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32話


 巴ちゃんを守るように、銃を取り出したSPさん達。


 たぶん隊長の人だろう。三十代の渋いオジさんが、俺に向かって大声をあげた。


「四分咲さん! 動かないで下さい! それ以上近寄るようなら発砲します!」


「発砲っすか……」


 沢山の銃口を突き付けられる。


 正直、好きに撃ってくれて構わないけど、跳弾でもしたら彼らが危ないんじゃないだろうか。


 それが原因で窓ガラスが割れても嫌だし…………この狭い空間で使うのは止めてほしい。


 止めてほしいな。


 止めてもらう必要があるな。


 止めてもらうか。




 ──────よし。




Drop your(武器を) weapons(捨てて)


 俺がそう告げると、SPさん達は銃を一斉に手放した。


 彼らの足元に、ガチャガチャと武器が転がっていく。


 巴ちゃん達に動揺が走った。


「え?」


「あ、あれ?」


「なっ!? お、お前ら何をやっている!?」


 SPさん達の行動に、巴ちゃんが怒鳴りつける。


 自分のやった事が信じられないのか、彼らは驚いた表情で戸惑っていた。


「は、早く拾え! タカシさんに銃を拾われているぞ!」


「え!? は、はい!」


 こっそり銃を拾っていると、巴ちゃんに俺の動きがバレた。


 やっべ。見つかった。


Don’t move(そこを動くな)


 もう一度声をかけて、彼らの動きを止める。


 SPさん達は俺の言葉に応えるように、ピタッと動かなくなった。


「お、お前らさっきから何をやってるんだ! は、早く拾え!」


「う、動けないんです! か、体が、全然言うことを聞かなくて!」


「な、なんだって!?」


 動揺する巴ちゃん達を尻目に、俺は拾い集めた銃を、彼女達から離れた位置にまとめた。


 その内の一つを手に取る。


 銃なんてあまり使う機会なかったから、どうやって使えばいいんだろ?


 まぁ、聞けばいっか。


Can you(これの) tell me(使い方) how to (教えて) use this?(くれない?)


「スライドを引いて装填、トリガーを引いて発砲…………はっ!? な、なんで俺は……!?」


「スライドを引いて……Is this (これで) correct ?(合ってる?)


「合ってる。後はトリガーを引けば弾が出る…………く、口が勝手に!? ど、どうなってるんだ!?」


 顔色が悪くなっていくSPさん達。


 理解出来ないモノを見たり、触れたり、体験すると、大体の人は恐怖で動けなくなる。


 ちょうど巴ちゃんを始め、SPさん達がそんな感じになっていた。


「タ、タ、タカシさん……き、き、君は……い、い、一体何をしたの……?」


「ん?」


 カチカチと歯を鳴らしながら、震え声で呟く巴ちゃん。

 

 銃というアドバンテージが無くなったからか、恐怖で怯えているように見えた。


 薄々勘付いてはいたけど、やっぱりドズ化については、そこまで詳しくないんだな。


 ナタリーとシェリーを襲うって、命知らずなこと言ってたくらいだし。


 あんまり怖がらせても仕方ないので、簡単に説明した。


「特殊生体兵が取り込むデブリの細胞は、AからZまでの二十六種あって、それぞれに特性があるんだよ。今、巴ちゃん達に使ったのはL種のルッカ。僅かな時間だけ、簡単な命令を強制させる事が出来るんだ」


「なっ…………!?」


 絶句する巴ちゃんファミリー。


 そりゃ、そんな反応にもなるよな。


 俺も言ってて意味分からんし。どういう原理なんだろうね? マジで。


 銃の装填が終わった俺は、巴ちゃん達に向かい合った。


「それでさ、話を戻すけど、俺を殺せないようじゃ、ナタリーやシェリーを殺すことは出来ないんだよね。アイツらの戦闘力は、俺より全然高いから」


「……………………」


「たぶん……口でいくら言った所で伝わらないと思うし、今からそれを証明するよ」


「………………え?」


 カタカタと、震えの止まらない巴ちゃんに向かって笑いかけると、



 

