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姉妹弟子対決! ダブルトリプルVSクイックドロウショット

最初はあまり拘ってなかったサブタイに、いつの間にか拘ってる自分。嫌いじゃない。

年内最後の投稿になります(と言っても全て予約投稿なので正確には違いますが)。

それでは皆様よいお年を。来年もよろしくお願いします

 私立水無神楽坂学園 後半スターティング5

 4番 斎乃宮麗胡   3年 身長165(①~③)

 5番 彩瀬四季    3年 身長169(①~⑤)

 6番 轟静      3年 身長177(④~⑤)

 7番 星仲真那花   1年 身長160(①~③)

 11番 硲凛      1年 身長190(④~⑤)

 アベレージ         身長172.2


 運命の悪戯か……、はたまた必然か……、とうとう訪れてしまった姉妹弟子対決。


 片や、師の後を真っ直ぐ走り切った真那花。


 クイックドロウショット。


 片や、師とは真逆の道をひた走ったあやめ。


 ダブルトリプル。


 互いの誇りと意地を賭けた技の極致が、遂に激突する。


 スタートはやはり真那花。


 凛と鍛えたピックプレイに対しショウディフェンスに出る紅葉。


 それをカモネギとばかりに、真那花はインサイドアウトからのバックロールターンで抜いてクイックドロウショットを放つ。


 ショウディフェンスは確かに強いが、真那花にしてみれば、わざわざ抜き難いGではないCやFをドライヴ相手に選べる美味しい対応でしかない。


 仮にどちらもGの場合でも、スクリーナーを挟んだG二人はダブルチームをかけ難くなっているから、ドライヴの得意な真那花なら真っ向勝負を仕掛けられる。


 現状のバスケットはG二名にFとCで三名という構成が殆ど、つまり、片方のGを抜けばボール運びはこっちのもので、シュート対ブロックという場面に持ち込み易い。


 そして、ショートレンジのシュートなら、クイックドロウショットは強力無比。


 後半開始早々のトリプルクラッチに、会場が沸く。


 落ち着かない内にと麗胡の仕掛けた罠に掛かった相手から真那花がボールを奪って四季へと繋ぐと、ダブルクラッチでブロックを華麗にかわして決めるJ。


 このまま一気にと水無学サイドが思うも、今度はあやめがオーバーヘッドシュートで三点を決める。


 実力が上の相手にはテンポを落とすのが定石だが、本数で押しているならと回転を早める麗胡。


 互いの好ディフェンスが続き、決まるシュートの二本に一本は互いに七番という状況となる。


 小さなSGF対大きなSG。


 奇しくも、二人の身長差はかつての真那花と師匠を比べた時と同じ二十六センチ。


 その多様性故に、試合でもシュート決定率九割を誇る二点。


 ほぼグッドショットが可能なために、試合でも──世界大会でもシュート決定率六割を誇った三点。


 点数的には両者互角。


「──とでも、思ってる?」


 真那花で決めようとした麗胡のパスと思考が、理緒に防がれる。


 そう、二人の理論上の得点数は同じ。


「でも、それを演出する私とあなたの技量は違う」


「っ」


 残酷なまでの現実の壁。


 理緒の姿は、正に麗胡の未来の姿と言って差し支えない。


 四季のサポートのお蔭でどうにか勝負になってはいるが、このままでは劣勢は否めなかった。


「惜しいけど、あなたみたいな正統派のトリッキーパスなら、私の方が上よ」


「──そうでしょうね」


 分かっていた。


 そこそこのセンスはあっても、麗胡の動きは基本的に技術の占める割合が大きい。


 理緒のような、似たようなタイプの格上相手では分が悪い。


 だからこそ、水無学は第一ピリオドに奏を、第二ピリオドに美羽を起用した。


 麗胡と違い、美羽の動きはセンスの占める割合が大きい。


 勿論、それを支える技術も並ではないが、ここで言いたいことに関してはさして重要なファクターとならない。


 ポイントは、動きの根本が理論的か感覚的かに尽きる。


 根本が感覚的な動きは、度々理論的な動きを跳び越える。


 理緒や麗胡くらいになれば、多少センスに優れた動きなら理論的な範囲でほぼ全てを察知出来る。


 だが、並外れたセンスを持つ者の直感的な動き相手では、綻びも大きくなる。


(つまり、糸口は定石ではない動き)


