表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私の英雄は吸血鬼  作者: 希乃
第五章 氷結鬼編
111/302

第105話 雪と心結

 学校が終わると、私はいつも一番乗りに校門を出て、待ってくれているイアンさんと一緒に吸血鬼界に行く。


 それが私の日課であり唯一の楽しみだった。


 でも今日は違った。


 何故なら、帰ろうと思っていた私の目の前に一人の少女が居るから。


 彼女は後藤さんのお付きの者の一人。


 いつも私の事を揃いも揃って馬鹿にしてきた。


 そんな彼女が一体私に何の用があると言うのか。


 目の前でニコニコと笑顔を見せている彼女に、私は少し身構えながら尋ねた。


「何か御用ですか?」


「嫌だ、そんな怖い顔しないでよ」


 少しだけ身構えたつもりが、バッチリ表情として表れていたようで、女の子は罰が悪そうに言った。


「あ、ごめんなさい」


「手紙のことで色々と大変だよね〜」


 もうちょっと笑顔で居なきゃ、と思って表情筋を動かしたりしていると、女の子がのんびりとそう口にした。


「あ、はい。皆に私宛てだって言われるのももう慣れましたけど」


 私はそう言って情けなく笑った。


 勿論この言葉には続きがある。


 ____だから、あなたも同じようなこと言ってこないでね。


 彼女に伝わるか分からないけど、どうか伝わってほしい。


 もう『吸血鬼って何なの?』とか『夏合宿の時も……』とか言われるのはうんざりなのだから。


「安心して。心結(みゆ)はそんなこと言わないから」


 そう言って彼女____氷下(こおりした)心結(みゆ)ちゃんはニコリと笑った。


「そ、そうですか。お気遣いありがとうございます」


 早く吸血鬼界行きたいのに……。


「それよりさ、雪ちゃん今困ってるでしょ?」


「は、はい、色々と」


 私がそう答えると、氷下さんは『待ってました!』と言わんばかりの笑顔で、


「心結にも何か手伝えること無い?」


 小首を傾げて尋ねてきた。


 その拍子に一つに結んでいるお下げがふわりと揺れる。


「ありがとうございます。でも大丈夫です」


 立ち上がって一礼し、私は教室を出ようとした。


 すると、


「待って待って! 心結ってそんなに信用出来ない?」


 後ろのドアから出ようとした私の行く手を、氷下さんは大きく両手を広げて遮った。


「い、いえ、そんな事ないです。でも私、ちょっと急いでて」


 もう一度頭を下げて、氷下さんの横を通り過ぎようとした。


「吸血鬼さんの所に行くの?」


 耳元で囁かれて、私は思わずビクッとして立ち止まってしまった。


「な、何の事ですか……?」


 全身を氷が駆けずり回るような寒気が襲ってくる。


 それでも平常心を装って尋ねた。


「ありゃ? 心結の勘違いだった?」


 氷下さんは『あっれ~? おかしいな~』と片眉を上げて小首を傾げ、顎に人差し指を当てて分かりやすく思案のポーズをする。


「でもでも、手紙は吸血鬼さんからだったんでしょ? だからそのヒトの所に行くのかな~って思ったんだけどな~」


 吸血鬼を名乗る差出人の所に行くわけじゃないけど、イアンさん達の所に行こうと思ったのは事実だ。


 氷下さんの言うこともあながち間違ってはいない。


「____」


 だからこそ、私は何も言えなかった。


「心結の勘違いだったか~ごめんね~雪ちゃん」


 片目を瞑って両手を合わせ、氷下さんは謝ってくる。


「い、いえ……」


 一方の私は首を振って何とかはにかんだような笑顔を見せた。


「じ、じゃあ私はこれで」


 今度こそ氷下さんを振り切るために、カバンを背負い直して一礼し、足早に教室を出ようとした。


「あ、待って待って、雪ちゃん! 行かないで!」


 しかしカバンを持っていない方の手首を掴まれて、また教室を出る術を失ってしまう。


「ま、まだ何か……?」


 思わず心の内に閉まっていたはずの警戒心をむき出しにして、振り返ってしまう。


 おそらく、氷下さんを見つめる私の瞳は警戒心に塗れていたのだろう。


 私が言葉を発すると同時に、氷下さんはハッと目を見開いた。


 その表情は純粋な驚きに満ちていた。


 先程までの、まるで私を嘲っていたような驚き方ではなく、ただ純粋に驚きという感情をその顔に宿して、氷下さんは私の手首を掴んだまま立っていた。


「い、いやだな〜、そんなマジにならないでよ〜。心結ビビっちゃったじゃんか〜」


 いつの間にか私の手首から彼女の手は外れていて、代わりに今まで私の手首を掴んでいたその手は、彼女の流れるような髪をくしゃくしゃと掻いていた。


「あっ……ごめんなさい。あまり友達と話す機会とか無くて、どうやって接したら良いのか分からなくて、ついおかしなことを……すみません」


 急いで手を重ねて腰を折り頭を下げた。


 つらつらと並べた言い訳は、この際何の効力も持たない。


 実際、私が氷下さんに警戒心を向けたのは、友達とどうやって接したら良いのか分からなかったからではない。


 ただ、一刻も早くイアンさんの所に、吸血鬼界に行きたくて気持ちが早っていただけ。


「良いよ良いよ〜。心結の方こそ、勝手に引き止めちゃってごめんね〜」


 掌をこちらに向けて小刻みに振り、氷下さんも謝ってくれる。


 これなら円満解決____そう思っていた。


「心結、雪ちゃんに悪いことしちゃったから何かお詫びがしたいな〜。雪ちゃん! この後時間ある?」


 氷下さんに問われて私は黒板の上にかけてある時計を見た。


 時間は15時30分。


 普段ならもう吸血鬼界に着いている時間帯だけど。


 でもせっかくお詫びしたいって言ってくれてるし……。


 その気持ちを踏みにじるのはちょっといけ好かないよね。


 暫く考えてから私は答えた。


「少しなら……大丈夫ですけど」


 そう言うと、氷下さんの表情がみるみる明るくなっていく。


 氷下さんは感激したように両手を胸の前で組み、目をキラキラと輝かせた。


「じゃあ、一緒に美味しいスイーツ食べに行こ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=39470362&si
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