クイーンミーツジョーカー
相手チームの視点やライバルキャラの視点って大きいですよね。
ただそればかりで話進まず、いつまでも全国行かずに行く頃には大体ネタ出し終わってて期待してた全国がってパターンは嫌なので、この作品は先に強めの環境作りしてさっさと全国に進ませました。
何かしら才能あった主人公が諸々の事情で弱小校再スタート好きですけどね。
七月三十日。
インターハイ三回戦の第四試合。
私立水無神楽坂学園対府立雅野高校。
雅野は水無学と同じく、近年力をつけて来た高校である。
水無学の顧問でチーフマネージャーでもある更紗が発掘して来た、雅野の監督のインタビューによればあくまで選手に恵まれたに過ぎないという話だったが──。
その選手の力を引き出し、纏め上げる手腕は侮れない。
何せ──。
「今日の試合は見物だな♪」
「いや、あんたも出るから」
これから始まる高校では珍しい対戦内容に、真那花が期待を募らせ、初夢がムスッとした表情でツッコミを入れる。
「後半戦は真那花の言う通りだろう。まあ、確定とは言わないが。私としては希望を抱ける第一、第三ピリオドに分けて出たい」
相変わらず巨乳に目が無い変態淑女である。
先の二戦においては、そっち方面で全く腕を揮えなかったので尚更であった。
「いくら最高の下っ端を目指すわたくしでも、胸は差し出せませんよ?」
深雪が凪巴の視線から胸を隠すと、凪巴はそれならと視線を移す。
「物欲しそうにこっちを見るな」
初夢にも振られた凪巴は仕方なく、見るだけなら問題ない香澄の揺れる胸へと視線を移した。
煉香と手を繋いでいる今なら簡単に触れそうだが、煉香がいる今は反撃が超絶洒落にならないというジレンマ。
大事な試合前に、後に残るダメージを負う訳にはいかない。
「おい一年。ちょっとは緊張感をだな」
四季がワイワイ騒ぐ後輩たちに釘をさす。
「星仲真那花は先輩たちを信頼してるってことじゃないの? 私も正直、先輩たちと戦術勝負はやりたくないし」
集団から一歩離れて着いて来る美羽が、面倒そうな顔で前を見つめながら返す。
「持ち上げられてますね」
千尋がにこやかに追従した。
「全く、今年は本当に──」
言いかけた四季の言葉が、前方から来る集団を見つけて途切れる。
「奇遇ですわね。水無神楽坂学園の皆様。調子はいかがかしら?」
府立雅野高校のメンバーを引き連れた、キャプテンの安倍之鶴見が声を掛けて来た。
扇を片手に持ち、何処か和を感じさせる少女。
堂々とした立ち居振る舞いは、さながら女王のそれである。
「お蔭様で、ここまで勝ち進めたくらいには調子がいいです。今日は皆さん楽しみだったようで、特に」
水無学のキャプテンである麗胡が、どちらにも取れるような台詞で相手の出方を窺う。
「重畳。そうでなくては。今日の一戦、私たちもとても楽しみでしたの。これが決勝戦であれば言うこともなかったくらいで──」
どうやら純粋に親睦を深めたかったようで、相好を崩して上機嫌に話し出す鶴見だったが──
「お嬢。気持ちは分かるが、時間は互いに無限じゃない」
「コホン。そうですわね調理。インターハイという舞台で似た戦術を組み立てる数少ないチーム同士、水無神楽坂学園の皆様とは互いの友好を築きたい所ではありますが……。今日は私たち、府立雅野高校が勝たせて頂きます」
幼馴染の相方に窘められ、再び表情を引き締めると臆面も無く宣戦布告を行った。
「──ええ、私たちも同じ気持ちです」
それを受け止め、しっかりと気持ちを交わした麗胡と鶴見がすれ違い、両校のメンバーがそれに続く。
トランジションバスケット対トランジションバスケット、正に、チーム対チームの戦いが始まる。
私立水無神楽坂学園 スターティング5
7番 星仲真那花 1年 身長160(①~③)
8番 大王凪巴 1年 身長169(①~⑤)
11番 硲凛 1年 身長190(④~⑤)
12番 泉奏 2年 身長167(①~③)
13番 鷹子初夢 1年 身長173(①~④)
アベレージ 身長171.8
府立雅野高校 スターティング5
4番 安倍之鶴見 3年 身長162(①~③)
5番 北条調理 3年 身長178(④~⑤)
6番 怪塚百合 3年 身長175(④~⑤)
7番 藤原嶺 3年 身長170(①~③)
8番 神前舞羽 2年 身長171(①~③)
アベレージ 身長171.0
試合は互いに、チャンスの潰し合いとなった。
序盤はそれでも得点機会が何度か回るが、次第に司令役が瞬時に判断する選択肢の幅の広い雅野有利となって行く。
(インターハイでの一・二回戦で、そちらの戦力は把握済みですわよ。水無神楽坂学園の皆様)
思考内と実際のデータの照合を終えた鶴見が、嬉々として敏腕を揮う。
第一ピリオド中盤、二点有利から一気に逆転されて五点リードを許した水無学がタイム・アウトを取った。
「あの扇、マジ麗胡先輩クラスだな。八番もエリィ並みに速いし」
「そうですね。麗胡先輩のような逆手に取る感じはないですけど……」
(それにしても扇ですか……)
「その分、きちっと止めてくる。精神的にどうにも攻め難さを感じるな」
(扇か。ふむ、確かにEー扇だった。六番のやや硬い荒野を思わせるDも味わい深いものがあったが、程好い柔らかさと気高く跳ね返すような弾力に滑らかな質感を持った四番のEにやはり軍配を上げざるを得ない。うむ、実に素晴らしい!)
