『追放者達』、高次元の存在と邂逅する
「……流石に死んだ、か……?」
そう、確認する様に呟いたのは、目の前で横たわる『猛焔紅竜』に振り落とされたアレス。
軽く足を引き摺り、左腕に力が入らないのか右腕で支えている状態では在るし、それらの負傷を痛そうにしているのも見てとれるが、ソレ以外には大きな負傷は外見上は無い様にも見える。
そんな彼の呟きに、同じく『猛焔紅竜』の身体から地面へと振り落とされたヒギンズが、今度は右足を負傷したらしく、得物を杖にして右足を引き摺りつつ、頭から血を流しながら歩み出て来る。
「……流石に、もう死んでるんじゃないのかなぁ?
見た処、回復魔法を展開して傷を癒す様な仕草も見せていないし、完全に意識も途絶えているみたいだし。
それに、頭蓋をぶち割って、逆鱗まで貫いているんだから、流石にコレで死んでいてくれないと、もうオジサンにはどうしようも無いんだよねぇ」
「……うむ、そう、であるな……。
流石に、コレで死んでいてくれていないと……当方としては、大変困った事になる、な……。
具体的に言えば、当方もう戦えそうに無い故に、生きていられると大変不味いのだが……?」
文字通り身体を引き摺りながら、会話に加わるガリアン。
声の感じからはまだ大丈夫そうでは在るのだが、その実の処としては右腕は鎧の継ぎ目の処で切断され、左足は吹き飛ばされた時に木に打ち付けられて折れたらしく、どうにか盾を支えに出て来た、と言った感じであった。
鎧の方はほぼ無傷に近く、流石ドヴェルグ良い仕事をする、の一言だが、その中身までは無事では済んでいなかったらしく、今もその隙間から溢れ出した血潮が地面に溜まり、大きな血溜まりを作っている様子だ。
揃いも揃って、半ば気力で立っている(二人は物理的な損傷と出血から、アレスは目立っていないが内臓に多大なダメージを受けている)状態の三人へと、女性陣が慌てて駆け寄って行く。
セレンは、半ば涙を浮かべながら、それでいて何故か赤面しつつ回復魔法を行使する。
タチアナはタチアナで、少しでも楽になるように、と支援術を使って全員の自然回復力を高めておく。
そしてナタリアは、自身が預かってアイテムボックスへと保管していたポーションの類いを惜しげ無く投入し、身体欠損以外の負傷を物量にて治療して行く。
そうして、一通り治療を施し、全員が五体満足の状態となった為に、目の前に聳える『猛焔紅竜』の処遇について口にするアレス。
「……取り敢えず、生死判定にはもう少し時間を掛けて万全を期すとして、コレどうするよ?流石に、全部は持って帰れないぞ?」
「……そう、よなぁ……。
当方はそもそもの話として無理なのだが、アイテムボックスに仕舞ってしまう、と言うのは無理なのだろうか?」
「……いやいや、流石にコレは無理でしょうよ?
それくらい、アタシにも分かるからね?」
「……残念ながら、私ではギリギリの処まで詰め込んだとしても、コレ全部は流石に無理かと……。
凡そ二割程度であれば、仕舞え無くはないと思うのですが……」
「セレンに同じく、流石にボクも頑張ってもコレ全部は不可能なのです!
ボクのアイテムボックスにパンパンに詰めたと仮定して、その上で橇にも加重ギリギリまで積み込んだとしても、多分半分くらいが限界なのですよ?
ちなみに、橇に乗せる分は皆に降りて走って貰うのが大前提になってるのです。だから、乗せて上げられなくなるのですが、それは別に構わないのです?」
「なら、丸のまま持ち帰るのは諦めて、大雑把にでも解体する必要が在るかなぁ?
