表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/103

83話


「タカシ君、ナタリーさん。ワタクシを見て、何か気付きませんか?」


 一学期、最終日。終業式が始まるまでの、僅かな待機時間。  


 ナタリーと教室で雑談してたら、シェリーがドヤ顔で近寄ってきた。


 俺達の目の前に立つと、フフンと両手を腰にあてる。


「昨日までのワタクシとは、大きく違うところがありますの。ワタクシの変化、分かりますか?」


「変化?」


 唐突な質問に首を傾げていると、ナタリーが「はいは~い」と手を挙げた。


「分かったぁ〜。便通が良くなったんだろぉ〜」


「ちゃうわい。そんな下品な報告するワケねぇでしょ」


「じゃあ、性癖が変わったのかぁ〜?」


「人の話を聞いております? なんですか性癖って。もっと真剣に考えろですわ」


「あ! もしかしてバカが治ったのかぁ〜? おめっとぉ〜!」


「違いますわ。バカは全く治ってねぇですわ────って、おちょくっておりますの!? 当てる気ねぇでしょ!?」


 腰にあてていた両手を突き上げて、ムキーッと吠える。


 ついにバカを認めやがったなコイツ……まぁ、別にいいけど。


 俺も、二人の会話に混ざる。


「髪でも切ったん? その割には、あんまり変わってないように見えるけど」


「あれま!? タカシ君もワタクシの変化に気付きませんの!? もっとよく観察して下さいまし!!」


「んー……? 化粧品を変えたとか?」


「ぶっぶー。ワタクシすっぴんですぅ〜。化粧水しか使っておりませ〜ん」


「香水を変えた……?」


「はぁ……タカシ君も気付かないのですね……はぁ……」


 大げさに溜息を吐きながら、わざとらしく首を振るシェリー。


『これだからタカシ君は鈍感で困りますわ』と言わんばかりの仕草。


 思わず悔しくなって、こっそり特性を使う。


「変化……変化……変わったところなんてあるか? 違いが全く分からんのだけど……」


「もぉ〜……なんで気付きませんのぉ〜……? グレィス使っていいですから、もっとよく見て下さいまし」


「使ってコレなんだよ……ごめん、答え教えてくんない?」


「もぉ〜……タカシ君もナタリーさんも、本当にダメダメですわねぇ〜……もぉ〜……」


 軽く俺達をディスりつつ、ポケットからスマホを取り出すシェリー。


 数秒操作した彼女は、おもむろにディスプレイをこちらへ向けた。


「十万」


「え?」


「チャンネル登録者数、十万の女になりましたの」


「………………」


「一夜にして十万。ネットを震撼させ、バズり散らかした美少女が爆誕ですわ」


「………………」


「全くぅ……人気者となったシェリーちゃんに気付かないなんてぇ……二人とも鈍感さんで困りますわぁ……全くぅ……」


「なーにニヤニヤ笑ってんだよ。遠回しに自慢してきやがって」


 表情が緩みまくっているバカに、アイアンクローをぶちかます。


 必殺技を食らっても、シェリーはニコニコと笑うだけだった。


 上機嫌な様子に、釣られて笑う。


「十万ってすげぇな。ここまで人気が出るなんて思わなかったわ」


「ワタクシも、ここまでのびるとは思っておりませんでしたわ。完全に、凛子さんのおかげですわね」


「これからもコラボしてくれるっていうから、もっと登録者が増えていくと思うよ。良かったな」


「凛子さんには一度、お礼をしなきゃなりませんわね……今度、取っておきの一発芸を彼女に────」


「卒倒するからやめーや。お前の取っておきって、グロ耐性ある俺だってキツイんだから」


 不穏なことを呟くシェリーにツッコミを入れる。


 そうやって穏やかに会話を重ねていると、シェリーのスマホを眺めていたナタリーが、コクンッと首を傾げた。




「チャンネル登録者、十万いってなくねぇ〜? なんか、どんどん減ってるっぽいんだけどぉ〜」




───────────




「な、なんでですの!? なんで登録者が減っておりますの!?」


 ドヤ顔が一転して、涙目になったシェリーがスマホを操作する。


 酷く慌てた様子で、動画投稿サイトのマイページを確認している。

 

「今朝確認した時は、間違いなく十万を超えておりましたの! たくさん小躍りしましたのっ!!」


 震える指先で、スマホをなぞる。


 減少が止まらないと悟ったのか、結構ガチめに泣き始めた。


「ひっく……や、やっと誇れるモノを見つけたと思いましたのにぃぃ……ア、アンに負けないぃぃ……取り柄が出来たと思いましたのにぃぃぃ……うぁぁぁぁん……」


 そして彼女のスマホに、ポタポタと涙が溢れ落ちる。


 数分前までドヤ顔で笑ってたのに……なんか可哀想になってきたな……。


 むせび泣くシェリーの背中を擦りつつ、ナタリーに話を振る。


「何が起こってんの?」


「ん〜……シェリーちゃんねるの登録者が、どんどん減ってるっぽいんだよぉ〜。こんな減り方、珍しいなぁ〜」


「原因は? 登録者が減っていく原因ってなに?」


「ん〜……調べてないから、そこまではちょっと分かんないかもぉ〜……」


 ナタリーも不思議そうに、首を傾げている。


 普通じゃない減り方をしてるってことは、何かしら問題が起こってる可能性あるのか。


 シェリーに視線を戻す。


 哀愁を漂わせながら、えぐえぐと涙を零していた。


 うーん………………。


 なんとかしてやりたいって思っちゃうんだよなぁ……。


 シェリーはバカで残念で泣き虫で、失敗ばかりするようなヤツだけど、こういう姿をみると、なんとかしたいって思っちゃうんだよなぁ……。


 惚れた弱みってヤツだな。知らんけど。


 ポリポリと頭を掻きながら、立ち上がった。


「ごめん。俺、帰るわ」


「ん〜? 終業式はぁ〜? サボるのぉ〜?」


「そうだよ。原因調べなきゃならんからね。そんじゃ、お先」


 手早く帰り支度をして、教室を出る。


 数秒後。


 ナタリーとシェリーが慌てながら、カバンを抱えて追いかけてきた。

 

「ち、ちょぉ〜! 置いていくなよぉ! ビックリしたじゃんかぁ!!」


「待って下さいましぃ〜……うぁぁぁん……置いてかないで下さいまし〜……」


「ん? お前らもサボんの? 別に付き合わなくていいのに」


「タカスィはぁっ! アタシの傍を離れるなっていつも言ってるだろぉ!! アタシがいなきゃダメな人なんだからぁ!!」


「よしよしして下さいましぃ〜……うぁぁぁん……よ゛し゛よ゛し゛ぃ゛〜゛……」


「騒がしい奴らだなぁ……」


 バカ共の会話を聞き流しつつ、昇降口に向かう。


 そのまま俺達は、近所のファミレスへと移動した。




──────────




 お手洗いを済ませた巴ちゃんは、愕然としていた。


 なにやら急に、タカシ達が早退をかましたようだ。


 なにかトラブルがあったみたい。近衛隊が言うには、緊急を要する内容だったそう。


 タイミングを逃した巴ちゃんは、ギリッと歯を食いしばる。


 タイミングの悪い自分の膀胱を、これでもかと恨む。


 また一つ、彼女は見逃してしまったのだ。




 面白そうな瞬間を。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