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クイーンミーツジョーカー。〇〇〇〇故の、不動の県ナンバー1

本来のサブタイは「クイーンミーツジョーカー。〇〇〇〇」です。

ネタバレなのでこんな形で。答えは読んでのお楽しみ

 鶴見の自信を嘲笑うかのように、試合は水無学優勢のまま進む。


(あり得ませんわ。こんなこと──)


 雅野の行った水無学対策は確かに効いている。


 それでも、形勢は五分のまま──つまり、有利だった水無学が点差を維持したままだった。


 麗胡の指示通りには思えない不可解なセットオフェンス。


 よく見れば統率が取れているとは思えないのに、何故か統率の取れている異常さ。


「~♪」


(ウルサイですわね。さっきから何度も何度も)


 余裕を感じさせる四季の口笛が、鶴見の癪に障る。


 それは、雅野のメンバー全員が感じているのだろう。


 まだ大事には至っていないが、動きに少々粗が目立っている。


 そして遂に──。


 第三ピリオドも終盤、典型的なエース気質でイラつきを抑えることの難しかった舞羽が、ボールを受け取った四季をファウルになってもおかしくないすれすれでディフェンスした。


 そんな中、真剣な表情で口笛を吹きながら、苦心の末パスを繋ぐ四季。


(──!?)


 違和感が、鶴見の中に芽生えた。


 そして鶴見の思考の中、その違和感は確信となって、急速に花開く。


(まさか──、そういうこと! でも、そうすると──)


