表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/103

40話


 喫茶店に、四人の外国人が座っていた。


 片田舎の喫茶店にしては珍しい、美男美女の外国人。


 優雅にお茶を(すす)る様は、まるで映画のワンシーンのよう。誰が見てもそう思うほど、彼らは美しかった。


「もうじきっすかね……」


「もうじきっすよ……姉様……」


 髪型以外、瓜二つの女が呟く。


 時期的には初夏というのに、彼女達は、黒いロングドレスを身に纏い、肌の全てを覆い隠していた。


 二人とも暑さを感じないのか、涼しげな顔で(ささや)いている。


「もう四時になるんやな……そろそろ始めた方がエエんちゃうの?」

 

 どこか違和感のある関西弁で、二人の会話に混ざる少年。


 女性達とは違い、半袖、半ズボンにキャップという、夏らしい格好をしていた。


 しかし、その見た目に反して、少年からはあどけなさを感じない。どう見ても十代前半なのに、誰よりも大人びた空気を(まと)っている。


 そんな少年の言葉に、今度は長身の男が応えた。


「そうだね……そろそろ始めようか……みんな。準備と覚悟は出来てる?」


 まるで、少女漫画から飛び出した白馬の王子のような男。


 同性が聞いても惚れ惚れする声色に、二人の女と、少年が(うなず)いた。


「「大丈夫っす」」


「大丈夫や。待ってる時間で、よーさん覚悟決めたさかい」


「そっか………………よし」


 長身の男が立ち上がり、凛とした声で言い放つ。


「それじゃあ行こうか。生の終着点(エンドポイント)死への分岐点(ターニングポイント)を連れ戻しに」



──────────────




 割と簡単に誤魔化せた。


 華奢なナタリーとシェリーが、力に任せて計測器を壊したなんて思わなかったのか、美波ちゃんはあっさりと俺の言葉を信じてくれた。


 疑い深い性格だったら、間違いなく疑われてただろう。美波ちゃんの人の良さに救われる。


 ちなみに壊した握力計と背筋計は、巴ちゃんが弁償してくれた。


 いいモノを見せてくれたお礼とか言って、半ば強引に美波ちゃんへ札束を渡していた。


 アレの何が面白かったんだろう……最近の御令嬢が考えることはよく分からんね……。


 それとは別に、ちょっと考えなきゃならない事も出てきた。


 ナタリーと、シェリーと、巴ちゃんが、天乃君達を無視している。


 アイツらの言い分だと、クラスメイトに何かされたっぽい……ただ、それが何なのかよく分からない。


 この一週間、俺はアイツらとずっと一緒にいた。それこそ一緒に居ない時間の方が少ないくらい、傍にいた。


 だからこそ分かる。クラスメイト達は、ナタリー達に嫌がらせなんてしていない。


 むしろずっと友好的だった。


 皆からチヤホヤされてたのに……何で怒ってんだろ? 


 理由が分かんない以上、無視するなって注意も出来ないし……どうしたもんかね?


 残りの授業時間、ずっと考えた。一生懸命、考え続けた。


 結局、解決策は出なかった。








 放課後。


 終令のチャイムが鳴り響くと、教室の扉がバンッと開かれた。


「タカシは居るかしら! 出てらっしゃい! アンタの幼馴染が来たわよ!」


「タッカちゃーん。いるー?」


 ズカズカと乱入してきたのは、凛子と文香。


 クラスメイトの注目なんて何のその。堂々とした立ち振る舞いに惚れ惚れする。


 漢らしいっす。


「いるよ。いま帰る準備してるから、ちょっと待ってて」


「支度しながらでいいから教えなさい。アンタ週末ヒマ?」


「週末?」


「水着買いに行こうと思ってるのよ。タカシ、持ってないでしょ?」


「水着……」

 

 水着なら確か、三年前に買ったヤツが……いや、無理か。俺も結構身長伸びたし、サイズ合わなくなってるかも。


「持ってないね」


「じゃあ買いに行くわよ! プロの私が、タカシに似合う水着を選んであげちゃうんだから!」


「お、おぉ〜……ありがと。でも何で水着?」


 俺の疑問に、文香が応える。


「あのね! 今度、海へ行こうって計画してるんだ! タカちゃん好きだったでしょ?」


「うん」


「だから、その為の準備しようって思って! どうかな?」


「海…………」


 思い返してみればこの三年間、海なんて移動か海戦の時しか目にしなかった。


 色々あって忘れてたけど、日本に戻ったら、絶対海へ行こうとか思ってたっけ。


 叶うじゃん。


 あの時の夢が叶うじゃん!


