21話 二章エピローグ
「ちょっとぉ! 来るなら来るって前もって連絡しなさいよ! 化粧出来なかったじゃん! バカァ!」
翌朝。
朝イチで凛子の家に訪れると、凛子がプリプリしながら外に出てきた。コミカルな動きが本当に可愛い。
変わらない元気な様子に、心底安心した。
「昨日色々あったから、凛子の事がどうしても心配になって。急に来てごめんね」
「な、何言ってるのよ! 適当な事ばかり言わないでよね!」
「いや……本当に心配で来たんだけど……」
「ぅぇ…………え?」
昨日は軍のおっさんに呼び止められて、凛子のフォローが出来なかった。
あんまり泣き縋るから仕方なく現場に残ったのに、まさか軍の連中が、何のフォローもせずに彼女を帰すとは思ってもみなかった。
凛子被害者だぞ。せめて家まで送っていけよ。
軍の関係者がやらかした事なのに、気が回らなくて本当に腹が立つ。
凛子には悪い事をしてしまった。
「昨日はショッキングな出来事が続いたから、凛子落ち込んでるかなって思って」
「べ、別に私は大丈夫よ。でも……心配して来てくれたんだ……ありがと……」
ニヤニヤ笑う凛子。
その様子を、注意深く伺う。
俺の見る限り、大丈夫そうに見える……シェリーまでとは言わないけど、せめてナタリーくらいの洞察眼があれば、もっと確実に分かるのに……。
心配そうに凝視する俺を不憫に思ったのか、凛子が声を張り上げた。
「そんな顔しなくても大丈夫よ! あの程度の脅しなんてSNSでしょっちゅうだし、一々落ち込むほど私は弱くないわ!」
「それはそれでどうなんだよ……余計心配になるだろ」
「それくらい大丈夫だって事! それにタカシとナタリーさんが居なかったら、私、今頃どうなってたか分からなかったのよ? 二人には感謝しかしてないんだから、そんな顔しちゃダメ!」
「………………うん」
「そもそも! 私達が今やるべき事はこんな話じゃないわ!」
そう言って、凛子が両手を広げる。
「お、おいでタカシ!」
「…………え?」
「昨日出来なかった再会の続きを始めるわよ! だ、だからおいでタカシ! わ、わ、私の胸に飛び込んでらっしゃい! だ、だ、だ、抱きしめてあげるんだかりゃぁぁぁ!」
どんどん顔が真っ赤になっていく凛子。相当恥ずかしいのか、勢いだけで喋ってるのが分かる。
たぶん……凛子なりに、俺が気を使わないように配慮してるんだろう。やっぱり優しいヤツだ。
なら、俺がやる事はただ一つ。
「うおおおおおおおおお! 凛子おおおおおおお! 帰ってきたぞおおおおおおお!」
「ちょ、ちょっと! もっとこう……ムードっていうのを……もう!! バカァ!!」
飛びつく俺に、怒りながら抱きしめる凛子。
昔に比べ、細く小さくなった彼女の体。
この三年で、体格が逆転してしまっている。月日の経過を感じた。
「ただいま凛子。なんとか生還したよ……」
「おかえりタカシ。待ってたよ……ずっと……ずっと……」
そのまましばらく、何も言わず抱き合った。
──────────
その後、凛子に色々な事を質問された。
まず改造について。
これについては、姉さんに説明した時と同じように、言葉を濁しつつ話せる範囲で話をした。
正直、昨日の俺とナタリーの戦闘を見て、俺達の事を怖がっていないか心配だったけど、
「私の為に戦ってくれたのに、怖がるなんて失礼な事するワケないじゃない! バカにしないでよね!」
と、漢らしい回答をしてくれた。
さすがサバサバ凛子ちゃん。スカッとしてるぜ。
次にナタリーとの関係について。
これについては、相当しつこく聞かれた。
出会いから今に至るまで、どんな会話をしたとか、スキンシップはしてるのかとか、同棲なんて許さないわよとか、事細かく聞かれ、色々言われた。
最終的に姉さんが一緒の部屋で寝ている事と、俺とナタリーの適当なやり取りを思い出したのか、納得してない様子で納得してくれた。
「まぁ……いいわ。ナタリーさんと何も無いって事だけは分かったから納得してあげる。でもね、この後、時間取ってもらうからね!」
ビシッと指差す凛子。
なんでこんなに責められてるか分からないが、納得してくれるならそれでいいや。
凛子も文香みたいになってきたな。
「どのくらい付き合えばいいの?」
「そ、そうね…………に、二時間……い、いや! 充電もしなくちゃいけないから三時間よ! 三時間!」
昼過ぎるじゃん。
「三時間も何すんの?」
「そ、それは……色々よ! 色々!」
「何をするか教えてくれよ。昼前には帰るってナタリーと姉さんに言ってあるんだから」
昼飯にラーメンを食べに行こうぜって二人と約束してた。
とんこつで脂まみれの体に悪そうなラーメンを食べようって。凛子も来るなら良いけど。
「じ、じゃあ……二時間……半で……や、やっぱりダメ! 四時間必要だわ! 四時間!」
「内容言えって言ってるんだよ。誰も時間刻めなんて言ってないし……しかも増えてるし」
ハッキリ言う凛子にしては、やけに口籠もる。
先に約束した手前、ナタリーと姉さんを優先したいけど昨日の件もあるからなぁ……。
ここで断るのは、さすがに悪い気がした。
「まぁ……いっか。昨日迷惑かけたし、今日は凛子に付き合うよ」
「ほ、本当? や、やった……!」
「ちなみに何処へ行くの?」
「ど、何処へも行かないわよ! 私の部屋でヤル事だから!」
可愛らしい顔をネチャッとさせて凛子が笑う。
四時間も室内で何するんだろ。充電って言ってたしゲームかな?
「取り敢えず姉さんに、予定が変わったって連絡するから待っててくれる?」
「え、ええ! かまわないわ!」
ポケットからスマホを取り出すと、タイミングよく姉さんから着信が入った。
『もしもしタッ君? 今大丈夫?』
電話越しで聞こえてくる姉さんの声。その奥で、ナタリーと、聞き覚えのある女の口論が聞こえてくる。
「大丈夫だよ。何かあったの? 後ろが騒がしいけど」
『あ、あのね……シエルって人がウチに来て、タッ君を出せって騒いでるの……』
「シエル?」
シエル、
シエル、
シエル。
………………………ん?
「シエルって、シエル・アイスランド?」
『アイスランド……? ち、ちょっと聞いてみるね』
姉さんの声が遠くなり、何やらゴニョゴニョと話し合う声が聞こえてきた。
『そうだって言ってるよ』
シェリーじゃん。