 そう、分かっていた。


 皇女の、鉄壁故の不動の布陣。


 だからこその、第二ピリオドに美羽の起用というチーム戦術。


 当然、個人レベルの戦術とて皆無ではない。


 美羽のようなセンスは麗胡にはないが、水無学には総技術なら全てを呑み込む程に業の深いアシスタント・コーチがいる。


(この動き、先読み出来ますか?)


 香澄の幾多ある動きから良さそうと見て身に着けた、バスケットの動きに(ブレイク)縛られない(バインド)ステップ。


 人間の反応速度は、決して一定ではない。


 パンチに対する反応に優れたボクシングのチャンプでも、結果が反応速度に依存するような遊戯では一般人と変わらなかったりする。


 つまり、程度に差は生じるものの、人は特定の動きに関して自身の対応を最速且つ、最適化出来るのである。


 逆に、普段見ないような動きに関しては概ね対応が遅れ、起こす行動も適切ではなかったりする。


 ブレイクバインドステップは、そういった穴を攻める。


 ドリブル中に突如、左足を軸に上半身と右足をくるりと縦回転させる麗胡。


「──ぇ」


 その一秒あるかないかの動きに理緒が思考と目を少しでも奪われれば、ボールは回転途中の麗胡の手により下からパス出しされている。


 新体操やバトントワーリングなどで使われる体捌き、リバースイリュージョン。


 一体誰が──、バスケットコートでそれを目の当たりにすると思っただろうか。


(柔らか!! ボールは!?)


 理緒は勿論、観客たちの視線も遅れて追って来るボールを走り込んで受けた真那花は、同じように反応の遅れた皇女メンバーを抑える凜と静の援護を得て、着実にランニングシュートを決める。


 ボールマンをチェックに走る麗胡と、シュートを決めて自陣に走る真那花が交差する合間に拳と笑みを軽く合わせた。


(いけますね)


 香澄と違って引き出しも少なく──香澄自身はそういった動きに固有名詞をつけていなかったし、それだけ自在である──未だ及第点とはいかないが、それでも高校生日本代表クラス相手なら五分以上にやり合える仕上がりと言える。


 理緒が見切った麗胡の姿は、一つ目のパスを受け取った後の輪郭に過ぎず、その前や二つ目以降を受け入れないという選択にはならない。


「これで演出も五分。いえ──、私たち水無神楽坂の方が上です」


「面白いわ。見せてみなさい斎乃宮麗胡。全て上回ってあげる」


 攻守の切り替わった司令塔たちが、不敵に言葉を交わし合う。


 理論上の得点数も、それを演出する司令塔の力も拮抗し、互いに譲らないまま時間が流れる。


 その均衡を崩したのは、やはり皇女だった。


 クイックドロウショットはイージーショットを打てない場面で真価を発揮するが、それ故に原理を知る者には止め易い。


 二人の師匠──三島翠子の仕組んだトリック。


 ジャンプ力の非凡でない者でも、空中で二回の姿勢変更を可能としつつ、安定して打てる余裕を持たせる抜け道。


 それは、クイックドロウショットという名に表れている。


 弾丸は三発。


 されど、銃声は一発少ない。


 クイックドロウショットは、トリプルクラッチでありながらダブルクラッチでもあるのだ。


 何を言っているのか、訳が分からないかもしれない。


 そもそも、クイックドロウショットには一つ、弱点がある。


 それは、相手の動きの余裕がなくなる三発目と違い、二発目は相手にまだ動く余裕があるのに七つの選択肢しか内包していない点である。


 つまり、ただの勘でも、十五パーセント弱の確率で相手に阻まれてしまうということだ。


 十五パーセント弱で十分と考えなかった翠子は、空中戦での選択肢を増やすのではなく、地上戦での選択肢で上書きすることを選んだ。


 そう、クイックドロウショットは見た目トリプルクラッチだが、その実“一発目と二発目は最初から決まっていて”、相手の動きに対応するのは二発目と三発目の一度だけという、中身はダブルクラッチそのものなのである。


