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59話


 ──雲雀家近衛隊 第六号 調査報告書──




 以前、人類がデブリに勝利し、終戦する為には『AからZまでの各タイプに存在する、デブリ最強種を全て討ち取ることが条件』と報告したが、それ以外にも終戦する為に、クリアしなければならない問題は幾つもあったようだ。


 その問題の一つに、『地球上に潜伏する、全てのデブリを見つけ出し、殲滅する事が必要』というモノがあった。


 デブリの繁殖力や、戦闘力を考えれば当然の事だろう。一匹でもデブリを放置すれば、近い未来、数を増やされ、再び脅威に晒される。


 だからこそ、デブリを完全に殲滅させなければならなかったのだが……果たして人類に、そんな事が可能だったのだろうか?


 デブリを見つけ出すといっても、探し出す範囲は地球上全ての地域であり、仮に見つけ出したとしても、今度はその地域へ移動しなければならない。 


 潜伏するデブリを、索敵出来るようなレーダーがあったのだろうか? そして、そのデブリを殲滅する為に、生体兵は各地へ向かったのだろうか?


 生体兵の移動手段は、輸送機だったと聞いている。移動だけで膨大な時間がかかる中、僅か三年でデブリを殲滅することは可能だったのだろうか?


 その上で、『一匹残らずデブリを殲滅した』というのは誰が証明したのか? 一匹も居ないという『悪魔の証明』を、証明する方法はあったのだろうか?


 国連軍が、人類の勝利として終戦宣言している以上、なにかしらの方法で、上記の問題は解決されたと考えられる。


 推測であるが、四分咲タカシの能力が関わっているのではないのだろうか。


 雲雀家の情報網を持ってしても、これ以上情報が入手出来ないのは、そうとしか考えられなかった。




───────────




「シェリー。確認だけど、アイツらの居場所って、この建物で合ってるか?」


「合っておりますわ。今もその建物から動いておりませんわ」


 タカちゃんとシェリーちゃんが、スマホで地図を眺めながら、淡々と何かを打ち合わせしていた。


 何を話しているのか気になるけど、なんか会話に混ざれない雰囲気。タカちゃん、無表情になってるし。


 有無を言わせない、圧を感じるんだよなぁ……いつも、のほほんとしたタカちゃんが、あんな感じになるなんて……。


「ナタリー、G種グレィスの結果はどうだった?」


「通話から聞こえた、笑い声、声の反響、息遣い、衣擦れの音から、仲間は四人いると思うよ。柳川ってヤツを合わせると計五人かな」


「M種マールの結果だと、柳川の周りには四人の人間がヒットしているから…………よし、この場所で間違いないな」


 スマホをトントン叩き、マップにピンを立てる。

  

 そして表示された住所を、タカちゃんは眉を寄せて睨みつけた。


 なにやってるんだろう……さっきから、M種とかG種とか、よく分かんないこと言ってるし……。


「しっかし文香ちゃんは愛されてるねぇ〜。まさかあのタカスィが、あんなにキレるとは思ってもみなかったよぉ〜」


 いつもの調子に戻ったナタリーちゃんが、ケラケラ笑いながら私に話しかけてきた。


「え? あ、愛されてるって……?」


「言葉通りだよぉ〜。タカスィは文香ちゃんの事を、かなり大切にしているんだよぉ〜」


「え……? そ、そうなのかな……?」


 戸惑う私に、シェリーちゃんも近寄ってくる。


「タカシ君って、喜怒哀楽の“怒と哀”がぶっ壊れておりますからね。そのタカシ君があれだけブチ切れたって事は、相当、文香さんを大切にしておりますわ」


「あのさぁ〜……ふと思ったんだけどさぁ〜……仮にアタシやシェリーが、文香ちゃんみたいな状況に陥ったら、タカスィは同じように怒ってくれたのかなぁ〜?」


「…………たぶん、チョップかましながら『詐欺になんか引っかかってんじゃねぇよバカチン』とか言うんじゃねぇでしょうか……そして、『犯人見つけても、ミンチにするんじゃねぇぞ?』とか注意するんじゃねぇでしょうか……」

   

