表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
99/103

97話


「り、凛子ちゃん……い、今の衝撃って……何……?」


 尻もちをついた花梨お姉さんが、震える声で言葉をこぼす。


 私も耳から手を離して、なんとか口を開いた。


「た、たぶん……ナタリーさんが思いっきり手を合わせた音じゃないかな……拍手するみたいにバチーンッてやってたから……」


「び、びっくりしたぁ……近くにカミナリでも落ちたのかと思ったぁ……ちょっと漏らしちゃったかも……」


「ち、ちょっと……ボソッと変なこと言わないでよ……聞いてないからっ……」


 軽くツッコミを入れつつ、視線をタカシ達に戻す。


 今の凄まじい破裂音なんて気にも留めず、平然と会話を続けていた。


「お前に改造を施したのは何処のどいつだ? 所属と名前を教えろよ」


「……………………ん? 何を言っているの? 意味分かんない」


「だからぁ……お前に改造を施したのは、国連軍の何処の部署に所属する、なんて名前のヤツだよ。買収したの? どういう手を使ったんだ?」


「私を前にしているのに、そんなことが気になるの? え? 私だよ? もっと他に聞くべきことがあるんじゃないの?」


「ん? 何言ってんだ? はぐらかそうとするなよ」


「も、もしかして……私に興味が無いの……? え? い、いや……まさかね……ありえないって……」


 体をわなわなと震わせながら、挙動不審になっていくアン。


 タカシの淡泊な対応に、明らかに困惑を見せている。


 たぶん、想像していた展開と違っていたんでしょうね……。


 アンはシェリーさんの上位互換と豪語するだけあって、容姿やプロポーションは中々のモノだった。


 豊かな胸元から流れるように細くなるウエスト。優美に伸びた脚線と、手のひらに収まりそうなほど整った小顔。さらに三白眼の涼しげた眼差しが、その整いすぎた顔立ちに、人を惹き付ける危うさを宿している。


 もはや国宝レベルの美少女と言っても過言では無い。シェリーさんが、あれだけ魔性魔性と騒いでいた理由も分かる。


 そんな美少女が微笑みながら擦り寄ってきても、タカシは無表情のままなのだ。今まで関わったことが無いであろう未知の存在に、アンはあからさまに動揺していた。


「ね、ねぇ四分咲タカシ。私がこんなに好意を寄せているのに、なんで貴方は無表情なの? 私が笑っているんだから、貴方も笑ってよ」


「それより、どうやって改造したのか教えろって。それだけは私物化されると困るんだよ」


「普通の男は、私を手に入れようと資産を全て投げ売ったり、家族を捨てたり、犯罪行為に走ったり、なんでも言うことを聞いてくれたんだよ? なんで? なんで四分咲タカシはそうならないの?」


「ははーん。さては人の話を聞かないタイプだな? お前みたいなヤツ、軍で散々相手してきたから得意やぞ」


 主張の激しいアンに、タカシがいつものノリで応える。


 流石、私や文香さんや花梨お姉さんの愛を、飄々(ひょうひょう)と躱し続けた男。


 アンの可愛らしい上目遣いに、全く気付いていない。


 あのレベルの美少女相手に、あの態度が出来るのは本当に凄いわね……異性として見ていないのが分かる……。


 いつもと変わらない様子に安心していると、アンが少し苛立ち始めた。


「このアン・アイスランドが、貴方の為に日本に来たんだよ? ねぇ? 嬉しいでしょ? 嬉しいって言ってよ」


「取り敢えず、好き勝手聞くことにするから、プライバシー侵害って言うなよ。俺の質問に答えない、お前が悪いんだからな」


「貴方の為に改造までやったんだよ? ねぇ? この私が、ここまでやったんだよ? ねぇ? なんで発狂して喜ばないの?」


「お前に改造を施したヤツの名前は? Answer(さっさ) me.()Now(答えろ)


「興味無いから覚えてない。なんで私がそんな男の為に、脳のリソースを割かなきゃいけないの……って……え?」


「………………え? 覚えてない?」


 どこか困惑した様子で、タカシとアンが見つめ合う。


 な、なんだろう……。


 二人の噛み合ってない会話が、さらに噛み合わなくなっていく。


「もしかして……私にルッカを使った? 無意識だったから……そうとしか……」


「国連軍ノーマルタイプに所属しているかどうかは分かる? それと、どういう経緯で改造に至ったの? Explain(説明しろ)


「国連軍技術班ってところに所属する、冴えない男を捕まえて改造してもらった。私がちょっと優しくしたら、すぐに好きになったみたいで、なんでも言うことを聞いてくれたの。私に振り向いてほかったのかな? デブリセルズを大量に………………って、またルッカを使ったよね? 止めてよ」


Carry on(続けろ)


「デブリセルズを大量に集めてくれたから、スムーズにDODをやってもらえた。その上で私の適合率も念入りに調べてくれたから、十四種類も混合出来て……………………い、いい加減にしなさいよっ!!」


「ってことは……軍がっていうより、一個人が悪用しているってこと? Is this(これで) right?(あってる?)


「知らないけどそうじゃないの? 少なくとも私が関わったのはその一人だけ………………いい加減にしろって言ってるの!! 私にこんなことをしてもいいと思ってるの!?」


「総監に言って調べてもらうかぁ……平和になったらなったで、こういう悪事を働くヤツが出て来るから困るわ……」


 ブチ切れるアンをスルーしつつ、タカシがウンザリとした様子で目頭を押さえた。


 一体、何が起こっているのだろう……?


 何か異常なやり取りが交わされていることは分かる。あの自己中心的な女が、感情を露わにして怒っているのだから。


 そんな中、空気を読まないナタリーさんが口を挟んだ。


「聞きたかったことは聞けたのかぁ?」


「あらかた聞けたけど……特定出来なかったのは残念だわ」


「それじゃあ、ティナで記憶の共有ってのをすればいいじゃ〜ん。そうすりゃ顔くらい分かるだろぉ?」


「それも考えたけど……それをやるには、この女の同意を取る必要があるんだよね。無理じゃね?」


 キレ散らかしたアンを放置して、呑気に喋るタカシとナタリーさん。


 その様子を見たアンが、更に感情を爆発させた。


「私を放置して、違う女と話しをするなんてありえない!! ありえないありえないありえない!! 本当にありえないんだけど!!」


「しっかし……シェリーの言う通り、本当に魔性の女なんだな……ここまで人を狂わせるって、すげぇ才能だわ……」


「なんで私はお前呼ばわりなのに、シエルは愛称なの!? 私よりシエルが良いっていうの!? 見る目が無いにも程がある!! シエルなんて、あらゆる面で私より劣っているのに!!」


「笑わせんな」


 タカシの表情が、懐かしいモノへと変わっていく。


 小学校の頃、私をバカにした同級生に見せた時と、同じ顔に変わっていく。


 私には分かる。長い付き合いだから、何を考えているか分かる。


 タカシは今、


 結構怒っているのだ。


「シェリーの何処が劣っているんだよ。お前に負けてるところなんて一つも無いから」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
タカシの事は信じてたよ
潜ってきた修羅場が違うんだよ あばずれ やった奴、義家族もろとも消されてほしい
第一級の秘匿軍事技術を一般に漏らすとか、秘密裏に処理される案件なのではなかろうか。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