 俺は手に持っていた銃を自分に向け、銃口を口に含んだ。





「なっ!? 何を────」


 巴ちゃんの驚く声。


 映画とかでよく見る、銃で自殺をする時にとる仕草。


 この状態で引き金を引けば、口の中に弾が発射し、脊髄をぶち抜いて即死するだろう。


 普通の人間なら。


 俺は構わず、引き金を引いた。


 ズドンッという衝撃が喉を貫く。


「ひ、ひぃぃぃぃ」


「なっ!?」


「あ、あ、あ………」


 SPさん達からも、驚きの声があがる。巴ちゃんに至っては、ビビりすぎて涙を流していた。


 まだまだこれからなのに。


 俺がニッコリ笑うと、彼女達は「ヒッ」と引き()るような声をあげ、腰を抜かした。


 行くぜ。


 とにかく引き金を引き続けた。


 ドンッ、ドンッ、と銃声が響き、その度に、俺の喉に衝撃が走る。


 そのまましばらく撃ち続けると、弾が出なくなった。


 空になった銃を持ってても仕方ないので、巴ちゃんの足元に投げ返す。同時に、口の中に発射された弾も、彼女の足元へ吐き出した。


 カラカラと小指の先ほどの鉄が、乾いた音を立てながら転がっていく。


「……ぅ……ぁ………ぁ……」


 ここまで来ると、巴ちゃんは完全に戦意喪失していた。化け物を見る目で、俺を見上げている。


 どうでもいいけど、口の中がめっちゃ火薬臭い……ホントにどうでもいいか。


「言ってる意味分かった? こんなモノ使っても、俺を殺すことなんて出来ないの」


「……………………」


「どう? これを見てもまだ、ナタリー達を襲おうって気になる?」


「……ぁ……ぅ……」


「ならないよね? それならいいんだ」


「……………………」


 眉を寄せて、涙をポロポロ流す巴ちゃん。その姿を見ると、ちょっと残念な気持ちになっていく。


 まぁ……仕方ないか。


「ナ、ナタリーさんが……そんなに好きなの……?」


 出て行こうとする俺に、巴ちゃんから声をかけられた。


 ブレない彼女の姿勢に、ちょっと苦笑する。

 

「好きっちゃ好きだけど……そもそもアイツらが居なかったら、俺、生きて帰って来れなかったんだよね。四、五回は命救われてるし」


「し、四、五回…………」


「家族に会えたのも、友人に再会出来たのもアイツらのおかげなんだ」


「……………………」


「だから、アイツらが俺のそばに居たいって言ってる間は、アイツらの為に生きていたいんだよ」


「……………………」


「家族みたいなヤツらだからさ。そんだけ。じゃあね」


 そう言い残して、俺は視聴覚室を後にした。


 ここまでやれば、巴ちゃんもナタリーとシェリーを襲おうなんてバカな真似はしないだろう。


 むしろ、二度と関わってこないと思う。


 ちょっとだけ寂しさを感じながら、俺は教室へと戻った。



───────────



「タカシ、ルッカ使ったでしょ?」


 休み時間になり教室へ戻ると、すぐにナタリーから声をかけられた。


 人差し指で体をトントン叩きながら、不愉快を露わにしている。


 相変わらず、ワケの分かんない感知性能してんな。誤魔化せないじゃん。


「うん」


「さっきの女に使ったの? ルッカ使わなきゃならない状況ってなに? 殺されそうになった?」 

 

「いいや」


「舐めやがって……タカシを殺そうとしたって事か? 許さない……グチャグチャニシテヤル……」


 相当腹が立っているのか、ナタリーに嫌な癖が出始めていた。


 最近では優しくなっていた目つきも、戦地に居た時のような鋭い目に戻っている。


 俺は微笑んで、彼女の頭を撫でた。


「逆だよ逆。熱烈に求婚されたんだよ。いやぁ〜モテる男は困りますなぁ〜」


「本当にそれだけ? ルッカ使う必要ある?」


「まぁ色々あってな。心配しなくてもいいよ」


「銃声もしたじゃん。腑に落ちないんだけど」


「気のせいじゃね? 俺にはナタリーっていう嫁さんが居るから無理! って宣言してきただけだから安心して」


「…………も、もぉ〜。タカスィったらぁ〜。仕方ねぇヤツだなぁ〜」


 顔つきから鋭さが消え、ヘラヘラ笑い始めるナタリー。


 相変わらずチョロくて助かる。これがシェリーだったら、こうは行かない。


「逆恨みされるかもしれないから、しばらくナタリーも警戒してくれる? まぁ、お前なら大丈夫だと思うけど」


「りょ〜か〜い。相変わらずタカスィは、面倒臭い女に好かれるよねぇ〜」


「なにそれ? 自己紹介?」


 ふざけんなよぉ〜とナタリーが笑う。


 終わった事は仕方ないよな。


 ナタリーと笑い合いながら、自分にそう言い聞かせた。


 

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― 新着の感想 ―
[一言] 面白いよ!もっと小説家書いて欲しいな!
[良い点] めんどくさい女は見てる分には可愛いよね [気になる点] いや、ほんっとにどーでも良いことなんだけど、 タカシは銃の使い方を知ってて知らないふりをしたのかな? 煽り目的なのか本当に知らないの…
[良い点] 次回も楽しみに待ってますヘ(゜∀゜ヘ)アヒャ
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