「だよねぇ……アタシ達には、そう言いそうだよねぇ……」


 なんか、しょんぼりしていく、ナタリーちゃんとシェリーちゃん。


 落ち込む彼女達を、慌ててフォローする。


「ナ、ナタリーちゃんとシェリーちゃんの事も、大切に想ってると思うよ! じゃなきゃ、居候なんて許さないと思うし!」


「そういやそうですわね……タカシ君と暮らす事が当たり前になってて、失念しておりましたわ!」


「んふふぅ〜。嬉しいこと言ってくれますなぁ〜」


「ち、ちょっ……脇をツンツンしないで……」


 そんな事を言いつつも、頬が緩んでいく。


 タカちゃんって、そんなに私の事を大切に想ってたんだ……そ、そういえば……私が助けてって言った時も、すぐに駆けつけてくれたし……。


「あ、あの……そろそろ通報してもいいかな……?」


 おずおずと、私達の会話に混ざるお母さん。


 そ、そうだった……お花畑に行ってる場合じゃなかった。


 徴兵が嘘だったから安堵しちゃってたけど、一千万円騙し取られてるんだった。早く通報しないと。


「そ、そうだよね。早く警察に通────」


「ごめん。通報は待ってもらえるか?」


 スマホを眺めていたタカちゃんも、私達の会話に割って入ってきた。意図の読めない発言に首を傾げる。


「え? ど、どうして……?」


「通報の前に、ちょっとやりたい事があるんだよ」


「やりたい……って、なに?」

 

 戸惑う私に、タカちゃんが淡々と答える。


「柳川たちに、心の底から反省させて、謝罪させるんだよ。あれだけの事をやったんだ。警察に通報する程度の、甘っちょろい対応じゃダメだ」


「甘っちょろいって……」


「警察に通報しても、柳川が直ぐに捕まるワケじゃないし、時間が経てば経つほど、騙し取られた金が返ってくる保証は無くなるんだよ?

 それにアイツらが捕まるまでの間、今回と同じ事を必ず繰り返すと思うし、もしかしたら、また文香やお母さんをターゲットにするかもしれない。

 だからこそ、ここは徹底的に、アイツらを潰すべきだと思うんだ」


 早口で諭された。


 いや……タカちゃんの言う通りかもしれないけど……通報以外に出来ることなんて、何も無いワケで……。


 同じことを思ったのか、お母さんが呟く。


「で、でも……私達に出来ることなんて通報くらいじゃ……」


「大丈夫ですよ。今から俺が、全部解決しますんで。ちょっと庭に出ましょうか」


 コキコキと首を鳴らしながら、外に出るよう勧めるタカちゃん。


 何をするのか分からないけど、何かやろうとしているのは分かった。


 困惑しつつ、タカちゃんの指示に従う。


「なぁーなぁータカスィ〜。特性じゃんじゃん使ってるけど、いいのかぁ〜?」


「いいって……何が?」


「ほら、軍事機密になるからって隠してたじゃ〜ん。バレると軍に目をつけられるかもしれないってぇ〜。いいのかぁ〜?」


「い、いいんだよ緊急事態なんだし……最悪、軍がなにか言ってきたら腹切って詫びるわ……」


「伝説の謝罪、ジャパニーズ『ハラキリ』ですわね」


 な、なんの話をしているの? 本当に何をするつもりなの?


 会話が不穏すぎて、怖いんだけど……。





───────────





「取り敢えず、そこで眺めててよ」


 庭に出た私達に、声をかけるタカちゃん。


 彼は腕まくりしつつ、両手を前に突き出し、両掌(りょうてのひら)で三角形を作って、何かを受け止めるような仕草を取った。


 なんだろあのポーズ……天○飯の気功砲?


 完全に置いてけぼりを喰らっていると、ナタリーちゃんとシェリーちゃんの、呑気な会話が聞こえてきた。


「あの動きは……リーファでしょうか?」


「リーファだねぇ」


「ってことは……ここに転送させるって事ですの?」


「みたいだねぇ……ご愁傷様って感じぃ……」


「ですわね……」


 気の毒そうな声を漏らす、ナタリーちゃんとシェリーちゃん。  


 転送? 転送ってなんの事だろ?


