52話
「そういや、ポートマン達は何やってんの?」
「飛龍さんとカーソン姉妹は、体の修理をしておりますわ。特に飛龍さんは、ワタクシがグッチャグチャにしてしまいましたので、けっこう時間がかかると仰ってましたわね」
「ポートマンは不動産を調べるって言ってたよぉ〜。結構な数の兵士が日本に来るから、受け入れられる物件を探すんだってぇ〜」
「ふーん……」
翌日、待ち合わせ場所のショッピングモールについた俺たちは、適当な会話をしながら時間を潰していた。
前泊したおかげで遅刻することはなく、三十分前には目的地につくことが出来た。
天気も快晴だし、絶好の買い物日和。
「あんまり考えないようにしてたんだけど、何人くらいの兵士が日本に来るんだろ? 故郷に帰ったヤツらも居るから、全員じゃないと思ってるんだけど……」
「少なくとも、ガチ病み系のシュルツさんと、ガチクズ系のラウランさんは来そうですわね。ワタクシと同じで、タカシ君が居なくなったことにブチギレてましたから」
「アイツらが来るなら、お目付役の翠もコッチに来ると思うよぉ〜。アッチの問題児共は、翠が担当になってるからねぇ〜」
「兵長と、残りの基準点がこの田舎に来るのか……」
いいのか?
世界中の戦力のほとんどが、この田舎に集まって。
問題になりそうな気配がぷんぷんする。ちょっと不安。
「それより、なんでお姉ちゃんは来てないんだよぉ! 今日はお姉ちゃんに、水着を選んでもらおうと思ってたのにぃ!」
「姉さんは水着持ってるから、今日は友達と作戦会議をするって言ってたよ。ほら、この前、ウチのクラスにピンクの髪の先輩が来ただろ? あの人と遊ぶんだって」
「あぁ〜……あの、やたらファンキーな子とかぁ〜……」
「お姉様に水着を選んでほしかったですのに……しょんぼりですわ……」
肩を落とす、ナタリーとシェリー。
コイツら姉さんの事が好きすぎるだろ。まぁ、姉さんって優しくて可愛いから、好きになるの仕方ないけど。
「そんなにしょんぼりすんなって。俺が変わりに、お前らに似合う水着を選んでやっからさ」
「タカシ君に任せますと、すっげぇエッチな水着を選んできそうで怖いですわ……まぁ、タカシ君が着ろと言うなら着ますけど……」
「紐みたいなヤツを選んできそうだよねぇ……まぁ、タカスィが言うなら着るけどさぁ……」
「着てくれるのか……」
普段ワガママ言う割に、こういう時は拒まないから困る。
いいのか? ホントにえっちなヤツ選ぶぞ?
「ただ、ワタクシたちがエッチな水着を着るなら、タカシ君にもエッチな水着を着てほしいですわね。ブーメランタイプの、食い込みが激しいヤツ」
「あぁ〜……じゅるり……いいっすねぇ〜……」
「着てもいいけど需要ねぇだろ。誰が喜ぶんだよ、そんなの」
そんな感じで、適当な会話を重ねる俺たち。
徐々に、周囲に人だかりが出来始めた。
「けっこう人が増えてきたな」
「そろそろ開店時間だからねぇ〜」
「…………ちょっと待って下さいまし。なんかおかしくありません? なぜワタクシたちの周りに、人が集まってきておりますの?」
「え?」
シェリーの言葉に釣られて周囲を確認すると、確かに俺らを中心に、数十人の人だかりが出来始めていた。
ちょっと距離を空けて、ヒソヒソとコチラを伺っている。
耳を澄ませてみると、メチャクチャ可愛い! とか、モデルさんかな!? との声。この注目は、俺たちっていうより、ナタリーとシェリーだな。
「お前らのことが気になるんじゃないの? 今日の服装かなり可愛いし」
「あー……」
「あ〜……」
二人は今日、白と黒を基調とした、やたらフリフリなワンピースに身を包んでいた。
レースやら、なんやらが備わって、やたら可愛い感じに仕上がっている。
白人特有の顔立ちも合わさって、かなり目立つ。俺の軍パン、Tシャツ姿とはえらい違いだ。
「薄々勘づいておりましたが、やっぱりワタクシって可愛いんですのね! 死への分岐点とか、ゾンビとか言われておりましたから、危うく勘違いするところでしたわよ!」
「軍の連中はホンット見る目ないよねぇ! こんなプリティーなナタリーちゃんが、ゴリラにしか見えないんだからぁ!」
ふふん! と嬉しそうに胸を張るナタリーとシェリー。
認識変わってよかったね。幸せそうでなによりです。
