46話
お久しぶりです。
ここまで読んで頂き、ありがとうございます。
【シブサキタカシとは誰か…………ですって? タカシは世界を救った令和のスーパーヒーローよ! 見た目はあんまりカッコよくないけど、それ以外は凄くカッコよくて、カッコいいんだからっ!】
「ふ、ふざけんじゃねぇぞ……見た目だってカッコいいやろ……バーカバーカ……」
テレビで繰り返し報道される、オリヴィア・ステージアのインタビュー。
それを見たタッ君が、茶の間のテーブルに突っ伏して呻いていた。
「マジで何がやりたいんだよコイツ……オリヴィアは俺をどうしたいんだよ……」
「タカスィに構ってほしいんじゃないのぉ〜? 形振り構わずぅ〜、どんな手を使ってでもぉ〜」
「やり口が外道じゃん……いくら俺の事が嫌いだからって、普通ここまでやる……?」
「ん〜……別に嫌ってるワケじゃないと思うけどねぇ……」
そう言って、タッ君の頬を、人差し指でツンツンするナタリーちゃん。
不貞腐れる弟とは対照的に、彼女はいつもの呑気な顔で笑っていた。
そんな適当なイチャつきを見せる二人に、シェリーちゃんも混ざっていく。
「泣き言はその辺にして、それより、これからどうするつもりなんですの? オリヴィアさん、タカシ君を見つけるまで、止まらない感じでしたけど」
「止まらないって言われても……俺からアクション起こすつもりはねぇよ。住所まではバレてないと思うし」
「……放置するって事ですか? 本当にそれで宜しいんですの?」
「え?」
「彼女を放置すればするほど、タカシ君の知名度は上がっていきますわよ? 本当にそれで宜しいんですの?」
「………………」
「相変わらず、めんどくさい女に好かれる人ですわ……」
放心するタッ君の頭を、優しく撫でるシェリーちゃん。
なんだろう……わちゃわちゃと絡む三人を見ていると、凄まじい焦りに襲われる。
初めてニュースを見たとき、絶対に違う人の話だと思った。
同姓同名の別人だと、信じて疑わなかった。
でも、こんな当たり前のように、国際的歌姫の名前を口に出されると、疑惑が確信へと変わっていく。
私は三人を見渡し、震え声で呟いた。
「み、みんな……オリヴィア・ステージアと……本当に面識があるの……?」
────────────
オリヴィア・ステージアは、洋楽に疎い私ですら知っている、洒落にならないくらい有名な人だ。
心を鷲掴みにするような歌唱力に、マルチリンガルな語学力。
なにより特徴的なのは、十代後半なのに、小学生にしか見えない幼い容姿。身長も140cmに満たないから、彼女の幼さに拍車がかかる。
そんな愛くるしいロリロリフェイスから放たれる、圧倒的な歌唱力は、世界を虜にするのに時間はかからなかった。
そんな国際的歌姫と、タッ君が知り合い────
勘弁して。
勘弁してよぉぉぉぉぉぉぉ!!
ただでさえタッ君の周りには、白人美少女や、可愛い幼馴染、日本有数のご令嬢や、乙女と化したギャル先輩がいるのにぃぃぃ!
これ以上、濃いメンツに囲まれたら、私の影が薄くなっちゃうんですけど! 薄くなっちゃうんですけどぉぉぉぉ!!
