4話
一時間後、父さんと母さんがすっ飛んで戻ってきた。
元々かっぷくの良い人達が、姉さんと同じように細くやつれてしまっている。
相当、心配してきたのだろう……俺を抱きしめながら咽び泣く母さんに、胸が締め付けられる。
ガリガリに痩せた二人を見て、俺は親孝行しようと心の底から思った。
「良いご両親だよねぇ〜。まさかアタシの事も、こんなにすぐに認めてくれるなんて思わなかったよぉ〜」
自室に戻った所で、ナタリーから嬉しそうに話しかけられる。
両親から俺の戦友なら家に居ても良い、と言われた事が相当嬉しかったのか、彼女はニヤニヤ笑いながら上目遣いで詰め寄ってきた。
調子に乗った笑顔に、ちょっと意地悪したくなる。
「お前に息子はやらん! って言ってくれるのを期待したのに……」
「残念でしたぁ〜。私の素晴らしい内面が滲み出たんじゃない〜? ぷぷぷ〜」
煽ったのに、煽り返された。
お前の内面が出なかったから認めてくれたんだと思うぞ? 調子に乗んな。
「それよりさぁ〜伝えなくていいの?」
「何を?」
「タカシの体のこと」
急に真面目な声を出すナタリー。
俺を真っ直ぐ見据える彼女に、俺も真面目に答える。
「敢えて伝える必要ないだろ。俺たちの体って軍事機密になってるし」
「別に機密なんて守んなくていいんじゃない? どうせ軍にアタシ達を止めることなんて出来ないんだし」
いや、そうだけどさぁ。揉める前提で話を進めないでほしい。
「正直、俺も母さんと父さんに会うまでは伝えようと思ってたんだよ。でもさぁ……アレ見たら言えなくなっちゃって……」
「あぁ〜……確かにお母さんの喜び方は尋常じゃなかったもんねぇ〜……」
「あんな泣き方されたらさぁ……普通言えないよ。改造されてるなんて……」
伝えた所で誰も幸せにならない。それなら伝えない方が良いに決まっている。
その辺の空気くらい読めるぞ。さすがに。
「日常生活に支障をきたすワケじゃないから、一生隠し通していくわ。言ったところで誰も幸せにならないし」
「バレるなよぉ〜。タカスィって結構おっちょこちょいな所あるんだからぁ〜」
「一理ある」
ケラケラ笑うナタリー。
コイツのこういうところが気に入っている。心配はするけど、深く干渉しない所。
一緒に居て凄く楽だ。
二人でニヤニヤ笑い合っていると、枕を抱えた姉さんが乱入してきた。
「へ、変なことを始めないように、今日は私が見張っているからね!」
俺たちを見渡しながら、高らかに宣言する姉さん。
何を勘違いしているのかは分からないが、強い意志だけは感じる。今日は一緒に寝るつもりらしい。
「お姉ちゃぁ〜ん。変なコトってなぁにぃ〜。純粋で無垢なアタシに教えてぇ〜」
「ぁ……ぅ……うぅ……」
あうあう言いながら、言葉に詰まる姉さん。仕方ない、助け舟を出すか。
「俺が代わりに教えてやるよ。ほれ。そこのベットで四つん這いになれ。ぶち込んでやるからよぉ!」
「え? え? タ、タカシ本気で言ってるの!? う、嬉しい! す、すぐシャワー浴びてくるね!」
「本気にすんじゃねぇよ。知ってる反応じゃねぇか」
知らねぇってトボケるつもりなら、体を使って教えてやろうと思ったのによぉ〜(ネットリボイス)
俺たちの適当なイチャつきを見た姉さんが、慌てながら間に割り込んでくる。
「や、やっぱり二人は不純な関係なんだね……ダ、ダメだよ! お姉ちゃんは許さないから!」
「愛と愛のぶつかり合いを、不純と一蹴するのは間違ってると思います! 性に対する冒涜です!」
「タッ君はどっちの味方なのよぉ〜……」
涙目になる姉さん。
そんな事より聞きたい事があったんだ。今の内に聞いておこう。
「姉さんの高校って制服? 私服? どっち?」
「え? せ、制服だよ?」
「聞いたかナタリー!! 編入先が決まったぞ!! 姉さんの高校だ!」
やっぱり高校は制服っしょ。これだけは譲れない。
「えぇ〜……タカスィ高校に通うつもりなのぉ〜……アタシはいいよぉ〜……」
ゴロゴロと寝転びながら、拒否してくるナタリー。
お前ならそう言うと思ってたよ。
「絶対楽しいって! 俺と一緒にエンジョイしようぜ!」
「やだよぉ〜……なんで集団生活から解放されたのに、集団生活をまた始めなきゃならないんだよぉ〜。お腹いっぱいだよぉ〜」
「軍と高校を一緒にすんなって! 絶対楽しいからさ! な? 一緒に行こうぜ!」
「ヤダってぇ〜……学校なんて楽しくないよぉ〜……」
イヤイヤ首を振るナタリー。
その頭を押さえつけて、なるべく顔を近づけて言ってやった。
「ナタリーの高校生活は俺が面白くするから! 約束する! だから行こうぜ!」
俺の言葉を聞いたナタリーが、ネチャっとした笑顔を浮かべる。
「ホントぉだろ〜なぁ〜。面白くなかったら責任取れよぉ〜」
「卒業の時、高校生活がメチャクチャ楽しかったって泣かしてやるよ。覚悟しとけ」
「うへへへへ〜。覚悟しとくぅ〜」
舌舐めずりしながら、どこか濁った瞳で微笑むナタリー。
コイツには散々助けられたからな。せっかく日本に来たんだ。平凡な高校生活を送って貰おう。
「タ、タッ君、私の高校に通うつもりなの?」
「うん」
「う、嘘……夢みたい……グス……」
俺たちのやり取りを聞いた姉さんが、再び涙目になる。
そんな嬉しそうに微笑む姉さんに、俺は慌てて釘を刺す。
「編入試験に合格しなきゃならないから、まだ通えるかどうか分からないよ」
「え? タカスィ勉強するつもりなの? 軍に掛け合って編入出来るように働きかけして貰おうよぉ〜」
やだよ。
俺はもう、軍と関わりなんて持ちたくないんだよ。
「軍に掛け合ったら、戦地から帰ったってバレて悪目立ちするじゃん。 やだよ! 俺は普通の高校生活を送りたいんだけなんだから!」
「凱旋した戦士の発言じゃねぇなぁ〜……」
ナタリーが呆れて笑う。
どんなに言われても譲れないものは譲れない。
「だから勉強して普通に編入しようぜ! そうすれば目立つ事なんて無いんだから」
「めんどくさいなぁ〜……」
「ナタリーは特性使えば余裕だろ! 頑張れよ!」
「うぃ〜……」
ヒラヒラと適当に手を振るナタリー。
やる気無さそうだが、コイツよりヤバいのは俺だ。
俺の学力の方が、正直ヤバい。
すぐに試験勉強を始めようと、心に決めた。








