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星仲真那花のクイックドロウショット

今回の話、前回分と合わせて投稿するか悩んだのですが、サブタイと話の展開考慮した結果分けました

(ここからが、本当の勝負!)


 麗胡と真那花の思いが重なった。


 左手始動のバックロールで一度サイドライン方向へ回りながら、足の間に落とし更に左手始動のバックロールで抜くと見せかけて、途中で持ち替えた右手で背後からパス。


 殆どの者の理解を超えた二秒もない動きで理緒を抜いたパスを受け取った真那花が、クイックドロウショットに向かう。


 三度止めてやると、それを迎え撃つ紅葉とあやめ。


 水無学の応援サイドは今度こそと願い、皇女サイドは今度もと沸き立つ。


 真那花のクイックドロウショットがふわりと放たれた。


 二人のブロックから外れる方向へと──弧を描いて。


 だが、リングは弧の描く横。


 ボールの描く道筋は──


 “絶対に入らない軌道”と分かる。


「!?」


 空中のあやめが何かに気付きかけると同時、同じく空中にいる真那花の唇の端が上がった。


 三人が空中から降り立ちかけるのと反対に、空中へと跳び出した十一番──


 凛が空中で伸ばした片手にボールを掴み、そのままリングへと叩きつけた。


 会場に静寂が訪れる。


 そして、爆発した。


 まさかの女子高校生によるアリウープ。


 そのアシストを決めた真那花と、ダンクを決めた凛がタッチを交わす。


 そして、背後を振り返りあやめを見据えた真那花が、この試合で初めて姉弟子に対して口を開いた。


「これが私の──星仲真那花のクイックドロウショットだ。あや姉が私を通して誰を見てるか知ったこっちゃねえけど──、先に行かせて貰うぜ♪」


 まるで真那花の方が先へ進んでいるかのように、勝気な瞳で八重歯を覗かせる。


 そこには、あやめが考えていたような負の感情など、これっぽっちも見られなかった。


「──っ。上等だマナ。今まで散々遅れてたツケがどれだけ大きいか、直々に教えてやる」


 あやめはその感情を感じ取り、同時にこの仕組みも理解した。


 クイックドロウショットはショートレンジにおいて強力無比。


 それを使う真那花にディフェンスが集中すれば、他のメンバーのゴールへ繋がる道が開くのは必定。


 クイックドロウショットの射線を塞ぐ以上、ブロックに手は抜けない。


 シュートコースを塞ぐブロックが正確なら、それだけ正確なパスコースが生まれる。


 後は、ディフェンスを空中へ引きつけた真那花が上手くパスを撃てば、シュートへ繋がる道理。


 バスケでは基本的に競り合いながらジャンプするために、いつでも最高到達点を出せる訳ではない。


 だから、今まで凛は試合中にダンクなど出来なかった。


 だが、ボールが最初から空中にあり、全力で跳んで叩き込むだけならば話は変わってくる。


 助走込みでのジャンプなら、凛の指先はリングより二十センチ程高い所まで届く。


 小学生の時のバレーでエースアタッカーだった凛は、空中でのボールミートに関しても抜群である。


 通常、シュートされたボールが落ち始めてからボール全体がリングより高い所にある間、選手は触れてはいけない。


 だが、バスケットに入らないことが明らかになった時、そのボールはシュートされたボールではなくなる。


 簡単に言ってしまえば、リング直前へのトスにも似たパス。


 結果、真那花と凛のアリウープはここに成った。


 そして、凛でなくともリング近辺でのグッドショットなら、高決定率を見込める。


 あやめは、SGFらしい妹弟子ならではだなと感じた。


 チームの点取り屋でもあるスコアラーは、とかく自分が決めることに固執しがちになる。


 パスを回さずに独りで挑んでも、すぐにやって来る限界。


 クイックドロウショットというシュート決定率に特化した強力な武器を持ちながら、ゴール下でも真那花はチームメイトへの信頼パスを忘れない。


 過去を気にしてシュートに拘ると考えていたあやめは、師匠の影からの解脱という意味で確かに出遅れていると言えるだろう。


 そんな妹弟子を厄介だと思う。


 誇らしいとも思う。


 だからあやめも、遠い師の背中ではなく、目の前の妹の姿を見て全力を搾り出す。


「行くよマナ!」


「来いよあや姉!」


 二人の勝負は、十人の、或いはもっと多くの人たちの勝負でもある。


 1on1のようでいて、その実5on5。


 SGFとSGという、点取り屋でありながらパス回しも行うポジション故の二面性。


 ゴール下、クイックドロウショットでシュートとパスを使い分ける真那花。


 ウィング、ダブルトリプルでシュートとパス、ドリブルを選択するあやめ。


 第三ピリオドでは、完全に止められたように見えたクイックドロウショットのシュート。


 しかし、クイックドロウショットとは最初から複数の技術の集合体である。


 ダブルクラッチが出来る前提での派生技。


 故に、相手がクイックドロウショットの仕組みを理解して対応するなら、それを逆手に取れば結果としてほぼ五分五分──つまり、クイックドロウショットかダブルクラッチかを選択する駆け引きと運次第になる。