涙目になりながら心の中でツッコミを入れていると、タッ君の沈んだ声が聞こえてきた。
「面識あるっていうか……あのバカと少し口論になった事があるんだよ。戦地の慰安ショーで、ちょっと色々あって……」
「こ、口論? あのオリヴィア・ステージアと口論になったの……?」
「初対面なのにクッソ失礼なこと言われたから、カチンときて言い返しちゃったんだよ。我慢すればよかった……アレ以来、変に目ぇ付けられるようになったし……」
「な、なんて言われたの?」
「え? えっと……『アンタが人類の最終到達点〜? ハッ! 期待して損したわ! 冴えないクソガキじゃない!』とか言われた」
「…………へ?」
「あと、『アンタ、コーヒーにお砂糖とミルクを大量にブチ込まないと飲めないタイプでしょ! お子ちゃまそうなツラしてるもんね! ぷっ!』とか鼻で笑われた」
「え?」
「初対面の相手に言うセリフじゃねぇんだよ……さすがに失礼すぎるわ……」
苦虫を噛み潰したような顔で、ブツブツと呻くタッ君。
小声でちっちゃく「つーか、微糖も飲めるようになってきたっつーの」とか呟いている。
話が全く見えない。
「ど、どういうこと? オリヴィア・ステージアは、『I LOVE タカシ。マジで子作り5秒前』っていう変な曲をリリースしてたじゃん? アレは一体なんなの?」
「なんなのって言われても……そんなのこっちが聞きたいよ。最後に会った時も、顔を真っ赤にして怒ってたから、I LOVE タカシとか歌われても意味分からんって……新手の嫌がらせか?」
「タッ君も、なにが起こっているか分からないの?」
「うん……分かんない……」
はぁ〜、と深い溜息をついて、茶の間のテーブルに突っ伏すタッ君。
どうやら彼にとっても、今の状況は、理解出来ない状況のようだ。
いつも飄々としているのに、今は珍しく動揺しているし…………恐らく嘘は言ってないと思う。まぁ、もともと嘘を吐くような子じゃないけど。
たぶん、なにかの間違いなんだろうな。
そうだよ。国際的歌姫がタッ君を好きとか、なにかの間違いなんだよ。
うん。間違いに決まってる。
私がホッと胸を撫で下ろしていると、タッ君が腰を浮かし、ポケットからスマホを取り出した。
「なんだろ……スマホ鳴ってる……」
そのまま画面を確認すると、彼は目を細め、眉を寄せた。
「文香と凛子から、めっちゃ着信入ってる……」
「ひゃっひゃっひゃっ! タカスィは愛されておりますなぁ〜!」
「昼ドラみたいになってきましたわね。タカシ君! 刺されちゃヤですわよ!」
「刺されるってなんだよ……ちょっと電話してくるね……」
そう言って、のっそりと立ち上がるタッ君。
どことなくションボリしている弟に、ナタリーちゃんがヒラヒラと手を振った。
「そんな落ち込むなよタカスィ〜。あとでこのラブリーなナタリーちゃんが、慰めのベロチューしてやっからさぁ〜。元気だせよぉ〜」
「言ったな? お前マジでやれよ? あとで冗談とか言っても許さんからな? デンタルリンスがぶ飲みして待ってろ」
「急に早口になるなってぇ……ごめんてぇ……」
──────────
「タカシ君って、まだ勘違いしているのですね」
タッ君が茶の間から消えると同時に、シェリーちゃんがポツリと呟いた。
勘違い?
か、勘違いってなんの話だろ?
「まぁ〜、アレで気付けっていうのも、酷な話だと思うよぉ。傍から見れば、ただ喧嘩売ってるだけに見えるしぃ」
「ずっと不思議に思っていたのですが、いったい誰がオリヴィアさんに入れ知恵しましたの? タカシ君の好みのタイプなんて、ワタクシ達を除いたら数人しか知らない筈ですけど」
「知らなぁ〜い。カーソン姉妹か、シュルツあたりが喋ったんじゃないのぉ〜?」
「あのヤンデレ共が、タカシ君の情報を売るワケねぇでしょ……」
な、なんの話をしているんだろ?
な、なんだか……すっごく不穏な感じがする……すっごくすっごくイヤな予感がする。
「あ、あのさ……タッ君とオリヴィア・ステージアって……仲悪いんだよね……?」
私が震えながら会話に割って入ると、彼女達はキョトンとした顔で見合わせた。
「あの二人って、仲悪いって言えるのかなぁ?」
「んー……微っ妙ですわねぇ……タカシ君は嫌われていると思い込んでおりますが、実際はそうじゃありませんし……」
「かと言って、仲が良いとも言えないよねぇ。オリヴィアの所為で、毎回口論になってるしぃ〜」
「アプローチの方法が終わってますからね……どういう思考回路をしていたら、ああいう言動になってしまうのでしょうか……」
ち、ちょっと待って……。
オリヴィアはそうじゃない? アプローチ?
そ、それじゃあ、オリヴィア・ステージアって結局────
私がその答えに辿り着く前に、ナタリーちゃんとシェリーちゃんが答え合わせを始めた。
「馴れ初めから説明するとねぇ〜、オリヴィアは戦争中、宇宙人に攫われたことがあるんだよぉ〜。数千人が被害にあった、広域アブダクションってやつに巻き込まれてぇ〜」
「その攫われたオリヴィアさんを救い出したのが、タカシ君ってワケですわ。そこからですわね。オリヴィアさんが、タカシ君に執着し始めたのは」








