103話 番外編 乙女の温泉旅行 中編
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四分咲家と合流し、まったり過ごす幸せなひととき。
みんなでお茶を飲んだり、タカちゃんが大量に買ってきたキーホルダーを眺めたりしていると、
そろそろ頃合いと言わんばかりに、お母さんが目配せをしてきた。
少しだけ顎を引いて、その視線に応える。
「あのさ、杏ちゃん。売店で晩酌のお酒を買いに行かない?」
お母さんが極めて自然に、タカちゃんのお母さんを誘い出す。
三度の飯よりお酒が好きなタカちゃんのお母さんは、その提案に喜んだ。
「いいじゃ〜ん! 文枝と飲むのも久しぶりだし、今日は夜通し飲み明かそうか!」
「知ってる? 最近、生ビールと変わらない缶ビールが出たんだよ。すっごい美味しいから沢山買おうよ!」
「私、透明か茶色のお酒じゃないと酔えないのよねぇ……ビールじゃ酔う前に、お腹いっぱいになるっていうか……」
「あははは! 相変わらず杏ちゃんはザル! 言ってることがオジさんなんだよ〜!」
楽しそうに、部屋から出ていくお母さん達。
流石、学生時代からの付き合いだけあって、自然な感じで席を外してくれた。あの様子なら、売店で結構な時間を稼いでくれると思う。
二人が消えるのを見計らってから、私は計画へと移った。
「せっかくだから、みんなで温泉に入らない? 夕ご飯まで、まだまだ時間あるし」
温泉と聞いて、ナタリーちゃんとシェリーちゃんが目を輝かせる。
「うぇ〜い! アタシ、おっきいお風呂初めてなんだぁ〜! うっひひぃ! 楽しみだなぁ〜!」
「先ほどパンフレットで確認したのですが、ここの温泉、効能が凄いですわ! お肌スベスベになるみたいですわ!」
「かぁ~っ! ただでさえ可愛いナタリーちゃんが、更に可愛くなっちまうのかぁ~! かぁ~っ!」
「おいおいタカシ君! ワタクシ、湯上り美人になっちまいますわよ!! おいおい!!」
「可愛い美少女に囲まれてぇ〜! 幸せモノめぇ〜!」
「このこの〜ですわ!」
そしてタカちゃんにウザ絡みを始める。
そのノリに慣れているのか、彼は雑に反撃を始めた。
「しっかり磨いて来いよ。どこがどう綺麗になったか、布団の上でチェックしてやっからなぁ!!」
「ち、ちょ!? 何言ってるのタッ君! セクハラはダメだよ!!」
「だって、アイツら調子乗ってるから……俺も乗らなきゃ失礼かなって……」
「ダメだって! 私はともかく、ナタリーちゃんとシェリーちゃんに、エッチなことはダメなんだからね!」
花梨お姉ちゃんが、ぷりぷりしながらツッコミを入れている。
遠回しに、私にエッチなことをしなさいって言っているところが、本当に罪深い。一切ブレないその姿勢に、感服すら覚える。
あははと笑いながら、私は話を戻すようにパンッと両手を合わせた。
「それじゃあ準備して行こっか! 『家族風呂』を押さえてあるから、みんなで一緒に入ろうね!」
──────────
『家族風呂』とは、異性と一緒に入浴が出来る、貸し切り温泉施設のことを指します。
施設によっては、公序良俗の観点から学生同士の入浴が不可という所もありますが、この温泉にはそんな温い制約はございません。
ってなワケで、私はタカちゃんに、私のワガママボディを合法的に晒せるってワケです。
ふふふ……勝ったでこれは……。
きったない笑みを浮かべていると、花梨お姉ちゃんが動き出していた。
「すぐに準備しましょう! さぁ! みんなも! ほらっ!! はよっ!!」
「え、え? 家族風呂って混浴だよね? 俺と一緒に入るつもりなの? マジで……?」
「マジです!! だって仕方ないじゃん!! 文香ちゃんの提案なんだからっ!!」
