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私の英雄は吸血鬼  作者: 希乃
第五章 氷結鬼編
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第107話 下心無く接するなんて

 それからと言うもの、氷下(こおりした)心結(みゆ)ちゃんは、私とずっと仲良くしてくれた。


 放課後はいつも一緒で、彼女は私を色々なお店に連れていってくれた。


 今までずっとひとりぼっちで、学校が終わると真っ先に家に帰っていた私は、学校の周辺に女子高生に嬉しいお店がたくさん並んでいることを知らなかった。


 そして当然そのどれにも赴いたことはなく、全てが初めての体験だった。


 イアンさん達と出会ってから、学校が終わった後の目的地は家から吸血鬼界に変わったけれど。


 氷下さんと仲良くなってからの放課後は、そのようなショッピング三昧だったので、学校が終わっても吸血鬼界に行くことがなくなった。


 そんな状態が一週間くらい続いたある日のこと。


 昼休み、私はいつも通り風馬(ふうま)くんと食堂でお弁当を食べていた。


 確かに氷下さんとは仲良くなったのだけど、何故か昼休みは一緒ではなく、氷下さんは後藤さんの取り巻きとしての役割もしっかり果たしていた。


 後藤さんはひとりぼっちだった私を今でも目の敵にしているため、そんな私と仲良くしていることが分からないように、昼休みは別々にしようと言ってくれたのだ。


 ちなみに、氷下さんが放課後私を誘ってくれるのも、後藤さんと取り巻きの女子達が教室を出た後だ。


 私に気を遣ってくれているのか、ちゃんと配慮してくれている。


「村瀬、最近氷下と仲良いんだな」


 お弁当のおかずを口に運びながら、風馬くんが笑顔で言った。


「あ、うん。どうしてか分からないけど、急に優しくしてくれるようになったの」


「どんどん友達が出来てるのは良いことだけどな」


 そう言って風馬くんは嬉しそうに微笑む。


「って言ってもまだ二人だけだよ。それに、氷下さんは後藤さんのお付きの者みたいな立ち位置だから、私と関わるのにはリスクを伴っちゃうし、それがすごく申し訳ないんだけど」


 普通ならクラスの中でも最低三人以上の友達が居るのではないかというのが私の推測だ。


 それに照らし合わせてみれば、私に出来た友達の数はまだまだ。


 と言っても、その友達は私一人の力で出来たものではなく、友達本人達から声をかけてくれたのが、二回とものきっかけだ。


 まだまだとは言わず、素直に有り難いと思うのが正しい態度とは分かっているけど。


 それでも氷下さんとは最近知り合ったばかりで、風馬くんのように馴れた口調で話せないのが今の現状。


 氷下さんが後藤さんの取り巻きという立ち位置である以上、危ない橋を渡ってくれていることに、私は物凄く申し訳なさを感じていた。


 彼女達の間でどんな会話が成されているのかは分からないけど、私を目の敵にしている後藤さんに、私と氷下さんが仲良くしているのを知られたら、確実に氷下さんの立場は危うくなる。


「あぁ、後藤、村瀬のこと敵視してるもんな。でも氷下は後藤とも仲良いんだろ?」


 風馬くんは呆れながらそう言って視線を天井に向けた。


 おそらく、彼を体育館裏に呼び出して私と関わっていることを咎められた時を思い出しているのだろう。


「うん。後藤さんが女王で氷下さんはその部下……みたいな感じだけど、仲良しは仲良しみたいだよ」


 私が肯定すると、風馬くんは考え込むように顎に手をやった。


「本当に安全な奴なのかな、氷下」


「……どういうこと?」


 風馬くんは申し訳なさそうに頭を掻いてから、


「村瀬が嫌な気持ちになったらごめんな」


 前置きして続きを話してくれた。


「けど、後藤とも村瀬とも下心無く接するなんてあいつに出来るのかな。特に村瀬と関わり始めたのは最近だし、何かあるんじゃないかなって思って。後藤が裏で糸引いてたり氷下が内通者だったりするのかなって」


 そこまで言ってから、風馬くんは短い黒髪に手を差し込んで顔を歪めた。


「駄目だ俺。村瀬のことってなるとどうしても悪い方向に考えちまう」


「風馬くん……」


 私が風馬くんの名前を呼ぶと、彼は私をちらりと見やってから、歪めた表情を弱々しくも元に戻した。


「ごめん。やっぱり今の無し。ちょっと悪い方に考えすぎた。気にしないでくれ」


「う、うん……」


 風馬くんに言われた通り、私もそういうことはあまり考えないように努めた。


 でもやっぱり気になって、授業中もずっと嫌な方向に考えてしまった。


 ※※※※※※※※※※


「ゆ~きちゃん、行こう」


 放課後、氷下さんが私の席に来てくれた。


「あ……うん」


 いつも通りの輝く笑顔で、氷下さんは誘ってくれた。


 昼休みに風馬くんが言っていたことを思い出して、少し変な返事をしてしまう。


「どうしたの?」


 氷下さんが私の顔を覗き込んで尋ねてきた。


「大丈夫。何もないです。行きましょう」


 私は慌てて制カバンを背負い、立ち上がった。


「そ? じゃあ行こう~」


「はい」


 幸いにも何も思われなかったようで、氷下さんは鼻歌を歌いながら教室を出て行った。


「____」


 風馬くんが警戒の眼差しで氷下さんを見つめていた。


「ふ、風馬くん、大丈夫だよ」


 彼をなだめようと思って、私は笑顔で言った。


「うん……分かってるけど……ごめん。昼休みに俺が変なこと言ったせいで村瀬まで気にすることになって」


「そんな! 大丈夫だよ! 全然気にしてないもん、私。いつも通りだよ」


 風馬くんが氷下さんに向けていたのは警戒の眼差しではなく、風馬くんの憶測を私に話してしまったことを気にする不安の眼差しだった。


「……じゃあ、また明日な」


 風馬くんは引きつったような笑顔を見せて言ってくれた。


「うん。バイバイ」


 私も小さく手を振った。


「雪ちゃ~ん、行こ~?」


 教室を出てすぐの所で、氷下さんが私を呼ぶ声がした。


「は、はい。すぐ行きます」


 急いで走り、私は氷下さんと共に教室を出た。

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