『追放者達』、過去の因縁と遭遇する・1
「……教えられないったぁどう言う事だ!!!」
バンッ!!!!
そんな怒声と何かを力強く叩いた様な音が、ギルドの建物の外まで響いて来る。
その後も、連続して何かを説明している様な声に加え、先程の怒声と同じ声が今度は罵声まで響かせ始める。
「…………なぁ、コレ一体何だと思う?」
「……さぁ?当方には何とも言い難いが……」
「……私には、誰かが詰られている様にも聞こえますね。
……そして、その相手は声からして女性かと思われます。ソレ以上は、他の雑音が大きくて判別が付けられず……」
「……まぁ、少なくとも良い方向の事柄じゃないのは、オジサンじゃなくても分かると思うんだけど……?」
「……取り敢えず、見に行くだけ見に行ってみるのです?
助けるかどうかは、場合と相手による、って感じでどうなのです?」
「……じゃあ、ソレで行こうか」
「「「「応!」」」」
「………………何だろう、凄い嫌な予感がするなぁ……。
あの罵声も、何だか聞いた覚えの在る様な声の気もするし、嫌だなぁ……」
半ば好奇心、半ば野次馬根性にて覗いて見る事を決定した『追放者達』のメンバーだったが、何故かタチアナだけは嫌なモノがそこに在る、と言わんばかりの態度で躊躇いを見せていた。
そんな彼女を安心させようとしてか、無言のままに然り気無くヒギンズが彼女の傍らへと移動し、その頭をポンポンと数度撫でてから覗き込む様にして微笑んで見せる。
すると、不安そうにしていた表情は一気に晴れはしたのだが、今度は一気に顔が赤く染まり、プイッと背けられてしまう。
端から見ていれば、相手の優しさに触れてしまって恥ずかしがっている、と言う事がバレバレであるのだが、当事者たる彼からは彼女の顔も見えておらず、また身長差から赤く染まった耳等も見えていないらしく、怒らせちゃったかなぁ?と言う呟きと共に、苦笑を浮かべながら頭を掻くヒギンズ。
そんな二人に生暖かく、優しい視線を送ってから、取り敢えずは先に、と中へと入って行くアレス、ガリアン、セレン、ナタリアの四人。
扉を押し開けて中へと入り、視界に入った顔見知りの冒険者数名に対して手を上げて挨拶しながら進んで行くと、外で聞いていた情報から想像した通りの光景が、彼らに良く見覚えの在る人影を中心人物の一人として巻き込みながら繰り広げられていた。
「……ですから、過去に所属していた、と言うだけの方の情報は渡せません、と何度も申し上げておりまして……」
「だから!今何処に居るのかだけで良い、って言ってるだろうがよ!その程度、受付嬢の裁量で教える位は幾らでも出来るだろうが!
コレだから、女使えねぇって言われるんだよ!!」
「…………では、言い方を変えましょうか。
私は、ギルドの規則からしても、一応は顔見知りとしても、また一人の人間としても、貴方の様な粗暴で差別的で相手を自らの言う通りに動かさないと気が済まない人間未満のお猿さんに、わざわざ何をされる事になるのか分からないと知っていて、個人の情報を渡すつもりは無い、とそう言っているんですよ。
コレならば、田舎から出て来て、碌にモノも知らずに怒鳴り散らすだけのマヌケであろうと、いい加減理解して頂けましたか?
であるのならば、そこにいられるだけ邪魔でしかないので、さっさとお家の猿山に帰る事をオススメしますよ?」
「…………テメェ、黙って聞いてりゃイイ気になりやがって!
テメェ、俺様にそんな口聞いて良いと思ってんのか?あぁ!?
俺様は、あの『追放者達』のリーダーだぞ!?
その俺様に、こんなに口聞いて只で済むと思ってやがるのかあぁ!?」
「「「「「「「「………………はぁ!?」」」」」」」」
騒ぎを覗いていたアレス達だけでなく、ソレと対応していたシーラや、他にもソレを眺めていた冒険者達の口から、同じタイミングにて同じセリフが吐き出され、ギルドの中に響き渡る。
それと同時に、どう言う事なのですか!?と言う思考がありありと感じられるシーラの視線や、知り合いの冒険者から、あいつ何抜かしてやがるんだ?と言った呆れや疑問の混ぜられた視線が無言のままにアレスへと集中する。
しかし、そんな事を問われたとしても答えを持ち合わせていないアレスは逆に、何抜かしてやがるんだあの阿呆は?と言った視線を返していた為に、暫しギルド内部は沈黙が支配する事となる。
が、ソレを自らの発言の衝撃によってもたらされたモノである、と勘違いしたらしい『自称『追放者達』のリーダー』は、ニヤリと厭らしく口許を歪めると、バンッ!!と音を立てながら受付のカウンターに手を叩き付けると、さも自らの方が上位の存在である、と言わんばかりの態度で口を開いた。
「ハッ!漸く、自分の立場ってヤツを理解したか?
