『追放者達』、調整する
取り敢えず、予告通りに新章開始です
予想外のPVの伸びにビビっておりますが、合わせて応援よろしくお願い致しますm(_ _)m
『追放者達』のメンバーが『猛焔紅竜』と遭遇し、ソレを撃退してから早くも一週間近くが経過していた。
最初の数日こそは、受付嬢のシーラとのやり取りを盗み聞きしたり、解体部門に持ち込まれた前足等を目撃した冒険者連中や、彼らが不要と判断して放出したドラゴンの素材を扱った商人達が騒がしくなり、一時は半ばお祭り騒ぎとなり掛けていた。
が、それらの騒ぎは、積極的に当事者たる『追放者達』のメンバー達やギルドの保安部隊等が鎮圧(と言う名目での制圧)を繰り返していたために、早くも鎮静化しつつあった。
とは言え、その程度で周囲に出回った噂が取り払われるハズも無く、また彼らが武力制圧する事の出来ない一般市民にも噂は広まっていたために、前評判と相まって爆発的に彼らの名声は高まりを見せ、方々へと拡散して行く事となってしまう。
そんな、彼らのに取っては嬉しい様な、恥ずかしい様な、と言った状態が続く中、彼らの姿はギルドに併設された訓練施設に存在していた。
…………トン……。
「…………ほいっと、コレで詰み、だね。
少し攻撃が単調に過ぎるし、そもそも攻撃に遍重し過ぎだ。
もう少し、回避や防御に気を配る事だね」
「は、はい!ありがとうございます!」
コーンッ!
「ほれ、コレで終いだ。
盾を持つ相手に挑むのであれば、もっと得物は確りと握っておかねばならぬぞ?
でないと、こうして弾き飛ばされて、無手で抗う羽目になりかねんからな?」
「……は、はい!分かりました!!」
コン、カンコン、コンコン、ゴン!
「……はい、そうやって大振りはしない方が良いよぉ。
魔物相手なら別だけどぉ、得物を持って術理を修めた人間相手なら、余程の腕の開きが無ければ只の隙でしか無いからねぇ。
確実に仕留められる状況に持ち込むか、もしくは絶対に外さない盤面まで堪えるかした方が良いかなぁ?
まぁ、基礎の方は出来てるみたいだからぁ、後は頑張って鍛練在るのみだよぉ」
「分かりました!ご指導、ありがとうございました!」
彼らの前で、所々痣や擦り傷を作った若者達が頭を下げて礼を言う。
その瞳は、それなりに自信の在った自らの攻撃が一切通じなかった、と言う現実に対する僅かな失望と、自身よりも遥かな高みに在る者から指導を受けられた、と言った『有名人と握手できた』と似た様な高揚感をない交ぜにした様な感情にてキラキラと輝いており、その相手をしていた三人は、手に木製の得物を握りながら眩しそうに彼らへと視線を送っていた。
「……いやぁ、若いって良いねぇ。
こう、キラキラと輝いて見えるよ。
これが、青春、ってヤツなのかなぁ?」
「……さぁ?少なくとも、俺にはこんな風に教えてくれる先生も、共に学んで切磋琢磨する相手もいなかったから分からんよ。
ついでに言えば、彼らと同じ年頃の時には既にあいつらの奴隷やらされてたから、そこら辺の交遊関係なんかは基本全滅だったからなぁ……。
まぁ、でも、見ていて羨ましくは在るよ。そこは否定しないさ」
「うむ、当方も、彼らの年頃には既に家督を継ぐ為のアレコレを学ばされていた為に、彼らの様な青春と言うモノは終ぞ感じた事は無いなぁ。
弟がやらかしたことの尻拭いに奔走し、癇癪持ちの婚約者の機嫌に一喜一憂する、と言うのが青春であるのならば、話は別であるが、な……」
「……お、おぉう……。
案外と、二人共オジサンと変わらない位の灰色な青春を送って来た訳だねぇ。正直、意外だったよ。
…………処で話は変わるけど、さっきの子達で『最後』だったみたいだし、そろそろ本命に移っておくかい?」
「そうだな。そうするか」
「彼のシーラ嬢から願われたが故に若者達に一手教授していたが、元より当方らがここに立ち寄ったのは自身の調律の為であるからな。
やれるようになったのであれば、せぬ道理は在るまいよ」
そう言葉を交わした三人は、それぞれが手にしていた木製の模擬戦用の武器を同時に構えて見せる。
そこに、つい先程まで若者との手合わせで見せていた気遣いや手加減の空気は微塵も残されておらず、ただただ全力にて勝負を決せんとする戦意のみが残されていた。
そもそもの話として、彼らが今回この訓練所を訪れたのは、最初からコレが目的であった。
しかし、偶々そこに訪れたシーラから、最近加入した比較的若手の冒険者達に稽古を着けては貰えないだろうか?と依頼され、普段世話になっているから、とソレを引き受けた事が発端だった、と言う訳だ。
