表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/103

4話

 一時間後、父さんと母さんがすっ飛んで戻ってきた。


 元々かっぷくの良い人達が、姉さんと同じように細くやつれてしまっている。


 相当、心配してきたのだろう……俺を抱きしめながら咽び泣く母さんに、胸が締め付けられる。


 ガリガリに痩せた二人を見て、俺は親孝行しようと心の底から思った。


「良いご両親だよねぇ〜。まさかアタシの事も、こんなにすぐに認めてくれるなんて思わなかったよぉ〜」


 自室に戻った所で、ナタリーから嬉しそうに話しかけられる。


 両親から俺の戦友なら家に居ても良い、と言われた事が相当嬉しかったのか、彼女はニヤニヤ笑いながら上目遣いで詰め寄ってきた。


 調子に乗った笑顔に、ちょっと意地悪したくなる。


「お前に息子はやらん! って言ってくれるのを期待したのに……」


「残念でしたぁ〜。私の素晴らしい内面が滲み出たんじゃない〜? ぷぷぷ〜」


 煽ったのに、煽り返された。


 お前の内面が出なかったから認めてくれたんだと思うぞ? 調子に乗んな。


「それよりさぁ〜伝えなくていいの?」


「何を?」


「タカシの体のこと」


 急に真面目な声を出すナタリー。


 俺を真っ直ぐ見据える彼女に、俺も真面目に答える。


「敢えて伝える必要ないだろ。俺たちの体って軍事機密になってるし」


「別に機密なんて守んなくていいんじゃない? どうせ軍にアタシ達を止めることなんて出来ないんだし」


 いや、そうだけどさぁ。揉める前提で話を進めないでほしい。


「正直、俺も母さんと父さんに会うまでは伝えようと思ってたんだよ。でもさぁ……アレ見たら言えなくなっちゃって……」


「あぁ〜……確かにお母さんの喜び方は尋常じゃなかったもんねぇ〜……」


「あんな泣き方されたらさぁ……普通言えないよ。改造されてるなんて……」


 伝えた所で誰も幸せにならない。それなら伝えない方が良いに決まっている。


 その辺の空気くらい読めるぞ。さすがに。


「日常生活に支障をきたすワケじゃないから、一生隠し通していくわ。言ったところで誰も幸せにならないし」


「バレるなよぉ〜。タカスィって結構おっちょこちょいな所あるんだからぁ〜」


「一理ある」


 ケラケラ笑うナタリー。


 コイツのこういうところが気に入っている。心配はするけど、深く干渉しない所。


 一緒に居て凄く楽だ。


 二人でニヤニヤ笑い合っていると、枕を抱えた姉さんが乱入してきた。


「へ、変なことを始めないように、今日は私が見張っているからね!」


 俺たちを見渡しながら、高らかに宣言する姉さん。


 何を勘違いしているのかは分からないが、強い意志だけは感じる。今日は一緒に寝るつもりらしい。


「お姉ちゃぁ〜ん。変なコトってなぁにぃ〜。純粋で無垢なアタシに教えてぇ〜」


「ぁ……ぅ……うぅ……」


 あうあう言いながら、言葉に詰まる姉さん。仕方ない、助け舟を出すか。


「俺が代わりに教えてやるよ。ほれ。そこのベットで四つん這いになれ。ぶち込んでやるからよぉ!」


「え? え? タ、タカシ本気で言ってるの!? う、嬉しい! す、すぐシャワー浴びてくるね!」


「本気にすんじゃねぇよ。知ってる反応じゃねぇか」


 知らねぇってトボケるつもりなら、体を使って教えてやろうと思ったのによぉ〜(ネットリボイス)


 俺たちの適当なイチャつきを見た姉さんが、慌てながら間に割り込んでくる。


「や、やっぱり二人は不純な関係なんだね……ダ、ダメだよ! お姉ちゃんは許さないから!」


「愛と愛のぶつかり合いを、不純と一蹴するのは間違ってると思います! 性に対する冒涜です!」


「タッ君はどっちの味方なのよぉ〜……」


 涙目になる姉さん。


 そんな事より聞きたい事があったんだ。今の内に聞いておこう。


「姉さんの高校って制服? 私服? どっち?」


「え? せ、制服だよ?」


「聞いたかナタリー!! 編入先が決まったぞ!! 姉さんの高校だ!」

  

 やっぱり高校は制服っしょ。これだけは譲れない。


「えぇ〜……タカスィ高校に通うつもりなのぉ〜……アタシはいいよぉ〜……」


 ゴロゴロと寝転びながら、拒否してくるナタリー。


 お前ならそう言うと思ってたよ。


「絶対楽しいって! 俺と一緒にエンジョイしようぜ!」


「やだよぉ〜……なんで集団生活から解放されたのに、集団生活をまた始めなきゃならないんだよぉ〜。お腹いっぱいだよぉ〜」


「軍と高校を一緒にすんなって! 絶対楽しいからさ! な? 一緒に行こうぜ!」


「ヤダってぇ〜……学校なんて楽しくないよぉ〜……」


 イヤイヤ首を振るナタリー。


 その頭を押さえつけて、なるべく顔を近づけて言ってやった。


「ナタリーの高校生活は俺が面白くするから! 約束する! だから行こうぜ!」


 俺の言葉を聞いたナタリーが、ネチャっとした笑顔を浮かべる。


「ホントぉだろ〜なぁ〜。面白くなかったら責任取れよぉ〜」


「卒業の時、高校生活がメチャクチャ楽しかったって泣かしてやるよ。覚悟しとけ」


「うへへへへ〜。覚悟しとくぅ〜」


 舌舐めずりしながら、どこか濁った瞳で微笑むナタリー。


 コイツには散々助けられたからな。せっかく日本に来たんだ。平凡な高校生活を送って貰おう。


「タ、タッ君、私の高校に通うつもりなの?」


「うん」


「う、嘘……夢みたい……グス……」


 俺たちのやり取りを聞いた姉さんが、再び涙目になる。


 そんな嬉しそうに微笑む姉さんに、俺は慌てて釘を刺す。


「編入試験に合格しなきゃならないから、まだ通えるかどうか分からないよ」


「え? タカスィ勉強するつもりなの? 軍に掛け合って編入出来るように働きかけして貰おうよぉ〜」


 やだよ。


 俺はもう、軍と関わりなんて持ちたくないんだよ。


「軍に掛け合ったら、戦地から帰ったってバレて悪目立ちするじゃん。 やだよ! 俺は普通の高校生活を送りたいんだけなんだから!」


「凱旋した戦士の発言じゃねぇなぁ〜……」


 ナタリーが呆れて笑う。


 どんなに言われても譲れないものは譲れない。


「だから勉強して普通に編入しようぜ! そうすれば目立つ事なんて無いんだから」


「めんどくさいなぁ〜……」


「ナタリーは特性使えば余裕だろ! 頑張れよ!」


「うぃ〜……」


 ヒラヒラと適当に手を振るナタリー。


 やる気無さそうだが、コイツよりヤバいのは俺だ。


 俺の学力の方が、正直ヤバい。


 すぐに試験勉強を始めようと、心に決めた。

 







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] この二人にチョッカイを掛ける、平和ボケしたDQNはさぞ不幸に見舞われるでしょう!ヘルペアにその辺のヤサグレが手を出すと、不良が範馬勇次郎に手を出すと同じ結果でしょう?
[一言] 地球防衛軍というゲームが好きなのですが、そのゲームの兵士たちのゲーム後のようです こんなお話が読めてとても嬉しいです さてはてこの後どうなるのやら…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