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27話


 いやぁ〜、まいった!


 もう昼休みになるのに、全く友達が出来ない!


 話しかけても、みんな露骨に無視するし……どうなってんだろうね!


 ちくしょう…………。


 現実逃避するように、ぼんやりと窓の外を眺める。


 凄くいい天気。


 これ以上無いってくらい平和。


 これで友達が出来れば言うこと無いんだけど、なかなか上手くいかないもんだ。


 こんな状況になってるのに、あの女子生徒は、未だに本を読むフリをしながら、俺を観察してくるし。


「ナタリーちゃん! 今日の放課後、ナタリーちゃんの歓迎会をしようと思うんだけど、都合はどうかな!?」


 俺の座席の後ろで、ナタリーを誘う楽しそうな声が聞こえてきた。


 人気は衰えないのか、今も人だかりが凄い。


 ナタリーちゃんの歓迎会ねぇ…………俺の予定も聞いて欲しいな。めっちゃ空いてるぞ。


「歓迎会〜? 歓迎会ってなにすんのぉ〜?」


「みんなで、カラオケボックスに行こうと思ってるの! もちろんお金はこっちで出し合うから、ナタリーちゃんに負担はかからないよ!」


「へぇ〜。カラオケなんて初めて行くよぉ〜。アタシ達の為に、みんな本当にありがとねぇ〜」


 ナタリーのアタシ()発言に、微妙な空気が流れる。


 ナタリーだけを誘いたかった彼女達にとって、それは耳の痛いセリフだったようだ。


 なんだかなぁ…………。


 聞いてるだけで居た堪れない気持ちになってくる。便所にでも行って時間潰そうかな……。


 そんな事を考えていると、教室の扉がバンッと開かれた。


 高身長の甘いマスクの男が登場。


 錬児じゃん。


 錬児が教室内を見渡し、俺を見つけると、満面の笑みを浮かべながら近付いて来た。


「タカシD組かよー。無駄に探しちまったじゃねぇか」


 ドカッと、俺の前に腰掛ける錬児。

 

 コイツの登場で、騒がしかった教室内は、徐々に静かになっていった。


「お前、なんでA組に転入して来ないんだよ。寂しいじゃねぇか」


「俺だって寂しいよ。だから錬児、今すぐ先生に泣きついてD組に引っ越して来い」


「あはははは。無茶言うな。それより久しぶりの高校生活はどうよ? 楽しんでるか?」


 無事、ハブにされております。


 そんな事を言えるワケもなく、適当なことを言って誤魔化す。


「まぁボチボチかな。初日だし、こんなもんかなって思ってるよ」

 

