『追放者達』、新調した装備を受け取る
『追放者達』の男性陣がギルドの訓練所にて調律を行った次の日。
彼らを含めた『追放者達』メンバー全員の姿は、またしても職人区画に存在していた。
「……うむ、来たな。ホレ、約束通りに出来ておるぞ。さっさと確かめるが良いぞ」
「はいよっと」
当然の様に、訪れた彼らを奥へと通すのは、以前も装備の新調の為に訪れた鍛冶師である岩人族のドヴェルグだ。
本来であれば偏屈の極みの様な人物であり、こうまでしてホイホイと依頼を受ける事も、依頼人と友好的に接する事も無いハズの人物なのだが、何故か彼ら、特にリーダーたるアレスはドヴェルグに気に入られているらしく、この様な乱雑なコミュニケーションを取ったとしても、彼らがドヴェルグの悋気に触れる事は基本的には無い様子だ。
少なくとも、何事にも限度が在るのだろうが、今の処は触れた様子は見られていない。
そんな彼らがこうして彼の元を訪れたのは、他でもない。
預けていた装備品を、受け取りに来たのだ。
「……しかし、確かに儂が言った事じゃし、出来るとも、持ってこいとも言ったのは間違いないが、だからと言ってこんなに直ぐに持ってくるとは思わなんだわい。
お主ら、よもや出現するとしって狙いおったのでは無かろうな?」
「バカ言わんで貰えるか?
あんなの、欲していたとしても、狙っていたとしても、絶対に遭遇なんてしたくないってんだよ……。
今まで遭遇して討伐したドラゴンと違って、マジで殺されかけたからな?
ぶっちゃけ、向こうが舐めて掛かってくれたお陰でこうして生きてられるけど、最初からある程度でも本気で掛かられていたら、今ここにこうして立ってる事なんて出来なかったからな?それだけの相手だった、って事は理解しておけよ?」
「まぁ、そうなのであろうな。
儂が素材として扱った品々も、既に死しておるにも関わらず、壮絶な迄の魔力を秘めておったのは一目瞭然であったからな。
それも、儂がこれまで扱った事の在るドラゴン素材の中でも、一二を争う程に高い質・量を秘めておった。
それこそ、まだ生きておる身体の一部である様にも錯覚させてくる程の、な」
「…………いや、確かあの『猛焔紅竜』はまだ生きているのでは無かったであろうか?」
「……なんじゃと?」
「……えぇ、確か、後から来たドラゴンに連れて行かれましたが、最後に見た時はまだ生きていたかと……」
「そう言う意味では、まだ生きてる素材、って事になるんじゃないの?多分だけど」
「まぁ、アレは時折出てくるドラゴンとは格が違ったからねぇ。
文字通り、他のモノとは『品が違う』って事になるんじゃないのかなぁ?オジサンの経験上は、って話になるけどね?」
「……まぁ、実際に戦ったお主らと、こうして素材を弄った儂の意見が等しくなるのだから、恐らくは間違ってはおるまいて。
とは言え、そこら辺の考察なんぞ割りとどうでも良いから、早い処確認せぬか!
儂が手を掛けたのだ。万が一は有り得ぬが、何か不満点が在れば言えば手直ししてやる故に、早く試してみよ!!」
「ヘイヘイっと。
んじゃまぁ、お許しも出た事だし、試してみるとしますかね」
ドヴェルグから向けられた怒鳴り声に肩を竦めたアレスは、促されるままに机に置かれていた長剣を手に取り、納められていた鞘から刀身を抜き放つ。
するとソコには、黄金とも、白銀とも取れない色合いの中に、燃える様な紅の混ぜられた、何とも表現のし難いながらも、確実に『美しい』と表現して間違いは無いであろう凄絶な輝きを宿した刃の姿が存在していた。
「…………これは、凄いな……」
思わず、と言った感じでアレスの口から呟きが溢れ落ちる。
本人もそうと意識しての言葉では無かったのは明白だが、それが故に何よりもストレートに彼の心境を正直に表現していた。
「ガッハッハッ!そうじゃろう、そうじゃろう!!
