53話
試着室で、凛子が選んでくれた水着に着替える。
さすが凛子チョイスなだけあって、なんていうか……こう……すっげぇおしゃれなヤツを選んでくれた。
俺のモブ顔にも、バチッと嵌ってくれてるんだもん。凛子ってやっぱ凄ぇぜ。さすがカリスマモデルだぜ。
ちなみに、シェリーの選んだブーメランパンツは、凛子と巴ちゃんによって却下された。
真っ赤な顔で、「なんてモノ選ぶのよ! こんなのダメに決まってるでしょ!」とか「英雄にガチなパンツを勧めないでくれ!」とか、結構キツめに叱られていた。
シェリー涙目になってたもんな……普段バカみたいな言動をする割に、打たれ弱いから困る。
「タカシー、どぉー? サイズ合ってるー?」
「合ってるよー。そろそろ着替え終わるから待っててー」
凛子に催促されちゃったから、さっさと着替えを終わらせないと。
取り敢えず脱いだ服は、適当に畳んで隅に寄せておこうかな。変に置いておくと皺になるし。
靴下も……脱ぐか。履いてるとなんか違和感がある。
そんな感じで少し手間取っていると、ナタリーとシェリーの声が聞こえてきた。
「アタシは写真を撮るから、シェリーは動画を撮ってくんなぁい? 分担しようぜぇ」
「いいですけど……データ交換が条件ですわよ?」
「勿論だってぇ〜。いやぁ〜、タカスィの裸体を拝められるなんて、何ヶ月ぶりになるだろぉ〜。楽しみだなぁ〜」
「ち、ちょっとドキドキしてきましたわ……鼻にティッシュの準備を……」
「キミたちは何をやってるんだい? スマホなんか取り出して……」
巴ちゃんの呆れ声が、試着室越しに響く。
アイツら、またなんか始めやがったな……。
「まあまぁ巴ちゃ〜ん。それよりさぁ〜、二人とも油断してたらダメだよぉ〜? タカスィの体ってぇ、まぢでヤベぇからぁ〜」
「ん? ヤバいって、どうヤバいのよ?」
「それは見てからのお楽しみですわ」
「え?」
まぁた変なことを言いやがって……。
バカ二人が余計なことを喋り始める前に、さっさと試着室の扉を開ける。
「おまたせ。どう? 似合ってる?」
「………………」
「………………」
「俺的には結構いい線いってると思うんだけど……どうかな?」
「ぁ……ぅ、うん……い、良いわね……えっちで……」
「ぁ……ぁ……あうぅぅ……」
「なにその反応」
そしてなんだこの空気。
なんでこんなネットリとした感じになってるんだ? 二人とも、顔が真っ赤になって、ちょっと半笑いになってるし。
そんな失笑するほど変かなぁ……この水着……。
「なぁ? お前らはどう思う?」
「やっぱ、タカスィくらいの大胸筋が一番セクシーだよねぇ〜。こう、戦闘に特化しましたぁ! って感じがしてさぁ〜」
「無駄な脂肪を、極限まで減らしている所もポイントが高いですわ。この腹筋のラインとか生唾ものですわよ」
「聞いてる? 俺の話」
「タカスィって普段着痩せしてるからさぁ、脱ぐとギャップが半端ねぇんだよなぁ。何度も見ているのに、何度もドキドキするもぉ〜ん」
「軍の男共をぶっ飛ばしたくなりますわね……シャワー室で、何度もこの美体を拝めていたのですから……」
「聞いてねぇな」
こっちはこっちで、写真や動画を撮りながら、全然関係のない会話をしていた。
俺の言葉が聞こえないほど、全力でスマホを操作している。
アングルがすっげぇイヤらしい。上へ下へと大忙しだ。
「ご、ごめんタカシ……ち、ちょっと水着がズレてるから、な、直すわね……」
そう言って、そそくさと凛子が俺に近づく。
水着を直すとか言ってたのに、やたら腹とか腰を撫で回す。
「ぅぁ……な、なにこれ……す……すっご……」