 一発目と二発目、二発目と三発目と──、二度とも相手の動きを見て判断してから対応していては、いくら反応速度に優れた人間でも遅いのだ。


 自分の反応だけではなく、相手の反応にも時間が取られるのだから当然である。


 だから七つの選択肢しかない二発目を一発目の八つの選択肢に取り込み、その後の相手の動きから判断してショットセレクトしていた。


 相手にしてみれば、こちらが二発目を最初から決めていることなど関係なく、二発目の選択肢に対応せざるを得ない。


 対応出来なければ、そのままシュートを放ち見た目ダブルクラッチで決め、対応出来ていたらそこから派生する選択肢で決めに行く。


 相手の動きに係わらず、一気に二発目まで移行すること。


 これによって三発目の判断に余裕を持たせ、シュートを安定させていたのである。


 ここまでの説明で気付くかもしれないが、そもそもクイックドロウショットは、対上級者用のテクニックである。


 相手の動きに係わらずに一気に二発目まで移行するため、場合によっては一発目にさえ反応出来なかった相手に『フェイントなしで問題なく撃てたのにどうしてダブルクラッチに行ったのか?』という疑問を抱かせることになる。


 しかし、相手が上級者であれば大概一発目は読まれる。


 そしてそれ故に、念を入れられたと勘違いさせることが出来るのだ。


 トリプルクラッチが出来るならダブルクラッチが息を吸うように出来て当然という思考を逆手に取った、実に巧妙なトリックと言える。


 相手によって従来のダブルクラッチとクイックドロウショットを使い分けることで、相手にとってクイックドロウショットはトリプルクラッチにも見えるしダブルクラッチにも見えるのである。


 言い換えれば、ただのダブルクラッチがクイックドロウショット──相手の思考ではトリプルクラッチ──の一部に見えるということである。


 その二つに用いられている技術が違うことに、一体誰が気付くだろうか。


 このトリック故に、クイックドロウショットは二人がかりでも止め難い。


 止め難いが、それは全容を知らなければの話。


 トリックのロジックさえ知っていれば、一つ上手い止め方がある。


 イージーショットを打てない場面では、十中八九ダブルクラッチではなくクイックドロウショットが選ばれる。


 その状況なら、最初から一発目を無視しても打たれる心配はなく、二発目に合わせてブロックに跳び、三発目の動きに集中するだけでいい。


 クイックドロウショットは安定して高いシュート決定率を出す目的を常とする以上、一・二発目ではなく二・三発目を一緒くたにして判断することはあり得ない。


 困難な状況で頼られるが故の、状況を限定され易いという弱点。


 それでも、ブロックが一枚なら、多くの選択肢に呑み込まれるだろう。


 だが二枚で対応出来たなら、ゴールに届く射線を十分にカット出来る。


 続けて防がれるクイックドロウショットに、水無学の応援サイドが揺れる。


 その揺れた波に乗じるように、満夜が点数を追加して第三ピリオドが終わった。


クイックドロウショットの内容考えると技名まで姉妹な二人。

リバースイリュージョン、検索して頂ければすぐ見つかると思いますが……

新体操やバトントワーリングで女性のやってる動画を見れば思考と目を少しでも奪われた理緒に共感して貰えると思います(ただし、その道の人で常日頃から見てる人を除く)。

よく理解したい人はHirotakaさんのヒロレッチchannel、

【イリュージョンの練習方法・コツ】ダンスやパフォーマンスに取り入れやすい技

……という動画がオススメです。これが新しいピヴォット練習(マテ

区切りよさそうな所で(恐らく)毎日投稿していく予定です。年の切り替わる0時の予約投稿は避け、次は12時になります。誤字脱字やルビ振りミスのチェックで度々更新されるかもですが、一度投稿されたシナリオの変更はない予定・・・

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