第106話 かき氷パフェ
「スイーツ……ですか?」
彼女の言葉を復唱し、私はもう一度聞き返す。
目の前で顔を輝かせている少女は『うんうん』と何度も顎を引いて必死に訴えてくる。
「いつも皆で寄ってるんだけど、そこのスイーツすっごく美味しいんだよ〜。あそこならお詫びになると思うんだよね〜」
そう言って、彼女____氷下心結ちゃんは明るく微笑んだ。
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そして数十分後。
私達は、『雪ちゃんも絶対ハマるよ!』と氷下さんからのお墨付きをもらったファミレスに到着した。
学校からファミレスまでの道のりは、初体験の私にとっては凄く長く感じたせいで、着いた直後は汗だくでバテそうになってしまっていた。
それでもファミレス内のエアコンの風を受けると、一気に体温が下がって気持ち良くなる。
はぁ、涼しい……。
ファミレスの中は意外にもオシャレで高級感があり、天井からぶら下がっている電飾はシャンデリアには及ばずとも、それによく似たとても大層なものだった。
「すごい……綺麗……」
思わず率直な感想が口から零れ出てしまう。
そんな私を見て、氷下さんは満足げに微笑むと、
「こっちこっち〜。いつも特等席に座ってるんだ〜」
と、私の手を引いて『特等席』とやらに案内してくれた。
「ほら、ここ良いでしょ~? お店が一望出来るんだよ~」
氷下さんの隣に座ってみると、彼女の言う通り、ファミレスの中が見渡せる席だった。
「確かに見渡せますね、すごい」
「ふっふ~ん。何かこうやってお店の中見渡してると皆生きてるんだなって感じするよね~。こういう人達の氷って美味しいのかなぁっていつも思うんだよね〜」
と、言いながらとろけた顔でヨダレを垂らす氷下さん。
____ん? どういうこと?
「こ、氷……?」
「ん? あぁ! 違う違う! こっちの話〜」
氷下さんはハッと目を見開くと、慌てて手を振って笑った。
「わ、分かりました……」
『人の氷が美味しいのか』なんて急に言い出したから一体どうしたのかと思ったけど、多分厨二病のような独特の世界観が、氷下さんにもあるんだろう。
そう解釈して、私はそれ以上追及しなかった。
「と、とりあえず! 食べよ食べよ〜。雪ちゃんは何が良い〜?」
氷下さんは焦ったように机の上に置かれたメニュー本を開いた。
「え〜っと、オススメとかないですか?」
一概にスイーツと言っても種類が沢山あって、プラス味も沢山あるから、優柔不断な私には決めにくいもの。
こういう時はサッとオススメを聞いてそれを食べてみるのが一番なのだ。
「う〜ん、オススメねぇ〜」
氷下さんはメニュー本をペラペラとめくりながら色々と思案してくれた。
「ここのはどれも美味しいけど、心結のオススメはやっぱりコレ! かき氷パフェ!」
そう言いつつ氷下さんが指差したのは、名前の通りパフェの中にかき氷が入っているものだった。
かき氷パフェ……こんなの初めて見た……。
ま、まぁ、夏だし暑いし、冷たいものが食べたくなる気持ちも分かるけど。
こんなの食べたら頭がキーンってなりそうだな……。
でもオススメ聞いておいて違うメニューにするのも悪いよね。
あ、そうだ! 良い事思いついちゃった!
「じゃあ、私もかき氷パフェにします」
「OK。これで決まりだね。……すみませ〜ん!」
氷下さんが手を挙げて大声で店員さんを呼んだ。
『はーい』と応答する声がして、すぐに女の店員さんが私達の席にやって来た。
「注文なんですけど、このかき氷パフェ二つ」
指を二本立てて、氷下さんは私の分まで頼んでくれた。
「畏まりました。かき氷パフェがお二つですね」
「あ、あの」
注文を記録している最中の店員さんに、私は声をかけた。
「はい、どうされました?」
店員さんが微笑みながら尋ねてくる。
氷下さんも不思議そうに私を見ていた。
「あの、えっと、かき氷パフェなんですけど、一つかき氷抜きに出来ませんか?」
「それってただのパフェなんじゃない?」
氷下さんが呆れたようなジト目でそう尋ねてくる。
店員さんの微笑みが微笑に変わり、明らかに『だったら普通のパフェ頼んでよ』と顔に書いてあるくらい、顔が引き攣っていた。
「あの、大丈夫でしょうか……?」
顔を引き攣らせたまま、口元をピクピクさせている店員さんに、もう一度尋ねてみた。
「も、勿論です。畏まりました。かき氷パフェがおひとつ、かき氷パフェのかき氷抜き……がおひとつで宜しいですか?」
「はい。お願いします」
「じゃ、じゃあ、それで……」
店員さんの確認に、私は普通に頷き、氷下さんは戸惑いながらも了承してくれた。
「雪ちゃん、何でかき氷抜きにしたの〜?」
店員さんが私達の席を去った後、氷下さんがそっと尋ねてきた。
「え、えっと……かき氷食べ過ぎると頭がキーンってしちゃいそうだったので。それに私、あまりかき氷好きじゃないんです。ごめんなさい」
頭を下げると、
「ふ〜ん。良いよ良いよ〜。だったら遠慮しないで普通のパフェ頼んでもらって良かったのに〜」
顎を掌に乗せて頬杖をつき、氷下さんは気にする素振りも見せずに笑顔で言ってくれた。
「あっ……そうなんですけど、でもこういう所に来たからには友達と同じメニューを食べなきゃと思って」
スカートをキュッとつまみながら言うと、氷下さんの笑い声が聴こえて私はパッと顔を上げた。
すると、氷下さんがお腹を抱えて目尻に少し涙を浮かべながら大笑いしていた。
「雪ちゃんって何か面白いね〜。別にそんな決まり無いのに〜」
言ってからさっきよりも更に笑い出す氷下さん。
てっきり仲良しの友達はどこに行っても同じ物を頼むものだと思っていた私は、必ずしもそうではないことに驚いた。
それなら普通のパフェを頼めば良かった、と今更ながら後悔した。
そして一連の流れを思い返し、恥ずかしさのあまり氷下さんの顔を見られず俯いてしまった。
だから、氷下さんが笑い終わった後に不満そうに唇を尖らせ、小さく舌を鳴らしていたことには全く気付かなかった。




