の村まであと少しだろうという所で、グレースが不安げな声を漏らした。


「何が?」


 私が尋ねると、グレースは無理やりに口角を上げて私を見た。


「ううん。本当に皆の封印が解放されてるのかなって不安になってね。別に陛下を疑ってるわけじゃないんだけど」


「良いんじゃない? 疑っても」


「え?」


 突然の後藤さんの発言に、グレースが目を丸くした。


「だって今まで封印してた種族をあっさりと解放するなんて。あたしはちょっと軽すぎると思うわ」


「後藤さん……」


 後藤さんは私の顔を見て、それから少し決まり悪そうに正面を見て言葉を紡いだ。


「まぁ、あたし個人の意見だし、あまり気にしない方が良いわよ。性格ひん曲がってるから。あたし」


「あ、あはは……」


 後藤さんはちらりと私を見ると、頬を桃色にしてツンと顔を背けた。


 今回の件では、何だかんだ言って一番頑張ってくれたし、私のことも戻すの手伝ってくれた後藤さん。


 全然性格ひん曲がってないと思うけどなぁ。


 本当にひん曲がってる人間は、優しくしてくれないもん。


 私はそう思いながらも、後藤さんのツンデレっぷりを垣間見ることが出来て、何だか嬉しかった。


「そういえば、二人っていつまで苗字呼びなの?」


 不意に、グレースがそんな疑問を投げかけてきた。


「えっ?」


「別に良いじゃない。苗字呼びなんて珍しくないわよ」


「そうだけど、せっかくこうやって関わる機会が多くなったんだし、この際呼び方変えてみたら?」


「えっ……!!」


 そ、それはハードルが高過ぎるよ!


 だってそんなことしたら後藤さんが怒るじゃん!


 グレースってばいきなり何言ってくれてるの!?


 後藤さんは少し恥ずかしそうにしていたようだけど、何も喋らなかった。


「わたしは、二人がもっと仲良くなってくれた方が嬉しいな」


 目を伏せて寂しげに、グレースがポツリと呟いた。


 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「皆!!」


 氷結鬼の村に着いた途端、グレースが声をあげた。


 最初にここを訪れた時にはもぬけの殻だったのが、すっかり賑やかになっていた。


「あぁ、ルミ! ルミでしょう?」


 突然私に向かって長い白髪の氷結鬼が走り寄ってきた。


「お母様……」


 『ルミの意識』が私にそう言わせた。


「元気だった? どこも痛いところはない?」


 氷結鬼は私の体を触りながらあちこちを見回す。


 と言っても、別にいやらしい触り方ではなく、おかしなところはないか点検するような優しい触り方だけど。


「うん、ありがとう、お母様」


「良かった、本当に良かったわ」


 そう言ってお母様は、私を力一杯抱き締めてくれた。


 王宮で目を覚ます前に見た夢の中で最初に出てきたのは、このお母様だったのだと、今気付いた。


 長い白髪に黄色の瞳、そして白髪からは小さな黒い角がぴょこんと生えている。


 間違いなく、夢の中で見たヒトだった。


「お母様こそ、痛いところとかないの? ずっと封印されてたんでしょ?」


「封印? そうなの?」


 えっ、違うの?


 私は思わず呆気に取られて、ポカンと口を開けてしまう。


「封印って言って良いのかは分からないけど、急に意識がなくなって、気付いたら普通に村に居たのよ」


 そ、そうか。封印された本人達は自分達の身に起こった出来事が『封印』だって分からないのか。


「そ、そうなんだ」


「痛いところは勿論ないわよ。今はルミに会えた喜びで胸がいっぱいだわ」


 『ルミ』がブリス陛下に姿を変えられて、氷結鬼としての記憶を消されたことも、お母様は知ってるんだ。


 じゃあ本来なら、これは親子の感動的な再会だったはずだ。


 私が『ルミ』だけの意識と記憶を持ってたら、もっとお母様を喜ばせられたのに……。


 そんなことを考えていると、突然お母様が私の髪を触ってきた。


「ん、どうしたの? お母様」


「ルミの髪、すごく綺麗だわ。白色と茶色、どっちもあるなんて」


「そ、そうかな」


 何で茶色も混じってるのか、変に思われないかな。


 綺麗って言ってくれるのは嬉しいけど、それが心配……。


「ええ。私に会うからって、無理やり氷結鬼の姿にならなくても良いのよ?」


「えっ……!?」


 お母様の言葉に、私は言葉を失った。


 私が何も言えないでいると、お母様は頬を緩めて、


「だって、ルミはもう人間なんでしょ? それなのにこんなことしたら髪が傷むわ。氷結鬼の力が少しだけ残っちゃってる。ルミの髪の毛は本当に艶々で綺麗なんだから、大事にしなくちゃ。たとえ何色でもね」


 お母様は私の髪に手を差し込んで、幸せそうな顔をする。


「お母様……」


 何で私が人間だってこと____。


「陛下が全部教えてくださったの。だから隠さなくても良いのよ」


「陛下が?」


「ええ。人間界には『ガッコウ』って場所があるのね。そこで将来のために頑張ってるんだってね」


 ブリス陛下、本当に全部話してくださったんだ。


「偉いじゃないの。やっぱり私の娘だわ」


 そう言って、お母様は私の髪を優しく撫でてくれた。


「また毎日会えなくなるのは悲しいけど、ルミにとっての幸せを選びなさい。お母様が居るから氷結鬼の姿でとか、この村に残ろうとか、そんな理由はダメ。全部自分のこと優先で考えるのよ」


 言葉を紡ぐ度に、お母様の黄色い瞳が潤んで涙が零れ出す。


「……はい」


 お母様が涙を流しているのを見ると、私の胸も熱くなってきて自然に涙が溢れてしまった。


「もう、泣かないでよ……! 私まで悲しくなっちゃうじゃない。娘の門出だもの。笑って見送りたいわ」


「お母様っ……!」


 たまらず、私はお母様の胸に飛び込んだ。


 お母様も号泣しながら私を抱き締めてくれる。


「ルミ、泣かないで」


 そう言って、グレースが優しく背中を擦ってくれた。


「ありがとう……グレース……」


 そこで、私はお母様から体を離し、ずっとグレースに言いたかったことを口にした。


「あのね、グレース」


「ん? どうしたの?」


「私は人間界で人間として、『村瀬(むらせ)(ゆき)』として生きていく。だから氷結鬼の王女は、グレースに勤めてもらいたいの」


「えっ!? わ、わたし!?」


 目が飛び出るかと思うほど丸くしながら、グレースは自分を指差した。

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