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29話


「ただいま」


「ただいまぁ〜」

 

「おっせぇですわよ!! 人に留守番させておいて、何処をほっつき歩いてるんですの!?」


 家に帰るなり、いきなりシェリーに怒鳴られた。


 やっぱり怒ってたか……。


 一日中家にいて暇だったんだろう。彼女の機嫌はかなり悪い。


「ごめんごめん。ナイター行ってたら遅くなっちゃって」


「はぁ〜? ナイタ〜? ワタクシなんて、ずっとレスバしかしてませんのよ! ズルいじゃありませんか!」


「悪かったって。お詫びと言っちゃなんだけど、お土産にタコ焼き買ってきたから、これで機嫌直してくれよ」


「タコ……焼き……?」


 首を傾げながら、シェリーが三白眼を細める。


「なんですのコレ? 名前のわりにタコが見当たりませんが」


 中身を開けた彼女は、更に怪訝そうな顔をした。


「見た目はエイブルスキーバーに似てますね……美味しいんですの? これ?」


「食べてみろよ。ビビるから」


「初めて食べるモノは、結構勇気が要りますのに……全く……」


 そう言って、シェリーが恐る恐るタコ焼きを口に運ぶと、細めていた三白眼を見開いた。


「うっま! な、なんですのコレ! めちゃんこ美味しいんですけど!」


「だろぉ〜。アタシも初めて食べた時、ビックリしたんだからなぁ〜」


 シェリーの反応に、ナタリーも喜ぶ。 


 美味しいモノを食べて機嫌が良くなったのか、彼女の顔に笑顔が戻ってきた。


 ちょっと一安心。


「そういえば姉さんは? 姉さんの姿が見えないんだけど」


「お姉様なら、お母様とお父様に呼び出されて、客間で話し合いをしておりますわ。何でもお風呂場の動画がどうのこうので」


「ふーん……」


 なんだろ? また何か揉めているのかな?


 優しい父さんが間に入ってるなら大丈夫か。たぶん。


「学校は楽しかったですか? 教えて下さいまし」


 口の周りを青のりとソースで汚したシェリーが、今日の事を聞いてきた。


 やっぱり興味はあるんだな。


「楽しかったよ。椅子に座って先生の授業聞いて……時間がのんびり流れていくのを感じた。日常に戻ってきたんだなって、改めて実感したよ」


「友達は出来なかったけどなぁ〜。ぷぷぷ〜」


 俺の言葉に、ナタリーが人をバカにしたような顔で揶揄(からか)う。


 こ、このやろう……早速シェリーにバラしやがったな……。


「き、今日は仏滅だったからダメだったんだよ……明日は大安だから、明日ならイケるはず……」


「結婚式じゃないんだから、そんなこと気にしてても意味ねぇぞぉ〜。ぷぷぷ〜」


「くっ……!」


「ん? 何かありましたの?」


 不思議そうな顔をするシェリーに、ナタリーがケラケラ笑いながら説明した。


 今日一日の出来事を。










「タ、タカシ君が、ハブにされてるのですか……?」


「ひゃっひゃっひゃっ、笑えるだろぉ〜。あのタカスィがハブなんだぜぇ〜」

 