オジサン、流石にドラゴンの解体は経験無いんだけどなぁ……」
「……あん?じゃあ、その鎧の元になったヤツはどうしたんだ?この二人でソレなら、他の連中じゃあ一割も持ち帰れれば良い方なんじゃないのか?」
「そこは、ほら。オジサンが倒したヤツは街に近付いて来てたヤツだったから、そのままギルドの人達が持って行ってくれたんだよ。解体しながら。
で、オジサンとしては他にも何度か倒してはいたけど、その時は皆の前で堂々と殺っちゃったから、街を護ったって功績で『英雄候補筆頭』とか言われる様になっちゃった、って感じだねぇ~」
「成る程、それならば納得だ。
……しかし、それでどうする?コレだけの巨体、解体するだけで下手をすれば一日掛かりになるぞ?」
「そこは、もう仕方無いから、角やら爪やら逆鱗やらを最優先して確保して、その後可能な限り素材を取ってから引き返して報告するしかないだろう?
運が良ければ、まだ残ってる死体から、骨やら鱗やらだけでなくで肉も回収出来るかも………………!?!?」
台詞を途中で切ったアレスが、突然視線を上空へと跳ね上げさせ、その表情を驚愕の色に染め上げた状態で固まらせてしまう。
何事か!?との思いと共に、釣られる形で同じく視線を上げた彼らの先には、目の前の地面に横たわる『猛焔紅竜』よりも一回り大きく、それでいて鱗に宝石の様な煌めきを宿した、漆黒のドラゴンが浮遊していたのであった。
******
「…………そ、それで!?それで、どうなったんですか!?
その漆黒のドラゴンの正体は!?戦ったんですか!?倒せたんですよね!?」
「……はいはい、話します、話しますから少し落ち着いて下されよ。な?」
場所と時間は変わって、現在夕刻の冒険者ギルドの受付ブースの一つ。
フンスフンス!と鼻息も荒くカウンターから身を乗り出してくるシーラを、それまでの粗筋を説明していたアレスが若干気圧されながら押し返して落ち着く様に促す。
それにより、自身が身を乗り出す程に興奮していた事と、周囲からも好奇の視線を向けられてしまっている事を認識したが為に、頬を染めて受付の席に顔を俯けながら座り直す。
そして、軽く咳払いをしつつ、新しく持ち込まれた解体用の素体に大騒ぎしている解体部門の方へとチラリと視線を送ってから、改めて目の前に座る、普段と比べて疲れている様子を隠そうともしていないアレスに対して続きを促す。
「……それで、説明はして頂けるのでしょうか?
何故、今回アレス様方が持ち込まれた素材が片前足だけなのか、結局例の漆黒のドラゴンはどうなったのか、可能な限り詳細に、お願いしますね?」
「……そこは、分かってるから落ち着いて下されよ。
取り敢えず、今回持ち帰った素材が、鱗に角と例の前足だけなのは、『それしか回収できなかったから』ですよ。
さっき、漆黒のドラゴンが出て来た処までは話したでしょう?」
「……えぇ、確かに。
そこまでは、お聞きしました」
「……で、その突然姿を現した漆黒のドラゴンは、その存在圧だけで圧死しそうな程のモノを放っていたんですが、そいつは俺達には目もくれずに地面に横たわっていた『猛焔紅竜』に魔法陣を展開すると、死んでいたハズのそいつを蘇生させたんです」
「…………はぁ!!??」
「……えぇ、そう言いたくなるのは、当事者たる俺も理解出来ます。
現に、目の前で喉に在る逆鱗に開いていた風穴が塞がり、溢れ落ちていた脳漿が巻き戻される様に頭蓋へと収まって行き、最終的に光を喪っていたハズの瞳に再度意思の光が宿る、なんて光景を目の当たりにすれば、嫌でも理解せざるを得なくなりますけどね」
「……じ、じゃあ、あれだけしか素材が無いのは……?」
「あぁ、別段復活した『猛焔紅竜』を倒しきれなかったからそれしか持ち帰れなかった、と言う訳ではないですよ?そもそも、その後にそいつらとは戦闘にはならなかったですし」
「…………ん?なら、なんで片方とは言え前足なんて塊が在るんですか?