「オフェンスに関しても結構絡んでくるし。調子に乗られるとウザいかも」
(繋ぐボール捌きは麗胡先輩が上だけど、決めに行くボール捌きは扇が上ね。PGFってやつ? ったく、司令塔はそれらしくしときなさいっての)
「……なら、前半が終わるまでは個人の長所を活かす方向を強くしましょう」
選手の意見を基に、アシスタント・コーチが指針を打ち出した。
「ラジャだぜ♪」
タイム・アウト以降、水無学は自分たちから積極的にオフェンスの選択肢の幅を狭める。
凛の高さでゴール下を確実に、凪巴の速さでゴール前を強引に、初夢の斜めでミドルレンジを不意に、そして──
(その手は通じませんわ)
決め手が勢い任せで突破を試みるという、やや単調になった水無学の戦術に、鶴見は確信を抱いてディフェンスを布く。
スクリーンを使ってゴール下に潜り込んで跳んだ真那花に対して、前を塞ぐ二人のブロック。
オーバーハンドからアンダーハンドで横から、と見てブロックを少しずらす嶺。
真那花が後ろに崩れたと思ったのは、雅野と多くの観客。
真那花があれを撃つと思ったのは、水無学とその応援団。
クイックドロウショット。
ベビーフックで空いたブロックの間を、真那花の三発目の弾丸が通った。
(な──っ!?)
雅野の驚き具合とは正反対の安定した軌道を描き、ボールがリングを音も立てずに通過する。
──っ、わああああああ!
水無学の応援団が待ちに待った瞬間に沸きに沸く。
インターハイ一・二回戦では見られず、三回戦で漸く見れたトリプルクラッチ。
三重の最優秀選手ここにありとばかりに、真那花コールが響く。
(まぐれに決まってますわ。こんな──)
鶴見は自身の動揺を隠しながら、一層落ち着いてチームを指揮する。
そのため、攻守共に堅実に固まる雅野。
おかげで、一度ハマッた鶴見の予想外の攻めは面白いように決まる。
十八対十九。
水無学が一点差まで近付いた所で、第一ピリオドが終わった。
12番 泉奏→14番 神陰美羽 1年 身長146(①~③)
アベレージ 身長167.6
府立雅野高校 第二ピリオドメンバー
9番 斉藤絵里菜 3年 身長167(①~③)
10番 長井福音 2年 身長173(④~⑤)
11番 沖野司音 2年 身長165(①~③)
12番 蘇我珠姫 1年 身長176(④~⑤)
13番 鈴木優奈 2年 身長170(①~③)
アベレージ 身長170.2
今度は、水無学と雅野の立場が逆転する。
美羽が入ったことで戦術とボール回しに厚みの増した水無学が、鶴見程の司令塔のいない雅野を攻守共に脅かす。
速さで凪巴を抑えられる者もおらず、水無学は水を得た魚のように敵陣を回遊した。
戦術で上手く行って攻め入るだけではなく、時に少し強引な攻めが積極的に加わることで、雅野は心の休む暇なく攻め立てられる。
二度のタイム・アウトを取り、対策を講じる雅野。
副キャプテンの絵里菜や期待のルーキーの珠姫が奮戦したが、形勢は変わらなかった。
四十三対三十五。
私立水無神楽坂学園 後半スターティング5
4番 斎乃宮麗胡 3年 身長165(①~③)
5番 彩瀬四季 3年 身長169(①~⑤)
6番 轟静 3年 身長177(④~⑤)
9番 空雅恵理衣 2年 身長159(②~④)
10番 百乃千尋 2年 身長173(③~⑤)
アベレージ 身長168.6
府立雅野高校 第三ピリオドメンバー
4番 安倍之鶴見 3年 身長162(①~③)
5番 北条調理 3年 身長178(④~⑤)
6番 怪塚百合 3年 身長175(④~⑤)
7番 藤原嶺 3年 身長170(①~③)
8番 神前舞羽 2年 身長171(①~③)
アベレージ 身長171.0
(まさか、あんな隠し玉があったなんて。ですが、後半のメンバーは前半のメンバー以上に対策を行っています。まだ勝ち目はありますわ)
統率の取れているように見える水無学の後半メンバーの動きには、実はセットオフェンスにしては不可解な点が多々見受けられる。
モーションオフェンス。
セットオフェンスとフリーオフェンスの特徴を取り入れたもので、最小限の約束事を守りながらもパターンを決めず、プレーヤーの自由な判断でプレーを連続するオフェンスである。
それ故に、司令塔の支配は比較的緩い。
水無学がセットオフェンスに似せたモーションオフェンスを行いつつ、麗胡の指示で時折何名かが微調整されているとすれば──
(戦術眼勝負なら、私も譲りませんわ。ここで逆転して──)
「~♪」
コート上で響いた四季の口笛の音が、鶴見の思考を中断させる。
「余裕だな」
調理が下唇を噛む。
悔しさを抑えた口調だった。
ナメられていると感じているのだろう。
鶴見と調理とは幼い頃からの付き合いである。
調理のことなら、鶴見は殆ど察することが出来た。
「すぐに出来なくなりますわ」
自信を込め、鶴見は本日二度目の戦場で敵を待ち構えた。
トランジションバスケットと言ってますが、実際にはこれといった名称はなさげ?
トランジションオフェンスやトランジションディフェンスは言うようなので問題ないと思いたい。
初めて知った時は結構衝撃的ながら、何処か既存のポジションに則った戦術よりすんなりと受け入れられる戦術でした。
バスケはチームスポーツ、でもスター選手も好きよ?
区切りよさそうな所で(恐らく)毎日投稿していく予定です。誤字脱字やルビ振りミスのチェックで度々更新されるかもですが、一度投稿されたシナリオの変更はない予定・・・




