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憧憬。巨人が抱いた小さな願い

作中に出るバスケット選手としてのBMI値の理想値は、当時のプロバスケ選手で公表されていた幾つかのデータから、作者が出した値です。一般的なものではないのでご注意ください。

「ふふ、ふふふふふ、先輩よりも監督よりもビッグマンコーチよりも容赦ないアシスタント・コーチの扱きを乗り越え、遂にやって来たぜインターハイ予選!」


 試合会場へ着き、水無学専用送迎バスから降りた真那花が、待ち侘びたこの日を謳歌する。


「まあ俺たちは第三シードだから、試合は明日からだけどな」


 四季が降り注ぐ日の光に手を翳しながら、会場の体育館を見遣る。


 順調に進めば、明日の日曜に一試合、来週の土日に二試合、再来週の土日に二試合でインターハイ出場校が決まる。


 生憎と水無学のある三重県の枠は一つなので、自然、インターハイ出場にはこの大会で優勝する必要があった。


「インターハイは七月下旬から八月の初めにかけてでしたよね。どうして五月の半ばから予選を始めるのでしょうか? もっと後でもいいように思えますが」


 深雪が隣を歩く香澄に聞いてみる。


「それはU-17の国際大会が六月下旬から七月の初めにあるからね。この県だと生憎今年はU-17候補までだったから関係ないけど、毎年U-17の模様を見てから日取りを決める訳にもいかないでしょう」


 なるほどと表立って納得する深雪と共に、誰とは言わないがそうだったんだと陰で納得する者たち。


 一行は連なって建物の中へと入り、二階の観客席の場所取りを終えてから開会式に備えて整列する。


 今日は水無学の試合がないので、全員試合用のユニフォーム姿でも練習で使用するジャージ姿でもなく、学校の制服姿である。


 昨年県内でトップを争った私立俊英東学園と県立悠院咲高校が互いに意識していたこともあり、下馬評で準決止まりの水無学は割合気楽な整列となった。


 尤も、他校のインサイド勢より高い凛と、一人横幅の大きい深雪だけは嫌でも目立っていたが。


「なかなかそそられるものがないな。一つ、いや二つ……」


「あっても式中は揉まないようにね凪巴ちゃん。お願いだから」


 早速他校の生徒を変態な意味で物色し始めた凪巴を、千尋が苦笑いで牽制する。


 無事に開会式を終え、真那花たちは大人の話のある顧問たちを一階に残して移動するも──


「待って下さい二流さん!」


 突如、他校の見知らぬ生徒に足止めされた。


 心なしか、先輩たちの視線が鋭くなる。


「ちょっとキミ、見た所悠院咲の新入生みたいだけど、口の利き方は誰に教わったのかな?」


 普段、二年の中では割と穏健派な千尋が、実に怖い笑顔で問い掛けた。


「?」


「二流は四季先輩の呼び名の一つで、あまりいい意味の呼び方じゃないんです。だから千尋が怒ってるですよ」


 よく分かっていない一年生に、羽衣が小声で説明してくれる。


 四季が中学の頃から既にARとしてコートに立っていたこと。


 だが、その頃は本人の実力というよりも周囲の状況から仕方なく欠けたポジションを埋めるという形だったらしく、そんな昔の四季を知る者には『穴埋め』『二流』『六枚目』などと揶揄する輩がいるらしいこと。