 ファウルは取られなかったものの、得点を許して十二点差となった雅野がタイム・アウトを取った。




「────」


 徹底的に対策を練った相手へのまさかの苦戦に、雅野の監督も何も言えずにいた。


 開始前の予測では、この時点での点差は反対だった。


 第四ピリオドで総合的に劣るメンバーと交代しても、いつも通り逃げ切れる筈だった。


 高校女子バスケットは、第三ピリオド終了時点で勝敗が概ね決まる。


 その時点で勝っていれば、データ上だが負ける確率は約三割。


 それ故に、雅野は第一と第三ピリオドに主力を配置して逃げ切る戦略を採っている。


 事前の情報収集に対策という、面倒な下準備を怠ることなくしているから可能な先行逃げ切り。


 今回もそうなる筈だった。


 その筈だったのに──。


 チームは期待したとおりに動けている。


 だが、第一ピリオドはトリプルクラッチという個人技で差を縮められ、第二ピリオドは完全に向こうのペースだった。


 更に第三ピリオドは、こちらの動きを相手が何故か上回っている。


 今回のタイム・アウトも、ファウルしそうだった舞羽を冷静にさせる目的の方が大きい。


「分かりましたわ」


 だから、そんなチーム一の司令塔の言葉に、不安と期待と視線が集中した。


「……どう分かったんだ鶴見」


 場合によっては否定的な意見が出ても致し方ないと覚悟を決め、監督が先を促す。


「水無神楽坂学園には、二人目の司令塔がいた」


「二人目?」


 鶴見の意見に、殆どのメンバーたちが疑問を口にする。


 口にしなかったのは、自分たちが分からないことを聞いているのだから分からない話が出て当然と理解していた、監督と調理たち付き合いの長い三年生の面々である。


「一人目は言わずと知れた斎乃宮麗胡。そして二人目は──」


 一度瞳を閉じてから、静かに目を開けた鶴見が掴んだ真実を口にする。


「彩瀬四季。麗胡さんの指示に、彼女が状況に応じた修正を加える。それが水無神楽坂学園の読めない戦術の正体ですわ」


「でも、五番は戦術的な指示を出す動きなんて一つも──あっ」


「もしかして──」


「口笛!?」


 驚きと理解が伝播する。


「YES! てっきりセットオフェンスにより近いモーションオフェンスかと思いましたが、なんてことは無い。結局ただのセットオフェンスだったのですわ」


「……でも、指示とか関係なしに、割とずっと吹いてたような気もしますけど」


 舞羽が司令塔の説明に納得出来ず、遠慮がちにコメントする。


「言ったでしょう舞羽。二人目だと。麗胡さんが指示を出す前の口笛は全てブラフ。気付かれないための布石ですわ」


「なるほど! 流石鶴見先輩。普通気付きませんよ」


 疑問が晴れたことで舞羽の曇っていた表情も晴れ、鶴見を大いに称賛した。


「褒めて貰っておいて悪いのですが──、正直申しまして、今からですと手の打ちようがありませんわ」


「え……」


 その晴れた表情がまたしても曇る。


「考えてみなさいな。音の高低や長短の組み合わせだけなら四通りで、少し頑張れば私でなくとも解読出来ますわ。でも彼女、一・二小節くらいは頻繁に口にしてましたわよね? 有名なメロディの組み合わせならまだ読めなくもないのですけど」


「確かに……。ただの感嘆符代わりに感じられなかったからこそ、皆が少なからずイラついたのだしな」


 調理が問題点を察しつつ肯定する。


「音を聞き取る以上、あまり複雑ではないとは思いますが……。とにかく声を出して邪魔する程度の策しか、現状有効打にはなり得ませんわ。今から下手に聞き取ろうとすれば余計に点を与えかねませんし」


「テクニカルファウルにならない程度ならありか。関係ないことをわーわー言わなきゃ大丈夫だろう。よし、司令塔を四番だけに出来ればこっちに分がある。行って来い」


 雅野の監督は勝算の見えた所で、自信を取り戻せるような台詞と共に選手たちを送り出す。


 声を密にして張り上げ、四季の口笛による指揮を妨害する雅野。


「へー、Jに気付いたんだ。やるね」


 鶴見にパス回しを中断されている恵理衣が、それでも嬉しく楽しそうに雅野を褒めた。


 二流や穴埋めなど、周囲の評価が高くない器用貧乏な先輩。


 だが実際は、麗胡の県ナンバー1PGという評価に一枚も二枚も噛んでいる。


 陰の立役者。


 二人一役故の、不動の県ナンバー1。


 水無学の、隠す気も無いとっておき。


 気付かれても、一番簡単な妨害策となる声出しは相手の呼吸を乱し、体力やタイミングを奪う。


 鶴見が気付かれないための布石と思ったブラフは、ブラフも何も元から存在した。


 そこに後から、戦術としての旋律が加わっただけ。


 結果として、木を隠すなら森の中になっただけである。


 その陰に気付いて対策を講じられるとはイコール、それだけ四季が評価されたということでもある。


 後輩の恵理衣が、プラスの感情を抱いてもおかしくはない。


 恵理衣に触発された訳でもないが、鶴見も窮地にあって表情は気高く勝気な笑みを模る。


(J。ジョーカー。カードゲームでは切り札故に、一番最後に残してもあがれないカード。言いえて妙ですわ。攻略を最後に回してはいけない道化。全く、全国舞台はこれだから──)


