表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/103

87話


「なんだこれ……? 何が起こってんだ……?」


 タカシがちょうど眠りにつく頃。


 花村君は自宅で、ワケが分からないといった様子で呟いていた。


 タカシの隠し撮りをアップし、翌朝には燃えまくっていたシェリーのチャンネル。


 嫉妬で怒り狂ったリスナーに荒らされていた、そのコメント欄。


 それが丸一日を過ぎたあたりで、外国人のコメントで埋め尽くされていたのだ。


 それも色々な言語で。


 どれもこれも結構な長文で。


「海外の人まで炎上に参加しているのか? それにしては……ハートマークが目立つんだよな……」


 日本語しか読めない花村君でも、コメント欄の違和感くらい読める。


 炎上にしては、やたら平和的な絵文字が並んでいるのだ。和やかな雰囲気がなんとなく伝わってくる。


 本来なら、もっと殺伐とした空気になるのに……花村君は、それが不思議で不思議で仕方なかった。


「取り敢えず翻訳してみっか」


 マウスを操作して、ブラウザの拡張機能を使う花村君。パソコンのディスプレイに映し出される大量の外国語が、日本語へと変換されていく。


 その一つ一つを確認していくと、


 彼の眉間の(しわ)がさらに寄った。


「サクラ様と聞いて飛んできました……チャンネル登録、メンバーシップになったので配信を楽しみに待ってます……サクラ様?」


 どのコメントにも必ず書いてある『サクラ』。


 それが何を意味するのか分からない花村君は、見当違いな方向へ勘違いした。


「シェリーちゃんって、海外だとサクラって呼ばれてんのかな? Cherry(チェリー)とシェリーって似てるし」


 それ以外、思い当たる節がない。四分咲の暗喩だとは夢にも思わない。


 彼はあまり深く考えず、コメント欄を閉じた。


「やっぱり、シェリーちゃんって誰が見ても可愛いって思うんだな。チャンネル登録者数、一億を超えてっし……」


 思い通りにならない現実に、花村君がボリボリと頭を掻き毟る。


 まさか登録者が増えるなんて思ってもみなかった。タカシの炎上が有耶無耶になりつつある。


 これはもう、次なる一手を打つ必要があった。このままでは終われない。


「もっと炎上になりそうなネタをアップするかぁ。凛子ちゃんに絡んでる画像とか」


 こうなってしまっては仕方ない。


 前回は日和ったが、今回は凛子と絡んでいる隠し撮りをアップしよう。


 連日連夜、凛子の動向について熱く語る狂信者だ。


 崇拝する推しに絡んでいると知れば、潰しにかかるに違いない。


 熱くなってきたところで、タカシの個人情報をリークするのも面白い。住所が晒されれば、日常は滅茶苦茶になるだろう。


 悪意が集まれば、いくら能天気なタカシだって耐えられない筈だ。学校にも通えなくなるだろう。


 歪んだ笑みを浮かべながら、炎上の火種をアップする花村君。


 彼は今日もアクセル全開だった。




───────── 




 空が白み始める、閑静な住宅街。


 花村君は、エナジードリンクを買いにコンビニへと向かっていた。


 これから起こるであろう炎上は、歴史に残るような大炎上。


 クレイジーな凛子のファンが、四分咲タカシを叩くのだ。想像するだけで笑いが止まらない。


 これはもう、リアルタイムで炎上を観察する必要がある。眠っている場合ではない。


 ウッキウキでコンビニへと向かう花村君。


 大通りを曲がり、意気揚々と裏道に入ったところで、




 彼の足が止まった。




 道を塞ぐように、ガラの悪い外国人が(たむろ)しているのだ。


 先頭に立つ細身で柔和な男以外、筋骨隆々な体付き。全身にタトゥーが入ってたり、スキンヘッドやドレッドヘアーだったりと、マフィアを彷彿とさせる。


 片田舎では、まずお目にかからない集団。


 そんなイカツイ外国人達が、我が物顔で道を塞いでいるのだ。


 動揺して、思わず一歩後退りをする花村君。


 水蓮寺高校ではヤンチャで慣らしてきた。


 陽キャとしてオラオラを通してきた。


 そんなイケイケな彼でも、あの外国人の中を割って行くことなんて出来なかった。そんな度胸、欠片も持ち合わせていない。


 慌てて視線を外し、道を変えようと踵を返す。


 静かに立ち去ろう。あのマフィア達に気付かれないよう、音もなく立ち去ろう。


 そう思いつつ来た道を振り返ると、 