そして、根っこの部分は真面目であり、一度引き受けた事ならば、と一度軽く手合わせしてから各自で扱える得物を持つ者には自らの経験から、そうでない者にはかつて戦った時の所感からアドバイスをし、その後に指摘された部分を確かめる為にもう一度手合わせを、と言う事をしている内に、偶々来ていた者や、噂を聞き付けて駆け付けた者、と言った感じでどんどんと参加者が増えて行った結果として、今の今まで掛かってしまった、と言うのが事の真実であったりする。
当然、参加した者の中には、彼らの事を良く思っていない者や、自身の流儀にしか従おうとしない者、流された噂や名声から勝手に想像して期待を膨らませていた様な者もおり、そう言った者への対応に無駄な時間を使う羽目になった訳だが、そう言った事柄は即座に本人達へと向けられた為に特に疲労やストレスは残されていない為に支障は無いだろう。
そんな理由から、訓練所にて激しく模擬戦用の武器を交わらせる三人。
少し前よりも鋭さを増し、陽光による刀身の煌めきや空気を切り裂く音すら置き去りにする程の速度で走るアレスの刃。
まるで、そこに大地から立ち上がった巨壁が存在し、それによって全ての衝撃を吸収しているかの様に攻撃を受け止めるガリアンの盾。
いつの間にか目の前へと突き出され、回避したと思ってもまるで柄が伸びた様にして何処までも追い掛けてくるヒギンズの槍。
端から見ていても超絶技巧と判別出来るそれらの技の応酬を、惜し気もなく隠すつもりも無く繰り出して行く三人。
アレスの刃がヒギンズの穂先を叩き落とし、ソレを隙と見て突っ込んで来たガリアンの盾をヒギンズが蹴り飛ばし、体勢を崩したガリアンへと振るわれたアレスの刃をガリアンの手斧が受け止める。
そうして繰り広げられる三つ巴の模擬戦を周囲の観客が固唾を飲んで見守る中、少々唐突に三人がそれぞれで飛び退き、構えていた得物の切っ先を下げて終了の意を伝え合う。
「……やっぱり二人もスキル昇格してるよな?」
「そうやって問うてくると言う事は、やはりリーダーもであるか?」
「まぁ、オジサンのは『元に戻った』って言うのが正しいんだろうけどねぇ。
多分だけど、リーダーは魔法の方も昇格したんじゃないのかぃ?どうせ、あのドラゴンとの戦闘が切欠になったんでしょ?」
「タイミングを考えれば多分?
まぁ、それ以外に心当たりが無いとも言えるんだけどさ?」
「うむ、当方もであるな。
……しかし、こうしてスキルが昇格した、と言う事は、リーダーは『剣聖術』と『魔奥術』の両方を習得された、と言う事になるな。
流石に、そこまでやらかしておいて惚けるのは無理が在るのは、理解しているのであろうな?」
「うんうん、流石にそこはオジサンでも『それくらい普通だよね?』とは擁護できないかなぁ?
まぁ、まだ誰にも嗅ぎ付けられていないだろうし、対処するのは何かしらの面倒事が起こってからでも遅くは無いでしょ。
で、どうする?確認も終わった事だし、まだ続ける?それとも、この辺で切り上げとくかい?」
「……そうだな。そろそろセレン達の買い物も終わってるだろうなら、この辺で切り上げておこうか」
「うむ、それが良かろうよ。
ナタリア嬢らには従魔達が着いているとは言え、女性だけでの長期の外出には危険が多い故な。
……それに、まだこうしていると、外野として覗き見していた連中が、次は己が!と乱入して来かねんからな。撤退しておいた方が良かろうよ」
「なら、今日はもう切り上げて、帰って一杯ヤるとしようか?
オジサン、最近あのジャーキー齧りながら呑む冷えたエールが堪らなくってねぇ……!」
「……うむ、アレは中々良いものであるな。
当方としても、あの歯応えと旨味は堪らぬ故に、口寂しい時はついつい詰まんでしまうのであるよなぁ……」
「……あぁ、ドラゴンジャーキーの事か?
アレの減りが早いのってお前らのせいかよ。
アレ、材料が少ない上に作るの面倒なんだからな?ちゃんと味わって食えよ?」
「「分かって(おるよ)(るよぉ)」」
そうして、つい先程までは殺意をバチバチにぶつかり合わせていたハズの三人は、戦いの余波に充てられて観客がノックアウトした状態になっている隙に、さっさと撤退してパーティーハウスへと帰還するのであった。
……なお、例のドラゴンジャーキーはパーティーメンバーだけでなく、従魔達にも大人気であり、持っているとキラキラと輝く瞳にてねだられてしまう為に、泣く泣く彼らへと差し出され、その大半が彼らの胃袋の中へと消化されてしまうのであった。
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