7話
「とんでもない男だな」
「ホントだねぇ」
姉さんの話を聞いた俺とナタリーは、大神とかいう男に呆れていた。
「どんな育ち方をしたらそこまで外道になれるんだ? 笑えないレベルのクズじゃん」
「こういうエネルギッシュな男にこそ、戦場に来て欲しかったよね。すぐ戦死させるけど」
ナタリーも相当嫌悪しているようで、人差し指で体をトントン叩きながら、不快感を露わにしていた。
ちょっとヤバいな…………。
ナタリーに嫌な癖が出始めている。大神と彼女が再び接触したらマズイ事になるかも。
「それでさっき、ショートメールで呼び出しがかかったんだけど……」
そう言って、スマホをこちらへ向ける姉さん。
画面には、姉さんが来ないと俺を殺すと書かれていた。
殺すねぇ…………。
「ふーん」
「な、なんかアッサリした反応だね……タッ君怖くないの?」
「怖い?」
「だって大神君が脅してきてるんだよ? あの人に目を付けられて怖くないの?」
「その発想は無かったなぁ……」
冷静になって考えてみれば、あの体格の男に詰め寄られるのは恐ろしいだろう。姉さんなんて特に華奢だし。
ずっと戦場に居たから、その辺の感覚が鈍ってるな。
「それで……タッ君に危害が及ぶくらいなら、私が呼び出しに応じた方がいいのかなって考えてて……」
「何言ってるんだよ姉さん……」
完全に視野が狭まっている姉さん。
大神が望む展開に突き進むのはやめてほしい。ちゃんと悩み聞いといて良かったわ。
「こんなの無視すればいいんだよ無視すれば。相手にしちゃダメ」
「え、え? い、いや……だって……無視したら、どんな目に合わされるか……」
「それなら警察に相談すればいいじゃん。その為の警察なんだから」
「け、警察? 警察……」
顎に手をあてて、姉さんが何かを悩むような仕草をする。
そして芳しく無い表情で、口を開いた。
「警察に通報なんてしたら、それこそ酷い目に遭わされると思うんだけど……恨みも絶対買うだろうし……」
「じゃあ無視でいいよ。ちょっとスマホ貸して」
目の前にあるスマホを奪い、スッスッと操作する。
二分ほどで完了したので、固まっている姉さんにスマホを差し返した。
「はい。これでおしまい」
「うぇ!? え? タ、タッ君なにしたの……?」
「着拒と受信拒否。あと警察に通報するから震えて眠れって送った」
「タ、タッくーーーーーーーん!!??」
「あははははは!! タカスィいいぞぉ〜! いいぞぉ〜タカスィ〜! あははははは!!」
ナタリーが手を叩いて笑う。俺の対応に溜飲が下がったようで一安心。
「な、なにしてるのよぉ〜……まずいよぉまずいよぉ〜……」
「大丈夫だよ。姉さんは心配性だなぁ」
「タッ君は大神君の怖さを知らないからそんな事が言えるんだよぉ〜……」
「デージョーブだって。オラにまかせろ。基本的に俺とナタリーが一緒にいるんだから、姉さんに何かされるって事は無いよ」
「そ、それじゃあタッ君とナタリーちゃんが危ない目に遭うじゃん……」
全くこの人は……自分の事より、人の心配ばかりして……。
半泣きで呻く姉さんに、安心させるように笑いかけた。
「なんとかなるって!」
「ならないよぉ〜!」
姉さんの叫び声が響く。
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大神天河は、今しがた届いた一通のショートメールを見て、激昂した。
内容は警察に通報するといったモノだったが、それを平気で送ってきた事に憤っていた。
しかも、それも送ってきたのは、あの四分咲花梨。
断る事が苦手そうな、あの女にだ。
自分を舐めた行動に、握りしめたスマホがギシギシと軋み、画面がひび割れを起こす。
大神はこれまで、何人もの同級生を破滅させてきた。
碌に反抗出来ないよう、言うことを聞かなければ本人ではなく身内を襲うと脅し、残虐の限りを尽くしてきた彼にとって、いつもの常套手段が使えない事に苛立ちを覚える。
あまつさえ、警察に連絡すると言われる始末。
思い通りにならない事に、大神の苛立ちは殺意へと昇華していった。
大神は思う。
壊してやる。
全てを壊してやる。
花梨の目の前で弟を壊しながら、気が狂うまで犯してやる。
あの白人の女も同じだ。
生きてる事を後悔する程、犯してやる。
弟に姉の痴態を見せるのも面白いかもしれない。花梨の反応が楽しみだ。
俺を舐めた事を後悔させてやる。
死ぬまで。
彼は下卑た笑みを浮かべ、ひび割れたスマホを操作しながら仲間へと連絡を取った。








