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47話


 時刻は20時。場所は私の家の、私の部屋。


 私と凛子ちゃんが、週末に向けた作戦会議を行っていると、それは急に始まった。


【シブサキタカシとは誰か…………ですって? タカシは世界を救った令和のスーパーヒーローよ! 見た目はあんまりカッコよくないけど、それ以外は凄くカッコよくて、カッコいいんだからっ!】


「ん? 文香さん。今テレビで、シブサキタカシとか言わなかった?」

 

「…………え? 言ったかな……?」


 凛子ちゃんの言葉に釣られ、BGM代わりに流していたテレビへ視線を移すと、国際的歌姫、オリヴィア・ステージアが映っていた。


 ニコニコ笑いながら、インタビューを受けている。


「気のせいじゃないの? なんか、インタビュー受けてるだけに見えるけど」


「気のせい……なのかしら? 私には、タカシの名前が聞こえた気が……」


「凛子ちゃんの気のせいだと思うよ。国際的歌姫が、タカちゃんの名前を出すワケないもん」


「それもそうね。タカシのことが好きすぎて、幻聴が聴こえてしまったようだわ」


「ふふ。あるあるだね─────」


【タカシの詳細? 彼の年齢は十六歳で、見た目は……そうねぇ……めちゃんこ素朴な男の子よ! アナタ、素朴な男の子を想像しなさい! その三倍は素朴だから!】


「………………………」 


「…………ね、ねぇ文香さん……これってタカシのことじゃないの? 私、アイツほど素朴な男子を見たことがないんだけど……」


「ど、同姓同名じゃない? ほら、シブサキタカシなんて、ありふれた名前だし……」


 渋崎とか……(たかし)とか……。


 絶対タカちゃんの事じゃない。お願い、違うと言って。お願い。

 

 私と凛子ちゃんが、祈るようにテレビを凝視していると、笑顔のオリヴィア・ステージアが、そんな私達を地獄へと叩き落としてくれた。






【彼のファミリーネームって、咲き始めの桜を表すそうね! ふふん! お子ちゃまのタカシには、もったいないくらい綺麗な名前だわ! 私が責任を持って、貰ってあげるんだからね!】







────────────






 

「……………………………………」


「……………………………………」


 私と凛子ちゃんが、無言でタカちゃんにグループコールを鳴らし続ける。


 プルルルルルル、プルルルルルルという静かな発信音が、室内に響き渡る。


「出るまで鳴らすわよ……はよ出なさい……タカシ」


「居留守はダメ……ダメだからね……? 電話でよ? ね? 電話でよ? でよ? タカちゃん」


「今なら撮影だけで許してあげるわ……だから()よ出なさいタカシぃぃぃ……」


「ふ……ふふ……ふふふ……絞り取ってあげるからねぇぇぇ……タカちゃぁぁぁん……」


 そのまましばらく着信を鳴らし続けていると、タカちゃんが電話に出た。


 思わず感情が爆発する。


「タカちゃん!! なに!! なんなの!? なにが起こってるのぉぉぉぉぉぉ!!」


「アンタ説明しなさいよね!! オリヴィア・ステージアと……その……許さないんだからぁ!!」


『……やっぱりニュース見た?』


「見たよぉぉぉ! 目に飛び込んで来たよぉぉぉ!!」


「何がどうなってるのよ! なんで国際的歌姫が、タカシの名前を出すのよぉぉぉ!」


 私と凛子ちゃんが吠えると、タカちゃんが言葉を濁し始めた。


『説明したいのは山々なんだけど……ちょっと色々あって説明出来ないっていうか……』


「色々ってなんなのよ! 私に色々しなさいよ! 許さないわよ!」


「なんで説明出来ないの!? オリヴィア・ステージアと不純な関係だから!?」


『不純って……軍の機密情報が絡んでくるから、安易に説明出来ないんだよ』


「はぁ!? 機密なんてどうだっていいじゃない! 誤魔化そうとしてもムダなんだからね!」


『いやいやいや……どうでもよくないだろ。俺がペラペラ喋って、凛子と文香が軍に目を付けられたら、どうするつもりなんだよ』


「それこそどうでもいいわよ! 私なんて一度巻き込まれてるのよ!? 今さらな話じゃない!」


 いや……まぁ……そうなんだけどさあ……という、申し訳なさそうな声がスマホから聞こえてくる。


 なにこのやりとり。すっごい疎外感。


 凛子ちゃんとタカちゃんに何かあったっぽくて、置いてけぼり感がすっごい。


『わ、分かったよ。じゃあ凛子には説明するから、文香は電話切ってくれる? さすがに文香を巻き込むのは……アレだし……』


「ち、ち、ち、ちょっと待ってよ! なんで凛子ちゃんは良くて、私はダメなの!?」


『いや……だから……軍事機密が……』


「軍事機密を凛子ちゃんに話していい理由ってなんなの!? ダメでしょ! 凛子ちゃんがいいなら私にも説明してよ!」


『えぇぇ……………』


 タカちゃんの、困りきった声がスマホから響く。


 大好きな人を困らせて、ちょっと罪悪感。


 でも、こんなことは認められない!