 第三ピリオド終盤は雅野有利となったが、メンバーを第二ピリオドと同様に交代した第四ピリオドでは、地力の差もあり水無学有利で試合が進む。


 特に、羽衣のスクリーントラップにハメて雅野の期待のルーキーである珠姫の調子を落とせたことが大きかった。


 残り五分を切った所で、雅野は副キャプテンはそのままに、他メンバーをファウル数の少ない三年から順に交代させていく。


 最後はメンバー全員三年生で、試合を終えた府立雅野高校。


 そのキャプテンの表情からは、心技体智の全てをぶつけ切ったような、確かな満足感を窺えた。




 スポーツ推薦を受けるとは、全く思っていなかった。


 二流や穴埋め、六枚目などの呼び名から分かるように、彩瀬四季にはこれといった強みが無い。


 そんな四季にスポーツ推薦枠を使うなど、酔狂な監督もいたものだと興味半分で面接を受けた。


「あなたには素質があるわ」


 見た目は出来るキャリアウーマンといった風体の女性。


 顧問の教師を連れてわざわざ四季の中学まで足を運び、その一室を借りての面接である。


 その監督は開口一番、こちらの傷を抉るようなことを言い出した。


「素質ですか? 本人としては自覚ありませんけど」


 自慢じゃないが自分程中途半端に出来る人間はいないだろうと、この時の四季は思っていたし現在も思っている。


 そしてこの監督の言う素質は、そういった中途半端なものではなく、何かしら一番優れたものを指しているのだろうことは分かった。


「二流と言ったかしら? あなたの呼び名は」


「あまり好きくないんで、呼んで欲しい呼び方ではありませんね」


 牙を抜かれた犬に成り下がる気はない。


 例え、二流より上に行けなくても、二流より上に行きたいという気持ちは消えていなかった。


「ふふ、そうね。そうでしょう」


「……」


 四季の反抗的とも取れる対応に満足したのか、監督はうんうんと嬉しそうに、されど品定めするように頷く。


「なら、それを私たちで超えてみないかしら?」


「一流になるってことですか? 悪いですけどそんな風になれるとは──」


 渦巻く気持ちとは裏腹に、現実を述べる。


 トータルバランスで言えば、四季は一流となれるかもしれない。


 だが、バスケに限らず、何かしら抜きん出たものがある方が上手く見られ易い。


 それは同時に、活躍し易い場所があるということだ。


 その点、四季には誰よりも活躍出来るという場所がない。


 下を見れば、四季は何処でも一流として活躍出来る。


 しかし上を見れば、四季は一流として活躍出来る場所がないと言わざるを得ない。


 成長の壁を突破する進行具合が、良くも悪くも均等なのである。


「違う違う。全然違うわ」


「?」


 二流を超えようと言うのだから、一流になるのが普通という考えをを即座に否定され、四季は表情にも出ているだろう疑問符を浮かべた。


「頭が固いわね。その辺はウチに来てから直していくとして。とりあえず、私があなたに望んでいるのは一流の選手になることじゃないわ」


「おっしゃる意味がよく分かりません」


 謎かけをして反応を見るような相手の対応に、努めて冷静に言葉を返す。


「ふふ、そうね。そうでしょう」


「……」


 本日二度目となるこの頷き。


 どうにも相手の掌の上にあるような気がして、居心地が悪い。


「彩瀬四季さん。あなた、ウチで──私立水無神楽坂学園で、二流の中の二流、超二流を目指してみない? あなたが来れば、全国だって狙えるわ」


 訳が分からなかった。


 二流を超えようと言いながら、一流になることを望んでいないとのたまう監督。


 だが、だからこそ行こうと思った。


 恐らく、四季と似たような思考の人間の下では、今の四季を塞いでいる殻を破れない。


 バスケットが好きだ。


 出来たらカッコイイかなという気まぐれだけで、別段これといった理由もなく始めたスポーツだが、今となっては一番気に入っている。


 そのバスケットで、中途半端なまま終わりたくはなかった。


 相手のペースで持って行かれた面接が終わる。


「超二流……ね」


 帰り道、殆ど毎朝走る土手沿いを歩きながら今までを振り返る。


 頭に浮かんだのは、シューターとして活躍するチームメイトの姿だった。


 四季はああはなれないだろう。


 水無学の監督も、華やかな表舞台に立つことを望んでいるような感じではなかった。


 でも四季が来れば、全国を狙えると言った。


 全国を狙うのに、一流の選手ではなく、四季のような器用貧乏とも言える二流の選手を欲する監督。


 その戦略に、興味が湧いた。


「やってみるか」


 過去の自分を振り切るように、お気に入りのメロディを伴って走り出した。


クイーンミーツジョーカー、如何でしたでしょうか?

作者は急転直下の深雪回と並んで、特に好きな回の一つです。

変えたいと思っているのに変えれない自分への焦りや苛立ちで、周囲に対して思わず攻撃的になってしまう。或いは周囲を遠ざけて独りで抱え込んでドツボにハマる。二次元のみならずあるあるだと思います。

それでも諦めないでいれば、道が開くと信じたい。自分の思った方向ではないかもしれませんが。

あと扇の鶴見も好き、和風少女も和風青年も着物や浴衣美人も和風壮年もいいよね(見境・・・

区切りよさそうな所で(恐らく)毎日投稿していく予定です。誤字脱字やルビ振りミスのチェックで度々更新されるかもですが、一度投稿されたシナリオの変更はない予定・・・

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