「もちろん行くよ! 海なんて久しぶりだから、マジで楽しみ!」


「決まりだね。じゃあ水着買いに行こ! タカちゃんも、私達に似合う水着を選んでね!」


「任せろ! 男タカシ、全力で頑張るぜ!」


 俺がそう告げると、文香と凛子が顔を見合わせて、ネチャッと笑い合った。


 作戦通り……そんな顔をしている。


「文香ちゃ〜ん。もしかして、海へ行くって言ったぁ〜?」  


 会話に混ざるように、文香に抱きつくナタリー。


 文香と凛子の、ネチャッとした顔が凍る。


「ぇ、え? い、いや……あの……そ、その……」


「アタシも水着選び手伝うからさぁ〜、連れてってくれなぁ〜い? たのまぁ〜」


「ぁ……えっと……」


 なんで目配せしてんだろ?


 二人の顔が、作戦通りって顔から『しまった! やべぇ!』って表情になってる。


「あ、あのねナタリーさん……海は……あの……私達だけで……」

 

「凛子ちゃんの水着も選んであげるよぉ〜。二人ともスタイル良いから、なんでも似合うと思うけどぉ〜」


「…………………あ……あの」


「えへへ〜。海なんて久しぶりだなぁ〜。楽しみぃ〜」  

 

「…………………え、えっと」


 嬉しそうに小躍りするナタリーを見て、苦い表情を浮かべる凛子。


 くっ……とか、うぅ……とか一頻(ひとしき)り呟いた彼女は、やがて何かを決心したのか、腕を組んで、高らかに吠えた。


「勿論よナタリーさん! 一緒に行くわよ! ついてきなさい!」


「やったぁ〜」


「えぇ!? ちょっ!? 凛子ちゃん!?」


 凛子の宣言に、文香が詰め寄る。


「ナタリーちゃんがついて来ちゃったら、打ち合わせした作戦が……」


「作戦なんて変更よ文香さん! 私、こんなに喜ぶナタリーさんを断れない!」


「ま、まぁ……私も断れないけど……」


「一番の目的はタカシを楽しませる事だし、また次の機会に考えればいいわ!」


「はは……それもそっか……」


 そう言って、文香が微笑む。


 よく分かんないけど、話はまとまったみたい。文香と凛子の雰囲気が和らいでる。


「あ、あの……ワタクシも海に行きたいのですが……」


「もちろんだよシェリーちゃん! 一緒に行こ!」


「ボ、ボクもいいかな……?」


「もちろんですよ雲雀様! みんなで楽しみましょう!」


「ボ、ボクの事は巴って呼んで……様も要らないから……」


 自称陰キャ共と、楽しく話をする幼馴染達。


 クラスメイトとは拗れてしまってるけど、文香と凛子とは仲良くやっているようだ。笑い合う彼女達を見ていると安心する。


 ホント紹介しといて良かった。俺の幼馴染はやっぱり人が良い。


 ダイナミックなジェスチャーを使って喜ぶ、シェリーに苦笑していると、


 





 脳に信号(キャッチ)が入った。


『あー、あー、テス、テス……』


 頭の中に、男の声が響く。


 耳から聴こえるのではなく、頭の中に直接入る声。例えるなら、テレパシーのような感覚。


 これってT種ティナだよな? 軍を離れ、もう二度と経験することは無いと思ってたのに……誰が使ってるんだろ?


『よし……聞こえるかな? タカシ君、聞こえていたら返事をしてくれ』

  

 聞き覚えのある男の声。でも、誰が喋ってるのか、いまいちピンと来ない。


 英語じゃなくて日本語だからか? 違和感が凄まじいんだけど。


『誰? 型式と名前を言ってよ』


『え……? ち、ちょっと待ってくれ! 僕の声、忘れちゃったの? え? 悲しいんだけど……』


『………………』


『だ、黙らないでくれ……僕はずっと、タカシ君の傍にいたじゃないか……』


 爽やかボイスなのに、ネットリとした口調……ひとりの男が思い浮かぶ。


『あー…………日本語で話しかけてくるから、誰か分からなかったじゃねぇか。英語で喋れよタコスケ』


『け、結構な言い草だね……頑張って覚えたのに……』

 

 軍を離れて二ヶ月。

 

 まだそんなに期間は空いてないけど、久しぶりに聞く戦友の声に、少し嬉しくなった。





『ようポートマン。元気してた?』



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 幼馴染達はヤベー奴になってしまったけど善性なんだよなあ、だからこそなんだろうな
[良い点] 1話目から名前だけ出てきては、読者に『タカシの尻を狙う男』と認識されていたやべーヤツが満を持して登場です
[良い点] ポートマンな点 [気になる点] タカシの貞操 [一言] ポートマンがたかしを襲おうと画策してたって話があったんで、今後どういったキャラ立ち位置に来るのか... 次話が楽しみです ポートマ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