俺様がその気になったら、テメェなんぞ一瞬でこの世から居なくなる羽目になるんだって、よぉ?
何せ、俺様達はドラゴンすら退けた真の強者だ。そんな『お相手様』には、テメェみてぇな他人にすり寄るしか能の無い女は、地べたに頭着けて『提供させて頂きます』って言いながら、俺様が寄越せと言ったモノを寄越してれば良いんだよ!分かったか!!あぁ!?」
「……仮に、そうだったとしても、規則ですので。
それに、犯罪を犯した者をギルドは擁護致しませんよ?ソレが、どれだけの高名な冒険者であれ、どの様な功績を上げた冒険者であれ、です。
それに、私の記憶では、貴方がお探しの方が所属していたパーティーは、貴方と同じ『追放者達』のハズですが?
おまけに、貴方は最初に異なるパーティーネームを名乗っていたハズですが、それは何故でしょうか?納得できるだけの説明を、して頂けるのでしょうか?」
「…………う、うるせぇ!良いから、俺様の言う通りに、あのアバズレ、『タチアナ』の居場所を吐けば良いんだよ!!」
「き、きゃぁ!?」
シーラから反論されて激昂した『自称『追放者達』のリーダー』は、腰に下げていた長剣を引き抜いてカウンター越しに彼女へと突き付ける。
幾ら肝が据わっており、普段からして粗暴な冒険者達の相手をしているとは言え、突然目の前に凶器を突き出されれば彼女も女性で在るが故に、驚愕から可愛らしい悲鳴を挙げてしまう。
流石の事態に、どよめきを挙げながら静観から介入へと姿勢を変えようとする冒険者達と、咄嗟に飛び込んで革手袋を嵌めていた手で刃を握り、『自称『追放者達』のリーダー』を蹴り飛ばして強制的に両者の距離を開けさせるアレス。
咄嗟の出来事に反応出来なかったのか、ポカンとした間抜け面を晒しながら尻餅を突く羽目になり、事の成り行きを野次馬していた冒険者達から失笑を浴びせられ、顔を真っ赤に染め上げながら怒鳴り散らす『自称『追放者達』のリーダー』。
「て、テメェ!良くも俺様に恥掻かせてくれながったな!?
俺様が誰が分かってやってんだろうな、あぁ!?」
「お前が何処の誰だろうが知った事かよ。
か弱い女性に怒鳴り散らして、筋力と凶器を背景に迫る様な真似する阿呆を振り払った程度で、文句言われる筋合いは無いんだが?」
「なっ……!?
……て、テメェ!俺様は、あのドラゴンを退けた『追放者達』のリーダーだぞ!?
もうすぐAランクに昇格しようか、って俺様に、見るからに冒険者成り立てのテメェみたいなクズが逆らってんじゃねぇよ!?」
「…………冒険者、成り立て……?」
何を言ってるんだ、コイツは?
そんな思いの乗った視線が自称『追放者達のリーダー』に突き刺さるが、その直後にアレスへと向けられ、アレス本人も含めて即座に納得した様な雰囲気へと変化する。
何せ、今彼がしている服装は、簡素な衣服に最低限の革製の防具とも言えないモノが何点か、と言った大変ラフな格好だ。
依頼を受けている訳でもなく、未だ戦闘領域に在る訳でもない時なんかはこの服装でいる事が多いアレス。
しかし、わざわざそんな格好を好んでするのなんて、まだ駆け出しで金が無く、まともな防具も買い揃えられない、と言った事情を抱えた冒険者でなればそうそう居るハズも無い。
おまけに、アレスの顔立ちは比較的若作りに見えるらしく、そこまで頻繁では無いにしても、良く成人したての年頃に見間違われる事が在るのだ。
なれば、こうして『駆け出し冒険者が変な正義感を拗らせて乱入して来た』と思われても仕方がない……のかも知れない。多分。
もっとも、このアルカンターラに於いて冒険者をしている者で、彼らの顔を知らない者は基本モグリに近い様な連中なので、あまり今回の様な事は起きないのだけれど。
そんな風に納得していると、自らの威圧によって口を閉じたのた!と勘違いしたらしい自称『追放者達のリーダー』が、またしても調子に乗った様な顔をしながら口を開こうとしたその時であった。
「………………はぁ、道理で、嫌な予感と聞き覚えの在る声がすると思ったら、やっぱりアンタだったのね。
それで?こんな処まで追い掛けて来て、怒鳴り散らすなんてみっともない事までしてアタシを呼んだんだから、余程の理由と用事が在るんでしょうね?」
そんなセリフと共に、呆れと侮蔑の感情を隠す素振りすら見せずに歩み出て来たタチアナが、隣にヒギンズを伴いながらその姿を顕にするのであった。
馬鹿は騙る
面白い、かも?と思って頂けたのでしたら、ブックマークや評価等にて応援して頂けると励みになりますのでよろしくお願い致しますm(_ _)m