 彼はさらに絶句してしまった。




 退路を断つように、黒髪の、黒いロングドレス姿の女が立っているのだ。


 それも一人や二人じゃない。パッと見る限り二十人以上の女が立っている。先頭に立つ瓜二つな女以外、大きなサングラスをかけている。


 統一された服装とスレンダーな体型は、マネキンと見間違えるくらい。そんな異様な集団が、一瞬にして退路を塞いでいるのだ。


 息を呑む花村君。


 恐怖で腰が抜けそうになっていると、無機質な声が響いた。


「お前が花村玲王(れお)っすか?」


「水蓮寺高校一年D組、出席番号30番、花村玲王(れお)っすか?」


 フルネームで呼ばれ、ビクッと身体を揺らす。


 その瞬間、彼は悟った。


 この異様な集団は、俺に用事があるんだ──何か理由があって俺を囲んでいるだ──と。


 固まる花村君に代わって、マフィア側に立つ、細身の男が応えた。


「間違いない。彼が例の花村だ」


「裏取らなくて大丈夫っすか? 人違いだったら洒落にならねぇっすけど」


「マールを使ったから大丈夫だよ。間違いなく彼は花村だ」


「そっすか。ポートマンがそこまで言うなら、間違いないっすね」


「じゃあ、さっさと終わらせるっす」


 黒いロングドレスの集団から、瓜二つの女が一歩前に出る。


 そしておもむろに、右腕を振りあげる。


 工場を彷彿とさせる、ガコンッガコンッという鈍い音が鳴り響いた。同時に、彼女達の右腕が、黒く巨大な砲身へと姿を変えていく。


 まるでロボットアニメのSF兵器。


 そう形容するしかない砲身が、花村君に向かって振り下ろされた。瓜二つの女が照準を合わせるように、砲口を向ける。


 中腰で構えるその姿は、見惚れるほど洗練された無駄の無い動きだった。


 花村君は唐突に理解する。




 アレを自分に、ぶっ放すつもりなんだと。




「ひっ……ひぃぃぃぃ……」


 腰を抜かし、情けない悲鳴を漏らす。


 強烈な殺意を向けられ、ポロポロと涙が零れ落ちる。


 現実とは思えないワケの分からない展開に、恐怖で股間が濡れてきた。なぜこんな目に遭うのか、花村君はさっぱり分からなかった。


 そんな中、幼い少女の声が響く。


「ポートマンもカーソン姉妹(シスターズ)もやめーや。お前ら、タカシが絡むとすぐ暴走するからイヤやわ」


 気が付くと、花村君の隣に、赤髪ツインテールの少女が立っていた。


 射線上に割り込むように佇んでいる。


 少女の登場に、カーソンと呼ばれた姉妹がムッとした表情を作った。


飛龍(フェイロン)はコイツが何をやらかしたか分かってるんすか? 許されないことをやったんすよ?」


「だからって、躊躇なく一般人を消そうとすんなや。タカシはそんなん望んどらんって」


「こんなクソは、とっとと殺処分した方がいいんすよ。この場に生の(エンド)終着点(ポイント)死への(ターニング)分岐点(ポイント)がいたら、もっと滅茶苦茶やってたっす」


「丸くなったアイツらがそんなんするワケないやろ。ちょっとは落ち着きーや」


「じゃあシュルツっす。回帰不能点ポイントオブノーリターンは、もっと酷いことやってたっす」


回帰不能点ポイントオブノーリターンを挙げんなや。アイツを持ち出したら、なんでもアリになるやんけ」


 飛龍(フェイロン)と呼ばれた小柄の少女が、呆れ顔になる。


 そんな彼女達の会話に、細身の男が混ざった。


「それじゃあ飛龍(フェイロン)は、このガキを放置するのか? それがタカシ君の為になるって言うのか?」


「お前も極端なやっちゃなぁ……なんでゼロか百かでしか考えんねん。もっと(あいだ)取れやバカタレ」


「間っていわれても……匙加減が分からないんだよ……マジで……」

 

「ホンマこの頭空っぽ太郎は……まぁ見とけや」


 そう言って赤髪の少女は、花村君へと視線を移した。


 少女の瞳は、


 完全にゴミを見るような目つきだった。




「生体兵団常識人部門・第一位の飛龍(フェイロン)ちゃんが、極めて常識的な追い込みってのをお前らに教えたるわ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
現在のTSボデーが、誰かのDNA利用して造られたから生体兵って名乗ったのかな…?
フェイロンって生体じゃなくて機械化じゃ無かったっけ?
え、ここから入れる保険があるんてすか?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