 ただ、六枚目の方はいい意味で使われることもあるのだとか。


「え……えっと、ですね」


 本人にとって予想外の展開だったのか、しどろもどろになる推測一年生。


「あ、いたいた。やっほ四季。さっきぶり~」


 そこへやってくる四季の知り合いと思しき悠院咲の生徒。


みどりか」


 その生徒を見て、四季の表情が軽くなった。


「うん? どうかした?」


 少しばかり険のある雰囲気に、青山翠が疑問を挿む。


「そっちの後輩君が四季先輩を侮辱する発言で千尋がキレかけ。説明求む」


 優姫がもう展開は読めたとばかりに、タルい表情で質問に答えた。


「侮辱!? 違います先輩っ。あだ名の二流さんって呼んだだけで、侮辱になる六枚目って呼び方はしてな──あいたっ」


「逆よバカ。ゴメンね。人選を間違えたみたい」


 翠が自分より身体の大きい後輩のデコをグーで叩く。


「う~、痛いです先輩。それとごめんなさい水無神楽坂の皆さん」


 額を押さえて謝る一年生。


「構いませんよ。今のグーで水に流します」


 四季がやれやれと肩をすくめたのを見てから、麗胡が水無学代表として答える。


「それにしても──、聞いてた通り彩り豊かな新入生たちみたいだね」


 長身、金髪、長髪、超ふくよか、ツインテ、豊胸と上から順に視線を行渡らせた翠が大人な感想を述べる。


「まーな。今年の水無学は特に強いぜ」


「ふーん、そっかそっか。なら、決勝は私たち──と言いたいけど、残念なことに準決勝で当たるのよね。でも楽しみにしてるから」


「ああ」


 先輩たちが親しげに話す中、凛が真那花の方へ顔を寄せる。


「ねえねえ真那花ちゃん」


「ん?」


 真那花は先輩たちへ顔を向けたまま、少し頭を傾けて視線を凛へ寄越す。


「あの人、確か──」


「ああ──」


 聞きたい&言いたいことを理解した真那花は、視線を再度先輩たち──翠と呼ばれた選手に向けた。


「去年のウィンターカップ出場校、県立悠院咲高校のキャプテンにして県ナンバー1SGの青山翠。へへ、燃えるな♪」


 沸き立つ闘志を胸に、朗らかに笑った。




 一年生に会場の雰囲気や高校生の公式試合に慣れさせる目的で、練習で疲れた身体を休ませるついでにわざわざ観戦の時間を設けた水無学だったが──。


「どうやら杞憂だったみたいね」


 監督の彩華はほっと胸を撫で下ろした。


 元気溢れる真那花や自然体の凪巴に香澄、ある意味いつも通りの斜めに構えた初夢にのっしのっしと動くおっとりペースの深雪。


 心配していた凛も、周りに振り回せれているせいもあるだろうが、特に緊張し過ぎているということもない。


(明日の相手になるチームも特に脅威となるものは感じられない。他も四強以外に目立った選手はいなさそうね)


 ふと彩華が視線を向けた先は、彩華の人生初となるアシスタント・コーチに置いた生徒──香澄の手前のノート型PC。


 そこには一応気になった点をメモするウィンドウがバックに控えつつも、以前大学生相手に行った練習試合の動画と、再来週へ向けた追加練習を組んでいると思えるウィンドウが立ち上げられていた。


(ホント優秀だこと。一時は今年はどうなることかと心配したけど、意外と流れが来てるのかしら)


 とある事情で、優秀な人材を一人欠いた水無学女子バスケ部。


 彩華は自身の決断に後悔こそないが、未練は残っていた──。


 明けて水無学の第一試合となる二回戦。


 対するは私立魁槍さきがけやり高校。


 メンバーは総じて小柄ながら、速攻を主体とした走るバスケットで二回戦へと進んだチームである。


 一方──


 私立水無神楽坂学園 スターティング5

 4番 斎乃宮麗胡   3年 身長165(①~③)

 5番 彩瀬四季    3年 身長169(①~⑤)

 6番 轟静      3年 身長177(④~⑤)

 7番 空雅恵理衣   2年 身長159(②~④)

 8番 百乃千尋    2年 身長172(③~⑤)

