102話 番外編 乙女の温泉旅行 前編
ここまでお読み下さりありがとうございます
──雲雀家近衛隊 第十号 調査報告書──
人類の最終到達点と呼ばれる程の身体改造を繰り返し、様々な戦場で、歴史に刻まれるような戦果を挙げ続けてきた四分咲タカシ。
救世主と呼ばれる彼が、どのような家庭環境で育ったのか、その生い立ちについて調査を行ったので報告する。
四分咲タカシは十六年前、四分咲マコトと四分咲杏との間に、第二子として出生した。
驚くことに出生後から幼少期にかけての生活については、家庭環境および成育過程において特筆すべき点は確認されなかった。
それは近隣住民および、関係者からも証言が取れており、当時の四分咲タカシは、ごくごく平凡な日常を送る少年だった。
学童期以降も状況は同様であり、学業成績も特段優秀と評価されることは無く、平均的な児童として推移していた。
一部の同級生から、春椿文香、桔梗ヶ原凛子、大塚錬二らと親しい関係にあったことに起因する嫉視が確認されたが、本人は特段問題視していなかったようだ。
派兵に至るまでの十二年間について、多角的な観点から調査・分析を行ったが、いずれの切り口においても、いわゆる『救世主』になり得る要因は確認出来なかった。
以上のことから、残された要因はただ一つ。
四分咲タカシの実姉、四分咲花梨の影響が原因だと推測される。
◆四分咲花梨の異常行動抜粋
①四分咲杏が突き付けてきた、DNA鑑定の結果に納得出来ない四分咲花梨は、セカンドオピニオンは勿論、サードオピニオンを決行する。
②99.9999%適合という鑑定結果にすら、「まぁ、0.0001あるし」と言って、現実を受け止めない。
③法律が許さないのなら内縁の妻になる、と宣言し、四分咲家を勘当されそうになる。
④実弟の下着を盗む。
⑤実弟の下着を身に着ける。
⑥古くなった実弟の下着をハンカチにして再利用する、などの異常行動を常習的に繰り返す。
そんな近親者の重愛が、四分咲タカシの精神に干渉し、救世主と呼ばれる存在にまで押し上げたのではないのだろうか。
でなければ、幼い少年があれほどの改造を施せる筈がない。
引き続き、四分咲花梨の異常行動を観測する必要がある。
彼女の変態性を解析すれば、救世主誕生のメカニズムが明るみになるのだから。
────────────
「文香、ちょっといい?」
「なに? お母さん」
凛子ちゃんが失敗したという、お泊まり会から数日後。
温泉旅館の荷造りをしていたら、お母さんが少し残念そうな表情で話しかけてきた。
「明日の温泉旅行、やっぱり花梨ちゃんもついてくるんだって。あとナタリーちゃんとシェリーちゃんもついてくるみたい」
「四人部屋を取ったよね? 四人部屋だからってゴリ押し出来なかったの?」
「花梨ちゃんが最大宿泊人数を調べたみたいで、『最大七人まで泊まれるのに、なんで私は留守番なの? 連れてってよ。はよ』って感じで、タカシ君のお母さんと喧嘩になってるみたい」
「んー……やっぱりこういう結果になっちゃったかぁ……花梨お姉ちゃんは、本当にどうしようもないなぁ……」
自分の執着心を棚に上げつつ、花梨お姉ちゃんを軽くディスる。
とは言っても概ね予定通り。私の計画は順調に進んでいる。
「それより、タカちゃんのお父さんは誘い出せたの?」
「ウチのお父さんが釣りに誘ってるよ。あっちはあっちで滅茶苦茶、盛り上がってるみたい」
「ふふ……じゃあ後は、タカちゃんのお母さんさえ何とかすれば……」
「ふふ……文香を止める人は居なくなるってワケ……」
のほほんとしたお母さんが、わっるい笑顔に染まる。
時代劇の越後屋みたいな顔になっている。まあ、私もたぶん、そんな顔になっているんでしょうけど。
「ここまでお膳立て出来たんだから、絶対にモノにしようね!」
「任せてお母さん。私は、凛子ちゃんと同じ轍は踏まないから」
「えへへ……上手くいけば、タカシ君との距離が一気に縮まるよね! お母さん、早くタカシ君のお母さんになりたいなぁ」
「そうだね。私も早く、四分咲の名を名乗りたいよ」
最後のツメを、お母さんと打ち合わせする。
半生を共にした幼馴染の、えっぐい色仕掛け大作戦が始まろうとしていた。
───────────
翌日。
一足先に、チェックインを済ませた私とお母さん。
旅館の一室で、タカちゃんの到着を待っていると、襖がドゴンッと開かれた。
「こ、こんちゃ〜っす! 文香ちゃ〜ん! いっるぅ〜?」
「ワタクシ到着しましたわー! 文香さーん! ワ、ワタクシ到着しましたわよー!!」
「ふ、文香ちゃんおまたせー。待ったー?」
中に入ってくるや否や、なだれ込んでくる少女達。私を見つけると、へりくだりながら擦り寄ってくる。
「いやぁ〜。文香ちゃんはいい旅館を選びますなぁ〜。じ、情緒ハンパねぇじゃ〜ん! こ、このこのぉ〜」
「お、温泉って初めてなんですの! 文香さんのお背中流しますわ! た、たくさん流しますわ!」
「わ、私、いっぱいゲーム持ってきたんだよ! 桃◯やド◯ポンもあるんだよ! よ、夜が楽しみだよねぇ!」
まるでイタズラがバレた小学生のように、めちゃんこ早口でなんか言ってる。
怒る暇を与えないように、勢いでなんか喋っている。
たぶん、ちょっとだけ罪悪感を感じているんだろうな。私とタカちゃんの温泉旅行に、了承も得ずに乱入しているのだから。
だから私は、全てを水に流すように笑った。
「遠いところお疲れ様。移動大変じゃなかった? お茶淹れるね」
そして、余裕を見せつけつつ、急須にお湯を注ぎ始める。
その行動が予想外だったのか、ナタリーちゃんとシェリーちゃんが顔を見合わせていた。
「文香ちゃん……全然怒ってないんですけどぉ……」
「すっげぇですわ……絶対怒られると思ってましたのに……」
「これが大人の余裕ってヤツなのかなぁ……菩薩の化身と呼ばれるだけあるわぁ……」
「ちょっと真似出来ない芸当ですわ……」
ナタリーちゃんとシェリーちゃんが、なんか慄いている。
破天荒なイメージがあるのに、割と常識的なことを言うんだね……これじゃあ花梨お姉ちゃんの方がモンスターじゃん……。
ボソボソと囁く二人から、モンスターへと視線を移す。
「そういえば、タカちゃんは何処にいるんですか? タカちゃんの姿が見えないですけど」
「あ……え、えっと……タッ君はお土産コーナーで、ピカピカした剣のキーホルダーに夢中になっているよ。そのうち来るんじゃないかな?」
「それって……パーキングエリアでよく売っているヤツですよね?」
「そうそう。男子小学生が大好きなヤツ」
「なんで男の子って、あのキーホルダーが好きなんだろ……分っかんないなぁ……」









