74話
ここまで読んで頂きありがとうございます。
都内某所。外資系ホテルの一室。
スイートルームの片隅で、一人の少女が、パソコンを相手に睨めっこしていた。
ディスプレイを見つめる蒼眼は、まさにハンターそのもの。普段下ろしてある長い青髪は、今は邪魔にならないよう一つにまとめられている。
小柄な体型も相まって、小学生にしか見えない幼い容姿。実年齢は十八歳なのに、少女はどこまでもあどけない印象を与えていた。
そんな愛くるしい美少女が、鬼気迫る表情でブラインドタッチをかましている。
まるで性に目覚めた男子高校生が、一心不乱にエッチな動画を探すかのように。
一頻りタイピングを繰り返した彼女は、一段落ついたのか、深呼吸をするように息を吐いた。
「やっぱり私の想像通り、イタチごっこになってるわね。みんなアカウントを作り直して、画像をアップしているわ」
ディスプレイには、一人の少年が映っていた。
黒髪、黒目の、素朴な日本人の少年。
黒いバトルスーツに身を包み、フルフェイスのヘルメットを小脇に抱えている。戦闘が終わった直後なのか、インナーの襟で汗を拭っていた。
顔だけ見れば、どこにでも転がってそうな男の子。特段かっこいいワケでもない、その出で立ち。
そんな素朴な少年を、少女は慈しむように見つめた。
「それにしても、まさかここまで話題になってないなんて思ってもみなかったわ……日本人って、本当に戦争のことを何も知らないのね……」
人差し指でディスプレイをなぞりながら、小さくぼやく。
あれだけ想い人の名前を連呼しているのに、名乗り出る男性は同姓同名の別人ばかり。
当の本人は無視を決め込んでいるのか、全くアクションを起こしてこなかった。
ここまですれば、良くも悪くも絶対に反応があると思っていたのに…………少女は思惑が外れたのか、焦燥感に襲われていた。
彫刻のような顔を歪めていると、机に置いてあるスマホが震えた。
少女がそれを手に取ると、画面に浮かぶ通話ボタンをタップする。
「なによ」
『なによじゃありませんよぉ! オリヴィアさん、何やってるんですかぁ!?』
電話越しに聞こえる、国連軍、統合特殊コマンド・生体兵団総監、ガーネット・ステルヴィアの叫び声。
少女はムッとして、整った眉を寄せた。
「なんなのいきなり? なんか文句でもあんの?」
『ありまくりですよぉ! なんでタカシ君のことを、ネット配信で口にするんですかぁ!? ご自身の影響力くらい考えて下さいよぉ!!』
ガーネットの叱責に、苛立ち始める少女。
これまでの鬱憤をぶちかます。
「私だってこんな手は使いたくなかったわよ! でも先に約束を反故にしたのは、国連復興軍の方じゃない! 終戦したらタカシと汗だく子作りエッチをさせてくれるって約束はどうなったのよ! 止めてほしかったら、さっさとタカシの連絡先と住所を教えなさいよね!」
『む、無理に決まってるじゃないですかぁ! タカシ君の情報は、軍の最高機密になってるんですよぉ!? 最高機密を漏洩させるワケにはいかないんですよぉぉぉ!!』
「何が最高機密よ! ガバガバセキュリティの癖に! 最高機密を謳うなら、ネットに上がってる画像を先になんとかしなさいよね!」
『イ、イジワル言わないで下さいよぉ……これ以上、総監の悩みの種を増やさないで下さいよぉ……』
遂に泣きが入る、ガーネット総監。
いくら懇願されても、諦めきれないのが愛に狂う女子。
底冷えのする口調で、淡々と反論を始めた。
「私がどれだけ国連復興軍に尽くしてきたか、ガーネット総監も分かってるでしょ? かなりの額を寄付してきたし、慰安ショーもノーギャラでやったし」
『そ、その節はぁ……助かりましたけどぉ……』
「ノーマルの警備が甘くて、広域アブダクションに巻き込まれたこともあったわね。タカシが助けてくれなかったら、今頃デブリのお腹の中にいたわ」
『………………』
「あとで知った話だけど、ノーマルは、広域アブダクションで攫われた人達を見捨てようとしてたみたいね。それを聞いて、すっごい呆れたわ」
『そ、それは……ゴードン総帥が勝手に判断しただけでぇ……生体兵団は、最初から救出に動いてましたよぉ……』
「知ってる。だからあんな目にあっても、私は生体兵の為に最後まで国連復興軍に尽くしたし、最終決戦で戦歌も歌ったのよ」
リボンを外し、一つにまとめていた髪をほどくオリヴィア。
長く美しい髪を指で梳かしながら、彼女は言葉を続けた。
「そこまで尽くした私の、たった一つの願いを国連復興軍は反故にしたのよ? これ以上、とやかく言われる筋合いないわ」
『お気持ちは分かりますけどぉ……せめて軍の最高機密を公言するのは止めて下さいよぉ……総監が怒られてもいいんですかぁ……?』
「別に私が言わなくたって、既に世界中で話題になってるじゃない。いくら規制したって、英雄の情報は隠しきれないわよ」
『それもなんとかしろってぇ……軍の上層部に詰められている総監の身にもなって下さいよぉ……みんな無茶苦茶言ってくるから草しか生えませんよぉ……うぇぇ……』
ふにゃふにゃとした泣き言が、オリヴィアのスマホから響く。
彼女がいくら規制をかけても、大量の捨て垢から、タカシの画像がアップされるのだ。
まるでネット黎明期の、違法動画が乱立していた頃を思い出すやり口。あまりの熱量に、ガーネットは頭を抱えていた。
他人事のオリヴィアが、話を戻す。
「だから私は、タカシに会うまで止まるつもりはないの。タカシは私の全てよ。私のヴァージンロードを、彼に捧げちゃうんだから」
『殊勝なことを言ってますけどぉ……オリヴィアさんの今の行動を見たら、いくら温厚なタカシ君でも怒ると思いますよぉ? 大丈夫なんですかぁ?』
「怒る? あのタカシが? そんなワケないじゃない」
そう言って少女は、誰もが見惚れるような、天使の微笑みを浮かべた。
「だってタカシは言ってたもん! ウジウジした女より、面倒臭くてキツイ女がタイプだって! 手に負えないくらいが、ちょうどいいんだって!」
七章完結まで毎日投稿したいと思います。21時から22時を目安に投稿しますので、宜しくお願い致します。
再開にあたり、ご報告がございます。
2024年12月20日に二巻の発売が決定いたしました。
敏腕っぷりを発揮し続ける編集者様と、相変わらずの超絶最強っぷりを見せつけるイラストレーター様のおかげで、素晴らしい出来栄えとなりました。
これも全て、応援して下さった皆様と、一巻を購入して下さりました方々のおかげであります。
本当にありがとうございました。
二巻も加筆をかなり行いましたので、七章完結時にお話し出来ればと思っております。そこまでお付き合い頂ければ幸いです。
最後に、評価、ブックマーク、感想、大変ありがとうございました。沢山の優しいお言葉を頂き、私は五大陸イチの幸せ者だと確信しました。
これからも面白い作品作りに努めますので、今後とも宜しくお願い致します。
(^o^)/
追記
既に予約をされている方もおり、恐縮の極みであります。ありがとうございます。
再開と共に告知をしようと考えていたのですが、既に色んなサイトで告知されていたようです。
告知タイミングを完全に逃しておりました……すんやせんっした……。