「そっか。何か困ってることがあったら、いつでも俺に相談しろよな。何でもしてやるから」


「背中めっちゃ痒いんだよね。掻きむしってくれる?」


「そういう困り事は聞いてねぇよ」


 軽口を叩き合う俺たち。


 そういや錬児も野球が好きだったよな。


 ナイターのチケットが余ってるし、誘ってみるか。


「それより錬児、今日の放課後ひま? ナイターのチケットがあるから一緒に行かない?」


 本当は新しく出来た友達と行きたかったけど、余らせても仕方ない。


 天乃君には評判の悪かった、プロ野球のチケットを取り出した。


「お! 行く行く! 今日の先発誰だっけ?」


「大重だよ。向こうの先発はエース岩隈だから、恐らく投手戦になると思う」


「大重は故障が少なくて良い投手だよな。ちゃんと登板して、しっかり投げ切るだけで好感持てるわ」


「大重はあのフォームが素晴らしいよ。投手って結構繊細な生き物だから、アレくらい安定して投げてくれると、こっちも安心して見てられ────」


「タッカスィ! 今日はカラオケに行くんだろぉ! どこ行くつもりだよぉ!」


 俺と錬児がプロ野球について盛り上がってると、ナタリーが割って入ってきた。


 俺の膝の上に座り、肩に手を回してくる。


「なんで錬児ちゃんとナイターに行こうとしてんだよぉ〜。舎弟も、タカスィを連れてこうとするなよなぁ〜」


「あ、やっぱり俺って舎弟扱いになってるんだな……」


 ナタリーの妄言を真に受ける錬児に、軽くツッコミを入れる。


「ナタリーの言う事なんて気にすんなって。つーか離れろ。暑苦しいから」


 膝の上に座るナタリーを引き剥がそうと押すが、彼女は「ぐぎぎ」と呻くだけで、一向に離れようとしなかった。


 どんだけ力入れてるんだよ。結構本気で押してるのにビクともしないんだけど。


「なんでナイターに行くんだよぉ〜。アタシも連れてってくれよぉ〜」


「お前、カラオケに誘われてたじゃん。せっかく誘われたんだから、そっちに行けよ」


「やだぁ〜。アタシはタカスィのそばを離れたくないのぉ〜。ずっと一緒に居るんだからぁ〜」


「いいから離れろや、バカタレ」


 ピシピシとナタリーの頭をチョップしていると、固まっていた天乃君が急に大声をあげた。


「お、お前! 女の子の頭を叩くんじゃねぇよ! ナタリーちゃんになんて事してんだ!」


「そうよ! 女の子を叩くなんて、さいってぇ!」


「謝りなさいよ! ナタリーちゃんに謝りなさい!」


 天乃君に便乗するように、周囲の女子生徒達からも怒声があがる。


 えぇ……すっごい怒ってんじゃん。なにこれ? 俺だけが悪いのか?


「ナタリーにも注意してよ。勝手に膝の上に座ってくるんだからさ」


「お前さぁ……なに、ナタリーちゃんのこと呼び捨てにしてる訳? お前ごときが呼び捨てにしていい相手じゃないだろ!」


「そうよ! アンタ馴れ馴れしいのよ! ナタリーちゃんに謝れ!」


「キッモ! キッモ! さいってぇ! 本当にさいってぇ!」


 俺の話を聴いてくれない。


 絡まれてるのは俺なのに、なぜか俺が怒られてる。


 一方的に責められる状況に、ナタリーと錬児の顔色が変わっていった。


「どうなってんだタカシ? なんでこんなに責められてるんだ?」


「当たりが強いよねぇ……なんか本気で怒ってるぽいしぃ……」


 疑問を口にする二人。


 やっぱり同じこと思うんだな……俺だけがおかしいのかと思った。


「あのさぁ〜……タカスィが何やったか知らないけど、怒らないでやってくれよぉ〜……アタシの大切な人だからさぁ〜……たのまぁ〜……」


 ナタリーが、俺に抱きついたまま仲裁に入る。


 フォローしてくれるのは有り難いけど、今のセリフはちょっと聞き捨てならない。


「俺、何もやってないぞ。なんで俺が悪い事になってんだよ」


「ど〜せタカスィの事だから、距離感間違えて怒らせたんじゃないのかぁ〜? 実際、アタシやシェリーと、それが原因で殺し合いにまで発展したんだしぃ〜」


「……………確かに」


「だろぉ〜? タカスィは、アタシがついてなきゃダメな人なんだから、一生、アタシのそばから離れんじゃねぇぞぉ〜」


 俺の膝の上に座ったまま、首筋に(もた)れ掛かってくるナタリー。肩に絡ませた腕に力を込め、顔を擦りつけてくる。


 距離感かぁ……そう言われると、そんな気がしてきた。


 事実、天乃君を怒らせちゃってるし。


「お、お前……ナタリーちゃんとは、どんな関係なんだよ……」


「え? なに?」


「さっさと答えろ! ナタリーちゃんとは、どんな関係なんだよ!」


 なんでこんなに怒ってんの? いくらなんでも怒りすぎじゃないか?


「普通見て分かるだろぉ〜。鈍感だなぁ〜」


「………………っ! そ、それって……まさか……」


 思考が追いつかない俺に代わって、ナタリーが勝手に答えた。


「事実婚してんだよぉ。アタシ達」


 適当な答えを。



───────────




 その後、バカの発言を撤回しようと頑張ったが、誰も俺の話を聞いてくれず、結局バカと付き合ってる、という事になってしまった。


 それだけならまだしも、俺がバカの弱みを握って脅している、という話になってしまい、どんどん外道に仕立て上げられてしまった。


 弱みや脅し程度で、バカのコントロール出来るワケないだろ! いい加減にしろ!


 そんな文句を言った所で伝わるワケもなく、俺の悪い噂は、急速に広まっていった。


 放課後には、学年中に伝わったんだと思う。



 



 だって、B組にいる二人の幼馴染が、鬼のような形相で怒鳴り込んできたから。




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― 新着の感想 ―
世界中が地球外敵性生命体と国が滅び命を犠牲にして戦争をしてたのに、この国の国民共はこんなにも平和ボケしたアホで愚かな人間なのかw
[一言] 孫の手がいい感じ
[良い点] 背中掻いてくれのテンポの良さ!
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