 以前の──クイックドロウショットを使っていて敗北を知らなかった頃の真那花ならば、三発目に固執していただろう。


 だが、それは既に香澄に打ち破られ、真那花自身もまた、その殻を打ち破っている。


 イージーショットを打てない場面では三発目という思考の殻は既にない。


 第三ピリオドで二度目が止められたのは、皇女の動きを確認したかったからに過ぎない。


 水無学には、軽く機械に匹敵する程に観察力のあるアシスタント・コーチがいる。


 相手が本当に対応出来ているのではなく、二発目の変化に張っているだけという確信が早期に持てるのは大きい。


 香澄に敗れた時とは違い、真那花のクイックドロウショットとダブルクラッチに行く前の動作は、その香澄による訓練で見分けのつかないように癖が修正されていた。


 一発目と二発目のどちらに張るか。


 その上、二発目のタイミングはシビアときている。


 最初からそうと張っていた皇女だから止められたが、二つがない交ぜになった状態ではそれも厳しくなってくる。


 クイックドロウショットを止めるのは難しい。


 技術そのものもそうだが、あやめのダブルトリプルと同じく、それを想定した対人練習が難しいからである。


 そもそも順番が逆、あやめが師匠の技術の理を踏襲したのだから当然とも言える。


 その上、真那花のクイックドロウショットにはアシストタイミングのパスが加わった。


 そこにも気を回すとなると、即席でとても対応し切れるものではない。


 いくら皇女の司令塔である理緒が優れていても、既に麗胡と四季との戦術と凌ぎ合いをしているのだ。


 焦りはないが、さりとて余裕もない。


 結果として、真那花のクイックドロウショットによるシュートは再び回りだす。


 水無学の司令塔である麗胡は、クイックドロウショットをも歯車の一つとして多彩な攻めを展開する。


 皇女の司令塔である理緒は、ダブルトリプルを支柱に定番だが鉄板でもある攻めで押し通る。


 その攻めに、麗胡を含めた水無学側は悔しさを抱えていた。


 先読み出来ても止められない攻撃。


 いつもなら麗胡の指示でカウンターを狙える場面でも、個々人の技量が及ばず相手の攻撃を殆ど許してしまう。


(く、もっと時間があったら──)


 つい、麗胡の思考もたらればに走ってしまった。


 攻守共に全国優勝候補と渡り合えるだけの技量。


 幸いなことに、それを得られる状態にある水無学だが、時間は無情である。


 香澄という世界でも屈指の手本を得た来年の水無学であれば、恐らく過半数くらいは個人の技量も全国区に恥じないレベルまで到達しているだろう。


 そして後輩たちも、そんな全国レベルの先輩たちの下で技術を磨き、そこに近付くに違いない。


 だが半年程前まで、麗胡たちの身近な手本は県ベスト4で凌ぎを削っていた先輩たちと、高校時代を最後に現役を退いた世界戦経験者の監督、そしてインカレ出場経験者とは言え、その中では普通だったビッグマンコーチだった。


 およそ二年以上に渡って日本代表レベルで切磋琢磨して来た皇女のレギュラー勢に、たった三・四ヶ月で互角以上に渡り合えるようになる程の下地はない。


 優秀な選手が優秀な指導者になれるとは限らない。


 自分なりの鍛え方で駆け上がったやや天才肌な彩華と、不器用ながら地道な練習をこなして全国舞台で戦っていたどちらかと言えば凡才寄りの撫子という組み合わせは、そういう意味でいい具合にハマっている。


 しかしながら、共に切磋琢磨する相手が県ベスト4という中で一気に全国ベスト4を芽吹かせる程の手腕はなく、麗胡たち選手の方もそれ程の才能は持っていなかった。


(泣き言を言っても始まりませんね)


 気持ちを切り替え、心はアグレッシヴに、頭はクールに、身体はスピーディに回していく麗胡。


 終始追いかける形でも、心を折らずに攻守を切り替える水無学。


 息を吹き返したクイックドロウショットに精神だけではなく得点でも支えられ、両チーム互角のまま勝負は終盤までもつれ込む。


 六十二対六十二。


 理緒の動きを読んだ麗胡がパスカットに動くも、指先で弾くに止まり零れたボールを満夜が拾う。


 残り僅かの時間。


 あやめに放たれるパス。


 それを防ぎに動く真那花。


 だが、それより速くボールを止めた空が、パス&ランで中に入る満夜にボールを返す。


 満夜のフックシュートが決まり、二点差となって水無学最後の攻撃に回った。


 残り七秒。


 タイム・アウトを取った水無学は、逆転よりも同点延長を狙う方針に決める。


 スリーを警戒する皇女は、外からのシュート決定率も高い麗胡や四季、そして真那花をマーク。


 凛のスクリーンを利用して攻め入る真那花。


 その真那花を防ぎに皇女が集う頃には、続く静のスクリーンで凛がフリーになっている。


 その凛にゴール下で回るパス。


(いける!)


 真那花たちはそれを確信した。


 こうなれば、もう防ぎようがない。


 そう──、通常の手段では。


 審判が左の手首を叩き──、凛の放ったボールが、リングに跳ねた。


区切りよさそうな所で(恐らく)毎日投稿していく予定です。誤字脱字やルビ振りミスのチェックで度々更新されるかもですが、一度投稿されたシナリオの変更はない予定・・・

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