鱗や角なんかは、聞いていた限りですと戦闘中に折れたり剥がれたり、って場面が在ったと思いますが、前足を落とした、なんて場面は無かった様な……?」
「えぇ、その通りです。『俺達は』、前足を落としてはいません。例の漆黒のドラゴンが、復活させた後で自ら切り落としたので、ソレを回収したってだけですね」
「………………は?何で?何で、そんな事を……?」
「さぁ?俺達としても、何が何やら、って感じでしたね。
何せ、事が起こる直前までそんな様子も雰囲気も見せていなかったのに、突然『猛焔紅竜』の首筋に噛み付いて地面に引き倒すと、そのまま流れる様に片前足を切断して、その後軽く会釈するみたいに頭を下げてから『猛焔紅竜』を咥えたまま空に飛び立って、そのまま何処かに飛び去ってしまったので、突然の出来事過ぎて俺達も碌に反応する事すら出来ませんでしたからね」
「……じゃあ、原因不明、って事でしょうか?」
「えぇ、まぁ。
強いて挙げるなら、復活した途端に俺達に向けて殺意を向けて来ていた、って事位ですけど、多分違うでしょう?
大方、人間ごときに敗れるなんぞ、恥晒しめ!とか言う感じの折檻の類いじゃないですか?
んで、残された前足は、取り敢えず勝てた事に対するご褒美、とか?」
「…………それはそれで、何となく腑に落ちない終わりですね……」
「まぁ、何にしてもあの状態で戦っていればこうしてこの場に報告しに来ることは出来なかったハズなので、あのまま素直に帰ってくれて良かったですよ」
「…………それって、ドラゴン二体掛かりには勝てない、って事ですよね?」
「いえ、一頭だけでも、ですね。
例の漆黒のドラゴン、アレはまず間違いなく格が違います。確実に、俺達程度であれば片手間程度で秒殺されます。
微塵の勝機も無く、確実に鏖殺されます。コレは、自信を持って言えますね」
「…………『追放者達』の皆さんでも、ですか?」
「えぇ、もちろん。アレは、人間で勝てる存在だとは、とても思えませんね。
まぁ、アレも今のところは人間に敵対するつもりは無さそうでしたから、気にするだけ無駄でしょう。
そう言う存在がいた、とだけ覚えて置けば良いのでは?」
「…………はぁ、そう言うモノですかねぇ……?」
未だに、納得しきってはいない、と語っている表情を浮かべるシーラであったが、それ以上に語る言葉を持たないアレスを問い詰めたとしても然したる情報を引き出す事は出来ず、結局ギルドに新たな情報がもたらされるだけに留まるのであった。
しかし、その話に聞き耳を立てていた冒険者と、実際にギルドの解体処理部門へとドラゴンの素材、しかも滅多に見ない『上位種』の素材を証拠として、勝手にかつ爆発的に彼らの名声は高まりを見せ、他の都市へとその噂が伝播して行くのであった。
取り敢えず、誤解無き様に説明しておきますと、アレスとヒギンズは過去にドラゴンを討伐した経験が在ります
しかし、その時に討伐した個体は俗に言う『血気に逸った若造』の類いなので、ドラゴン全体から見るとそこまで強いモノではありません
ついでに言えば、以前ガリアンが遭遇したのもコレが該当します
そして、今回出て来て主人公達と戦ったのは言ってしまえば『実力の成熟した大人』であり、本来であればあそこまで呆気なく倒される様な存在では無かったのですが、高々人間程度(笑)と舐め腐った為に集中的にボコられ、本気を出すもそのまま敗北する、と言う結果に終わりました(笑)
そして、最後に出て来たのは『それらの最上位存在』とでも呼ぶべきモノであり、主人公達では戦闘すれば一瞬で蒸発させられる事になります。ぶっちゃけ無理ゲーです
そして、出て来た理由はバカやらかした阿呆の回収で、片腕落としたのは『負けて助けられた身の上で敵意をみせるとはドラゴンとしてのプライドは無いのか!恥を知れ!!』と言った感じでのケジメ付けによる『指詰め』みたいな感じです(最後の会釈も似た様なアレです)
……それと、最後でかつ物語に関係無い話になりますが、買っておいて追熟させていたメロンがカビてしまいました……orz
二個セットで買って、片方はどうにか食べられそうでしたが、もう片方は柔らかくなっていたにも関わらず甘い匂いもしなかったし、割ってみてもあんまり甘くないしなんだか埃っぽい匂いもしたんで結局捨てる羽目に……無念……orz
皆さんも、この時期はお気をつけて……あぁ、勿体無い……
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