「姉さんは抵抗無いの? 高校生にもなって、弟と一緒の風呂とか……」
「文香ちゃんがわざわざ段取りしてくれたんだよ!? 文香ちゃんの好意は無碍に出来ないじゃん!! 断るのも失礼だし!! だからタッ君!! 文香ちゃんの顔を立てる為にも、一緒のお風呂に入りますよっ!!」
ブラコン変態淑女が、私をダシにしている。
彼女の動きが予想通りすぎて、思わず笑ってしまう。
花梨お姉ちゃんなら、賛同してくれると思ってたよ。
ずっとボヤいてたもんね。『帰還してから、タッ君が一緒のお風呂に入ってくれなくなった……』って。
そんな押し問答をする姉弟の隣で、ナタリーちゃんがオロオロと戸惑っていた。
「え、えっと……家族風呂って……えっと……」
「パンフレットにちっちゃく、貸し切り風呂って書いてありますわね……どうやら、プライベートで入浴出来るようですわ」
「じ、じ、じ、じゃあ……タタタタカシと……いいいい一緒ってこと……?」
「ですわね。っていうか、文香さんってガチの天才ですわ……こんなやり方を思いつくなんて……さす文ですわ……」
「アアアアタ……こ、こ、こま、困るんだけど……こ、こんなことになるなんて思っていなかったから……こここここ心の準備ががが……」
「それなら別に、ナタリーさんは入らなければいいじゃありませんか。ここの温泉、大浴場も備わっておりますから、そっちへ行けばいいですわ」
「ここで引けるワケないだろぉぉぉ!! アタシだってなぁ!! 逃げちゃダメなタイミングくらい分かるんだぞぉ!?」
「だったら覚悟決めて下さいまし。ほんっと、ヘタレの癖にムッツリで困りますわ」
どこか呆れるような表情を向けるシェリーちゃん。
話振りから、彼女達も混浴に賛成してくれたっぽい。意外と常識的な所があるから、もしかしたら止められるかもって考えていたけど。
外堀が埋まったのを確認した私は、渋っているタカちゃんを落としにかかった。
「懐かしいよね、タカちゃん! 昔はよく一緒に入ったよね!」
「昔って……それは幼稚園の頃であって、高校生が一緒に入るのはアカンくない?」
「別にアカンくないよ。私達、家族みたいなモンだし」
「まぁ……家族みたいなモンだけどさぁ……」
「私は一緒のお風呂に入って、一緒の景色を眺めて、一緒の時間を過ごしたいだけ。タカちゃんと、思い出をたくさん作りたいだけなんだよ! せっかく家族風呂を押さえたんだから一緒に入ろうよ!」
可愛いらしく、上目遣いをブチかます。
タカちゃんは『いいのかなぁ……ガン見するぞ俺……』っていうような表情に染まっていった。
「んー……女性陣が許してくれるなら、俺は喜んで入るけど……」
「じゃあ決まりだね! すぐに準備してお風呂に行こっ!!」
「あとで同意じゃなかったって言わないでよ? そんなことになったら、流石に泣くからね」
「言うワケないじゃん! もぉ〜! タカちゃんは本当にアホだなぁ〜!」
言質を取った私は、あははと笑いながら、鞄から替えの下着を取り出す。
そして小さくほくそ笑んだ。
凛子ちゃん、色仕掛けってのはこうやって進めるんだよ。
外堀をちゃんと埋めて、全てのお邪魔虫を巻き込むの。
二人っきりになろうとした所で、私は絶対に邪魔が入ると思ってた。淑女協定を交わしたところで、花梨お姉ちゃんやナタリーちゃん達が黙っている筈が無いってね。
だから、全てを巻き込むのが正解なの。お邪魔虫も全員、同じ土俵に立たせることが正解ルート。
そして、混浴さえしてしまえばコッチのモノ。
みんな気付いてないだけで、私と混浴は、鬼に金棒だ。凛子ちゃんならともかく、花梨お姉ちゃん達に負けるつもりなんて無い。
今日の日の為に用意した、可愛い下着を握り締める。
徹底的に鍛え上げた私の肉体美は、凛子ちゃんにだって負けてないんだから。









