第113話 昔から知り合いだった
それから少しして、私と風馬くんと後藤さんは、私の部屋に居た。
三人で座って囲んでいる丸テーブルの上には、おじいちゃんが持ってきてくれたお茶のコップが三つ置かれていた。
ちなみに座っている順番は、左から私、風馬くん、後藤さんだ。
なぜ、このような状態になっているのか。
実はショッピング街の路地裏から出た後のこと。
後藤さんに『話がしたい』と言われた私はそれを了承し、もう夜も遅いからという理由で風馬くんと後藤さんを家に招き入れたのだった。
勿論おじいちゃんはビックリしていたけど、夏合宿の発表の打ち合わせだと適当な嘘をついて誤魔化して、何とか納得してもらえた、というわけだ。
「あ、あの、後藤さん」
私はおそるおそる、お茶を飲んでいた後藤さんに声をかけた。
後藤さんは目だけでチラリと私を見やって、コップを机の上に置いた。
「何?」
私の方ではなくコップを見つめたまま、後藤さんは聞いてきた。
「話って何ですか?」
あのまま路地裏に置いてきてしまった心結ちゃんのことも心配だし、後藤さんが自分で鉄壁を作れたり、グレースの姿を見ても何も驚かなかったり、不思議過ぎて聞きたいことが山積みだった。
一番は、わざわざ後藤さんの方から私に話があると言ってきたことだけど。
「あんたは、どこまで知ってるの?」
落ち着いた声で、そう尋ねられた。
「え、えっと、何についてですか?」
私が尋ねると、後藤さんは眉をつり上げてため息をつき、
「この状況なのよ、ちょっとは察したら? あんたの過去について、あんた自身はどこまで知ってるのかって聞いてんの」
ごめんなさい、私の理解力が無いもので……。
察する、とか私にはまだそういう能力が備わってないんです……。
それもこれも、今まで友達を作ってこなかった私が悪いんですけど……。
心の中で泣きつつ後藤さんに謝罪してから、私は彼女の質問に答えた。
「私が実は異世界の氷結鬼で、心結ちゃん……グレースの友達だったってところまで、です」
「ふーん」
後藤さんはまたお茶を飲んでから、コップを机に置いた。
「結構心結が喋ったのね」
「え?」
あまりにも小さな呟きだったため、私は聞き取れずに聞き返してしまう。
すると後藤さんは訝しげに眉をひそめて、
「何でもないわよ」
「ご、ごめんなさい……」
後藤さんの嫌そうな顔を見て、私は思わず肩を縮めた。
「でも、まさか村瀬が人間じゃなかったなんてな……」
考え込むように顎に手をやって、風馬くんが呟いた。
こ、怖がられたかな……。
私は不安になって黙って頷くことしか出来なかった。
実のところ、私も自分が本当は氷結鬼だったと聞いたときは、何かの間違いなんじゃないかと本気で疑った。
でも心結ちゃんがとても嘘を言っているようには思えなかったし、何よりグレースと化した彼女が私を吸収しようとしたことがその事実を裏付けていた。
その話がもしも偽りだとすれば、グレースがわざわざ私を取り込むメリットがない。
彼女が言っていた通り、吸血鬼界の村に戻って私と二人で生活したいと思ったから、あんな風に私を吸収しようとしたのだと思う。
「あ、あの、風馬くん、怖がらないでね……! 私も自分が人間じゃないなんて言われて、正直パニックになってて」
しどろもどろになりながら私が焦っていると、風馬くんは慌てて手を振って言った。
「ああ、別に怖がってるわけじゃないよ。話は後藤と一緒に全部聞いてたし」
「え? そうなの!?」
ってことは、心結ちゃんのことからグレースのことから、全部全部、風馬くんも後藤さんも知ってるんだ……!
ていうか、そもそも何で風馬くんと後藤さんが一緒に……?
いつの間にか仲良くなったのかな。
そんな……風馬くんは私だけの友達だと思……じゃなくて!
「後藤が一緒に来てほしいって言ったからさ。行ってみたらヤバいこと聞いちゃったなって思って」
ポリポリと頬を指で掻きながら、風馬くんは困ったように笑った。
「えっ!? 後藤さんが!?」
まさか後藤さんが私を心配してくれてたなんて……。
それとも何か別の事情があって、たまたま路地裏の近くを通りかかった、とか?
「何よ、あたしがあんたの心配して悪い?」
「い、いえ、そんなことは。むしろありがとうございます……」
私は後藤さんに深々と頭を下げた。
「ともかく、今のあんたは間違いなく人間よ。過去がどうであれ、向こうの世界で記憶も消されて人間の姿に変えられたんだから」
腕を組んで、後藤さんはそう言った。
「後藤さん……」
意外と良い人なのかもしれない!
あれ? でもちょっと待って?
私と心結ちゃんの話を聞いてたからとは言え、後藤さんが私の過去に関して何も驚いてなさそうなんだけど。
「あ、あの」
不安になった私は、後藤さんに尋ねてみることにした。
「何?」
「何で後藤さんはビックリしないんですか?」
「は? 何によ」
後藤さんの眉がまたつり上がる。
お、怒らせちゃった……?
「え、えっと、私が本当は記憶を消されて姿も人間に変えられた氷結鬼だってこと、です」
「ああ、そのこと? 別にビックリなんてしてないわよ」
さも当然とばかりに片目を瞑る後藤さん。
「あたし、昔からあの子の知り合いだったから」
「知り合い!? それってどういうことですか!?」
私が机の上に手をついて、身を乗り出すようにして尋ねると、後藤さんは顔を歪めて私と距離を取るように体を仰け反り、あからさまに嫌そうな顔をする。
「出来れば言いたくなかったんだけど、ここまで来ちゃったんなら、仕方ないわね」
後藤さんは眉をひそめながら頬杖をついて、はぁ、と長いため息をついてから、こう口にした。
「あたしと心結は、向こうの世界、吸血鬼界で知り合ったの」




