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私の英雄は吸血鬼  作者: 希乃
第五章 氷結鬼編
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第103話 雪の覚悟 何があっても

 職員室に着いた私はコンコンコンとドアをノックした。


 職員室には何度も来たことがあるけど、ノックした後の先生方の視線にはいつもビビってしまう。


 今回もそんな視線に耐えながら、私は先生を呼んだ。


 先生が私に気付いて近付いてきてくれた。


「来たわね、村瀬さん」


「は、はい」


 先生の今の言い方だと勇者達を待ち構えていたラスボスに聞こえてしまう。


 なんてことは心の内に閉まっておいて、私は先生の後を追って移動した。


 職員室の隣にある『質問コーナー』にやって来た。


『質問コーナー』と言うのは、生徒達が昼休みや放課後に利用する、机と椅子がたくさんあるスペースのこと。


 先生と生徒が基本的には一対一になって机を挟んで向かい合う形に座るのだ。


 私と先生もそんな『質問コーナー』の一つに向かい合って座った。


 先生は『よっこらしょ』と言ってから、机の上で指を組んで微笑みながら私を見つめた。


「改めて色々教えてもらえる? 一方の言い分だけだと不公平だから」


「は、はい!」


 太ももに手を置いて、先生ではなく机を見ながら私は頷いた。


 そして、今朝教室に入った時には皆が騒いでいて藤本くんに投げつけた手紙を見てみたら『やっと見つけた。ずっと探していた』といった内容が書かれてあったことを説明した。


「ところで、後藤さんは『差出人が吸血鬼だ』って言ってたけど、それは本当なの?」


「は、はい。分かりやすく『吸血鬼より』って書いてありました」


 私はスカートのポケットから手紙を取り出して先生に手渡した。


 先生は瞳だけを動かして手紙を読んでいき、読み終わったのだろう、吐息して手紙を机の上に置いて腕を組んだ。


「これは誰かの悪戯しかあり得ないわね。前は吸血鬼が来てるとか馬鹿馬鹿しいニュースがやってたけど。だから村瀬さんも遅刻の理由に使ったんでしょ?」


「あっ! いえ! それは違います!」


 急いで否定したけど、先生は『ふぅ』と息をついて、


「まぁ、過ぎたことだから何でも良いけど。これは明らかに悪戯よ。あまり気にしなくて良いと思うわ」


 そう言って立ち上がり、先生は机の上に置いた手紙を私に渡してくれながら、


「もしかしたら数日くらい続くかもしれないけど、気にしないで良いからね」


「は、はい。ありがとうございました」


 私も椅子から立ち上がって頭を下げる。


 先生は腕を上げてピラピラと手を振りながら職員室に戻っていった。


 ※※※※※※※※※※


「村瀬! どうだった?」


 教室に戻った私を見て、風馬(ふうま)くんが聞いてくれた。


「誰かの悪戯だからあまり気にしなくて良いと思うって」


 教室には風馬くん以外には誰もおらず、私の話が終わるまで一人で待ってくれていたのだと思うと、物凄く申し訳なかった。


「ごめんね、長い時間待ってもらっちゃってて。全然帰って大丈夫だったのに」


 こんなことを言っては、今まで待ってくれた風馬くんに失礼だけど、でも風馬くんは私が頼んでいないにも関わらず、ずっと待っていてくれたのだ。


 申し訳なくてたまらなかった。


「気にすんな。俺の方こそ勝手に残ってごめんな」


「ううん、ううん! 本当にありがとう!」


 風馬くんはニコリと微笑んでから、その表情を暗くして、


「でも先生はなに考えてるんだ」


「え? どういうこと?」


 床の一点を見つめていた風馬くんは、私の方をチラリと見て笑った。


「いや。これが単なる悪戯だって思えるんだなって。今この学校で吸血鬼のこと詳しく知ってるのは俺と村瀬だけだ。他の皆も合宿の時にスピリアを見てるけど、多分面白がってるだけで本気で吸血鬼だなんて思ってないと思うんだ」