「まだ初日だろーが……これからよ、これから……」


 二人に舐められないように虚勢を張る。


 全然問題無い。そう思わせるように、俺は不敵に笑った。


「だ、大丈夫なんですの……? その状況……」


「え? そ、そりゃあ大丈夫だろ! 時間はいくらでもあるし、ゆっくり誤解を解いていけば、なんとかなるって!」


「いえ、そっちの大丈夫ではなくて……」


 相変わらず口の周りを青のりで汚したシェリーが、真面目な口調で語った。


「も、もし今の状況を、軍の関係者が知ったら不味いんではありませんか? 特にタカシ君を崇拝している生体兵に知れ渡ったら、とんでもない事になると思うのですが……」


「あ……あぁ〜……た、確かにぃ〜……特殊機械兵の連中は冗談が通じないから、武装して乗り込んで来るかもぉ〜……」


「や、やめろよお前ら……不安にさせるんじゃねぇよ……」


 不安になる俺達。


 そんなこと起きるワケないだろ、って笑い飛ばせない所が困る。


 アイツらだったら、マジでやりかねない。


 特にカーソン姉妹やポートマンなんて、輪をかけて俺に甘いから鬼の形相で乗り込んで来そうだ。


 変な汗が流れる。


「アタシとタカスィが居れば、ある程度は迎撃出来ると思うけど……シェリーも早く編入させた方がいいんじゃねぇのぉ……?」


「最悪のことを考えるなら、一刻も早く編入した方がいいですわね……さすがに基準点(ポインターズ)三人を相手にするほど、バカではないと思いますから……」


「お、俺の、夢見た日常が……」


 あかん……一度考え出すと、不安が止まらない。


 早く今の状況を改善させないと、本当に不味いことになるかも。


 アイツら頭のネジ吹っ飛んでるし。


「と、とにかく俺はクラスメイトの誤解を解くように頑張るから、シェリーは試験勉強を始めてくれよ。編入手続きを進めるからさ」


「高校受験程度なら勉強しなくても大丈夫ですわよ。サラッと試験内容確認しましたが、アレなら余裕ですわ」


「油断すんなって。お前、頭いいけどバカじゃん。大体いつもそう言って失敗するんだからな」


「面倒くさいですわねぇ……」


 青のり(まみ)れの口を尖らせるシェリー。


 後はナタリーだ。


「お前も、これ以上余計な発言するんじゃねぇぞ。ナタリーの事実婚宣言から、俺の悪い噂は加速していったんだからな」


「えぇ〜? やだやだぁ〜! もっとアピールしたぁ〜い! アタシとタカスィが、ラブラブだって言いふらしたぁ〜い〜!」


「やめろってバカ。これ以上やったら収拾つかなくなるじゃんか」


「好きな人を好きって言って何が悪いんだよぉ〜。勘違いして曲解するヤツがいけないんだろぉ〜」


 鼻で笑うナタリーに、アイアンクローをぶちかます。


 いい加減にしろよ。このバカ。


「分かったよ……お前がそこまで言うなら、徹底的にやってやる……覚悟しろ……」


「な、なにするつもりだよぉ〜……」


 俺の声色が変わったのを察したのか、ナタリーが震え声になる。


「明日、みんなの前で濃厚なチューしてやるよ。事実婚なんだろ? クラスメイトに見せつけてやろうぜ」


「え? い、いや…………あの…………その…………」


「分かってると思うけど、俺は一度やると言ったら絶対やる男だからな。楽しみにしとけよ」


「わ、悪かったってぇ……ごめんてぇ……」


 ビビり散らかすナタリー。


 その様子を見て、シェリーがポツリと呟いた。


「ヘタレの癖に、口だけ一丁前な所は変わりませんのね」


「ヘタレって言うなよぉ〜……歯に青のりつけたバカには言われたくねぇんだよぉ〜」


「え゛……!?」


 必死で口を拭き始めるシェリー。白い顔が真っ赤になっていく。


 とにかく出来る事をやってこう。


 バカ二人を眺めながら、大丈夫、絶対大丈夫と、心に言い聞かせた。




─────────





「凄い…………」


 某所。


 高層ビルの一室。


 調査書に目を通して感嘆した。


 想像以上だった。


 初めて見た時から、どうしても普通の人間とは思えず、近衛隊を使って調べさせたが、まさかこんな結果になるなんて思わなかった。


 素晴らしいの一言。


「やっぱりボクの……人を見る目に間違いは無かったんだな……」


 付箋された写真を取り外し、まじまじと眺める。


 感情が昂って、思わず写真を舐め回す。


 何度も何度も舐め回し、写真は涎でベトベトになっていった。


「はぁ……はぁ……」


 半ば諦めかけていた。


 理想の人なんていないと、心に言い聞かせていた。


 それなのに、降って湧いたかのように、この人は現実に現れたのである。


 絶対に逃がさない。


「ふふ……ふふふ……早く明日にならないかなぁ……」


 ウットリとした表情で写真を眺め、語りかけるように呟いた。




 


「ねぇ……人類の最終到達点(アライバルポイント)さん……」


 


 

 

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― 新着の感想 ―
【悲報】兵士達。信者だった。
[良い点] ぺえろぺろ [一言] ふぁぁつ!にゅーかまー!
[良い点] やはり面白いですねm9(^Д^)プギャー続きが気になります。次回も楽しみに待ってます。
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