 何が始まるのか分からず、ぼんやりとタカちゃんを眺めてたら、







 なんの脈絡もなく、彼の前に、五人の男達が現れた。






 

 酒瓶を持ってたり、体に入れ墨が入ってたり、ガラの悪そうな男だったり。


 酒盛りでも行っていたのか、楽しそうにゲラゲラ笑っている。


 まるで、何処かのお店で飲んでいた彼らを、この場所に瞬間移動させたかのような光景。


 まさに転送。


 その言葉通り、ガラの悪い男達が唐突に現れた。


「マジでチョロ…………え?」


「もう二、三人イケんじゃ…………へ?」


 笑っていた男達の、笑顏が消えていく。


 なぜ、こんな所にいるのか分からないのか、理解の出来ない状況に、彼らはキョロキョロと周囲を見渡していた。


 そんな男達に、タカちゃんが近付く。


「よぉ。クソ共」


「ぁ……え? お、おま……だ、誰……?」


「なんだカス、もう俺の声を忘れたのか? さっき話したばかりじゃねぇか」


「お、お前……ま、まさか……さっきの……」


「そうだよ。俺が文香のお友達だ」


 スーツの袖から入れ墨の見える、オールバックの男に話しかけるタカちゃん。


 どうやら彼が柳川さんのようだ。人をバカにしたような口調だったのに、今はガタガタと震えている。


「お前、たかいたかい好きか? ちっちゃい子が好きな、たかいたかい」


「な、なんだ……この状況……な、なにか起こってる……な、なんなんだこれは!?」


「やってほしいか? 好きだろ?」


「な、なにをやりやがったんだ!? て、てめぇ!! 答えろ!! おい!!」


「やってやるよ。死んで来い」

 

 噛み合わない会話をしていたかと思うと、タカちゃんは柳川さんを掴み、空へと放り投げた。


 本来なら数センチほど宙へ浮かせる、たかいたかい。


 タカちゃんの行った、たかいたかいは、そんな生易しいモノじゃなかった。


 まるでギャグ漫画のように、天高く舞い上がる柳川さん。


 例えるなら、アニメとかで“キラーン”と星になる光景。何度もテレビで見てきた、お約束の一つ。


 そのお約束を喰らった柳川さんは、空の彼方へと消えていってしまった。


「八千メートルほど上がりましたわぁ……あ、落ちてきましたわ」


「怖ぇだろ〜なぁ〜……パラシュートの無い、スカイダイビングが始まったんだからぁ〜……」


「墜落まで、あと二分って所でしょうか。柳川、めちゃくちゃ悲痛な顔で泣いておりますわね……」


「そりゃあ二分後には即死だからなぁ……死への恐怖を、存分に味わってんじゃねぇのかなぁ〜」


 他人事のように、空の彼方を眺めるナタリーちゃんとシェリーちゃん。


 固まる私やお母さんと違って、彼女達は呑気な口調で喋っていた。


 そ、そういえば忘れてたけど……タカちゃんって、改造されてるって言ってたっけ……。


 この非現実的な光景は、その改造が原因なの……?


「じゃあ、次はお前らの番な」


 そう言ってタカちゃんは、柳川さんの仲間に話を振った。


 ガラの悪い男達は、あまりの恐怖に腰を抜かして喋れなくなっている。


 現実的じゃない光景に、脳の処理が追いつかないのかな。まぁ、そりゃそっか。


 彼らの反応が無いことをいい事に、タカちゃんは、男達をどんどん他界(たかい)他界(たかい)していった。


 あっという間に、全員消える。


「そんじゃ全員落ちてくるまで、しばし待機ってことで」


 まるでちょっとしたゴミ掃除を終えたかのように、彼はいつもの口調で呟いた。

 





───────────






「こ、この人達はなんだい? っていうか、なんでみんな土下座で号泣しているんだい?」


「なんなのよコレ……何がどうなったら、こんな状況になるの……」


 駆け付けた凛子ちゃんと巴ちゃんは、周囲を見渡してドン引きしていた。


 そりゃそんな反応にもなるよね。


 私達の前には、ガラの悪い男達が、ガタガタと震えながら土下座しているのだから。


 いきなりスカイダイビングは、相当怖かったのだろう。股間びちゃびちゃになってるし……。


 まぁ、彼らからしたら、お酒飲んでたら急に転送されて、次の瞬間には天高く舞い上がったんだもんなぁ。漏らすのは無理ないか。


 ちなみに、地面に衝突する瞬間は、もっと意味分かんなかった。


 柳川さん達の体が、重力に反するようにフワッと浮いて、ゆっくり着地したのだ。


 たぶん、タカちゃんがまた何かやったのだろう……なんか手をキツネの形にして、パクパク動かせてたし……。


「す、すぐに金は返します……し、失礼な発言をしてしまい申し訳ございませんでしたぁ……ゆ、許して下さいぃぃぃ……」


「って柳川は言ってますけど、どうします?」


「ど、どうしますと言われましても……」

  