 アベレージ         身長168.4


 県ナンバー1PGを有する私立水無神楽坂学園は、トヨタ自動車アルバルクの用いた戦術を更に独自にアレンジしたバスケットスタイルとなっている。


 ①・②・③のアウトサイドプレイヤーに、④と⑤のインサイドプレイヤーで構築されるポジション。


 そのアウトサイドとインサイドを回せる者が複数入ることで、戦術に柔軟さと読み難さを持たせた。


 尤も、この戦術は最初から望んでそうしたものではない。


 十二名のメンバーが、タイムシェアによるチーム戦術に徹っして常に全力を出せること。


 それがトヨタのバスケットの強さの一つだが、そのためには全員がある程度デキるラインに達している必要がある。


 トヨタの戦術をそのまま水無学の女子バスケ部に取りいれた場合、いくつかのポジションで一番上手い者と次に上手い者に明確な差が生じる。


 そうなると、試合の半分は上手く回っても半分は下手に回ってしまう。


 しかも、卒業生が抜けてから新入生が入るまで、この戦術を回すために必要な最低限である十人も揃っていなかったのだから尚更である。


 それでは上手くないので、何かで下手を埋める必要があった。


 結論がこれ、たとえ技術や身体能力で劣っても、頭脳で勝ればいい。


 ある大学の元ヘッドコーチは『賢さが力を凌駕する』と言った。


 身体能力や技術も必要だが、如何にそれを使いこなすか。


 その使いこなしを磨いたチーム戦術。


 一面での安定性に欠けても、尖った性能のメンバーを使いこなす司令塔を補佐する形で多面での安定を図る。


 ヒーローのいない戦術でヒーローを演出する。


 それこそが、私立水無神楽坂学園の女子バスケットだ。


 県ナンバー1PGでディフェンスに長けた麗胡。


 二流と揶揄される程、大概のものは平均以上に出来る四季。


 百メートルを十二秒前半で駆ける、五十メートル走七秒切りの恵理衣。


 この三名で魁槍高校の速攻を止め、次の攻撃は麗胡の指揮でほぼ封殺し、返す刀で着実に点を重ねる水無学。


「~♪」


 前半残り四秒。


ジェイこっち!」


 余裕綽々と口笛を鳴らす四季のコートネームを呼んだ恵理衣がパスを受け、相手のお株を奪うような速攻で点を加えた。


 水無学は四十二対十四という、三十点近い差をつけて後半へバトンを渡す。


 魁槍高校のメンバー交代は一人だけだったが──


 私立水無神楽坂学園 後半スターティング5

 9番 星仲真那花   1年 身長160(①~③)

 10番 大王凪巴    1年 身長169(①~⑤)

 11番 泉奏      2年 身長167(①~③)

 12番 硲凛      1年 身長189(④~⑤)

 13番 鷹子初夢    1年 身長173(②~④)

 アベレージ         身長171.6


 タイムシェアに則り、当然水無学は全取っ替えである。


 状況に応じ、一人一人徐々に代えるのが基本?


 否、一人あたりのプレイタイムは多くて二十分前後、これが基本だ。


 それに則っているならば、交代は選手が力を発揮出来るタイミングであれば何時でも構わない。


 分配された時間で常時全力運転を念頭とする戦術。


 故に、水無学では総得点よりも四十分換算平均得点が重視される。


 そしてだからこそ──


「「「トーコ!」」」


 奏のコートネームを呼ぶ三人の点取り屋が、我先にと点に繋がるコースを全力で作り出してボールマンにターゲットハンドを示す。


 嬉しい悲鳴を上げながら奏が四苦八苦している間に、点差は更に拡がって行く。


 第四ピリオドも中盤に入ると、あまりの好調故に蓄積した奏の精神的疲労を慮った彩華の指示で、奏と優姫が交代。


 更に、もう十分とばかりに凛と深雪を交代する。


 10番 泉奏→15番 海原優姫 2年 身長155(①~③)

 11番 硲凛→16番 姫代深雪 1年 身長164(④~⑤)

 アベレージ            身長164.2


 因みに、インターハイ予選である今大会では、メンバー数は通常の十二名上限から十五名上限へと緩和されている。


 相手の疲労が溜まっていることもあり、横に巨大な深雪はその重さを活かしてゴール下を蹂躙する。


 その上、弱った相手には滅法強い悪魔的才能の持ち主、海原優姫が黒い采配を嬉々として振り回す。


 結果、水無学は私立魁槍高校に九十一対三十四という大差で勝利し、三回戦へと駒を進めた。


(今日はまずまずだったよね。コーチや先輩たちにも褒められたし)


