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ベスト5。ユニフォームと伊達

骨折による焦燥感や諦念を持つ経験は選手あるあるだと思う。中高とやった悲しみ・・・

 七月も半ば以上が過ぎ、新体育館での終業式と教室でのHRを終えた真那花たちは、やや緊張しながら改めて新体育館へと足を運ぶ。


 今日は背番号が発表され、ここから一週間程は、そのメンバーを中心にした最終調整に入る。


 現在の水無学の部員数では、二人は背番号を貰えない。


(優姫先輩はともかく、他二人はな~)


 今では共に全国優勝を目指して練習に取り組むようになった深雪。


 周りに言われずとも、自分からチームに貢献出来る道を探した姿勢も素晴らしい。


 その頑張りは、報われて欲しいと思う。


 一方で、居眠り運転に轢かれそうだった子どもを助けて撥ねられ、意識不明の重体となってからおよそ一月の後に昏睡状態より目覚め、両足骨折のリハビリを経てバスケットへと戻って来た美羽。


 仮にもスポーツで名を馳せた身、本人はあまり苦労を感じさせないが、入院前の状態に戻すだけでも並大抵の努力ではなかっただろう。


 その頑張りも、報われて欲しいと思う。


 因みに、元々身体を動かす目的で入部した優姫。


 チームとして全国優勝を目指すことには合わせるものの、個人としてはそんなに頑張るつもりはないようだ。


 それでいて、たまにコーチ陣にネットで仕入れた情報を渡したりと、情報面での活躍があったりする。


 情報は武器になる。


 その頑張りも、報われて欲しいと思わない訳ではない。


 腕を組み、真剣な表情で集合した選手たちを見渡す彩華。


 隣に佇むユニフォーム譲渡役の更紗もニコニコしていて、これと言って誰かを気にかける素振りもなく読めない。


「これからインターハイの背番号を発表するわ」


 彩華のゆっくりとした切り出しに、ゴクリと、場を緊張が包んだ。


「先ず、麗胡、四季、静。以上三名は順に四・五・六番」


「はい!」


 ここは順当と言うべきか。三年生たちが先にユニフォームを受け取る。


「七番に真那花。八番は凪巴」


「YES!」


「謹んで承ろう」


 次いで呼ばれたのは、県大会でも高評価を得た二人。


 それに対する二年生たちの反応は、ちょっと複雑だった。


「九番恵理衣。十番千尋」


「はいっ」


 これ以上の後輩の進出をくい止めた二年の2トップが、とりあえずの安堵と次こそはという思いを抱きながらユニフォームを手にする。


「十一番は凛。十二番に奏。十三番初夢」


「は、はい!」


「はい」


 とうとう百九十センチに達した凛が、県大会の時より上の十一番をギクシャクしながら受け取った。


「十四番──、美羽」


「っ」


「はい」


 そして実質の最後通告。


 水無学の手札に挿してあるトラップカードは、ファウル稼ぎとフリースローによる得点を両立する。


「最後、十五番は羽衣」


「はい」


 だから、その効果を上回れない以上、この結果は必然となる。


「以上十二名」


 彩華が言い終えると同時、深雪の頬を涙が流れた。


「ぇ、あの、すみません。わたくし、そんなつもり、じゃ──」


 慌てて涙を拭う深雪の肩に、彩華が優しく手を載せる。


「深雪。今回はあなたにとって辛い経験になるでしょう。でもね、これはチャンスでもあるのよ」


「チャン、ス?」


 深雪の視線が彩華のそれと向き合う。


「そうよ。大人でも警察なんかの新入りはお茶汲みをするわ。何故? これは先輩の機微を察するようになることで、ひいては他人の機微を察することが出来るようになるためよ。いい深雪。あなたはこのインターハイで、最高の下っ端を目指しなさい!」


(な、なんだってー)


 ドーンと効果音の鳴りそうな勢いで、真顔で力説する彩華。


「最高の、下っ端?」


「そうよ。ターゲットハンドの出る時にそれを察してパスを出すように、メンバーの必要とする時にサッと欲しいものを出す。それが出来た時、あなたはバスケット選手として一歩も二歩も成長するでしょう」


(おいおい、そりゃいくらなんでも無茶──)


「か、監督。わたくし、感動しました!」


(な、なんだってー!?)