 なるほど。確かに言われてみればそう思える。


 先生でさえ吸血鬼と聞いても『馬鹿馬鹿しい』と言ってたのだから、皆が本当に吸血鬼の存在を信じているわけがない。


 そう考えると、本当に吸血鬼のことを知っているのは私と風馬くんの二人だけ。


「もしかしたら俺達の考えすぎで本当に誰かの悪戯なのかもしれないけど。でも俺は違うと思うんだ」


 風馬くんは私を見つめて尋ねてきた。


「村瀬、もう一回ちゃんと思い出してくれ。吸血鬼の世界で村瀬が出会った吸血鬼の中でこんなこと書きそうな奴が居ないか」


「う、うん」


 風馬くんに言われて私はもう一度記憶を遡った。


 ※※※※※※※※※※


「ごめんね、全然分からないよ」


 散々考えた末に、何も進展無し。


 やっぱり思い当たらない。それに……。


 私には一つだけずっと気になっていたことがあった。


 手紙の最後に書かれていた『吸血鬼より』の文字の横に白い小さな塊がへばりついていたのだ。


 最初はご飯粒とかだと思って取ろうとしたのだけど、へばりついて取れない。


 まるで氷みたいだったのだ。


 普通の人間が、悪戯の手紙に氷みたいな変なものを張り付けるだろうか。


 もしそんな人が居たとしたら、よほど手の込んだ悪戯が好きな人だろう。


 それに最初触ったとき、少し冷たさを感じたのだ。


 白くて冷たい塊と言ったら氷以外に考えられない。


「____せ?」


 何で手紙の最後に氷みたいな塊を付ける必要があるのだろうか。


「___らせ?」


 氷を触った私が驚くのが目的で、本当に誰かの悪戯なのだろうか。


「村瀬!」


「え? あ、何? 風馬くん」


 風馬くんに肩を叩かれて、私はハッと我に返った。


 気付いたらずっと考え込んでいたようだ。


 風馬くんは心配そうに私を見ながら、


「大丈夫か?」


「う、うん! 大丈夫。ちょっと考え事してて。あはは」


 何とか誤魔化すために情けなく笑ってみたけど、風馬くんの表情は至って真剣だった。


「あ……えっと……」


 何か言わなきゃ。絶対変だと思われた。


「後藤には気を付けた方が良いと思う」


「後藤さん?」


 急に後藤さんの名前が出てきて私は驚いた。


 確かに後藤さんは私を目の敵にしてるから正直に言ったら苦手だけど。


「前に村瀬が天界の天使と一緒に居た時あっただろ? その時、何でか気絶しちゃってさ、俺。それで気付いたら後藤の家に居たんだよ。よくよく聞いたら後藤が介抱してくれたみたいで」


 あ! そういえば私、風馬くんに吸血鬼界と天界の話しただけで、何で風馬くんが気絶してしまったのか話してなかった!


 えっ? ていうか風馬くん、後藤さんの家に行ってたの?


 何かちょっと複雑な気分……って!


 今はそんなこと考えてる場合じゃない!


「気絶してたから確証は無いけど、もしかしたらその時に後藤が吸血鬼とか天使の存在に気付いたかもしれない」


 じゃあ今朝のことは全部後藤さんが仕組んだかもしれないってこと?


 そんな……どうしよう……。


 でも私には冷たい後藤さんにも、風馬くんを介抱するなんて優しい一面があったんだ。


 私が嫌われてるだけだし、それは当然か。


「本当に俺の推測でしかないから嘘の可能性の方が高いんだけど、念のため気を付けた方が良いと思う」


「うん、分かった。ありがとう」


 後藤さんが悪いという証拠も何も無い今の時点で彼女を疑うのは違う。


 でも慎重に動いて困ることはない。


 たとえ何があってもちゃんと向き合えるようにしないと。


 風馬くんに言われて、私は密かに覚悟を決めたのだった。

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