 お母さんも事態について行けないのか、オロオロと男達を見渡していた。


 そんな困惑するお母さんに、タカちゃんが軽いノリで提案する。


「まだコイツらがムカつくなら、次は成層圏まで飛ばしますよ? どうします?」


「うぁぁぁぁ!! 許してぇぇぇ!! 許してぇぇぇ」


「うぁぁぁぁ……すみません……もう勘弁して下さいぃぃぃ……うぇぇぇん……」


「えぇぇ……」


 タカちゃんの冗談には聞こえない発言に、阿鼻叫喚になっていく男達。


 さすがに、泣き叫ぶ男達を見て気の毒に思ったのか、お母さんは無理矢理ニッコリと笑った。


「も、もう大丈夫だよ! うん! お金も返ってくるなら、もう大丈夫!」


「え? 許しちゃうんすか? まだまだ地獄のような苦しみを────」


「だ、大丈夫! みんな反省しているみたいだし、大丈夫だよ! ね、ね!? ふ、文香もそう思うよね!?」


「う、うん! もう大丈夫!」


「そっすかぁ……まぁ、文香とお母さんがそこまで言うなら……」


 その言葉に、柳川さん達から、安堵の溜め息が漏れる。


 良かった、生きて帰れる、そんな声が聞こえるかのような、弛緩した空気が流れた。


 ホッと胸を撫で下ろす男達を、タカちゃんが睨みつける。


「それじゃあ、今すぐお母さんから騙し取った金を用意しろよ。今すぐ、全額な」


「は、はぃぃ! すぐに用意します!!」


「秒でやれよ? それが終わったら通報してやっから」


「は、はいぃ! ………………え? つ、通報?」


 キョトンとする柳川さん。


 彼の顔が、驚きの色に染まっていく。


「あ? なんだそのツラ。まさか金返して終わりとか、甘い事を考えてんじゃないよな?」

 

「え? い、いや……その……」

 

「俺は、文香やお母さんと違って、お前らの事を許したワケじゃねぇんだよ。しかもこんなクソみたいな事に戦争を利用しやがって……きっちり自首して、罪償ってこいやボケナス」

 

「ぁ……は、はい……分かりました……」

 

「あとさ、他にも犯罪やってんだろ? それも洗いざらい全部喋れよ? 包み隠さず全部な」


「は、はぃ……」


「少しでも誤魔化したり、嘘が分かったら、次はもっと無茶苦茶やるからな? 体験したから分かると思うけど、俺から逃げきるとか不可能だから」

 

「………………」


 柳川さんの顔が、どんどん老けていく。


 逃げ切れない事を悟ったのか、彼はこの世の終わりみたいな顔になっていった。







───────────






 その後、柳川さんから一千万を回収したタカちゃんは、「やっぱ通報なんて甘っちょれぇ! 俺が責任持って、コイツらを警察署にブチ込んでくる!」と吠えて、男達を連れて行ってしまった。


 ナタリーちゃんとシェリーちゃんが、「止めとけってぇ! 通報だけにしとけってぇ!」とか、「絶対ややこしい事になりますから、止めて下さいまし!」とか止めていたが、タカちゃんは二人の制止を振り切って行ってしまった。