何せ、そいつは儂の長い鍛冶師人生の中でも『傑作』と言って良いだけの改心の出来じゃからな!
見た目の美しさだけでなく、性能も折り紙付きよ!何せ、素材が神鉄鋼に上位のドラゴンの牙を使っておる!
元の加工難易度の高さと、元々原型は出来ていた、と言う事を差し引いたとしても、それだけの逸品となるモノを鍛え上げられるのは儂位のモノであろうよ!ガッハッハッ!!」
「…………ふむ、確かに、コレは生なかな腕前では作れぬであろう逸品と見た。リーダーでは無いが、絶句して魂まで惹き付けられそうになる程の美しさと同時に、コレが秘めし絶大なる『力』に思わず鳥肌が立ちそうな心持ちよ。
成る程、コレはやはり豪語されるだけの事は在る、と言う事であるな」
「……………………はっ!?
……い、いかんいかん!
あまりの出来栄えに、思わずトランスしてたわ。
魂を魅了される美しさ、ってヤツなんだろうが、コレはヤベェヤツに仕上がってるな。マジで」
「いやぁ、二人共羨ましい程に良い品を手に入れたねぇ。
オジサン、年甲斐も無く思わず欲しくなって手が伸びそうになっちゃったよ。
……でも、オジサンでもそうなるんだから、余計なトラブルを避けたければあんまり大っぴらに晒しておくのは考え物かも知れないねぇ……」
「……そう、ですね……。
刀剣には疎い私ですら、それらの美しさからは目が離せませんので、何かしらの対処は必要かも知れませんね……」
「……うん、間違いなく何かしらの手を打たないと不味い事になると思うわよ?
ぶっちゃけ、ソレを披露したままで路地裏、特にスラム街だとかノミ市の方には近付かないでおく事ね。でないと、アタシ達とこの街の裏社会とで戦争する羽目になりかねないから、ソレだけは肝に銘じておいてよ?良いわね!?」
「ヘイヘイ、了解了解。
まぁ、そもそも俺もガリアンもそっち方面は面倒過ぎて、普段からあんまり近付かないから多分大丈夫でしょ?」
「……でも、こんなにも綺麗なのに、わざわざ隠さなくちゃならないのは勿体無いのです……」
「……まぁ、そこは当方らの実力がもっと高まって、ソレが周囲へと知れ渡ればまた変わって来るであろうから、ソレまでは我慢、と言う処であろうよ。
時が解決してくれる事柄であるが故に、そう落ち込まれるなナタリア嬢」
「……そう、なのです。なら、その時までは我慢なのです!」
「おう、話は終わったか?
終わったんなら、さっさと出て行くが良いわ!
儂を、一仕事終えた後の旨い酒が待っとるんじゃ!お主らが何時までも残っておると、呑むに呑めぬであろうが!!
ほら、さっさと行った行った!!」
そう怒鳴り声を挙げてアレス達を追い出しに掛かるドヴェルグ。
その耳は赤く染まっており、端から見ていても照れ隠しだと言う事は丸分かりであったのだが、ハゲヒゲガチムチな爺のツンデレ何ぞに需要が在るハズも無く、促されるままに外へと放り出されるメンバー達。
その手際は鮮やか過ぎる程に手慣れており、怒鳴り声に何事か!?と入り口から覗き込んでいた従魔達が目を丸くしながらも行動に移す前に全ては終わっていた、と言えばどれだけ速やかにソレが行われたのか理解出来ると思われる。
そうして、結局ドヴェルグの工房を追い出されてしまった彼らは、まだ時間も早い事もあり、新しくなった得物の調子を確かめるのに合わせ、今回の強化依頼でかなり資金を使った事も在ったので、適当に何か良さそうな依頼が在れば受けてみようか、との考えからギルドを目指して歩んで行くのであった。
次回、何かが登場する、かも?
面白い、かも?と思って頂けたのでしたら、ブックマークや評価等にて応援して頂けると励みになりますのでよろしくお願い致しますm(_ _)m