 ズコーと効果音の鳴りそうな勢いで、深雪を除くメンバーたちの気持ちが盛大にコケた。




 七月二十八日。


「順当に勝ち進めば、皇女と当たるのは準決勝か。組み合わせは悪くねえな♪」


 開会式の行われる場所へ連なって移動する最中、改めてトーナメント表を確認する真那花。


「結果を残してる強豪のシード校と当たるのは早くて四回戦。舞台慣れするには十分な時間です」


 麗胡が真那花の意見に賛同した。


 会場に入り、自然と目に入る光景に四季が口笛を鳴らす。


「ひゅう♪流石はインターハイだな。あっちもこっちも有名所のオンパレードだ」


 特に、選手の過半数が何かの日本代表に絡んでいる愛知の皇桜女学院は、それを見る選手たちの意識も手伝ってかなり際立っている。


 中でも、二人一組で取り上げられることの多い竜胆あやめと望月満夜みちよに視線が集まっていた。


 猛者の集う皇女の中にあって、一際異彩を放つ華。


 あやめや他の選手たちのようにいかにもスポーツ少女な風体ではなく、モデルと比べても遜色のない程に手入れの行き届いた美少女。


 制服姿の満夜は、試合ではポニーテールにしている腰まで届く髪を上半分程纏めているだけで、下半分はそのまま流していた。


「心配せずとも、後四日もすれば水無学とてその中の一つになっていますよ」


 会場の関心など構いもせず、凪巴が自信を宿して言葉を紡ぐ。


「人多過ぎ」


 あっちもこっちも人だらけの会場に、美羽が辟易として顔をしかめた。


「開会式が終わるまでの辛抱ですよ。式が終われば三つの会場に別れての進行ですから」


 妹を心配するかのように、羽衣が美羽を宥める。


「その上、姉さんたちは最後だし、一旦離れるからね」


 インターハイ一回戦の第五試合。


 私立水無神楽坂学園対県立八雲南風高校。


 私立水無神楽坂学園 スターティング5

 7番 星仲真那花   1年 身長160(①~③)

 8番 大王凪巴    1年 身長169(①~⑤)

 11番 硲凛      1年 身長190(④~⑤)

 13番 鷹子初夢    1年 身長173(①~④)

 14番 神陰美羽    1年 身長146(①~③)

 アベレージ         身長167.6


「向こうにょ応援団、しゅしゅしゅ、しゅごいね」


 試合会場に踏み込んだ凛の目の前に飛び込んで来たのは、県大会とは比べ物にならないくらいの大声援だった。


「だな。でも、逆も見ろよリンリン。こっちも負けてねえぜ♪」


「わわわ」


 初めての全国大会出場ということもあり、水無学の応援団も県大会とは比べ物にならない程まで膨れ上がっている。


「悪くないな」


「そう? あたしは煩いだけに思うけど」


「鷹子初夢に同感」


 残念ながら、こういうものに慣れ親しんでいる凪巴とは違い、斜に構えた初夢や人と距離を取りたがる美羽のやる気向上には繋がらなかったようだ。


「はは、上手くやって先輩たちにプレッシャーかけてやろうぜ♪」


 いつもと違う周りに反していつも通りのメンバーの様子に、真那花は安心して舵を取った。


 真那花たち一年生にとっても、先輩たちにとっても初めてとなるインターハイ初戦が始まる。


 序盤から強気に攻める水無学だったが、美羽に渡った際にトラップ──ダブルチーム──を掛けられてターンオーバーという場面が続き、相手を追う形での攻防となる。


 またも、ボールが美羽に渡る。


 水無学とて相手の狙いは分かっているが、誘われているにしろ美羽が空いている以上、ボールをそこへ入れるのに否は無い。


 そしてすぐに、美羽を二人がかりで塞ぐ相手チーム。


「いい加減学習しないね? 高さも速さもない君程度のボール捌きじゃ、何度やっても同じだって」


「──」


(はぁ、やっぱり甘くないわね全国舞台)


「お姉ちゃんガンバレー!」


 過日に何度もお見舞いに来た、身体的にも美羽より小さな子どもの悲痛にも似た声援が聞こえる。


(何よ。まるで私が苦戦してるみたいじゃない。この程度の相手に──)


 美羽はもう温存するのをやめた。


 あわよくば、この足で二ピリオド持たせようとしていた。


(仕方ないから頼ってあげるわよ先輩)


 一度後方へ下がる──


 と見せかけて近くのサイドライン側でドライヴ。


 美羽のチェンジオブディレクションに慌てながらもきちんと対応する相手。


 そこで美羽は動きを急停止。


 自身の身体の動きに釣られて相手が動いたことで空いた反対側のパスコースに、姿勢を戻さず背中の後ろからボールを通す。


 身体が前方へ流れている以上、後ろからの方が時間の無駄が無い。


 当然、ボールの速度や方向に関しても計算済みである。


 幸い、事故に遭っても美羽の両手はかすり傷程度で済んだ。


 入院中は殆ど足を動かせなかったため、動かせる手の動きを重点的に鍛えた美羽。


 そのため、ハンドリングに関しては確実に中学の頃より上手くなっている。


 中学の頃に出来た程度の芸当なら、足さえついて来るならいくらでも可能だ。


 美羽のパスを真那花が受けると、ジャブステップでアウトナンバーを警戒したディフェンスの動きの逆をつき、悠々とジャンプシュートを決める。


 会場が沸いた。


 チェンジオブディレクションからロッカーモーション、その動きの途中でバックビハインドパスという三重フェイントからのクイックパス。


 素人は勿論、玄人をも唸らせる高難易度のテクニックだ。


「ふふ、中学アシスト王七冠は伊達ではないな」


「伊達よ。相手が温いディフェンスばかりじゃね」


「これは手厳しい」


 美羽が足の消耗を気にせずにプレイしたことでボール運びの懸念が消え、水無学の押せ押せムードで試合が展開する。


 水無学のテクニカルな面を嫌った八雲南風が、体格に優れたメンバーで多少強引に攻め込めば、薄いものばかりで脇目も振れない凪巴が更に強引に攻め返す。


 逆転した水無学有利の三点差で第一ピリオドが終了し、美羽は奏に後を託した。


区切りよさそうな所で(恐らく)毎日投稿していく予定です。誤字脱字やルビ振りミスのチェックで度々更新されるかもですが、一度投稿されたシナリオの変更はない予定・・・

予約投稿しつつも色々と確認に来たら、初めてのブックマークがついてポイント入ってました! 嬉しい、嬉しい。評価ポイントを決めるのは気が引けるという方も、よければブックマークして頂けたら作者はとても喜びます。

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