66話
ホームルームのチャイムに遮られ、花村君は苛立ちを抑えながら席に戻った。
とにかくタカシのことが気に入らない。
タカシの一挙手一投足が、許せなくて許せなくて仕方ない。
アレが美少女に好かれるとか、何かの間違いでしかない。こんなこと、あって許されない。
しかも花村君というトップカーストのイケメンに、馴れ馴れしく接してくることも許せない。陰キャに舐められているという事実が、腹立たしくて憎らしい。
これはもう、四分咲タカシを徹底的にぶっ潰さなければ気が済まない。きっちりイジメ倒し、登校拒否まで追い込むのが筋ってものだ。
天乃君不在の今、彼を止める生徒はいない。
ホームルームが始まると同時に、花村君はメッセージアプリを立ち上げた。担任の美波ちゃんにバレないように、ガラの悪いクラスメイトと連絡を取り合う。
目的は、タカシに対する嫌がらせ。
その作戦会議を、彼は始めた。
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花村君が、ここまでタカシに攻撃的になれるのは理由があった。
完全に逆恨みになるのだが、彼は密かに、春椿文香に恋をしていた。
カリスマモデルの陰に隠れがちだが、実は凛子と遜色がないくらい、可愛らしい顔立ちの文香。
低身長の童顔でありながら、その幼い雰囲気とは相反するようなダイナマイトバストに、花村君はやられてしまっていた。
さらに、死ぬほどぶっきらぼうな凛子とは違い、穏やかで優しく、大人しい性格なところから、花村君だけではなく、彼女に惚れる男子生徒は後を絶たなかった。
それこそ二日に一度、文香に告白する男子生徒が現れるくらい。カリスマモデルで高嶺の花すぎる凛子より、手の届きやすい文香の方がモテていた。
そんなモテモテの文香は、なぜか特定の彼氏を作ろうとしなかった。
誰が告白しても、どんなイケメンが愛を伝えても、「ごめんなさい、私、好きな人いるから」と言って応じることはなかった。
当初は文香と仲の良い、大塚錬児のことが好きなのかと思われていたが、錬児に彼女がいることと、文香がそれを否定したことから、その線はすぐに否定された。
なら一体相手は誰なのか。水蓮寺高校の男子生徒は、それが気になって気になって仕方なかった。
花村君は、その相手が自分のことだと、信じて疑わなかった。
中学時代、バスケ部の県選抜に選ばれ、高校に上がると同時にレギュラーへ抜擢。
動画配信者としてもそこそこ成功しており、チャンネル登録者数は一万の大台を突破する(自称)インフルエンサー。
まさに風雲児。こんな自分にこそ、春椿文香が相応しいと思い込んでいた。
なにより花村君は、文香と何度も会話を重ねたことがあった。おはようと声をかければ、概ね返事が返ってくるくらいには打ち解けていると思っていた。
勿論、優しくされたことだってある。花村君が小銭を落とした時は、拾ってくれたことだってあった。
会話の総時間を算出するなら、五分は喋っているのではないだろうか。それくらい、花村君は文香とコミュニケーションを取っていた。
これはもう恋人同士と言っても過言ではない。文香が遠回しに、自分への愛の告白を促しているとしか思えない。
そう確信した彼は、一世一代の愛の告白を、タカシが編入する前日に行っていた。
その後は惨めの連続だった。
あの菩薩のようにお淑やかだった文香が、まるで肉食系女子のようにタカシを追い回している。
しかも高嶺の花すぎて、声をかけることすらままならなかった凛子も、タカシを追い掛け回している。
さらにさらに、日本御三家の御令嬢もタカシにご乱心で、今まで見せたことの無い笑顔を毎日浮かべている。
追い打ちと言わんばかりに、タカシと一緒に編入してきた、白人美少女もベッタリときたもんだ。
文香にバッサリと振られた花村君は、タカシのことを心の底から憎んでいた。
だからこそ、天乃君がクラスメイトに無視を促した時は、率先して動いた。
あることないこと噂話を吹聴し、とにかくタカシの評判を落としまくった。
タカシを陥れる為なら、なんだってしただろう。文香に振られた腹いせを、タカシの悪評を流すことで発散した。
今回、彼らが声をかけたのも、タカシから美少女達を奪い取りたかったから。あんな陰キャより、自分の方が優れた雄だと証明したかった。
だが結局その作戦は失敗し、タカシに馴れ馴れしい態度を取られてしまった。チャンネル登録者数一万人の(自称)インフルエンサー花村君に、馴れ馴れしく接するなんて万死に値する。
だからもう、花村君はブレーキを踏むつもりはなかった。
舐め腐ったタカシを成敗する為、アクセルべた踏みでいくつもりだった。
メッセージアプリを駆使する花村君。ガラの悪い友人達と、大まかな打ち合わせを重ねる。
タイミングの良いことに、これからテストが始まる。
このテストであることを行えば、タカシを追い込むが出来る。複数人でそれを証明すれば、一気に停学まで持っていけるかもしれない。
そうすれば、あの美少女達もタカシに幻滅するだろう。こんな狡い男は嫌いだと、離れていくに違いない。
あとはコッチのものだ。そこで素早く花村君が寄り添えば、みんな自分に惚れると確信していた。
思わずニヤつく花村君。
美少女達が自分に群がる姿を想像し、ムクムクと妄想を膨らませる。
タカシが堕ちていくことを夢見ながら、期末テストが始まるのを、今か今かと待ち侘びた。