 妻として、夫の事は何でも知ってなきゃいけないんだからね!!





─────────────





 その後いろいろあって、最終的に観念したタカちゃんが、ギリギリ機密情報に引っかからない(だろう)という範囲で説明をしてくれた内容は、あまりにも衝撃的な話だった。


 意味が分からない。


 か、改造ってなに? タカちゃんの体、どうなっちゃってるの……?


「じゃあ話を(まと)めると、宇宙人に攫われたオリヴィア・ステージアを救い出したのが、タカシの所属する部隊だったってワケなのね?」


『そうそう。その時、フルフェイスのヘルメット被ってたから、たぶんイケメンに助けられたと勘違いしたんじゃないの? 再会した時、冴えないクソガキじゃない! とかキレられたし』


「助けて貰ってるのに、何でそんな失礼な事を言うのよ……」


『それ、姉さんにも聞かれたけど、俺が一番知りたいんだからな。我、命の恩人ゾ? おかしいやろがい』


「もしかして、好きな人にイジワルしたくなる、ってヤツなのかしら?」


『あのね、オリヴィアちゃん、俺の二つ年上なんすよ。二十歳(はたち)近い女が、そんな子供()みた真似しないだろ』


 放心する私を置いて、呑気な会話を重ねるタカちゃんと凛子ちゃん。


 慌てて私は、二人の会話に割って入った。

 

「ち、ちょっと待ってよ! なに穏やかな感じで会話してるの!? 改造ってなに!? タカちゃんの体、機械になってるの!?」


『機械化のヤツもいるけど、俺のはちょっと違って……色んなモノを取り込んで、身体能力を上げてるんだよね』

 

「色んなモノ……? い、色んなモノってなに?」


『ん〜……ちょっと答えられないかな────って、前にもやったな。このやり取り』


 相変わらず、のほほんとした声が返ってくる。


 あまりの緩さに、騒いでいるコッチがおかしいのかな……? って感覚に陥ってきた。


「私も散々タカシに聞いたけど、体の方は特に問題ないみたいよ。空腹になりやすいだけで、後遺症もないみたい」


「そ、そうなんだ……ってか凛子ちゃん、タカちゃんの体のこと知ってたんだね……もっと早く教えてよ……」


「私の口から言えるワケないでしょ。逆の立場だったら、文香さんだって言わなかったでしょ?」


「………………………」


 た、確かに……。


 私が凛子ちゃんの立場だったら、絶対に喋らなかったと思う。


『まぁ、そんな感じだからオリヴィアとはすっげぇ仲が悪いんだよね。二人とも、サイン貰えなくて残念だったなぁ!!』


「…………………………」


「…………………………」


『な、なんか言えよ……わかったって……次会ったら……ダメ元でお願いしてみるから……』


 どこかズレた言葉を口にするタカちゃん。


 こ、この人は、私達がサイン欲しくて連絡してきたと思っているのかな……?





──────────




「それじゃあまた明日」


 そう言って、タクシーへと乗り込む凛子ちゃん。


 さすがトップモデルだ。何気ない仕草なのに色気がすっごい。


 私が凛子ちゃんの美しさに感心していると、凛子ちゃんが思い出したかのように振り返った。


「そういえば、文香さんのお母さんって、まだ帰ってきてないのね?」


「え? うん。まだ帰ってきてないね」


 夕方、凛子ちゃんと入れ替わるように出掛けていったお母さん。


 慌てた様子だったのが、ちょっと気になっている。


「もしかしたら、なにか食材を買い忘れたんじゃないのかな? お母さん、おっちょこちょいだし」


「んー……婚姻届の偽装はやりすぎだって、文香さんのお母さんに注意したかったのに……」


「ハメ撮りを計画して、SNSで発表しようとしてた人が何を言ってるのよ……」




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― 新着の感想 ―
[良い点] 幼馴染みーズがヤバすぎる!錬児助けて!!!
[一言] 頑張ってくれー ずっと続けてほしい
[良い点] ありがとうございます。
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