「ちょ、ちょっ!? 狡いぞ凛子さん! ボクも! ボクも触ってみたい!」
巴ちゃんも叫びながら駆け寄ってきた。そして凛子と仲良く、俺のカラダを勝手にさわさわ。
「な、なんなんだ……この筋肉……ボクの近衛隊とは、比べモノにならないくらいセクシーなんだけど……」
「モ、モデルでもいないわよ……こんな身体……」
「どうしよう凛子さん! ボク、変な感じになってきたんだけど!」
「落ち着いて巴さん! ここで慌てたら、ただのチョロい女に成り下がるわ!」
水着そっちのけで、俺の体を揉みしだく凛子と巴ちゃん。
顔つきがヤバい。言っちゃ悪いけど、ただのおっさんにしか見えない。
ってか水着……水着の感想がねぇなぁ……。
「えへへぇ〜。タッカスィ〜、こっちに目線ちょうだぁ〜い。ダブルピースしてぇ〜。うっへへぇ〜」
「べ、別に、タカシの身体に興奮してるワケじゃないんだからね! ちょっと持病の発作が出ちゃっただけなんだからね!」
「や、やば……鼻水出てきた……ね、涅槃の審判にティッシュを……」
「どうでもいいですがナタリーさん、ちょっと左にズレてもらえません? えちえちな股間が撮れませんのよねぇ……」
「なんだこれ?」
ネチャッと騒ぎ立てる、バカ四人。
水着なんてそっちのけで、そのまましばらく騒ぎ続けた。
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「タカシ。こっち、こっちの水着も着てみなさい!」
「こ、これも! これも着てみてくれ! 絶対タカシさんに似合うと思うんだ!」
「…………あのさ、俺の水着を選んでくれるのは嬉しいけど、お前らの水着はいつ選ぶんだ?」
既に二時間ほど、俺は凛子たちに言われるがまま、着せ替え人形と化していた。
昨日は「パパッとアンタの水着を買って、私の水着選びに付き合ってもらうんだからね!」とか言ってたのに、一向にソッチに行く気配がない。
こういう時って、女の子の水着を見てドキドキするのがお約束じゃないの? 少なくとも俺はそういう認識でいたけど。
「予定変更よ! 今日は徹底的に、タカシの身体を舐め回──ゲフンゲフン。水着を選ぶわよ!」
「そうだ! 今日はタカシさんの水着選びだ! さぁ! こっちのピッチピチなヤツを着てみてくれよ!」
血走った目で、沢山の水着を渡してくる凛子と巴ちゃん。俺をどうしても脱がせたいのか、グイグイ絡んでくる。
なんかカーソン姉妹を思い出すなぁ……アイツらも、なんやかんや言って、俺を脱がせようとしてきたし。
コーヒーとかジュースとか使って、服を汚そうとわざと転んだり。まぁ、全部躱してきたけど。
そんな荒ぶる彼女達に、シェリーがスススッと近づく。
「そろそろコレの出番ではありませんの?」
ちょんちょんと肩を叩いて取り出したのは、さっき凛子たちに怒られた、ブーメランタイプのパンツ。
二人の顔色が変わる。
「どうです? コレを履いたタカシ君……見たくありませんか?」
「「…………っつ!?」」
「恐らくですが、段違いでエッチだと思いますわよ。どうします?」
「「…………ゴクリッ」」
「先ほどの叱責は水に流します……ですから今は、協力して野獣になるべきだと思いますの……」
「そ、そうね……や、野獣……野獣もいいわね……」
「仕方ない……なるか……野獣に……っ!!」
「女子高生の会話じゃねぇなぁ」
おっさんと化した女子高生達にツッコみを入れていると、スマホがピロンと鳴った。
メッセージアプリに通知が入ったようだ。
宛名は……文香か? 素早くアプリを立ち上げ、内容を確認する。
そこには、
たった一言、『助けて』と文字が浮かんでいた。