 相当、頭に血が登っていたんだろう。タカちゃんのあんな姿、初めて見た。


 最終的に、ナタリーちゃんとシェリーちゃんも諦めてたもんなぁ……トボトボと、タカちゃんの後を追う姿が印象的だった。


 大勢で行ってもアレだからと、私達を残して。






 事情を把握出来てない凛子ちゃんと巴ちゃんに、この二、三日の出来事を説明した。


 我ながら突拍子もない話をしているなぁ……と思いながら説明していたけど、二人は疑うことなく、私の話を黙って聞いてくれた。


 そして一頻(ひとしき)り説明が終わると、凛子ちゃんが急に抱きついてきた。


「なんで……すぐ言わなかったの……?」


「え?」


 ポツリと呟いた凛子ちゃんの、抱き締める力が強くなっていく。


 声に、震えが帯び始める。


「わ、私が連絡した時……文香さんは言ったよね……? だ、大丈夫だから……し、心配しないでって……」


「ぅ、うん……」


 凛子ちゃんの抱き締める力がどんどん強くなっていく。


 震え声が、嗚咽へと変わっていく。


「ず、ずっと……ひとりで……た、耐えてたの……? わ、私達が買い物に行ってる間も……ひ、一人で……」


「ぁ……ま、まぁ……うん……」


「バカァァァ!!!」


 (せき)を切ったように泣き始めた凛子ちゃんは、私を責め立てた。


「なんでもっと早く私に連絡しないのよぉぉ!! バカぁ!!」


「ご……ごめんね凛子ちゃん……り、凛子ちゃんを巻き込みたくなくて……」


「私達、親友でしょぉ……巻き込みなさいよぉ……巻き込んでよぉ!!」


「ご、ごめん……ね……ぐす……凛子ちゃ……ぐす……」


「文香さんがぁぁ……一人で泣いてるとか許さないからぁ!! 次やったらぁ……絶対に許さないんだからねぇ!!」


「ご、ごめんね……ぐす……凛子ちゃん……ごめ……んねぇぇぇ……」


 しがみつく彼女を、強く抱き締め返す。


 タカちゃんもそうだけど、凛子ちゃんも凄く人が良い。


 これで恋のライバルなんだもん。ライバルって思う以上に、親友として大好きって気持ちが勝っちゃうから困る。


 親友の温もりを感じながら、私は、彼女の優しさを噛み締めた。






 そんな中、巴ちゃんの戸惑った声が響く。


「こ、こういう時……ボクはどうすればいいんだろう……」


 




───────────






「な、なんていうか……タカシ君が、全部解決してくれたね」


「うん……」


 あれから数時間後、凛子ちゃん達と別れた私は、お母さんと二人っきりになっていた。


 目の前のテーブルには、タカちゃんが取り返してくれた一千万が乗っている。


 なんやかんや色々あったけど、これで全て元通りになったワケだ。


 徴兵も無い、いつも通りの、平凡な日常に。


 もう戻ってこないと諦めかけた日常に。


「タカちゃん、お礼する間もなく行っちゃったね」


「コイツら警察署へぶち込んで来る! って吠えてたもんね」


「なんか、今日の魔法みたいなのって、タカちゃんの超能力らしいよ。すごいよね」


「お母さん、魔法ってよく分からないけど、凄いっていうのは伝わったよ。びっくりした!」


「タカちゃん、怒ってたね……私とお母さんが、バカにされたの聞いて……」


「タカシ君、怒ってたね……私達の為に、怒ってくれたよね……」


 地獄のような数日間だったのに、最後の最後で、まさかこんな結末になるなんて思ってもみなかった。


 タカちゃんが、全部解決してくれたんだもん。もう終わったと思うような状況を、全部解決してくれた。


 なんなのこれ……凄いよ……凄すぎて困っちゃうんだよ……。


「ねぇ文香……タカシ君の事が好き?」


「好きだよ。大好きだよ。毎日好きが更新されていくよ」


「それならタカシ君と結婚してくれる? お母さん、タカシ君のお母さんになりたい」


「そんなん言われなくても絶対結婚するよ。私、タカちゃんと添い遂げる事が最終目標なんだから」


「お願いよ。お母さん、精一杯サポートするから。ぜったいタカシ君と結婚してよ」


「任せてお母さん。私、やると言ったら絶対やる女だから」


「じゃあ早速、タカシ君のお母さんを誘ってみるね。今度、家族ぐるみで温泉旅行に行きましょうって」


「わ〜い! お母さん、フットワークかっる〜い!」


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― 新着の感想 ―
他界他界で声を出して笑ってしまいました。
[一言] 投稿者スカルさんの「噴火口からの火喰火喰(ひくいひくい)」ふいたわwww
[一言] 不憫可愛い子が1人いるよな。巴ちゃん本当好き
感想一覧
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