 試合終了後、手洗い場の鏡の前で、凛はやや締まりのない顔になっている自分を確認した。


(とと、いけない。戻らないと──)


「っ」


 出ようとする凛と、入って来た魁槍高校の選手三名が互いを認識する。


 どの子の身長も、凛より二十五から三十センチ程低い。


 凛は端によって魁槍高校の選手たちが反対側を通るのを待つが、相手にはよる気配がなかった。


「?」


「卑怯者」


 魁槍高校の三人のうち、中心にいる選手が凛を恨みがましい眼で見て、言葉をぶつける。


(まただ──)


 凛は今までも似たような経験があった。


 同年代の子に比べ、随分と身長の高かった凛。


 それまでやっていたバレーでも、背の高さを理由に『ずるい』『卑怯』『勝てる訳ない』などと、相手チームのみならず自チームのメンバーからさえも負の感情をぶつけられた。


 中学生になった頃までは、コート以外でいつも通りに内気な凛は相当悩んでいたものだ。


 自身の特殊さ故に、周囲に理解されない悩み。


(でも──)


 そう、真那花と出逢い、皇后杯優勝を目指してバスケットをするようになった今は違う。


「違うよ。私が卑怯なんじゃない。あなたたちの程度が低いだけ」


「なっ」


 身長だけではない。


 志も、想定も、準備も、何もかもが低い。


『下を目指すなよリンリン♪』


 高い目的地を示してくれたかつての真那花の言葉を、凛は今でも鮮明に覚えている。


 自身より圧倒的に低い身長の少女。


 にも係わらず、その視界は自身よりも圧倒的に高いものだった。


「真那花ちゃんが教えてくれた。下から見た卑怯さなんて高が知れてるって」


 皇后杯では、上と言える女子日本リーグ機構のチームが出てくる。


 そこでのCの高さは百七十後半から百九十後半で、実に半数以上のチームが百八十後半以上の選手を抱えている。


 つまり、身長百八十九センチの凛であっても、決して高いCとは言えない。


 しかも、日本のバスケット選手としてはまだいないだけで、女子で二メートルを超える人も世の中には存在する。


「恵理衣先輩が教えてくれた。目に見える高さだけが全てじゃないって」


 真那花に誘われてバスケを始めた頃、凛の身長は百八十センチだった。


 それでも最初の一年間、二十センチ以上低い恵理衣にリバウンドではいいようにあしらわれた。


 NBAクラスのジャンプ力を持つ恵理衣。


 だが、凛とてバレーボールで鍛えたため、NBAクラスには届かなくともジャンプ力は高い。


 ジャンプのみの差は約十五センチ。


 指高も考えれば、寧ろ凛の方が勝っておかしくない。


 なのに、ゴール下では技術や経験、スピードに勝る恵理衣が優位に立った。


 圧倒的に背の高い者に対しての先ほどの発言は、公に大人と比べる機会のない中学生までや、高校生以上であっても試合に出ずに楽しむだけの者なら、まだ仕方ないと言えるかもしれない。