「タカスィは幸せ者だねぇ! こんな可愛い美少女に愛されてるんだからぁ!」
「このこのぉっ! 幸せ者めぇ! し・あ・わ・せ・も・の・めぇ! ですわっ!」
「絶好調だな……お前ら……」
「みなさ〜ん! この人が、アタシの彼ピッピでぇ〜っす! この可愛い可愛いナタリーちゃんを射止めた、超絶イケメンボーイになりまぁ〜っす!」
「ワタクシの彼ピッピでもありますわぁ〜! この美少女シェリーちゃんを骨抜きにした、未来の旦那様でもありますわぁ〜!」
「ちょっ!? なに大声で手ぇ振ってんだよ! 変に盛り上がんなバカ!」
慌ててバカ共に、アイアンクローをブチかます。
ナタリーとシェリーの暴走は、凛子たちが到着するまで止まらなかった。
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「この人だかりはなんだい? っていうか、なんでみんな殺気立ってるんだい?」
到着するなり、周囲を見渡す巴ちゃん。
俺を睨み付ける群衆を眺めながら、怪訝そうな顔で呟いた。
「ナタリーとシェリーに辱められた所為でこうなった」
「辱め……? 辱めってなんだい?」
「もういいじゃん……説明するのもしんどいわ……」
十五分ほど、バカ達にあることないこと叫ばれた。
その結果、凄まじいヘイトを集めてしまった。
「あの冴えない男が彼氏……?」「しかも二股……」「もしかして洗脳?」「いや、催眠かもしれない」「脅迫も考えられる」「通報した方がいいのでは?」とかなんとか聞こえてくる。
誰も俺の味方をしてくれない……俺、なにもやってないのに……。
肩を落として項垂れていると、巴ちゃんが近くのSPさんを呼ぶ仕草をした。
「取り敢えず、涅槃の審判に指示して、人払いをしてもらうよ。こんなに人がいたら、落ち着いて買い物なんて出来ないからね」
「え? と、巴ちゃん……有能すぎひん……?」
「これを放置していたら、タカシさんに喧嘩を売ってきそうだからね。さすがに、英雄にそんな思いはさせないさ。ボクに任せてくれ」
「なにこの子……女神?」
やっぱ巴ちゃんよ。
普段の言動で忘れそうになるけど、この子ってすっげぇ優しいんだよね。クラスメイトに慕われるだけある。
SPさんへ指示を飛ばす彼女に見惚れていると、背中を軽くトントン叩かれた。
「よっす。アンタの幼馴染が来たわよ」
凛子だ。
サングラスにキャップを深く被って変装している。
口もとしか見えていないのに、可愛い女のオーラが凄まじい。さすがカリスマモデル。
「よっす凛子。あれ? 錬児と文香は一緒じゃなかったのか?」
「二人とも、今日は急用が入ったから、参加できないって連絡があったわよ」
「急用?」
急用ってなんだ?
「なんかあったの?」
「錬児君は、付き合ってる彼女が熱を出したから、看病するって言ってたわね」
「そりゃ仕方ない────って、彼女いんの? アイツに?」
初耳なんすけど。
つーか、錬児って文香のことが好きじゃなかったっけ?
「錬児君は、千恵さんっていう他校の女の子と付き合ってるわよ。付き合って、今年で二年になるって言ってたかな」
「へ、へぇ……そうなんだ……」
それじゃあ、文香と錬児は結ばれなかったのか……俺が呑気に戦争やってる間に、色々ドラマがあったんだな。
そういや、文香はどうしたんだろ?
「文香はなんで来れないの?」
「それが……文香さんはよく分からないのよ。『ごめん。休む』としか返信が無かったし」
「そういや昨日のメッセージにも、『大丈夫だから心配しないで』としか返信がなかったな……アイツ、本当に大丈夫なのか?」
「さぁ……? 分からないわ……」
凛子が、不安気な表情で視線を落とす。
この数日、文香の様子がどうにもおかしい。生真面目な文香にしては、考えられないような行動を取っている。
さすがにちょっと気になるな……。
「水着買ったら文香の家に行ってみよっか。ちょっと心配になってきたわ」
「こんな大人数で押し掛けて大丈夫かしら? もし法事だったら、さすがに迷惑なんじゃ……」
「その時はその時で謝ればいいんだよ。ごめんなさいすりゃ許してくれるさ」
まぁ文香のお母さんなら、そんなことしなくても許してくれそうだけど。
元気付けるように、心配そうに俯く凛子を撫でる。
とにかく水着を買って、文香の家に行ってみよう。








