6話
どうにも私は、男の子に揶揄われやすい体質をしてるらしい。
小学校の頃は、学校中の男子生徒に揶揄われてたし、スカートなんて履こうものなら毎分捲られる始末だった。
弟が居なくなってからは、同情心から直接的なイジりは減ったが、それでもゼロにならないレベルで揶揄われていた。
友人が言うには、私は嗜虐心をそそる見た目をしているそうで、どうしてもイジメたくなっちゃうらしい。
レズっ気のある友達が、割とガチ目に襲って来たこともあったから……多分間違ってないと思う。
そんな私が大神君に目をつけられたのは、今の高校へ入学して、半年経った頃。
彼は私のいじめられっ子体質に引き寄せられたのか、執拗に粘着するようになった。
初めの頃は、一時だけのモノだと思って何をされても黙って我慢していた。
大神君の悪い噂は聞いていたし、刃向かったり拒んだりしたら何をされるか分からなかったから。
だから、彼が興味を無くすまで我慢を続けてた。
それなのに…………私を揶揄っていく内に、大神君は自分の女になれとか言い始めた。
なんでよぉ……。
勘弁してほしかった。
こんな事になるなら、もっと全力で拒否すれば良かった。
何度も、何度も、自分の女になれと脅迫される日々。
誘いを断ろうものなら、腹いせに同級生が殴られる日々。
私が殴られるのではない。
クラスメートを殴る事によって、間接的に私を追い詰めていく大神君。
同級生は優しく、身を挺して私を守ってくれたけど、私は耐えられなかった。
私のせいで、同級生が傷つく。
それが辛くて、学校へ行けなくなってしまった。
弟を失った喪失感を埋める、最後の心の拠り所が奪われ、私の心は折れたのだ。
そうだった…………。
タッ君が帰ってきた喜びで忘れてた…………。
私は…………不登校だったんだ…………。
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「え? 試験勉強終わったの? 早すぎじゃない?」
「ふへへぇ〜〜。アタシの力を持ってすれば余裕のよっちゃんなんだよぉ〜」
「俺、まだ三割くらいしか終わってないのに……」
デパートから帰ってきた私たちは、早めの夕食を取っていた。
タッ君とナタリーちゃんは、今日の勉強の手応えについて盛り上がっている。
大神君と出会った事は、すっかり忘れているようだった。
「そういえば、タカスィも早めに勉強切り上げてたよねぇ〜。なんでぇ〜?」
「ナタリーが立ち読みを止めた後、すぐに店員から注意されたんだよ。いつまで立ち読みしてんだ! 出てけ! って」
「あらまぁ〜」
「まぁ毎日朝から晩まで立ち読みしてたら怒るわな……」
私の高校へ入ろうと頑張る二人を見て、胸が締め付けられる。
私の高校には、あいつがいる。
大神という悪魔が。
今日の事で、二人の面は割れている。
仮に今、私が学校を辞めたとしても、タッ君とナタリーちゃんを使って私を呼び出そうとするだろう。
大神君が、私のウィークポイントを突かない筈がない。
間違いなくタッ君たちに危害が及ぶ。
それだけは…………耐えられない。
せっかく生きて戻って来てくれたのに……辛い思いなんてさせたくない。
タッ君たちを巻き込みたくない。
もう、私が覚悟を決めて彼の誘いに乗ればいいのだろうか?
それしか……ないのかな……。
「姉さん。姉さん」
「お姉ちゃーん」
そうだ。
私が我慢すれば、それでいいんだ。
いつまでも逃げ続けていたら、私の大切なものが壊されていく。
それなら私が耐えればいいんだ。
そう。
それがいい。
「姉さん? ぼーっとしてどうしたの?」
目の前にタッ君の顔が近づく。
もうすこしで鼻先が触れ合うという所で、私は二人に呼びかけられていた事に気がついた。
「うぇっ? え? あれ? ん? な、なに?」
「お姉ちゃん、動揺しすぎじゃなぁい〜?」
「帰ってからずっとその調子だけど、何かあったの?」
タッ君達の疑問に、私は慌ててしらばっくれた。
「な、なんのこと? べ、別に、い、いつも通りだけど?」
「誤魔化すの下手すぎない?」
薄く笑うタッ君の横で、ナタリーちゃんがご飯を食べながら指摘してきた。
「大方、昼間の男の事で悩んでたんしょぉ〜? あいつに会ってから、お姉ちゃん明らかにおかしくなったもんねぇ〜」
「ち、ちがっ……そ、そんなこと……」
「そういえば姉さんに付き纏ってるとか言ってたよな。アイツってストーカーなの?」
ナタリーちゃんの一言で、タッ君が不審がる。
二人を巻き込みたくない。
なんとか話を替えないと。
「ち、違うよ! 二人が心配するような事なんて何もないから!」
「デパートから帰って、一言も喋らなくなってたのに何でもないの?」
「っ………! ち、ちょっと考え事をしてただけだよ………」
「そんな泣きそうな顔で考える事ってなに?」
「っつ……!!」
的確な指摘に動揺する。
まさか、タッ君がそこまで私の事を見てるなんて思わなかった。
今の一言で、半ば覚悟を決めていた私の感情が揺らぐ。
助けて欲しい。
巻き込みたくない。
救って欲しい。
関わらせてはならない。
相反する二つの感情が、私を襲う。
何も言えず俯く私に、タッ君が優しい声で呟いた。
「姉さん。悩みって一人で解決するより、周囲に打ち明けた方がいいんだよ。一人で抱え込むと視野が狭まって、正しい対処が出来なくなるからね。それに相談してみたら、案外簡単に解決出来たりする事もあるし」
目に涙が溜まってくる。
ここで泣いたら、私が悩んでいるのが決定的になってしまう。
だから泣いたらダメなのに、タッ君の優しい言葉に、感情が言う事を聞いてくれない。
「取り敢えず言ってみてよ。家族なんだからさ」
「…………ぁ………ぅぁ………ぁぁぁ………」
その一言で、私の心は決壊した。ポロポロと大粒の涙が溢れる。
こうなってはもう、隠す事なんて出来ない。
巻き込んでごめんなさい、という罪悪感と、聞いてくれてありがとう、という深い感謝の念がぐちゃぐちゃになりながら、私は今の状況を二人に相談した。