 だが、ここは違う。


 インターハイ予選という、全国舞台に繋がる公式試合の場。


 ならば、現状のバスケットであり得る範囲の想定はして然るべきだし、それに対する備えとて必要となる。


 その想定や準備を怠るような低い志しか持っていないのに、いざ目を向けていなかった現実に出合って敗れたからといって相手を罵るなど、恥ずべきことだ。


 今日本で最も有名なU-17日本代表の女子高校生選手は、Gで身長百八十センチ台後半である。


 彼女たちは、凛たち多くの女子高校生選手の憧れでもある日本代表選手を汚したに等しい。


「香澄ちゃんが教えてくれた。二メートルでさえ、既に女性が生身で跳び越えられる高さに過ぎないって」


 走高跳──俗に言う走り高跳び──での女性の世界記録トップ10は二メートル五センチ以上。


 日本記録でも、トップ5は一メートル九十五センチ以上である。


 周りの多くの人は凛を高い高いと言うが、何も人が生身で越えられない高さではないのだ。


 良く晴れた空の下の屋外コートでディフェンスについた凛を、横からではなく上から抜いてパスを受けた香澄。


 その時凛が受けた衝撃は、正に青天の霹靂と言えるものであった。


 理屈では納得出来る。


 本来、走高跳で跳び越えるバーと人間では奥行きが違うため、同じ高さであってもまず跳び越えられない。


 しかし、バスケではディフェンスのために腰を落とすスタンスを取るため高さが下がり、奥行きを越えるだけの余裕が生まれる。


 両手が上がっていれば別だが、片手は何かと横や下に構えることが多い。


 だから、走高跳の着地を背中で取らずに、空中で体勢を整えて足から着地するという陸上選手兼体操選手のような芸当が可能であれば、一メートル九十センチ近い凛をコート上では着地を安全にしつつ越えられる。


 尤も、走高跳に限定した跳び方──ルール上、必ず片足で踏み切らなければいけない──であれば、香澄の身長で凛を上から抜ける女性のスポーツ選手はまずいないが。


「だから教えてあげる。私が卑怯なんじゃない。あなたたちが私を卑怯に見てるだけ」


 もう言うことはないと、凛は多少強引に身体を割り込ませて抜けようとする。


 深雪程ではないにしても、凛の体重は身長の分だけきちんとある。


 BMI値二十一から二十二。


 その範囲が現状のバスケット選手としては理想の体重である。


 筋肉は脂肪よりも重い。


 同じ重さなら、筋肉に比べて脂肪の体積はおよそ1.25倍になる。


 つまり、同じ重さでも筋肉の方は事実として断然スリムに、ライトに見える。


 BMI値二十二という健康体重は、スポーツをしない女性ならぽっちゃりだが、鍛え上げたスポーツ選手ならそうはならない。


 ポジション毎に多少の差異はあるが──SFは下に、Cは上になる傾向──、世界で活躍する選手団やプロチームの背番号持ちの平均値は、概ねこの値に納まる。


 凛はまだそこまでになってないものの、Cとして美容体重であるBMI値二十くらいは当然クリアしている。


 ただ突っ立っている、日々モデル体重──BMI値では十八──の範囲にあろうとするような軽い少女たちの間をこじ開けるくらい、その気になれば造作もない。


 BMI値云々は別として、それは魁槍高校の選手たちも分かっているのだろう。


 取り巻きっぽい二名は、悔しそうに表情を歪めただけだった。


「っ」


 そう、唯一人、感情に流されて暴力で実力行使に出た者を除いては──


「はい。そこまで」


「香澄ちゃん? あっ」


 知らぬ間に側に来た香澄が難なく止めた、平手打ちの形を取った腕。


「遅いから迎えに来たの。さあ、帰りましょう」


 気付いた凛や止められた少女の経緯など気にもせず、手を放した香澄が凛に微笑みかける。


「う、うん。ごめんね。ありがとう」


 相手の暴行を未遂で収め、何事もなかったかのように振舞う美少女。


 そんな香澄の懐の深さに、凛はお礼を述べながら改めて凄いなぁと感じていた。


「そうそう──」


 思いがけず揮った暴力とそれを止められたという二重のショックで固まっていた少女とその取り巻きに、チラッと読めない瞳を向ける香澄。


 それからきちんと向き直ると、恐ろしい程に社交的な微笑を浮かべた。


「あなたたちが最後まで力を出してくれたおかげで今日はいい試合が出来たわ。ありがとう。もし、あなたたちが贔屓にしている学校が無いなら、私たちを応援してくれると嬉しいわ。ふふ、御機嫌よう」


 天使と悪魔の同居したような微笑みを残り香に、凛たちはその場を離れた。

区切りよさそうな所で(恐らく)毎日投稿していく予定です。誤字脱字やルビ振りミスのチェックで度々更新されるかもですが、一度投稿されたシナリオの変更はない予定・・・

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― 新着の感想 ―
[一言] 主人公達の高校の設定もよく練られてますね。 スポーツもの書くにあたって、この辺は重要ですよね。 また大きな目標を達成する為に、 最低限の説得力をもたす理由もちゃんと描写されていると思います。…
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